欧州関連

欧州、米国依存からの脱却を目指し電磁式レールガンを共同開発

欧州防衛庁(EDA)は先端軍事技術の米国依存から脱却するため欧州は電磁式レールガン(EML)の技術開発を共同で行うコンソーシアム「PILUM」を立ち上げた。

参考:Naval Group in 9-member European Consortium to Develop Electromagnetic Railgun

EU兵器開発基金を活用した電磁式レールガンの共同研究は米国排除の狼煙か

このプロジェクトはEU(の欧州委員会)が資金を提供して、欧州防衛庁が管理するPILUMに参加する各国の企業や研究機関が電磁式レールガン実用化に必要な技術を共同開発するという内容で、まずは今後2年間で発射体を正確に数百km先まで発射できることを実証することを目指しているらしいのだが問題は資金の出処だ。

この資金はEUが立ち上げた数十億ユーロ規模の兵器開発基金から資金が提供されるもの見られており、この資金を活用する兵器の研究や開発には欧州以外の国に拠点を置く企業の参加を制限していているため実質的には米国企業の締め出しだとトランプ大統領が指摘している部分で、米国と欧州が現在進行系で揉めている対立点でもある。

出典:Gage Skidmore / CC BY-SA 2.0 トランプ大統領

簡単に説明するとトランプ大統領の要請でNATO加盟国は国防費をGDP比2.0%以上に引き上げることに同意したが、この引き上げられた国防費が何処に向かうのかが問題の発端だ。トランプ大統領としては当然、F-35やパトリオットなどの先端兵器購入資金に引き上げられた国防費が振り向けられると考えていたが、欧州のNATO加盟国は引き上げた国防費が米国の防衛産業界に吸い取られるのを嫌って米国の手が届かないEUの金庫に資金を隠すことにした。

米国が手を出せない金庫とはEUが立ち上げた兵器開発基金のことで、米国はNATO加盟国であってもEU加盟国ではないのでEUの金庫の中にある資金を勝手にはできないという意味だ。

宛の外れたトランプ大統領は当然これを批判するのだが、この仕組の良く出来ているところは兵器開発基金の資金はNATOに加盟していなEU加盟国の資金も流れているため、米国が文句を言ってきても正論でかわしやすいという点だ。

出典:U.S. Navy graphic/Released 米海軍が発表した次期フリゲート艦「FFG(X)」の完成予想イメージ

米国は条件さえ満たせば西側諸国の防衛産業企業に米防衛産業市場を開放しており、最近ではイタリアのフィンカンティエリが米海軍の次期フリゲート艦「FFG(X)」プログラムの勝者に選ばれている。さらにBAEシステムズ、サーブ、ラインメタルなどの欧州の主要な防衛産業企業も米軍から少なくない額の契約を受注しているのでトランプ大統領からしてみれば不公平と感じるのは当然だろう。

どちらにしてもEUの兵器開発基金を活用した電磁式レールガンの共同研究が正式にスタートしたという出来事は、米国企業の参入を排除した形で欧州の兵器開発を進めるという宣言でもあり、今後欧州の防衛産業企業が米国市場から排除されるキッカケになるかもしれない。

さらに言えば米国製兵器と欧州製兵器の互換性にも影響を及ぼす可能性もあるため、トランプ大統領や米国の出方に注目が集まる。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by John F. Williams/Released

受けた損傷は修復不可能か、仏リュビ級原潜の火災は14時間後に鎮火前のページ

前駐独米国大使が証言、トランプ大統領が在日米軍削減に言及次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    打つ手なし? ドイツ軍兵士は一般的な乗用車を「プーマ歩兵戦闘車」と思い込まされ訓練中

    海外メディアは、ドイツ陸軍が導入中のプーマ装甲歩兵戦闘車は稼働率が低す…

  2. 欧州関連

    ポーランドがウクライナ産穀物の輸入禁止を明言、ウクライナはWTO提訴に言及

    ポーランドとウクライナの外交関係は穀物輸出で激しく対立、ポーランドはE…

  3. 欧州関連

    戦力拡張へと舵を切った英海軍、次世代のフリゲートや駆逐艦など建造ラッシュ

    英海軍はジョンソン首相が約束した国防予算の増額を受けて野心的な取り組み…

  4. 欧州関連

    ウクライナ支援の財源、EU加盟国外相の大半がロシア凍結資産の利益転用を支持

    EUはウクライナへの武器支援や資金援助に「ロシア凍結資産の利益」を充て…

  5. 欧州関連

    フランス、第6世代戦闘機向け試作エンジンのテストに成功したと発表

    フランスの装備総局は今月10日、仏独西の3ヶ国で共同開発を進めている第…

  6. 欧州関連

    スロバキア、西側諸国の支援があればT-72やMiG-29をウクライナに提供

    スロバキアのナド国防相は「レオパルド2A4のウクライナ提供は全く議論さ…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 6月 14日

    開発能力がある会社がEUにあるのかな?

      • 匿名
      • 2020年 6月 14日

      欧州の大陸国家にとって
      軍事費を増やさないといけないほどの脅威はないから
      軍事力を増強する目的ではなく国内にまわせば経済対策になるって目的を優先してるんでしょう
      仮に開発失敗しても研究開発費だけでも国内にまわるからね
      成功すればさらに製造業にもまわる
      これが輸入なら軍事力は増強できるけど国内にまわらない
      米だって国内で作れるものは多少性能で劣ってても国内での生産優先するでしょう

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 14日

    EUはイギリスも抜けてるしなぁ。アメリカもさっさと太平洋側に本腰を入れるべきだろう。

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 14日

    そもそもなぜ「EUでやる」のかが謎

      • 匿名
      • 2020年 6月 15日

      そりゃまEUだって消極的反米というかEUで世界の覇権取りたいって野望はあるでしょ
      だから問題抱えながらも連合してるわけだし
      軍事技術なんて可能な限り自分達で抑えておきたい分野の筆頭じゃん

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 15日

    ヨーロッパでの共同開発は計画空中分解のフラグ
    運よく完成しても普及しないでしょ

    2
    • 匿名
    • 2020年 6月 15日

    レールガンは開発出来る。
    が、砲身寿命は100発程度。
    兵器としては駄作が出来上がるだろう。
    EUのミリオタ見て眺めるコレクションとしては悪くないので試作品は出るだろう

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 15日

      シーメンス当たり主導で開発するんですかねえ。
      一応、リニアモーターカーも作っているし、
      かつてはパリ砲というものも作った国も参加するなら、期待しちゃいますね。
      お手並み拝見といきますか。

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 15日

    大砲系は得意そうだから、ええんやない?
    もともと、仲良い訳ではないでしょ。

    オタクとしては、アメリカの武器ばっかりでは面白くないから頑張ってほしい。

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 15日

    防衛産業は公共事業なのだから自前の企業を使うのが当たり前
    日本はちょっとアメリカから兵器買いすぎ
    オスプレイとか地上イージスとか本当にアレ欲しかったんか?

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  2. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
PAGE TOP