ウクライナ戦況

HIMARSの弾薬不足が改善か、ウクライナ軍は夜を昼に変える準備が整う

米国が1日に発表した17番目のウクライナ支援パッケージは「装備提供」ではなく「弾薬提供」に重きを置いた支援である可能性が高く、レズニコフ国防相は支援発表を受けて「我々の砲兵は夜を昼に変える準備が出来ている」と明かした。

参考:Ukraine Situation Report: U.S. Sending More Rockets As HIMARS Achieves ‘Rock Star’ Status
参考:Боєприпаси на 550 млн доларів: питання можливої нестачі ракет до HIMARS знімається

米国が今回水準と同等のGMLRS弾提供を続ける覚悟なら、米軍の作戦立案者は当面HIMARSに頼ることが出来ないかもしれない

米国のウクライナ支援パッケージには必ず「装備提供」と「弾薬提供」の両方が含まれていたが、国防総省のジョン・カービー報道官は17番目のウクライナ支援パッケージについて「HIMARS向け弾薬と155mm砲弾×75,000発が含まれている」と言及しており、海外メディアは一様に「ウクライナ軍のGMLRS弾不足を改善するためものだ」と主張している。

要するに装備提供が主体でない17番目のパッケージ総額(5.5億ドル)が、装備提供が主体だったパッケージ総額と同じ水準(12番目1億ドル、13番目7億ドル、14番目4.5億ドル、15番目4億ドル、16番目2.7億ドル)なので、GMLRS弾の提供量が飛躍的に増えるのではないかという意味だ。

GMLRS弾の調達コストは1発16.8万ドル(米軍向け)と非常に高価で、フル装填(6発)のランチャーでHIMARSが攻撃すると1回100万ドルのコストがかかるが、GPS+INS誘導方式のGMLRS弾は目標をピンポイントで攻撃できるためロシア製の多連装ロケットシステムと較べて費用対効果が良いと評価(精密攻撃に限った話)されている。

75,000発の155mm砲弾にかかる費用が約1.5億ドルだという試算結果があるため、仮に残り4億ドルが全てGMLRS弾の提供に使われると約2,380発=6発装填のランチャーを396回満たすことができる量だが、この計算は極端なのでGMLRS弾提供に使われる実際の資金は4億ドル以下だろう。

因みに米国が今回水準と同等のGMLRS弾提供を続ける覚悟なら、米軍の作戦立案者は当面HIMARSに頼ることが出来ないかもしれない。

関連記事:米国が17番目のウクライナ支援パッケージを発表、HIMARS弾薬供給を強化か
関連記事:155日を迎えたウクライナでの戦い、HIMARS用弾薬の供給問題が浮上

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Pfc. Sarah Pysher

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コメント

    • ナイトアウル
    • 2022年 8月 03日

     そもそも分離装薬である155mm砲弾提供なら装薬は別会計と考えた方が良いんじゃないだろうか。
     薬莢式もあるけど少数派だろう。こんなのって砲弾と通常装薬レベルがセットになって1発の価格になっているのか。

    2
    • ido
    • 2022年 8月 03日

    費用対効果が予想以上に良かった。まあ、ウクライナ軍もこれでいい感じに押し返してほしいな

    15
    • 2022年 8月 03日

    今次戦争においてアメリカとイギリスとポーランドの腹の括りようすごいな…
    ポーランドは明日は我が身だとして、アメリカとイギリスはさすが元覇権国家としての責務から来るものか?

    10
    • sawa
    • 2022年 8月 03日

    誤字 費用対高価が良い → 費用対効果が良い

    4
    • K(大文字)
    • 2022年 8月 03日

    夜を昼に…ああ、ロシア軍の弾薬集積地が吹き飛んで周りが昼の如くに(違)
    まぁ、これからどんどんロケットをぶち込んでやって欲しいところ。ロシアが余分な武器を持っていてもロクな事をしやしない。全部処分して差し上げましょう。

    18
      • 鳥刺
      • 2022年 8月 03日

      もう射撃目標の標定は済んでるんでしょうねえ。後は撃ち込むだけ。

      ロシア軍の南部への兵力・装備の移送が報じられてますが、それイコール兵站上の負担の急増ですからね。輸送能力の限界=前線で維持できる兵力の限界で、橋壊されたヘルソン橋頭堡とかは特に厳しくなります。

      7
    • ワオン
    • 2022年 8月 03日

    本国で死蔵するぐらいならウクライナへ引き渡してバンバン撃ってもらったほうが得だしな
    てか仮に7万5千発全部使いきったらきったでロシア側はかなりの被害を被ると思われるが…

    4
      • ナイトアウル
      • 2022年 8月 04日

       なんか変なこと言ってるな。使うかもしれないから貯蔵している訳で最初から死蔵させるつもりなんか無いぞ。
       だからこそ米軍への影響もあるわけで中国とかからしたらアクション起こすなら今なんだけどな。

      1
    • mig
    • 2022年 8月 03日

    Mk.84 2,000ポンド 50万円 + JDAMキット 300万円
    これらを100km先まで飛ばすロケットを500万円で造れないだろうか?
    CEP:1m(SALH誘導時)
    CEP:5m(GPS誘導時)
    CEP:30m(INS誘導時)
    1000kgの弾頭で射程100km 1発1千万円
    魅力的だと思うが

    1
      • kpvt
      • 2022年 8月 03日

      JDAMはロケットで言う『各種飛行制御』の要素を航空機にやらせて、投下ポイントを航空機側に指定することで落下中の空力制御のみで命中させられるわけで、
      ロケットにやらせようとしたら制御と構造が複雑になるのは必至。

      というか、推進剤削って射程を犠牲に弾頭重量を増やした『重ATACMS』になるし、それでいいじゃん

      7
        • 無題
        • 2022年 8月 03日

        JDAMの魅力って固定目標に対するコスパの良さだからあれこれ付け足したら微妙になってしまうな

        4
      • ブルーピーコック
      • 2022年 8月 03日

      (多分無理だけど)発射時と加速時の衝撃に耐えられるか、飛翔中の空気抵抗などを試験しなきゃ分かりませんが、何よりそういうのでコスト削減できそうなプランならアメリカ軍はもう試してそうなんですよね。

      1
      • ナイトアウル
      • 2022年 8月 04日

       そもそも1tのペイロードもつミサイルサイズはATACMSとは比較にならないほどのサイズになるんで専用TEL作ってまで運用したいかね。規模的にはスカッドを一回りか二回り小さくしたサイズ。
       それで100kmの射程しかないとか兵器としては微妙過ぎると思うが。

    • 鳥刺
    • 2022年 8月 03日

    >米軍の作戦立案者は当面HIMARSに頼ることが出来ないかもしれない

    まぁ、米帝には空軍の空対地ミサイルがありますから、同種の攻撃をより深い縦深で可能ですからね。

    3
      • くらうん
      • 2022年 8月 03日

      もう一度中東に派兵でもしない限りは、米軍がHIMARSを大規模に運用する機会なんてほぼ無いでしょうしね。
      ロシアはもうウクライナ+国内のアレで四半世紀は北朝鮮化だし、中国と万が一があってもMLRSを展開する作戦は無さそうだし。
      ウクライナの戦場に効果的なものの中で、一番出しやすい装備だったのでしょう。

      2
    • ゆくらいな
    • 2022年 8月 04日

    ウクライナ南部方面のことなんですが
    街を無視して進むことはできないのかな?
    ロシアと違って破壊しながら行くわけにはいかないわけだし
    深く進んで街への供給止めてしまうって戦術できそうな気がするんですけど

    • makumaku
    • 2022年 8月 04日

    以前から話にはありましたが、ウクライナ軍は80キロメートルを超える標的にも、HIMARSロケット弾を撃ち込んでいる可能性が高いようです。米軍の緻密なサポートがあるのだろうと思われます。
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