欧州関連

怪しいフランスの売り込み、クロアチアがラファールを導入すればオーストリアの二の舞か?

クロアチアはMiG-21の後継機としてラファールを選択したと報じられていたがクロアチア政府は28日、正式にフランスが提案したラファールF3-Rを12機導入すると発表した。

ラファールをこのまま導入してしまえばクロアチアはオーストリアの二の舞になってしまう可能性が高い?

クロアチア政府公式のアカウントによって発信されたツイートには「最高の評価と装備を備えた最新規格のラファールF3-Rを手に入れる予定でフランスの提案は総額9億9,000万ユーロ(約1,320億円)の価値があるる」と書き込まれており、ラファールF3-R×12機という以外の提案内容は不明だが1機あたりの導入コストはたったの「約110億円(関連費用を含むF-16Vの導入コストは200億円前後:ブルガリア契約)」なので超お買い得なのは間違いない。

ただラファール選定に関係する香ばしい話も出てきたので本当に契約締結まで話がすんなりと進むのかは謎だ。

まずクロアチアの主要な仮想敵国はベラルーシやロシアから無償で譲渡されたMiG-29×14機(今後SM規格にアップグレードする予定)を要するセルビアで、元クロアチア空軍のパイロットは今回のラファール導入に関して「完全にオーバースペックで不要な装備だ」と主張している。

出典:Lipnopower / CC BY-SA 3.0 クロアチア空軍のMiG-21UMD

彼の説明によればクロアチア空軍が現在運用しているMiG-21bisD/UMD×12機の内スクランブルに使用しているのは4機のみで、旧式のMiG-29を装備するセルビア空軍相手に第4.5世代戦闘機のラファールを12機も導入しても持て余すだけだと主張、さらにクロアチア空軍のパイロットはほとんどが高齢化して十分な訓練すら受けておらずエンジニアも人材不足でラファールのような機体を整備するは難しいと述べており、今回のラファール導入決定はクロアチアの安全保障に基づく決定ではなく政治的な動機によって決定されたものだと批判している。

さらにラファール×12機を9億9,000万ユーロで手に入れるチャンスが目の前にぶら下がっていたとしても、クロアチアの年間国防予算は約9.5億ドル/約1,030億円(2020年実績)に過ぎないため果たしてラファールを導入できても運用コストを捻出することができるのか非常に怪しい。

出典: Republic of Korea Air Force / CC BY 2.0 離陸中のFA-50

そのため米メディアのTheDriveは「非常に限定的な防空需要しないクロアチアには韓国製の軽戦闘機FA-50のような機体を導入すべきだ」と主張しており、仮にラファールのようなハイエンドの戦闘機を導入するにしても12機を一括で導入するのではなく少量づつ段階を踏んで導入すべきだと提案しているのが興味深い。

参考:Croatia Is Getting French Rafale Multirole Fighters To Replace Its Veteran MiG-21s

オーストリアもドラケンの後継機として提案された3機種の中で最も安価だったグリペンを蹴って最も高価なタイフーン導入、1時間あたりの飛行コストがグリペンの約3倍に相当する約1万5,000ドル(約160万円)も必要なタイフーンの運用コストに苦しんでおり、導入した15機分のパイロット全員が年間最低飛行時間をクリアするのが困難なのでパイロットを12人絞ることで何とかこの問題をクリアしている=つまりオーストリア(約32億ドル)よりも国防予算が乏しいクロアチアは本当に12機のラファールを維持していけると計算してるのか非常に怪しいと言う意味だ。

出典:Marek Olszewski / CC BY-SA 3.0 オーストリア空軍のタイフーン

恐らくラファールをこのまま導入してしまえばクロアチアはオーストリアの二の舞になってしまう可能性が高いと思われるが、逆に約1,000億円程度の国防予算で12機のラファールを維持できれば同機のコストパフォーマンスはグリペン並ということになる。

余談だがイスラエルがクロアチアに提案したF-16C/Dバラクの売却(12機で約5億ドル)が頓挫したのは、米国がF-16をイスラエルに売却する際に締結した契約(第三者への譲渡ルール)に違反していたため米国がクロアチアへの輸出許可を与えなかったの原因だ。

出典:Public Domain F-16C/Dバラク

要するにイスラエルはクロアチアにF-16C/Dバラクを輸出するなら同機に施した独自の改造をオリジナルの状態に戻すことが譲渡ルールによって義務付けられていたのだが、イスラエルはオリジナルの状態に戻す作業が手間で譲渡ルールを無視ししてクロアチアへの輸出を進めたため米国から許可を得られなかったというのが真相らしい。

関連記事:海外からの受注が集中する仏製戦闘機、クロアチア空軍も次期戦闘機にラファールを選択
関連記事:導入自体が間違い?タイフーンを導入したオーストリアの後悔

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Alexander Cook AtlanticTrident21に参加中のラファール

国防予算から見た米陸軍の方針、研究・開発や装備調達の削減に手を付けざるをえない台所事情前のページ

英空軍、ド派手なユニオンフラッグ塗装を施したタイフーンを公開次のページ

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    1日5回目の更新だと??? 

    一体今日はどうなってんだ?

    沢山を読めるのは有り難いんだけど、、、ちょっと更新しすぎじゃない?

    10
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      言うても前4つの米軍予算関連は1セットだからね。
      楽だとは言わんけど、無理してる訳でもないんじゃないかな。

      15
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      まぁそのうち4つは共通の話題(米軍の予算内訳について)なので大丈夫じゃないかなと
      全く違う話題5つだったらさすがに心配(管理人の負担的な意味で)するけども

      陸海空それぞれの話題でコメント欄で交流できると思って喜んでおこう

      20
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    仮想敵国がしょぼくて装備に金かけなくていいってのは羨ましくはあるな……

    33
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      まぁ自国の予算も無いんですけどね

      6
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    フフーフ。

    8
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    面白いよなホント
    ラファールやF16が完全にオーバースペックと言われる世界があってfA50勧められる世界がある

    やっぱこう言う国の軍事の方が面白ぇわ

    29
    • 匿名
    • 2021年 5月 29日

    これってクロアチア自身の問題(高度な機体を多数運用できない)のためFA-50あたりが適当と
    言われているのであって、セルビアのMiG-29にFA-50で対抗できるかは別の話ってことで
    いいんですかね?
    記事にある通りMiG-29がアップグレートされたらどうするんでしょうか?

    11
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      どうやってもFA-50を陥れたいのね。とにかくMiG-29のSM仕様を検索でもいいから調べておいでよ。

      1990年代に開発された20年前の仕様だから

      4
        • 匿名
        • 2021年 5月 29日

        FA-50も航空機としては設計ほぼT-50と同じなんだから1990年代、
        1992年開発開始だからほぼ30年前の開発じゃん。

        22
        • 匿名
        • 2021年 5月 30日

        問題は両者のアップデート及び性能の話なんだから力抜けよ。

        3
      • 匿名
      • 2021年 5月 29日

      mig29はインド軍を見れば酷さガわかる
      次の単発機はスホーイの可能性

      JF17で良いと思うけど売り込みしないね
      流石に裏庭を荒らすのを嫌ったのだろうか

      1
        • 匿名
        • 2021年 5月 30日

        単に運動性やミサイル搭載量、大型レーダーとかの差があるって話で、別にFA-50を陥れる意図はないと思う

        将来的にセルビアも最新機に更新したらどうなるんだろう?お互いに運用コストで苦しむのかな?

        4
        • 匿名
        • 2021年 5月 30日

        NATO加盟国だしね

    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    >F-16C/Dバラクを輸出するなら同機に施した独自の改造をオリジナルの状態に戻すことが譲渡ルールによって義務付けられていたのだが

    原状回復か。
    何だか賃貸みたい。

    2
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      ルールがないと、中古の安いのを買って独自アップグレードするビジネスができてしまう

      6
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      A型売ろうとして同じ事で引っかかったのに、同じ事を2度行うのが不思議・・・

    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    110億円でお買い得扱いなのは、今更だけどF-2の頃に比べたら隔世の感があるなぁ。

    8
      • 匿名
      • 2021年 6月 12日

      日本が、その間デフレやら経済成長乏しかったりしてるので、余計に落差を感じるのかも?

    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    国防の話ではなく、自国通貨からユーロに移行するトライアル期間中のクロアチアが、巨額のユーロ建て取引でユーロ導入条件を満たす必要があった、とかそういうのがメインの話なのでは。

    7
    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    ベラルーシ空軍はSu-30を導入中だから、ラファールでも過剰スペックとは言えないと思うが。

    2
    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    フランス兵器を導入するとほぼ装備品もフランス製を買わないと動かないか、改修に追加で金がかかるからなぁ…。
    戦闘機とかなんかだと今後何十年の間にアメリカ製ミサイルを使う気がなければ構わないだろうけど、あと外交問題とかが絡んでくるから台湾のミラージュ2000とかでは使い物にならくなっているしな。

    4
    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    現状のクロアチアにとって何がベストと考えるかって難しくないだろうか。維持が出来るのかという問題はあるが過剰性能に関して言うなら長く使えるとか、将来的に適切な機体を適価でゲット出来るとは限らないと考えれば決断のしどころではある。

    FA-50に関してはTheDriveがなんで例として出したのかよく分からない。自分が知る限り今のFA-50に搭載出来るAAMってAIM-9位しかない。誰か搭載できるAAM知っている人いますかね、KAI公式のページですらAIM-9しか出ていない。今の時代レーダー誘導のミサイル搭載出来ない戦闘機なんてあり得るのか?現時点で完成していないblock20にならないと対空戦闘に関しては不安しかない。

    1
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      MiG-21をたったの4機運用してスクランブルする程度が限界ならば、AIM-9を使えるだけでも十分という事では?
      どうせ目視距離まで近づくのですから
      オーストリアでも似たような状況ですし

      1
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      block20もKF-21用レーダー流用、って話がホントならAIM-120の統合は望み薄だよね。
      ミーティアの統合がワンチャンあるのかな?
      ただでさえ探知距離の足りないKF-21用を更に小型化したレーダーで、ミーティア有効活用できるとも思えんけど。
      リンク

      1
      • 匿名
      • 2021年 5月 30日

      AIM-120を紹介してるとこいくつか見たことあるけどblock20のことなんですかね…?

    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    イスラエルは、クフィルNGを提案すればいいのにね。

    • 匿名
    • 2021年 5月 30日

    クロアチアなら中古のグリペンC/Dがベターな選択になるんじゃないかな?

    3
    • 匿名
    • 2021年 6月 01日

    F-16C/Dバラク日本に欲しいな
    戻さなくていいんだけど米国許してくれないかな

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