欧州関連

ナゴルノカラバフ紛争で優勢なのはアゼル軍か? それともアルメニア軍か?

ますます激しさ増すナゴルノ・カラバフ地域の戦いはアルメニアとアゼルバイジャンがそれぞれ善戦を主張するため、どちらが優勢なのか判断がつかなくなってきた。

参考:Defense Ministry of Armenia sums up losses of Azerbaijan

戦いを優勢に進めているのはアゼルバイジャンなのか?それともアルメニアなのか?

アルメニア支配下のナゴルノ・カラバフ地域(国際的な承認は得られていないがアルツァフ共和国もしくはナゴルノ・カラバフ共和国を名乗っている)奪還を目指しているアゼルバイジャン軍は3日、ナゴルノ・カラバフ地域とアゼルバイジャンの境界上にある複数の村や拠点を奪還してアルメニア支配下から解放したと発表、さらにアゼルバイジャン軍はナゴルノ・カラバフ共和国の首都ステパナケルトに対してロケット砲や弾道ミサイルで攻撃を加えており民間施設や民間人にも被害が出ているらしい。

一応、アゼルバイジャン軍はステパナケルトの軍事施設や重要拠点に攻撃を行っているというスタンスだが、アルメニア側はアゼルバイジャン軍が首都ステパナケルトへの攻撃にクラスター爆弾を使用していると非難すると同時に懲罰攻撃(ナゴルノ・カラバフ地域の民間人を攻撃するために使用されているという理由)と称して、アゼルバイジャンで2番目に大きい都市「ギャンジャ(人口約32.8万人)」の国際空港(軍民共用)を砲撃で破壊するなど反撃を行っており、ナゴルノ・カラバフ地域を巡る戦いは激しさを増している。

問題は戦いを優勢に進めているのはアゼルバイジャンなのか、アルメニアなのかが外野からは良くわからないという点だ。

出典:public domain アゼルバイジャン空軍が保有するイスラエル製の無人航空機IAIヘロン

アルメニア側は主に敵に与えた損害を強調する傾向が強く、アゼルバイジャン軍の戦果発表はただの妄想(何処を解放したとかアルメニア軍が後退しているなど)に過ぎないと言っており、3日時点でアゼルバイジャン軍が被った損害は兵士2,745人死亡、無人航空機123機、ヘリコプター14機、航空機14機、戦車や装甲車両355輌、自走砲やロケット砲4門を失ったと発表している。

もしこれが事実ならアゼルバイジャン陸軍は兵力(7万4,000人)の3%、戦車(計1,032輌)や装甲車両(計2,456輌)の約10%、空軍が保有する無人航空機(計154機)の約80%を失ったことになるが、本当に保有する無人航空機の80%を失っているのなら、今後アゼルバイジャン側の公開する動画からUAVによる攻撃シーンは激減するはずだ。

※アゼルバイジャン空軍が保有する無人航空機の数はネットで拾える数字の合計で、最近トルコから入手したといわれるバイラクタルTB2やイスラエル製の自爆型UAV(スカイストライカーやハーピーNGなど)は数量が不明なので154機に含めていない

逆に今後も動画でUAVによる攻撃シーンが公開され続けるのなら、アルメニア側が発表している数字は真っ赤なニセモノだということになり他の数字や発表している内容も信用出来ない=プロパガンダだと言っていいだろう。

一方のアゼルバイジャン側が力を入れて発信しているのはアルメニア支配下だった地域の解放や敵軍事拠点の制圧、UAVによるアルメニア軍への攻撃で、これは言葉だけではなく現地で撮影された動画を交えて発信しているが敵に与えた損害の総数や受けた被害については扱い小さい。

そのためアゼルバイジャン軍の発表からアルメニア側の損害を把握することは難しいが、少なくともアルメニア支配下だったナゴルノ・カラバフ地域の幾つかはアゼルバイジャン軍によって奪還されているため戦況的にはアルメニア側劣勢だと見るべきなのかもしれない。

しかし、それもアゼルバイジャン軍というよりトルコ軍による支援のおかげだと認識するのが最も正しい評価なのだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:アゼルバイジャン国防省が公開した動画のスクリーンショット

ドイツ、ディーゼル電気駆動を採用した装甲車「ジェネシス」を発表前のページ

イラン、アルメニア支援のため戦車200輌を含む部隊を国境沿いに派遣次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    英国では失望感、スナク首相が発表した国防費増額は要求の半分以下

    英国のスナク首相は12日「ロシアと中国の脅威に立ち向かうため国防予算を…

  2. 欧州関連

    アゼル軍が要衝シュシャに進軍、アルメニア側の補給路遮断に成功か

    アゼルバイジャンのアリエフ大統領は8日、ナゴルノ・カラバフ地域の都市シ…

  3. 欧州関連

    ドイツ軍の軍事機密が流出、売却処分したパソコンに防空システムの情報が残ったまま?

    ドイツメディアは16日、ドイツ軍の機密情報が入った中古のノートパソコン…

  4. 欧州関連

    トルコ、バイラクタルTB2などのUAVが効果を発揮するには航空優勢が必要

    トルコのDaily Sabah(デイリーサバ)紙は3日、2020年に大…

  5. 欧州関連

    テンペストを優先する英国、138機調達予定のF-35Bを48機まで削減か

    国防政策の見直し発表を1週間後に控えた英国で「F-35B調達を48機で…

  6. 欧州関連

    実現が難しいアイデア、EUの155mm砲弾共同購入に非加盟国も参加可?

    ウクライナが要求する砲弾ニーズに対応するためエストニアは「EUによる1…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    もぅ何が何だか分からない・・・

    7
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    まあ防空網が突破されつつある時点でアルメニアが劣勢なんじゃないかな
    というかアルメニアは被害を受けたことを訴えつつ、アゼルバイジャンに大損害を与えたとも言っていてよくわからん。
    ちょっと危うい感じがするな・・

    8
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      アゼルバイジャン側は
      積極的にUAVやミサイルを使った
      敵戦車や装甲車、陣地の破壊映像を

      発信してる一方で
      アルメニア側は紛争後一週間で
      そう言う映像があまり見られなくなり

      住民の被害者の映像を出して
      人道に訴える方法が増えてるし
      アゼルバイジャンが優勢なんだろうな

      8
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    無人機が破壊されてたんだとしても、すでにある未発表の動画を公表できるのでは。
    どっちもプロパガンダは言ってるんだと思うけど解らんな。

    8
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アゼルバイジャンの無人航空機は「実際に落としても何故か総数があまり減らない」可能性が高いと思いますよ。
    まあ結果として「アルメニアの発表が戦況を正しく反映していない」事に変わりはないかもしれませんが…。

    8
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      若しくは旧日本軍ばりに戦果誤認をしている可能性も?

      2
        • 匿名
        • 2020年 10月 05日

        ブログ主が疑ってるのがそれです。
        私が言ってるのは「仮にアルメニアの言ってる通りの数を撃墜(自爆ドローンとの相打ちwを含む)してたとしても、あっちこっちからコソコソ補充されて全然減らない」可能性。

        5
          • 匿名
          • 2020年 10月 05日

          あ、成る程!!

          • 匿名
          • 2020年 10月 05日

          アゼルバイジャン軍の輸送機がトルコと頻繁に行き来してるって乗法なかったっけ?
          この情報が正しいなら、推察はあたってそうですね。

          1
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      ネットで拾える程度の情報って信憑性ないし鮮度も悪そうだから
      その情報と合ってないからプロパガンダってのは早計すぎると思う

      というか今のアゼルって結構な数の兵器が流入してると思う

        • 匿名
        • 2020年 10月 05日

        両陣営がプロパガンダ播いてるのは確認済み。
        情報戦は立派な戦。
        脅しや透かしで敵を引かせるなら大金星だ。
        北朝鮮の核や中国の弾道ミサイルのよくある使い方がこれだ。

        3
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アゼルバイジャン国防省はツイッターに全然投稿しなくなったし、占領したと発表したマタギス市の風景も全然公開しないので、アゼルバイジャンは想定外に苦戦しているのかもね。
    なんかダラダラ戦闘が続きそうな予感。

    12
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      ナゴルノ・カラバフが高地だから攻め側が不利らしい

      5
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      アゼルバイジャンが優勢優勢って言うからどんなもんなのかな?って調べたら
      ナゴルノ・カラバフでの戦いで占領したのは、ナゴルノ・カラバフ全体から見て爪の先みたいな領域だった・・・
      確かに獲ったのだから優勢だと言うのに間違いは無いけど、彼らの言う様な圧倒的優勢では無いんだなって思ったよ

      8
        • 匿名
        • 2020年 10月 05日

        電撃戦みたいなことが出来るのは物資潤沢な大国のみ。
        アゼルバイジャンは橋頭堡を確保し占領地を繋ぐ古典的なやり方の様だ。
        と言ってもアルメニアの形成不利は事実のおうだ

        6
        • 匿名
        • 2020年 10月 05日

        ドローンやミサイルによる派手な戦果ばかり強調されていましたけど、結局アゼルバイジャン陸軍は山岳地帯と対戦者陣地に足止め喰らってあまり進めていないらしいですね。
        「空爆だけでは敵をせん滅できない」というのは現在でもまだ生きているようで・・・。

        12
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アルメニアが劣勢だと思う

    3
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アルメニアもアゼルバイジャンも相手を人と思ってないから、もし自分たちの土地が相手に占領されたら家族が蹂躙されると思ってるのだと思う。
    だからアルメニア側は全般的に劣性でも地の利を生かして死に物狂いの抵抗をしている。捕虜の情報が出てこないのもその辺に理由があると思う。
    アゼル側は優勢と言っても物量で押し潰す事が出来るほどの数的優勢では恐らくないのだろう。

    4
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      係争地域はアルメニア系住人が最も多いで、住人を人とは思っていないのはむしろアゼル側かもしれませんね。

      8
        • 匿名
        • 2020年 10月 05日

        民族浄化とか始まるんですかね。
        いやだなー。

        2
          • 匿名
          • 2020年 10月 05日

          あの地域でアルメニア系住民が9割なのは

          第一次中東戦争や旧ユーゴ紛争のように
          前の紛争で
          双方の陣営が少数派住民を殺したり
          追い出した結果だからね

          この係争地はアルメニア側が
          そうだっただけ

          3
          • 匿名
          • 2020年 10月 05日

          過去にもやったんでトルコが嬉々としてやりそうではある
          エルドアンになってからすっかり拡張主義になっちゃって・・・
          こういう政治を続けるならトルコとは関わりたくないし賛同も出来ない

          3
            • 匿名
            • 2020年 10月 05日

            アルメニアも拡張主義らしい。
            北朝鮮と韓国みたいなもんでどっちも大差ない。

            4
            • 匿名
            • 2020年 10月 05日

            >どっちも大差ない。

            にしてもね・・・相互にやり返してたらパレスチナみたいになってしまうんだろうなあ。
            だから国境線や民族問題の裁定は慎重にってことなんですけど、日本の北方領土問題も実際は日本領土に戻すのはほぼ不可能ですね。
            住人どうするのか問題。
            追い出す?→もはや不可能

            4
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アルメニアがそんなに撃墜してるなら、他国でもよくある撃墜したUAVや航空機のの残骸や証拠画像や映像を流すでしょう。
    それが全く無いんだから信憑性は非常に低い。 

    3
      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      自撮りでミサイルが飛んでくる時代にそういうのは危なそう。
      アゼルバイジャンはやってるが。
      イスラム国もモスルで同じことやって空爆されたろ

    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    冬が近いのにずるずると長期戦になるのは双方避けたいはずなのに、決め手に欠けるのか、
    それともやはりトルコへの批判をかわす欺瞞戦争なのか、長引かせ、大国が介入するように誘導してるようにも思える

    1
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アゼルバイジャン優勢を支えてきたのはトルコ・イスラエルだし、ここから先は有料会員限定作戦で金ふんだくってる可能性も微粒子レベルで存在する。

    5
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    大本営陸海軍部発表

    2
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    経済規模的にはアゼル側がアルメニアの4倍近いGDPを持っている、もちろん予算も相応の額
    アゼル:GDP472億ドル:軍事予算22.67億ドル
    アルメ:GDP134億ドル:軍事予算6.34億ドル
    これにそれぞれトルコ&イスラエルの支援とロシアの支援が加わる

    もちろん金持ちだから絶対に勝つなんて言うつもりはないが、ロシアが積極的に介入していない現状においては、アルメ軍を目標として何年にも渡って軍備を整えたであろうアゼル側が優勢なんじゃないかと思う
    とはいえ彼らが思っていたほどの圧倒的優勢という感じでもなさそうたけど

    5
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    なんかアゼリー人贔屓に感じる

      • 匿名
      • 2020年 10月 05日

      イスラエル人がアラブ系テロリストに襲われても報道する人間があんまいない国の報道だし宛にならん。
      どっかでバイアスはかかってるだろう

    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    お互いの大本営発表を信じると両軍全滅となってしまうからね
    一応、攻勢に出ているアゼリー軍が優勢と見るべきなんだろうけど、あとはどれ程損失を許容するのか。

    アゼリー軍は高地の麓までは進撃したものの、山岳地帯の攻略に梃子摺っている模様。
    北部から南部に掛けて攻勢を仕掛けているけども、それぞれ分断されていているぶん防衛を敷いている方が優位か。
    山といっても斜面に木の一本も生えていない様な場所なので場所によっては機甲戦力投入しても
    アルメニア軍側からATMやRPGが。歩兵には機関銃と砲撃が降り注ぐ状態の様。
    アゼリー軍がすでに突破している部分もある様で小さな町を占拠したとか。

    2
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    占領した町は2016年の四日間戦争でアルメニアが占領した町なんで、アゼルバイジャンからすると奪回した格好になるか。
    正直、1週間かかってやっと町1つな辺り、アゼルバイジャンもあんま芳しくないんでは?
    無人機の集中運用による航空優勢を確保できてるだろうが、一時的なものに過ぎず、地上軍へのエアカバーまでは手が回ってない感じ?

    4
    • 匿名
    • 2020年 10月 05日

    アゼルバイジャン軍が展開してる地名を地形図と重ね合わせると山岳地帯の麓でぱたりと止まっていることがわかる
    アルメニア側も地形や対戦車地雷や対戦車砲を使って上手く前線を維持してるね

    4
    • 匿名
    • 2020年 10月 06日

    アゼルバイジャンって航空優勢は取れているはずなのにドローンばかりで空軍は導入する気があまりないんだな
    やっぱアルメニアのS-300システムを警戒して導入しないんだろうか?嘘かほんとかドローンに破壊されたとか見るけど

    • 匿名
    • 2020年 10月 06日

    トルコ・イラン・NATO・ロシアがどう動くか?

    結局、数日で全地域占領できないなら大国次第。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  4. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  5. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
PAGE TOP