イタリアは戦闘機の追加調達、GCAPへの投資、主力戦車と歩兵戦闘車の更新で国防支出を増やしているものの、GDPに占める支出額の割合は1.54%に過ぎず、メローニ首相はトランプ大統領との会談で「年内の2.0%達成」を約束したが、イタリア国民の過半数は国防予算の増額を望んでいない。
参考:Italy says to meet NATO spending goal this year by accounting changes
参考:Behind Italy’s defense-spending hike, pushback at home
参考:Meloni annuncia l’aumento della spesa militare al 2% del pil. Trump: “Non è mai abbastanza”
制限のない資金で2.0%を達成すれば、KC-46Aなどの米国製システムを強要されるかもしれない
イタリアのメローニ政権は2024年9月に議会へ提出した文書の中で「新型タイフーンの調達」「F-35A/Bの追加調達」「GCAPへの投資」に言及、さらに陸軍近代化のため主力戦車と歩兵戦闘車の更新=計1,182輌調達に計230億ユーロを投資する見通しで、海軍もカルロ・ベルガミーニ級の次=FREMM Evolution(推定排水量1万トン以上/VLS90セル以上)取得に関する契約を2024年7月に締結しており、他の欧州諸国と同じように国防支出の増額トレンドに乗っているように見えるが、これでもGDPに占める国防支出の割合は1.54%(2024年度)に過ぎない。

出典:Photo by Dane Wiedmann
イタリアはNATO加盟国が合意した2.0%の支出水準に達しておらず、トランプ大統領はNATO加盟国の国防投資を5%、ルッテ事務総長は3%以上に引き上げることを提案しており、ジョルジェッティ経済財務相は伊米首脳会談直前の17日「国防支出を増額する必要性を痛感している」「2025年中に2.0%の目標を達成する」と述べ、これに必要な財源=約110億ユーロの追加投資について「一部は会計基準の調整(国防支出に含めてこなかった退役軍人への年金や特定民間技術への投資などの計上)で対応する」と、中央銀行も「追加の借入、他予算の削減、増税で国防支出を増額すべきだ」と言及。
これを受けてメローニ首相は「6月のNATO首脳会談で2.0%達成を宣言する」とホワイトハウスで約束したものの、トランプ大統領は記者の質問に答える形で「十分な支出額ではない」と述べ、Defense Newsも18日「メローニ首相にとって2.0%達成の約束は首脳会談で面目を保つための措置だったが、イタリア自体は国防支出の増額に全く意欲がない。世論調査では国民の過半数が国防予算の増額を望んでおらず、野党はローマで国防予算増額に反対するデモを主導した。メローニ首相にとって最も困難なのは連立政権のパートナーが『爆弾ではなく病院に余剰資金を投資すべきだ』と述べている点だ」と指摘。

出典:Governo Italiano Presidenza del Consiglio dei Ministri/CC BY-NC-SA 3.0 IT DEED
イタリアが年内に2.0%を達成するためには87億ユーロ(総額379億ユーロ)の追加投資が必要なものの、メローニ首相はEU主導の国防支出増額案(市場から1,500億ユーロを調達して加盟国に融資する案+1.5%を超える国防支出を債務制限から除外する会計処理案)を拒否、クロゼット国防相が「国防支出を増やす唯一の方法」と繰り返し主張していた「1.5%を超える国防支出を債務制限から除外する会計処理案」が拒否されたため、現地メディアは「どこから2.0%を達成する資金を調達するのか」「国防支出に沿岸警備隊などの支出を組み込む『創造的な会計処理』を試みるのではないか」と報じている。
さらに興味深いのは「もしイタリアが追加資金を調達出来ても『次の疑問』は資金を何処に投資するかだ。恐らくトランプ政権はイタリアに米国製システムを購入するよう圧力をかける可能性が高い。そうなればEUは1,500億ユーロの融資計画で米国の圧力に対抗してくるだろう」とDefense Newsが予想している点だ。

出典:The White House
要するに「トランプ政権はイタリアが追加支出する資金を米防衛産業に引っ張ろうとする」「これを正面から拒否すればイタリアと米国の外交関係が悪化する」「域内調達が条件のEU融資から資金を調達すればトランプの怒りはイタリアではなくEUに向けられる」「イタリアは追加支出を自国産業界や雇用に還元できるような投資が可能になる」という意味で、逆にメローニ首相がEU主導の国防支出増額案に反対し続け「制限のない資金」で2.0%を達成すれば、KC-46Aなどの米国製システムを強要されるかもしれない。
因みにEU主要国のフランスとドイツは安全保障分野での欧州自立を主張、EUから離脱した英国は距離的に近い「大陸との連携強化」を希望しているが、EUは「最終的なシステムコストの65%が域内で調達されているもの」「運用上の権限=設計権限が域内にあるもの」と1,500億ユーロの融資条件を制限しているため、英企業(米企業やトルコ企業も)の大半が融資条件を満たせず孤立しており、イタリアは米国の支援なしの欧州自立を疑問しているため「米国抜きの安全保障構想」の全てに否定的だ。

出典:U.S. Air Force photo by Joshua J. Seybert
さらに言えばイタリアのLeonardoやFincantieriは現地法人を通じた米国市場への進出に積極的で、こうしたビジネス機会を台無しにする米国との対立を望んでおらず、このような視点に限って見れば「米国製システムの購入圧力を受け入れる可能性」も十分ありえるが、同時に「追加資金に対する伊防衛産業の関与と雇用」も絶対に譲れないところだろう。
トランプ政権もEUが防衛産業政策や武器調達で団結すれば米防衛産業にとって不利になるため、イタリアとの関係を良好に維持しておく方が「EUの足並みを乱すのに有利=EU主要国の全てを敵に回すのは得策ではない」と考えるかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:The White House
イタリア「P-1も候補」
トランプ「P-8を買え」
イタリア「はい」
って結局こうなるのかな、イタリアなりの駆け引きなんでしょうけど
コンステレーション級建造のためアメリカに進出したフィンカンティエーリは、この建造遅延を予想してたのかな…?
すでに調達のデットライン超えてなかったか?>P-8
生産ラインの話ならカナダの発注で延命したのでは。
元々メローニ首相が反EUなのもあるんだろうけど、リビアへの対応とか難民への対応でフランスと反目し合ってるからなあ。
トランプはあんなキャラだから取り沙汰されるけど、個人的にマクロンとその政治方針もどうかと思うのよな。
日本に関して言えば、財務省の予算付け替えマジック、腕の見せ所なんでしょうね(。
佐藤優さんが、ウクライナ支援を総額を膨らませて見せるために、モルドバ環境支援・アフリカ食糧支援などよく分からないものを紛れ込ませている話を思い出しました。
空港整備・港湾整備など、軍民共用の箱物は数字を作りやすそうですが、今回どんなものが出てきますかね(トランプ大統領の含意は、アメリカ製兵器を買えというのもあるのでしょうが…)。
アメリカからどうしても買わないといけないものに関して契約・調達するという手もあるしねぇ。
まさに仰る通りです。
鉛筆をなめる世界になるでしょうから、何が飛び出してくるのか興味深く感じています。
フランスが気に入らなければイギリスを煽り、イギリスが世迷言ほざけばアメリカに付き、アメリカが面倒ならトルコと協調するくらいに強かなのがイタリアだと思いますね。昔はそこに中露が入っていたので厄介な国でしたが、今はそこは線引しているようで
他も達成できていないんでいずれその内とか言いそう