欧州関連

次世代戦闘機の本格開発を阻む資金不足、英国は社会保障費の大幅削減が困難

Edgewingは英伊日の次世代戦闘機=GCAP本格開発に向けて「初の国際共同契約が締結された」と発表したが、これは英国の資金不足を反映した6月末までのつなぎ契約に過ぎず、スターマー政権は社会保障費の大幅削減に手がつけられず国防費増額の財源確保がますます困難になってきた。

参考:The defense funding gap haunting Keir Starmer
参考:Starmer says he will ‘not yield’ to pressure from Trump over Iran war

スターマー政権は社会保障費の抜本的な削減に手を付けたら倒れる可能性があり、国防費増額に向けた選択肢は非常に限られている

日経新聞は1月「日本、英国、イタリアによる次期戦闘機の共同開発を巡って官民間の契約の締結が遅れている」「トランプ政権が欧州に防衛費の急拡大を迫るなか英国が拠出額を確定できないことが一因だ」と報じ、Financial Timesも3月23日「GCAPの開発停滞は率直に言ってひどい状況だ」「ますます日本の不満が高まっている」「スターマー首相はGCAPに対するコミットメントを再表明して高市首相を安心させようとしたものの資金の裏付けがないため効果がなかった」「BAE Systems、Leonardo、三菱重工業は自国の資金で開発作業を継続しているが、英国の資金が数週間以内に尽きることを懸念している」と報じた。

出典:Edgewing

Edgewingは4月2日「GCAP開発作業に関する初の国際共同契約(6.8億ポンド=約1,440億円)が締結された」と発表したが、これは開発作業を6月末まで継続させるための「つなぎ契約」に過ぎず、これは英国の政治的日程を意識したもの、つまり「英国が6月末までに国防投資計画(DIP)を公表するのに期待している」という意味になる。

英国政府は2025年6月に国防戦略の見直し結果を発表し、スターマー首相は「この報告書が提案した62項目の勧告全てを受け入れて実行に移す」と表明、国防予算を2027年までにGDP比2.3%から2.5%、2035年までに3.0%まで引き上げる予定だったが、NATO加盟国は6月下旬に開催された首脳会談で国防支出を総額5.0%(国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%)にすることで合意、英国も総額5.0%を支持したものの「いつまでに達成するのか」「そのための財源をどうやって確保するのか」は決まっていない。

出典:UK Ministry of Defence

さらに国防戦略の見直し結果=62項目の勧告を実行に移すと「今後4年間で280億ポンド=約6兆円の不足が生じる」と発覚、そのため2025年末までに公表予定だった国防投資計画を先送りし、政府内で財源確保に向けた調整が続いているものの、スターマー政権、労働党、国防省、財務省の意見が対立しているため財源確保の見通し立たず、国内の大手防衛企業も将来の投資見通しが確定しないため身動きが取れず、中小の防衛企業は将来見通しが不確実な中で資金をどんどん失っている。

ヒーリー国防相は3月16日に保守党議員から「スコットランド選挙前のパーダが始まるのは3月26日だ」「ウェールズ議会選挙やイングランド地方選挙もそれに続くことになる」「議会が休会に入る3月26日までに国防投資計画が公表されなければ5月まで見ることが出来なくなる」「国防投資計画は議会休会前に公表されるのか?YesかNoで答えてくれ」と質問され、ポジショントークに終始して明言を避けた。

出典:Edgewing

英国の政治慣習では「政府は選挙結果に影響を与えかねない発表、決定、文書公表を控える」というのが一般的で、選挙公示日から選挙当日まで重要な計画や予算関連文書の発表を凍結する期間を「パーダ」と呼び、スコットランド選挙前のパーダが始まるのは3月26日、議会が休会に入るのも3月26日、議会が4月13日に再開されても3つの選挙の投票が5月7日に予定されているため「政府は5月8日以降まで国防投資計画を公表できない」という意味になり、ヒーリー国防相が明言を避けたのは「最低でも5月まで国防投資計画を出せない」と示唆している。

もうスコットランド選挙前のパーダ期間に突入したため「国防投資計画の公表」は早くても5月8日以降になり、それも財務省が新たな財源を見つけて政治的合意が形成されていたらの話で、スターマー首相は議会から「いつになったら国防投資計画を公表するのか」「きちんとスケジュールを提示しろ」「2週間後に議会が閉会するまでに公表できるのか」と問い詰められたものの「スナク政権から引き継いだ計画は費用が算出されていなかったため実現不可能だった」「できるだけ早く公表する」とポジショントークに終始して明言を避け続けた。

POLITICOは15日「国防分野の重鎮たちから『組織を蝕むような自己満足だ』と警告される中、スターマー首相は高騰する社会保障費を巡る自党議員との直接的な衝突を避けつつ、英国軍向けの資金繰りについて場当たり的な解決策で乗り切ろうとしている」と報じ、野党の保守党は「国防費の財源を確保するには大幅な社会保障費の削減しかない」と政府に迫っているものの、スターマー首相は社会保障費の削減を試みた際、自党議員の約1/4から「労働党の魂(労働者や社会的弱者の保護)を売るのか」と強烈な突き上げを食らって頓挫したため、社会保障費の抜本的な削減に手が付けられない。

既に削減した海外援助のさらなる削減も自党議員から「こうした削減は労働党の価値観に反する」「海外援助を削減する動きは本当に不当だ」と反対の声が上がっており、POLITICOは「労働党議員の中で社会保障費の削減に賛成する勢力は少数派だ」「もう抜本的な予算削減策を講じて国防投資計画に必要な財源を確保するのは極めて困難だ」「場当たり的な解決策を模索せざるを得ない」「リーブス財務相は市場の支持を維持するため借入ルールの変更に強く反対している」と報じ、POLITICOの取材に応じた社会保障費の削減に賛成する労働党議員は以下のように述べている。

出典:UK Prime Minister

“国防費は社会保障費を削減することで賄われるべきだった。しかし、それに手を出そうとして何が起きたか我々は知っている。誰もその痛みを伴う選択に直面したくないのだ”

スターマー首相はパーダ期間が明ける5月8日まで重要な計画や予算関連文書を発表することができず、POLITICOは「スターマー首相が動けるのは5月13日の国王演説の週というごく狭い枠に限られており、それが終わると議会は1週間休会となるため、いかなる声明の発表も6月にずれ込むことになる」「もう国防費増額に向けた動きは6月まで停滞状態で、組織的な行動に向けての歯車も噛み合っていない。大規模な行動を起こしたり波風を立てたりする意欲は一切ない」と指摘。

出典:UK Prime Minister

6月に発表されるかもしれない国防投資計画について労働党議員らは「首相と財務相がやりくりして繕う=他に選択肢がないため、複数の省庁にまたがる様々な予算枠からかき集めた削減分で費用を賄うという意味」と予想し、キングス・カレッジ・ロンドンのソフィア・ガストン研究員も「大幅な国防費増額がなければ米国との関係を修復することも、7月のNATO総会に出席することもできないのは明白だ」と指摘し、BBCの番組に出演したナンディ文化相は「政府は国防費のための追加資金を確保する必要があり、そのためには公共支出に関して困難な決断を迫られるだろう」と述べている。

結局のところ、英国が国防投資計画に必要な資金調達に苦労しているのは債務対GDP比率が90%後半で、市場からの資金調達=借入額を増やす余地が少なく、さらにEUから離脱したためトリプルAに格付けされるEU債券を通じた資金調達=加盟国の再軍備を加速させる融資プログラム=Security Action for Europe(推定金利3.3%/10年間の元金返済猶予/最長45年返済)も利用できず、社会保障費の大幅削減も政治的に不可能で、各予算から少しずつかき集めた資金で不足分=280億ポンドも捻出できるわけがない。

出典:GlobalCombatAir

それが可能なら政治的な摩擦が少ない選択肢を真っ先に選んでいたはずで、社会保障費の大幅削減による財源確保に踏み切らない場合に想定されるのは「62項目の勧告を反映させた国防投資計画の再編・縮小」か「国防投資計画の規模を維持しても資金供給を遅らせる」のどちらかになり、後者の場合は「ジャムをトーストに薄く伸ばすような対応=全ての計画が遅れる」という意味だ。

Financial Timesが今月10日「資金調達の問題やコスト超過が避けられなくなるにつれ、中核3カ国は少なくとも6カ国の追加パートナー(オーストラリア、サウジアラビア、ポーランド、シンガポール、スウェーデン、ドイツなど)を招き入れる必要に迫られるだろう」と報じたのも、英国の資金不足が根本的に解決しないことを危惧したものである可能性が高く、もう「資金調達」と「開発コスト高騰」という現実的な問題に対処するためには「新たなパートナーの追加」は避けられないのかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:UK Prime Minister

オーストラリアが国防費を大幅増額、今後10年間に支出する額は計101兆円前のページ

トランプ政権、第二次大戦を彷彿とさせる軍需生産の戦時体制を検討中次のページ

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コメント

  • コメント (24)

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    • ははあ
    • 2026年 4月 16日

    世界の債務が300兆ドル(4京4,550兆円)を超えた! | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
    リンク世界的な債務の増大 各国は自国の財政を立て直さなければならない
    リンク
    世界的に財政状態が著しく悪化し、経済成長の伴わない債務の拡大が進行している。行きつく先は深刻なインフレだ。
    大規模な増税や社会保障の削減なしに軍事費を増加させれば致命的な結果になるが、国民はそれを受け入れないだろう
    このままいけば戦う前に少子化と貧困で自滅するぞ

    5
      • たむごん
      • 2026年 4月 16日

      『インフレ税』増税・社会保障費削減は厳しいですから、本命でしょうね。

      インフレにして、政府債務を軽くしようとしてきた国が多いわけですが、このまま続けていくのかなと感じています。

      5
        • のー
        • 2026年 4月 16日

        インフレ税の最大の問題は制御不能なことで。
        税金は所得再配分という目的がありますが、インフレは現金以外の資産をもっている富裕層は打撃が少なくて、
        給料で生活する貧困層に打撃が大きいんですよね。
        結果、やりすぎると与党は選挙に負ける。
        王道は国民の資産と賃金をガッチリ把握して、富裕層から税金を徴収して貧困層に配分していくことで、
        給付付き税額控除はその方向でいってますが、なかなか道は難しいですね。

        14
          • たむごん
          • 2026年 4月 16日

          まさに核心で、仰る通りですね。
          手取りが最低賃金近くの人よりも、生活保護の人の方が生活水準が高いのは違和感があります。

          まず頑張って働いてる人が報われる社会、貧困層が再チャレンジして働いていく社会には賛同です。
          回転寿司・マクドナルド・ファミレスなどでも、高齢者の方が元気に働くのを見かける時代ですからね。

          少額からインフレ対策やりやすくなりましたので、上手に利用していくのも大事かなと考えています(昔は証券売買の手数料が数万円とかでした…。)。

          8
    • たむごん
    • 2026年 4月 16日

    スターマー政権10%台の支持率で、石破政権よりも低いですからね…。

    選挙負けないために富裕層増税・選挙負けないために社会保障費を削れない、次世代戦闘機に資金なんかほぼ回せないんじゃないでしょうかね。

    2026年2月26日下院補選が、イングランド北西部グレーター・マンチェスターのゴートン・アンド・デントン選挙区でありましたが、労働党3位に転落して落選してるので厳しいと思いますよ。

    13
    • Ard
    • 2026年 4月 16日

    当面は日本が無金利で貸して解決してやろうや
    日露戦争の恩を返す時だよ

    9
      • ななし
      • 2026年 4月 17日

      そんな恩なんか無いから

      7
        • Ard
        • 2026年 4月 17日

        当時のアメリカや大英帝国の資金で兵器調達、戦費調達出来たのは歴史の事実
        無いとするのはただの恩知らずなので改める様に

        9
      • FT4
      • 2026年 4月 17日

      怨では??

      2
      • KEI
      • 2026年 4月 17日

      日本がロシアには勝てると思われていなかったから条件はかなり厳しかったみたいだけどね。ちなみにイギリスの前にアメリカに外債の起債を要請しているが門前払いされてる。戦費調達に協力してくれたのはアメリカではなく、ユダヤ系アメリカ人の銀行家であるジェイコブ・シフ氏。

      8
        • Ard
        • 2026年 4月 17日

        別にユダヤ系だろうとアメリカですし英国が協力してくれたのも事実ですし
        その部分を英国全体の恩とするのは相手も悪い気しないわけで凄く良い事

        7
    • ニートキング
    • 2026年 4月 16日

    90%なんてまだまだよ‼︎
    日本を見てみなさい。200%💢
    上には上がいる。
    しかも円安の結果収入は増え健全化しています。
    政府発表です♪
    あー何が書きたいのか忘れた。
    そうだイギリス🇬🇧の財政状態が悪いのなんて新型機作る前から分かってたジャン。日本もそうだけど国防で財産守れるからいいじゃん。ではなくて身の丈にあった決断をして欲しいよ😭
    以上無職ニートが吠えております🙇

    15
    • ななし
    • 2026年 4月 16日

    ロシアが欧州に攻めてくるのなら社会保障とか言ってる場合じゃなくなるんじゃ

    8
    • 58式素人
    • 2026年 4月 16日

    前にも書いたけれど。英/伊は、ウクライナ支援で大金を使っている。
    その分の金額を援助/注入しても良いのでは?、と思います。
    方法は色々では?。
    両国が公債を出すなら引き受けるとか?、両国の軽空母を買い取るとか?。

    15
    • せい
    • 2026年 4月 16日

    GCAPの予定はもう守れそうにないか
    いったん、イギリスの政治が安定するまで棚上げして、日本はF-2の再設計機とか作れないかな?

    6
    • YF
    • 2026年 4月 16日

    開発期間の延長=開発費の上昇に繋がるので納期を守りたい日本からすれば、イギリス分の開発費の一部負担も考えないといけないかもしれませんね。オブザーバー参加国増やすにしても資金ショートするの直近の話ですからね。
    日本に財政的余裕がないのは百も承知ですが、防衛費2%から3.5%まで引き上げないといけない現状を考えれば、なるべく将来的にリターンのある部門に投資すべきでGCAPそれに合致すると思います。

    16
    • 名無しさん
    • 2026年 4月 16日

    もしも英の予算が根本的に厳しいというのならテンペスト計画そのものが不相応だったと言うことでしょう。変化する世界情勢考えれば酷な話かもしれませんが。

    であれば取り敢えず日本のF3開発に有償協力して小銭を稼ぐという選択肢も英にとってはアリなのではないでしょうか。

    次世代への技術投資と国内生産基盤の強靭化等、共通して取り組むべきパートナーかもしれませんが、スピード感が日本と大きく乖離しているのなら、そこはもう割り切るしかないのでは。

    んでGCAPはF3戦闘機とは別のプロジェクトとして残し、日本として国際開発の経験をじっくり積んでいけば良いのでは。

    24
    • あうあうあー
    • 2026年 4月 17日

    共同開発が順調に進んでいて、それでも間に合わない場合は、「ギャップ埋め装備の配備」や「GCAPへの要求水準を下げること」で粘り腰を発揮する価値があると思います。
    しかし、本格的な共同開発体制が構築される前からこんな調子では、どうしてもリスクヘッジを考えないわけにはいかないでしょう。
    日本としては、計画が2035年から遅れる度合いが大きくなるにつれて、GCAPへの投資のリターンが急速に低減していくという状況がありますので、「今のままで大丈夫」という楽観はできない立場にあるはずです。

    F-3計画を中核に据えた、日本主導の共同開発プロジェクトに体制移行する(≒英国にはtier1.5の立場に下がってもらい、カナダとポーランドをTier2++で迎え入れる)など、何らかの路線変更案は準備しておくべきかと思います。

    11
    • AKI
    • 2026年 4月 17日

    これ以上、契約が遅れるなら持ち分の再構成をするしかないですね。
    イギリスの持ち分を、新しい参加国に分配する。

    製造部分の多くを新規参加国に分配して、英国は技術供与の割合いを多くする。
    そのかわり、開発費の負担を減らす。

    出せないなら貰えないのは当然。

    ただ、今は無人機にフルベットした方がよい流れで、第6世代戦闘機の優先度が下がってしまったのも事実。

    6
      • ななし
      • 2026年 4月 17日

      そんな流れはないし優先度が下がっている事実もない

      6
        • AKI
        • 2026年 4月 17日

        そうですか?
        そうじゃないなら、今は無人機にベットすべきなんて論調が出るとは思えません。

          • ななし
          • 2026年 4月 18日

          特定の論調レベルでは全体を左右しないでしょ

          6
    • ふむ
    • 2026年 4月 17日

    昔は財源として税金取っても経済回ってたんだから、累進課税に戻せば良いんですよ
    所得税累進最大99.25%
    過去のイギリスはそんな仕組みでした
    担税力ある層から取らないんなら、そりゃ財源足りなくなるのも当然

    3
    • バーナーキング
    • 2026年 4月 18日

    「契約のGIGO-エッジウィングへの一本化」は半年遅れたけどその間も現場は個別契約で動いてて「少し効率が落ちた」だけ。
    「3ヶ月のつなぎ」に過ぎない契約だけどそれは「早くても5月以降になるDIP待ち」かつ「現場の英資金の枯渇」を防ぐ大事な3ヶ月分。
    結果として現場の手が止まる様な開発停止は1日たりとも発生せずに済んだのにそれをもって「もう間に合わない」って大騒ぎする人が多いのは本当に不思議。
    もちろん戦闘機開発が計画通りオンスケで進むことなんか稀有ではあるけど、少なくともここまでの紆余曲折は過去の事例の遅延要因と比べたら騒ぐ様なモノではないと思うけどなぁ。

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