欧州関連

イタリアのLeopard2A8導入が破談した可能性、Panther KF51を検討か

イタリアのLeopard2A8導入はほぼ確実視されていたが、Defense Newsは11日「LeonardoとKNDSは技術移転を巡って対立し最終的に協力協定が破棄された」「イタリアのLeopard2A8の調達は危機に瀕している」と報じ、業界関係者は「Panther KF51を検討するかもしれない」と述べた。

参考:KNDS-Leonardo rupture could nix Italian Leopard 2 tank buy

恐らくLeopard2とMGCSで欧州をまとめ上げるというのは不可能だろう

ロシアのウクライナ侵攻を受けて「伝統的な地上戦力」に対する再評価に注目が集まり、イタリアでも現実的な脅威の登場を受けて「陸上戦力の更新」が本格化、ラウティ国防次官は「Arieteは200輌中50輌しか運用状態にない」「NATOの義務を果たすには250輌以上の戦車が必要」「2024年から戦車取得のための予算計上が始まる」と、計画に詳しい関係者も「Leopard2A8が133輌必要」と明かしていたが、メローニ政権もLeopard2A8の取得費用を盛り込んだ予算を提出。

出典:7th Army Training Command / CC BY 2.0

LeonardoとKNDSも戦略的提携に署名したと昨年12月に発表、この協定は「イタリアが希望している欧州戦車計画(Main Ground Combat Systemのこと)への参加」「発注が確実視されているLeopard2A8のワークシェア」に関するものだと報じられていたが、Leonardoのロレンツォ・マリアーニ氏は「調達するLeopard2は大幅なイタリア化が行われる」「ラ・スペツィアで最終組立を行うことを目指している」と述べた。

マリアーニ氏は「KNDSと交わした協定に基づいてLeopard2の大幅なイタリア化(レオナルドが供給する電子光学センサー、通信装置、指揮統制システム、砲身など)が行われてイタリア側の要求を満たした」と明かしたが、議会に提出された報告書によってAPSの搭載も確認されており、LeonardoとKNDSの協力関係を新型歩兵戦闘車の開発に拡大させることも浮上していたが、Defense Newsは11日「LeonardoとKNDSは技術移転を巡って対立し最終的に協力協定が破棄された」「イタリアのLeopard2A8の調達は危機に瀕している」と報じている。

出典:KNDS

KNDS側はLeonardoとの決裂原因について「欧州18ヶ国が使用するLeopard2はNATOの標準戦車と言っても過言ではなく、これまで以上に相互運用性と共同戦闘能力の確保が重視される」「我々はLeonardoとLeopard2の構成で合意できなかった」「LeonardoはLeopard2の共通性を崩壊させようとした」と指摘したが、匿名の関係者はDefense Newsの取材に「LeonardoはLeopard2に統合可能なシステムを持っているにも関わらず、KNDSはLeopard2の技術移転を一切認めなかった」と明かし、Leonardoとの決裂にはKNDSにも非があると示唆。

さらにDefense Newsの取材に応じた業界関係者も「確実にイタリアはLeopard2A8の購入をキャンセルしてくるだろう」「イタリア陸軍がどうしてもLeopard2A8が欲しいと言い出さない限り、RheinmetallのPanther KF51を検討するかもしれない」「たとえPantherがプロトタイプであってもだ」「今回の決裂によってDardo後継車輌の開発(A2CS)でKNDSと協力するのは難しくなった」と指摘した。

出典:Nexter

Defense Newsも「LeonardoとKNDSの決裂によってMGCSへのイタリア参加も微妙になった」「急増した防衛ニーズに対応するため装備品調達にも規模の経済が必要だと叫ばれているが、依然として防衛産業は効率ではなく国益が優先されている」と述べている。

要するにKNDSはLeonardoが望むほどイタリア製システム統合=Leopard2のイタリア化を許可しなかったという意味だが、KMWがLeopard2の技術移転に消極的なのは今に始まったことではなく、ポーランドがLeopard2を捨ててK2に乗り換えたのも技術移転(ポーランド産業界の関与率=ワークシェアの拡大)が問題で、フランスとドイツはMGCSが欧州標準の次世代戦車になることを望んでいるものの開発のワークシェアを解放する気はない。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

KMWは「欧州諸国の陸上装備が多様化すれば韓国や米国に需要を奪われ、欧州の防衛産業は追い詰められることになるだろう」「F-35が欧州で優位性を獲得しているのと同じ状況に陥るだけ」と主張し、欧州はバラバラに動くのではなく「統一したアプローチの下で動きLeopard2からMGCSに移行しなければならない」と強調しているが、この考えは多くの国から支持されている訳ではなく、欧州で米国製や韓国製の戦車導入に関心が集まっているのは「独仏のやり方」に不満を感じているからだ。

代替システムを選択できない状況下なら技術で欧州諸国を縛ることも可能だが、既に欧州市場にはAbramsやK2が上陸済みで、特に韓国はKMWが認めない技術移転、現地産業界との協力、顧客が望むサブシステム統合、開発・製造への参加を掲げているため、恐らくLeopard2とMGCSで欧州をまとめ上げるというのは不可能だろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Rheinmetall

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コメント

    • 765
    • 2024年 6月 12日

    いつまでレオ2使うんだ、KF51だって車体はレオ2ベースでしょ
    そろそろ爺さん超えてミイラになってそう

    6
      •  
      • 2024年 6月 12日

      まぁエイブラムスだってベースだけなら骨董品だしアルマータも基礎設計はソ連時代のものを流用してるわけで…古いのが悪いわけではない。実績があるものに関してはなおのことだろう。

      12
      • 幽霊
      • 2024年 6月 12日

      そもそも戦車を更新するたびに一から設計し直す日本の方が特異な気もしますね。

      31
        • kitty
        • 2024年 6月 12日

        10式は74式の更新機材でしたが、90式の後継は何か研究しているんでしょうか。
        まあ、エイブラズムみたいに、車体はそのままに、駆動系とヴェクトロニクスにAPS装備の改修でもいいですけど。

        5
        • 戦略眼
        • 2024年 6月 12日

        設計、生産基盤の維持にはなる。
        問題は、ロジスティクスを考えないコンセプト。

        6
        • 戦略眼
        • 2024年 6月 12日

        設計、生産基盤の維持になる。
        問題は、ロジスティクスを考えないコンセプト。

        • ネコ歩き
        • 2024年 6月 13日

        61式、74式、90式は戦後MBTの世代が異なるので、同世代車で新規開発したのは10式だけですね。
        90式は当時の保有技術で実現した世界レベルの第3世代MBTでしたが、国内交通インフラに対し重量過大で国情にマッチしていなかった。その後の技術向上で90式同等以上の戦闘力を小型軽量車体に纏めることができるとなって開発し直されたのが10式です。
        ですから、10式MBTがいろんな意味で国際的に特殊なんです。

        2
        • 名無し
        • 2024年 6月 14日

        >そもそも戦車を更新するたびに一から設計し直す日本の方が特異な気もしますね。

        90式戦車→10式戦車で新規開発なのは、軽量小型化で無茶し過ぎた影響ですね。
        米国も試作で軽量化を試みながら実用化していないですが、
        そこら辺は、試作のタイミングや置かれた環境(優先順位)の相違、といった奴でしょう。

        74式戦車→90式戦車は、世代的に設計思想の転換が起きてて、新規開発は普通な事ですね。
        英国は微妙なので横に置くとして、米独仏も新規開発です。

        74式戦車の方はというと、開発前に一応61式戦車のアップデートを検討されてますが、
        結局新規開発となったのは、61式戦車が旧陸軍戦車の集大成な所の限界だと思います。
        1950年代の日本は、発展途上国的な存在でしたし。
        或いは、61式戦車の開発時期がもう少し遅ければ、(61式戦車相当と74式戦車相当の)両者は統合できたかも。

        なお61式戦車と(時期ではなく)同世代の米戦車を見ると、
        戦中のM26を起点にしてもM46→M47→M48と作り直している辺り、
        日本が1回で済んでるのは後追いの立場が活きてる、とも言えるかも。
        61式戦車の主砲が100mm級ではなく90mm砲止まりだったのは、(M48後継となる筈だった)T95の影響で『90mm砲を過大評価』した故の失敗みたいだけど。
        (T95の影響で、米陸軍は今後とも90mm砲のアップデートで対応する、との予測を当時の日本はしたようです)
        ちなみにT95の影響は、61式戦車の主砲口径だけでなく、
        74式戦車にも、油圧サスペンションとか、40t弱の重量といった形で影響しているようです。

        1
    • 幽霊
    • 2024年 6月 12日

    自国に利がないなら選択しないというのも当たり前と言えば当たり前ですよね。
    欧州の防衛産業の危機だと言われてもまずは自国の産業を守る事が優先されるでしょうし。

    19
      • 戦略眼
      • 2024年 6月 12日

      その前に、アリエテを全車修理近代化しろよ。
      その実績をもって交渉しな。
      もう、自力で戦車を作れないのなら、他国の言い値で買うしかない。

      15
      •  
      • 2024年 6月 12日

      正直ドイツもフランスも、その他のEU諸国からしても、それぞれの国防においては当てにできるほど信頼はできないから、効率だけでは動けないし…

      5
    • 舎人
    • 2024年 6月 12日

    戦車に関しては今は何を選定するかよりもコンセプトそのものを見直す時期だと思いますがね。
    主力戦車同士が撃ち合うことがほとんどなくなっているのに主砲は本当に必要なのか、ドローン対策としてあるべき方向性は何なのか、そもそも戦車の果たすべき役割は何なのか。
    ドローンは進化し続けるでしょうし、このままいくと本当にただのでかいマトにしかならないのではと危惧します。

    護衛用ドローンでもできれば別ですが。護衛用ドローンの構想自体はありそうですけどどうなんでしょうね。攻撃用ドローンと比べてコスト高になるのは間違いなさそうですが。

    7
      • nachteule
      • 2024年 6月 12日

       それ踏まえた上で各国が新型作ろうとしたり既存車両導入とかしてるんでしょ。そうでなければ米軍のFARAみたいにプロジェクトを打ち切るだけ。

       戦車が果たす役割なんて今更語るべき話ではないでしょ。天候の影響を極端に受けず走攻守のバランスが優れているから地上に対する様々な敵に対して使い勝手良い。何人でも良いが歩兵を戦車と同じレベルにするにはどうすれば良いか、機関砲やミサイルを搭載したIFVが戦車と同じレベルにするにはどうすれば良いかとか代案でも出せば否定は出来ると思うけど?
       歩兵に戦車ほどの携行弾数と威力を持つ安価な兵器を持たせ、重機関銃くらいなら屁でもない防御が出来、悪路を相当なスピードで駆け抜け、NBC防御とか戦車が持つ要素を兼ね備えるそんな事が出来るのだろうか。
       現状なら手間は掛かってもAPSやRWS、ERAなりで対応するのかアルマータみたいな無人砲塔や装甲カプセルで人員を守るとか試行錯誤していくだけでしょ。

       昔から対戦車ミサイルとかそうでなくても榴弾砲や航空爆弾みたいな様々な脅威には晒されていたんだし、ドローンの被害が大きいから戦車がああだこうだってのは遅くないかね?それこそ戦車だけがそんな心配すべき話かな?射程の長い自走砲だろうがAPCだろうがIFVだろうがみんな同じだよ。

      41
      • hoge
      • 2024年 6月 12日

      すでに言われている通り、EW, APS, 受動装甲, ERA etc….を組み合わせて必要な生存性を確保するだけ。
      「手持ちの戦車が使えないので、歩兵を肉壁にしてすり潰します!」は先進国では通用しないので。
      後は恐らく、操縦のための電波の発信源を逆探知して先に潰すとか、ドローンの操縦者側を直接攻撃する流れになると思われ。

      5
      •    
      • 2024年 6月 12日

       個人的には、主力戦車以外にバリエーションが欲しいな。
       以前は歩兵戦車とか駆逐戦車とかあったんだから。
       それこそMSみたいにカスタムとかモジュールを付けて対応とか・・・・フルアーマーとか、まぁ、趣味の世界ですね。

    • jimama
    • 2024年 6月 12日

    >>Leopard2とMGCSで欧州をまとめ上げるというのは不可能
    というかMGCSって始める前から独仏共同とかいう破綻フラグ立ってるしなあ
    絵に描いた餅にすらならないで終わりそう
    そんで結局K9かM1後継機が独仏英「以外」での”メイン・グランド・コンバット・システム”の座に就きそうな予感

    5
      • 幽霊
      • 2024年 6月 12日

      K9は自走砲では?

      10
        • jimama
        • 2024年 6月 12日

        失敬
        そうでしたK2だ

        6
    •  
    • 2024年 6月 12日

    EUと同じで欧州の〜って枕詞つけて我々全員の課題みたいに語るけど結局ドイツが得したいだけで周辺国は値段だけ高いボロ押し付けられて終わりですからね
    じゃあ戦車はラインメタルに任せたら戦闘機はダッソーに任せるのかというと絶対そんなこと認めないくせに

    30
    • 58式素人
    • 2024年 6月 12日

    敵戦車だけではなく、敵歩兵/施設を撃つ必要が増えるならば。
    滑腔砲をやめて、施条砲に戻したら、などと勝手に思います。
    チャレンジャー3が施条砲をやめたのは、製造設備の劣化に伴い
    弾の補充ができなくなったからと聞いています。
    APFSDS弾の威力については滑腔砲と大差ないものが使われていた、とも。
    歩兵を撃つのに高価な翼安定弾は割高でしょうし、HE/HESH弾がありません。
    127mmくらいの施条砲にしては?。127mmなら、海軍の砲弾もあったりして(笑)。

    3
      • vbgt
      • 2024年 6月 12日

      滑腔砲をやめて施条砲に戻したのは中国の戦車ですね。
      15式軽戦車や次期主力戦車は105mmライフル砲を搭載しています。
      中国は今後の戦車について対戦車戦闘よりも歩兵支援を重視し、小型軽量で無人機・APSを搭載したノードになると考えています。
      中国の戦車はもう分厚い装甲や大口径砲を搭載しない方向ですね。

      1
    • ブルーピーコック
    • 2024年 6月 12日

    当初は納期と予算の関係から輸入するって話だったような。

    • 2024年 6月 12日

    単に性能に限定して考えるだけでもイタリアのような山岳戦が前提となる国情だとレオ2ベースよりもK2をベースにしてイタリア化した方がベターだと思ったり

    6
    • hoge
    • 2024年 6月 12日

    地味に台数がPumaよりも増えつつあり複数の国で採用が決まったKF41 Lynxもそうですし、RheinmetallがKF51 Pantherを売り込みそうですね。
    すでにハンガリーと契約を結んでいるようですしKF41も自国での製造を認めているようなので、今のところとにかく売れればよいという感じなのでしょうね。

    2
    • 無印
    • 2024年 6月 12日

    ドイツもフランスも柔軟に行かないと、K2、K9、レッドバックの3点セットにお客さん持って行かれちゃうよ
    フランスなんて装軌自走砲も装軌IFVも無いんだからさ

    3
    • 774
    • 2024年 6月 13日

    欧州産兵器の多くは高かろう悪かろうで韓国製より劣って高い、電子面で強みを持つ中国にも負けるというのが段々バレてきたからな
    欧州のこの業界は相当テコ入れしないと業界滅亡の危機に瀕しているな

    3
    •  さ
    • 2024年 6月 13日

    「韓国製より劣って高い」と言われてもなぁ

    • a
    • 2024年 6月 13日

    戦車へのミリ波レーダー搭載、K2のデビューの際はネトウヨが「自分の位置を敵に教えるようなもの」と馬鹿にしていたけど、
    もはや西側戦車の標準装備みたいになってきたな

    3
    • ちもたこ
    • 2024年 6月 13日

    韓国が羨ましいです!

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