スペインのロブレス国防相はトランプ政権が復帰したことを受けて「NATO加盟国の合意=国防支出2.0%の達成時期を2029年から相当前倒しする」と述べていたが、サンチェス首相は22日「従来の目標を大幅に前倒しして年内に2.0%を達成する」と発表した。
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安全保障への投資が適切かどうかの議論を超越するのはポーランドの危機感ぐらいだろう
ロシアのクリミア併合を受けてNATO加盟国は「最低でもGDPの2.0%を国防支出に充てる」と合意したものの、真剣に合意内容の実行に取り組み始めたのはウクライナ侵攻勃発後のことで、スペインのサンチェス首相は2022年6月「2029年までに国防支出を段階的に引き上げて2.0%を達成する」と言及し、2018年に0.9%だった国防支出は2024年に1.28%(1.4%という数字もある)まで引き上げられたが、ロブレス国防相はトランプ政権が復帰したことを受けて4月1日「2.0%達成時期を相当前倒しする」と述べていた。

出典:The White House
ロブレス国防相は前倒しされた達成時期について具体的に言及しなかったものの、2期目のトランプ政権発足後初のNATO首脳会談は目前に迫っており、トランプ大統領は加盟国の国防支出を5.0%に、ルッテ事務総長は3%以上に引き上げることを提案中で、この6月末の会議に「旧目標の未達成状態」で出席すれば酷い目に合うのも、加盟国が「旧目標=2.0%を超える拠出」で合意するのも確実だ。
そのためイタリアやベルギーなどの2.0%未達成国は会議に向けて「年内の目標達成」を発表、スペインのサンチェス首相も22日「従来の目標を大幅に前倒しして年内に2.0%を達成する」「これを実行するためには104億ユーロの追加投資が必要になるもののスペインと欧州が直面する脅威に見合ったものだ」と発表し、国防支出の増額に反対する連立政権のパートナーに配慮して「この資金調達は増税や社会福祉の削減に一切手を付けることなく財政赤字も増やすことなく達成される」と付け加えた。

出典:Sgt Marc-André Gaudreault, JFC Brunssum Imagery
年内の目標達成に必要な追加資金は好調なスペイン経済が生み出す公的貯蓄、未執行の国家予算やEUのCOVID-19復興資金から捻出する予定で、104億ユーロの内35%は軍人給与の大幅な引き上げ、31%は通信やサイバーセキュリティ能力の開発や取得に、19%は新たな防衛装備の調達に、17%は軍の自然災害対応能力の強化に、3%は海外で実施される平和維持活動の安全対策に、追加投資の84%はスペイン企業に投資されるためGDPを0.4%~0.7%押し上げ、最大10万人分の新規雇用が生み出される可能性があるらしい。
スペインの発表は財源確保の方法、資金を何に投資するのか、最大の受益者は誰なのか、投資が雇用にどんな変化をもたらすのかを抑えた「欧州らしい内容」だが、連立政権を組む左派政党=スマール所属の閣僚らは「安全保障の課題や脅威について共同分析を行う機会もなく、具体的なニーズを客観的に特定する機会もなく、欧州連合内での基盤も築くことなく法外な追加支出を約束しただけ」と批判しており、誰もが安全保障の早急な強化の必要性を認識しても「負担の話」になると「話が違う」となるのは何処の国でも一緒だ。

出典:Wojsko Polskie
安全保障への投資が適切だったかどうかは「戦争抑止という目に見えない効果」と「戦争が勃発してからの保護力と抵抗力」でしか証明できないが、これを例外的に超越するのはロシアと国境を接し、歴史的にも国土を蹂躙された経験をもつポーランドの危機感ぐらいだろう。
これは「意思の欠如」というよりも「国の歴史に刻まれた体験」に起因しているような気がする。
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※アイキャッチ画像の出典:German Navy/CC BY-SA 2.0
スペインだと地理的に、切実に感じたりはし難いだろうしなぁ
ロシアの脅威っていっても、スペイン人に対しての具体例となると、「100年近く前のスペイン内戦で…」とかになりかねないし
そんな前の戦争が応仁の乱とか蛤御門の変とか言う京都府民ジョークみたいな。
あれ・・・?京大が未だにあんななのって、まさか?
ポーランドは、本当に特別という感じがしますよね。
歴史的に弱い国というわけではないですが、近隣諸国があまりにも強かったわけですが。
ポーランド国内の問題、身分・民族・宗教による分断、対外戦争・内乱、これらが弱体化の大きな要因だったなと。
ポーランドは、ウクライナ難民を積極的に受け入れてきたと報道されてきましたが、シリア難民などイスラム難民の受入を拒否しており歴史的な教訓を生かそうとしている事を感じます。
ポーランドにはかつて欧州最強(中欧最強、かな)がありましたし
ただまあ、何といいますか、やりすぎたというか周辺諸国に喧嘩売り過ぎた、恨みを買いすぎた行動を割と頻繁にしていたので、その結果として近代以降は、叩かれまくったり、周りが助けてくれなかったりの歴史なんですよね
独ソによるポーランド分割だってその前辺りで周辺諸国に喧嘩売ったり恨み買うようなことをしてたので、周りは助けようとしてくれないという
今回の軍事強化はその辺りの経験を踏まえてでしょうが、いざ軍事力が強大化した場合、歴史は繰り返すではないですが周辺諸国にどういう態度で接するのかが気になる所です。
仰る通りで、大陸国家・陸上国境の難しさを感じてしまいます。
ポーランドが、アメリカ=ポーランドの関係に気を使い続けているのも、安全保障面での配慮を感じますね。
この議論は、企業におけるサイバー脅威対策への投資に対する議論と同じです。
脅威自体は極めて身近で、誰もが必要だと認めてはいるものの、いざ対策に投資するとなると、その投資に対する効果の算定が発生した場合の損失の防止という形となる為、経営者にとっては短期的な利益を圧迫する投資と映り、どうしても過小評価する傾向があります。
経営者は、そのk
うっかり、投稿ボタンを押したので、続き。
経営者は、その企業のビジネスを円滑に効率的に運営し、リスクを適切に排除し、成長と利益を創出することがその役割となります。
そう言った視点から見れば、経営者の判断はサイバー脅威に対し何がビジネスにとってリスクになるのかが重要なのであって、様々な脅威の種類に対する個別の対策は、それぞれのビジネス観点での重要性とコストだけが関心となるべきで、個々の対策(それは、サイバーセキュリティ対策の担当者や部門の役割)に口を出すのは百害あって一利もありません。これは国防における政治と軍の役割そのままです。(ここは何を言いたいかと言うと、専門家気取ってC-17を買えと言い出すどこかの総理大臣に対する皮肉ですが。)
何に投資を行うのか確かに議論は必要でしょうが、政治家のなすべきことは国防担当省庁が軍上層部と軍の状況や将来戦略を判断した上で、必要な投資バランスをとっているのかを確認することが重要なのであって、個別の投資内容や、必要以上に投資対効果に拘泥することは本質から外れているのです。
いつも思うのだけれど。
写真のようなLHA/Dは、不安定に見えます。
第四艦隊事件の台風や、ハルゼー艦隊に損害を与えたコブラ台風
のような強力な台風に不期遭遇した場合、船体は持つのかな。
東シナ海の強烈な季節風はどうなのだろう。
気象予報は進歩しているから、逃げるのだろうけれど、足が遅いし。
20kt程度だろうし、これでは台風と同じかやや遅い気もします。
第四艦隊もハルゼー艦隊も任務優先の結果、大損害を被っているし。
ヨーロッパに台風は来ないから、無問題。
キャンベラ級は少し心配だけど、風上に舳先を向けていれば凌げるでしょう。
欧州(ロシア)情勢にもよりまあすが。
台湾事変(?)が起きた時に、
NATO海軍極東艦隊(?)が来るとしたら、
欧州製のLHA/Dは要注意になるのでしょうね。きっと。
第一次トランプ政権の時はあれだけ渋ってたのに、トランプが復帰してアメリカが信用できないからと軍事費を上げるのはなんだかなあ。
日本の場合は目の前の脅威もあるし、2017年から徐々に上げてきても昨年度はGDP比1.6%だったが。
(公共事業費や科学技術研究費も含めて8.9兆円)
駆け込みは良いのですが言うほど強化されるのか。またぞろEVやディーゼルのように骨抜きになる未来しか見えないのです
F-35Bの購入と、Leopard2A4のオーバーホールと近代化改修を進めてくれ。
「こんな訓練じゃウクライナじゃ生き残れない」ってウクライナ人が言ったのって、スペインでの訓練じゃなかったでしたっけ?
まあ今、ウクライナとロシアがやってるような戦闘を訓練できる国はそもそも無いんでしょうけどね。
戦争が終わって生き残ったウクライナ兵は教官に引っ張りだこになりそう。
戦訓を体系的に説明出来る人、激戦地を渡り歩いた、精鋭のドローン部隊に所属して成果を出した人なら引っ張りだこでしょう。
命令されるがまま、ただの一兵士として単純に戦闘して大損害を受けた部隊にいた人は流石に要らないでしょう。
個人的に国家安全保障に対する投資が適切かは自国の戦争に関わる事だけじゃないと思います。宇宙からの監視能力に関して言えばQPS研究所のデータをウクライナに提供みたいな話はあるし、平時の公共事業や民間事業、災害等で活用出来る面もあるでしょう。