ギリシャのデンディアス外相は24日、現地メディアに対して「私は月曜日にロンドンを訪れ英国と防衛や外交を含む幅広い分野をカバーした二国間協定に署名する」と明かした。
参考:FM to sign bilateral cooperation agreement with UK on Monday
参考:Συμφωνίες-ορόσημο για την ασφάλεια και τη σταθερότητα
ギリシャが構築を急いでいる反トルコ関係へフランスに続き英国が加わる
ギリシャとトルコは東地中海における排他的経済水域(EEZ)の設定で激しく対立しており、昨年トルコは自国のEEZ=トルコの領土から伸びた大陸棚上に該当するため自国のEEZだと主張する海域で石油の掘削調査を実行、これにギリシャが強く反発して「自国のEEZ(当該海域はギリシャのEEZだという認識)が侵されれば武力行使も辞さない」と主張したため両国は一触即発の状態を呈していたが、EUが両国に話し合いによる解決を提案したため一先ず両国間の緊張は和らいでいる。

出典:Millî Savunma Bakanlığı
但し両国間の話し合いは全く何の進展も見せておらず、再びトルコが軍事力を背景にした実力行使に出てくることを危惧しているギリシャは「反トルコ関係」の構築を進めており今月5日にはフランスと二国間の防衛協力協定を締結、14日には米国と締結していた二国間の防衛協力協定の協力範囲を拡大させることで合意するなど着実に味方を増やしているのだが、今度は英国と二国間協定を締結するというニュースが飛び込んできた。
ギリシャのデンディアス外相は24日、現地メディアに対して「私は月曜日にロンドンを訪れ英国と防衛や外交を含む幅広い分野をカバーした二国間協定に署名する」と明かしたため注目を集めており、ミツォタキス首相も「英国との協定は間もなく合意に達するだろう」と語っているが、英国との二国間協定の中身については今のところ明かされておらず純粋な軍事協力なのか相互防衛協力なのかは不明だ。

出典:ミツォタキス首相のツイート
ただギリシャはトルコとの対立以降、トルコを支持するパキスタンの宿敵インドやトルコと政治・外交的に衝突することが多いアラブ首長国連邦と相次いで軍事協力や協力強化で合意、トルコの主張を否定するため自国の基線に基づくEEZ設定で東地中海の沿岸国エジプトと協定を締結しており、これに米国、フランス、英国との二国間協定が加わるため「反トルコ関係」は着々と整備されつつあると言っていいだろう。
問題は「なぜギリシャが欧州域外の国を巻き込んだ反トルコ関係を構築しようとしているのか?」だが、ここには2つの切実な事情が絡んでいる。
NATOは加盟国同士の争いに首を突っ込み面倒事(地政学的にも戦力的にも貢献度の高いトルコとの関係悪化を懸念)に巻き込まれることを恐れており、加盟国のギリシャに味方するべきEUの中にはトルコとの経済的な繋がりや難民問題でトルコの機嫌を損ねるのを嫌う加盟国が複数いるため具体的な支援(トルコに対する経済制裁など)を打ち出せずにいる。
さらにトルコはNATOという枠組みとは別にイスラム教や国産兵器を軸にした安全保障関係を欧州域外にも構築(パキスタン、アゼルバイジャン、リビア、カタール、ウクライナなど)しているため、対トルコに対して頼りにならない欧州域内の安全保障ではなく二国間ベースの安全保障体制を構築してトルコに対抗しておなければ政治・外交的な力学で劣勢に立たさせる恐れがあり、必死にトルコと折り合いの悪い国と協力関係を結ぼうとしているのだ。

出典:Naval Group ギリシャがフランスから導入する中型フリゲート/FDI
まぁ米国(トルコとの関係悪化を望んでいない)や今回協定を締結すると言われている英国(EUから離脱した英国はトルコと軍事・防衛産業の両面で急接近している)はギリシャの肩を一方的にもつというよりも、東地中海の軍事的バランスを調整して両国が衝突しないようにするため関係強化を行うという側面が強く、フランスもギリシャと締結した相互防衛協定に基づき「もしギリシャがNATO加盟国(トルコのこと)から攻撃を受ければ即座に軍事支援を行う」と言っているものの実際には「確定していないEEZの保護」は協定に含まれていない。
つまりフランスも東地中海におけるEEZの設定でギリシャ側の肩をもつのではなく依然として中立(ギリシャとトルコの話し合いに介入しない)だという意味で、この問題に明確な支持を表明しているリビア、アゼルバイジャン、パキスタンといったトルコ側の国とは大きく態度が異なる。
ただ表面的には英国がギリシャと防衛や外交を含む二国間協定を締結するとトルコに対する圧力として作用するので「頼もしい味方が増えた」と見えるだろう。
にしても、最近の兵器関係や安全保障関係に関する話題の多さは完全に異常で世界は一体何処に向かおうとしているのだろうか?
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin
>にしても、最近の兵器関係や安全保障関係に関する話題の多さは完全に異常で世界は一体何処に向かおうとしているのだろうか?
何が始まるんです?
第三次大戦だ。
ほんと、これがギリシャとトルコだけだったらいいんだけど。
応仁の乱や第一次大戦みたいに周りが穏便に終わらとうとして、逆にこじれてしまった経緯があるから心配だね。
ここで揉めたら、その隙をついて中国、ロシア、北朝鮮とかが動きそうでマジ怖い。
しかも今のイギリスはEUに属していないからトルコのEUに対する難民問題という脅しにも無関係で気を使う必要がないという
突然2%とか言い出したのは、それだけの理由があったということなのか
取り敢えず弾薬だけでも急いで発注してほしい
ギリシャはまずお金借りないとねえ
いやまああっちはフィクション(平田勝茂氏の翻訳はマジ最高)だけども、リアルで起こったらシャレにならん。
これはギリシアが受ける政治的・軍事的恩恵よりもトルコの民族主義を加速させる効果のほうが大きいのではないか。
オスマン帝国時代からトルコは欧州秩序のNo.2(ブルボン王朝やドイツ帝国などその時々で負けそうな側)と組んで来たけど、欧州が政治的にも統合されてる現在トルコは明らかにロシアを選んで協力関係を構築しているし、露のシリア復帰以降ただでさえ怪しいNATOの東地中海でのプレゼンスを完全喪失なんてことになる前に誰かが調停に入らないとまずいのでは
トルコは独裁してるエルドアンの感情次第で紛争・戦争を起こす可能性が高いって各国から判断されてるんだろう
もうトルコ国内の反エルドアンは牢屋かあの世なので、いつやらかしてもおかしくない
イギリスとギリシャの結びつきって特別ですよね
理由は知らないけど
第2次世界大戦、チャーチルとスターリンは戦後の線引きをやった。(両国はアメリカのトルーマンはこの線引きからはハブった)
ポーランドはソ連の物とかね・・・で、ギリシャはイギリスの物
キプロスにも影響持ってるしな英国
ヨーロッパ文化の祖だからでは
ヨーロッパ文化の祖なのではあるのですが、祖を気づいた人々はもう居ないとかなんとか
そりゃバルト海と地中海どっちを選ぶかって地中海選ぶでしょ
それにギリシャはイギリス軍が展開して血を流して戦った場所だから
イギリス「ギリシャと二国間協定協定結ぶけど、トルコからUAVを買うかもしれないよ!」
自分みたいに割り切れない素人には欧州情勢は複雑怪奇だわ
希土の仲の悪さは筋金入りだし
人類が滅びるまでギャーギャーやってるんだろーなぁ
ペルシャが隣接してたら、もっと酷い事になってたのかな?
イランは
アゼルバイジャンvsアルメニアの対立である程度存在感ある。
宗教国家のイランが同じシーア派のアゼルバイジャンではなく正教のアルメニアを支援してるのが面白い。
トルコ嫌いと正教繋がりでアルメニアとギリシャはズッ友
同じような地理歴史(共に虐殺を経験し、周囲はイスラム)であるイスラエルとアルメニアの仲が微妙で、むしろイスラエルとアゼルバイジャンが仲良しなのもあって、あの周辺は本当に面白い。
遠くから見てる分には面白いが、当事者たちは全然面白くないだろうな。
まあ日本周辺も大概だけど。
本筋とは関係ないんですが、トルコ艦隊の中央の派手なカーフェリーらしき船は何なんでしょうか?
海警的な船?
探査船「オルチ・レイス」かな。
リンク
オルチ・レイスという調査船
ギリシャが我が国の大陸棚でトルコの調査船が天然ガスや原油の資源探査をしていると反発している
お二方とも有難うございます。
観艦式的な写真かと思ったら、探査船を囲んだ示威行動の一環で撮られた写真だったんですね。
米英仏いずれも、ギリシアとトルコが互いに軍備増強に励んで、自国から軍需品を
購入してくれることが一番望ましい、と考えているはず。両国の関係が一層悪化しても、
双方にコネがあれば、軍需品を売り込むことも、仲裁に入ることもできる。