欧州関連

ロッキードがフランスに驚きの提案、HIMARSを18ヶ月で納入できる

フランス陸軍のM270 MLRSは2027年頃に退役する予定で、仏Challengesは「ロッキード・マーティンがHIMARSを提案してきた」と、Breaking Defenseも「フランスに18ヶ月でHIMARSを納入できると提案した」と報じたが、この18ヶ月という納期は非常に怪しい。

参考:« Faire le meilleur choix, ou le moins mauvais » : l’offre explosive de l’américain Lockheed Martin à la France
参考:Lockheed pitches HIMARS for France, with 18-month timeline offer
参考:Frappe longue portée terrestre : Thales réalise les premiers tirs avec le lanceur X-Fire
参考:Frappe longue portée terrestre : Thales et ArianeGroup réalisent un premier tir réussi répondant aux ambitions des forces françaises
参考:THUNDART, la future roquette de longue portée “made in France”  

納期優先で選べばピナカ、Chunmoo、HIMARSになるものの「HIMARSだけは政治的に容認できない」となってしまう

欧州はウクライナとロシアの戦争を目の当たりにして「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識し、航空戦力に偏っていた火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、自走砲や多連装ロケットシステムの新規取得や追加調達が相次いでいる。

欧州諸国の多連装ロケットシステムの導入動向(枠組み合意の数字も含む)
種類数量
ポーランドHIMARS506基
Chunmoo290基
エストニアHIMARS9基
Chunmoo9基
ラトビアHIMARS6基
リトアニアHIMARS8基
イタリアHIMARS21基
ルーマニアHIMARS54基
オランダPULS20基
ドイツPULS5基
 EuroPULS250基
デンマークPULS8基
ギリシャPULS36基
スペインPULS16基
ノルウェーChunmoo16基

砲兵システムに関しては欧州独自の選択肢とインフラが存在するものの、多連装ロケットシステムは米国製のM270 MLRSに依存してきたため使用するロケット弾の生産拠点もなく、この分野の選択肢は米国製のHIMARS、HIMARSの技術を流用してロケット弾ポッドを2基搭載したGMARS、イスラエル製のPULS、PULSの欧州バージョン=EuroPULS、韓国製のChunmooとなり、ロッキード・マーティンとラインメタルが共同開発したGMARSは潜在的な顧客が確保出来ず失速、逆にEuroPULSはドイツ軍が発注予定なので実用化がほぼ濃厚となっている。

フランスもウクライナ侵攻の教訓を反映させた軍事計画法案を2023年8月に成立させ、この中で長距離地上攻撃(Frappe Longue Portée-Terre)計画に約6億ユーロの資金を計上、2026年4月に発表された改正軍事計画法案の中でも多連装ロケットシステム×13基の新規取得が予定されており、仏装備総局(DGA)主導でサフランとMBDAのコンソーシアムがTHUNDARTを、タレスとアリアンのコンソーシアムがX-Fireを開発中で、ここにテュルジ・ガイヤールが「迅速に開発が可能」という触れ込みで独自の多連装ロケットシステム=Foudreを提案。

さらに暫定的な解決策の候補としてフランス陸軍はインド製のピナカを視察しており、仏シンクタンク=フランス国際関係研究所(IFRI)は「長期的な開発ロードマップ、多彩な弾薬ラインナップ、独自弾薬を統合できる自由度、2030年までにポーランドで弾薬の生産が始まるChunmooを採用すべきだ」と勧告し、第三者として見る分には中々面白いことになっている。

サフランとMBDAのコンソーシアムはTHUNDARTについて「射程150kmのロケット弾を運用可能」「AASMの技術を流用したロケット弾を開発」「米国の国際武器取引規制=ITARの規制を受けない主権が確保されたシステム」と、タレスとアリアンのコンソーシアムはX-Fireについて「主権、相互運用性、回復力を兼ね備えた完全な国産システム」「射程150kmを超える国産ロケット弾=FLP-t 150の試射に成功」「X-Fireランチャーはフランス製弾薬だけでなく外国製弾薬とも互換性がある」と説明しているが、フランスが悩んでいるのは時間だ。

出典:Safran

フランス陸軍は2027年までに即応師団を編成する予定で、このタイミングで老朽化したLRU=M270 MLRSの退役が予定されているため、実用化が2030年以降になるTHUNDARTもX-Fireも間に合わず、Foudreはフランスがどう評価しているのか不明で、ピナカは使用弾薬が旧ソ連規格でインド陸軍自体も300km先の長距離攻撃能力を確保するためPULS導入を決めており、Chunmooについては仏シンクタンクの勧告であって公式な動きはなく、ここにロッキード・マーティンがHIMARSを正式に提案してきたらしい。

仏経済誌のChallengesは5月19日「これは予想していなかった提案だ」「ロッキード・マーティンがHIMARSを提案してきた」「これは5月13日の上院外交・国防委員会でカトリーヌ・ヴォートラン国防相が明かした内容だ」「ロッキード・マーティンはHIMARSを迅速に納入することを約束している」「この提案は一部の人々から支持されているものの反発も多い」と報じ、Breaking Defenseは10日「ロッキード・マーティンがフランスに18ヶ月でHIMARSを納入できると提案した」と報じた。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. William Chockey

“ロッキード・マーティンが提案した正確な規模と費用は不明で、この合意によってフランスが既存顧客よりも早いHIMARS納入順位を獲得できるのかも不明だ。もし既存顧客の順番を飛び越えてフランスが列の先頭になればHIMARS納入を待っている国で波紋を呼ぶだろう”

フランス国防省はBreaking Defenseの取材に「2つのコンソーシアムを競い合わせる革新的なパートナーシップを通じ、2つのフランス製ソリューション(THUNDARTとX-Fire)を評価・比較している。同時に市場で入手可能なソリューションの評価も行っている」と回答、Breaking Defenseも市場で入手可能なソリューションについて「IFRIは長距離地上攻撃計画の要件を満たす暫定的なソリューションとしてChunmooが最適であると推奨している」と指摘し、フランスの置かれた状況について以下のように述べている。

出典:Thales

“フランスは米国が兵器使用に課す可能性のある制約を回避するため、完全にフランス製システムを選択したいという願望と、迅速に行動する必要性との間で板挟みになっている。一部の国防アナリストは外交政策や貿易など多くの問題でフランスと米国が対立していることを考えると「米国製システムの採用は現実的なのか?」と疑問視している。IFRIのレオ・ペリア・ペイニェ氏は「HIMARS導入には国内から大きな反発があるだろう」「HIMARS導入を支持する可能性が最も高いのはDGAの調達部門、そして問題を解決して早く先へ進みたいと考えている一部の関係者のみだろう」と述べた”

フランスの選択肢はTHUNDART、X-Fire、Foudre、ピナカ、Chunmoo、HIMARSと多彩だが、2027年までに即応師団を編成しなければならないという目標があり、これはNATOが各加盟国に課した能力要件を満たすものである可能性が高いため目標というよりも義務に近く、納期優先で選べばピナカ、Chunmoo、HIMARSになるものの「HIMARSだけは政治的に容認できない」となってしまい、そもそも現在のFMS納入順位はトランプ大統領の政治的意向や米軍備蓄の状況によって理不尽に変更されるため「18ヶ月でHIMARSを納入できる」という提案を信じるのは流石に無謀だ。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

ちなみにHIMARSランチャーの標準的な納期は現在「24ヶ月~36ヶ月」と見積もられており、ロッキード・マーティンがフランスに提案した「18ヶ月でHIMARSを納入できる」という数字は非常に怪しく、最終的な納期や条件を決めるのもロッキード・マーティンではなく米国政府なので、ロッキード・マーティンの条件を鵜呑みすると痛い目に合う。

ポーランドとLockheed Martinは2023年9月「HIMARSランチャー×486基(Homar-A)調達に関する枠組み協定」を締結し、この枠組みには「ポーランドにおけるGMLRS製造および技術的サポート」が含まれていたが、2024年に枠組み協定に基づいた最初の契約交渉が開始されたものの、米国政府はポーランドのGMLRS国産化に必要な技術移転に同意しないため、ポーランドメディアは「韓国製のHomar-K(Chunmooのこと)調達は順調なのに米国製のHomar-A調達は危機に瀕している」と報じている。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

この問題についてNATO・欧州軍最高司令官を務めたフィリップ・ブリードラブ元大将は「ポーランドへの技術移転に同意しないのは政治的理由である可能性が高く、ウクライナに対して課せられた長距離兵器使用制限と同質のものだ。この状況は軍人として苛立たしい状況だ。このような懸念が他国への技術共有に影響を及ぼしていると考えている」と指摘しており、米国はHIMARSを売った欧州の同盟国に「GMLRSの射程延長弾=ER-GMLRS」と「HIMARSで使用する新型戦術弾道ミサイル=PrSM」の売却を拒否し、ノルウェーがHIMARSではなくChunmooを選択したのもそのためだ。

結局のところ、多連装ロケットシステムにHIMARSを選択すればGMLRS、ER-GMLRS、ATACMS、PrSMの供給で米国の強いコントロール下に置かれてしまい、オーストラリアはGMLRSとPrSMのライセンス生産を認められているものの、米国から誘導装置、推進薬、信管などの部品を輸入しているため「完全な現地生産」ではなく「現地での最終組立」でしかない。

関連記事:米国が技術移転を拒否、ポーランドのHIMARS大規模調達が行き詰まる
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (9)

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    • せい
    • 2026年 6月 11日

    ポーランドの大口契約消滅の危機にロッキードも焦ってるのかな?
    だとしたら交渉相手はお宅の政府じゃね?と思わなくもないが
    しかし納期18ヶ月は、何処か別の契約で用意してる物を持ってこないと無理だと思うが、その後のことは考えてるのかなぁ?

    21
    • 他人事では無い
    • 2026年 6月 11日

    安いドローンをバカスカ発射すれば良いのでは?

    • ドゥ素人
    • 2026年 6月 11日

    欧州に武器は売ってコントロールはしたいが、工業力低下で納期や見積もり通りに兵器は作れない…
    欧州での米国の負担は減らしたいが、ロシアを非難しつつも自分はグリーンランドは欲しがり欧州の信用を失う…
    イスラエルにそそのかされて、イランを攻撃してしまって世界中に迷惑をかける…
    この状態で米国製兵器が売れるんでしょうか…
    米国と言うかトランプさんが何をしたいのかよく分かりません。

    14
    • ああああ
    • 2026年 6月 11日

    できる(できるとはいってない)になりそう

    4
    • nimo
    • 2026年 6月 11日

    契約したのに平気で後回しにするメーカーだということだね

    9
    • 名無し
    • 2026年 6月 11日

    ロケット弾は製造に相応な設備が必要だろうけど、発射台はジャッキアップ機能のあるトレーラーにランチャー置いて防爆処理するだけやろ?って感じなんだが何にそんな苦労してんですかね…
    そりゃ4-5tあるコンテナを持ち上げるジャッキはたくさん作ってないだろうけどトラックは汎用品だろ?

    4
      • nachteule
      • 2026年 6月 12日

       なんか発想がソ連時代のカチューシャレベルでどうなのかと思うが。雑に考えているジャッキアップは速度も速く角度とか精密にコントロールしている物でダンプとかの単純な奴じゃ無い。

       そもそものボトルネックがトラックの供給状態にあるのかもあるし、雑にどんなトラックに乗せるにしても耐久性とか満たすべき条件があるんだから、そこでテストのやり直しは必須。
       少なくとも平時の物作りにおいて勝手な仕様変更とかは禁止されるべきものです。新幹線のひび割れとか設計は満たしていたけど現場の製造で削りすぎで強度不足になって発生している。一度使用が決まりその通りに作れば基準を満たすのが前提だから変えたら変えたで誰がそのリスクを追うのか?
       

      3
      • 名無し
      • 2026年 6月 12日

      他にも注文抱えてるからってのはあるだろうけど、一式の話の場合訓練ロケットや補給トレーラーも込みだからかな(オーストラリアの注文みたいな)

    • 武蔵野
    • 2026年 6月 11日

    一方日本はHIMARSは導入しないままMLRSを退役させ、高速滑空弾が後継になるという独自路線を行っているという。

    6

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