欧州関連

米国製多連装ロケットシステムから脱却する動き、米国がドイツの選択を警戒

欧州では米国製多連装ロケットシステムから脱却する動きが顕著で、Defense Newsも「ドイツの選択は米国依存からの脱却、武器供給元の多重化を推し進めたい欧州諸国にとっての試金石になるだろう」と報じており、今後の多連装ロケットシステムは弾薬統合の自由が重要になるだろう。

参考:German rocket artillery pick tests the waters on US arms dependence

Lockheed Martinの警告にも関わらず、弾薬統合の自由を優先するドイツの決意に変化は見られない

欧州ではロシア軍によるウクライナ侵攻を受けて「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識、そのため航空戦力に依存した火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、米国が独占供給していた多連装ロケットシステムについても脱米国の動きが顕著で、Defense Newsも12日「ドイツの選択は米国依存からの脱却、武器供給元の多重化を推し進めたい欧州諸国にとっての試金石になるだろう」と報じている。

出典:Cpl Jamie Peters RLC/OGL v1.0

M270に依存してきた欧州には独自の多連装ロケットシステムとエコシステムが存在せず、米国はM270の更新、新規導入、追加導入の需要にHIMARSが選択されると楽観視し、ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、イタリア、クロアチアなどはHIMARS導入を決定したものの、HIMARSの瞬発的な投射火力量はM270の半分しかなく、投射火力と納期を重視したデンマーク、オランダ、スペインはPULSを選択し、これに危機感を覚えたLockheed MartinはRheinmetallと共同でHIMARSの技術を流用し、ロケット弾装填ポッドを2基搭載し、GMLRS、ER-GMLRS、ATACMS、PrSMを使用可能なGMARSの欧州生産を提案。

これに対してKNDSとElbitもPULSの技術の流用し、イスラエル製のロケット弾に加えてKongsberg製のNSM、MBDA製のJFSMなどを統合できるEuroPULSの欧州生産を提案していたが、ドイツはM270のウクライナ提供分を穴埋めするためPULSを選択、この決定はドイツのM270更新にEuroPULSが選択されることを強く示唆し、Lockheed Martinは「PULSを選択すればドイツはGMLRSへのアクセスを失う」「在庫分のGMLRS(推定数千発)を使用するにはGMARS以外の選択肢はない」と警告したものの、弾薬統合の自由を優先するドイツの決意に変化は見られない。

ElbitはPULSプラットフォームにGMLRSを統合することは技術的に可能と、ドイツもPULSへのGMLRS統合は技術的問題ではなく政治的問題で「その解決はトランプ政権に委ねられている」と説明しているが、仮に統合が不可能でもGMLRSの在庫を消費するまでM270を維持すれば良いだけで、ドイツ当局は「ニーズがあれば相互運用性を生み出す可能性がある」「今後のGMLRS発注数が制限的な姿勢を緩和させるかもしれない」と見ており、Lockheed MartinはHIMARSやGMLRSの需要増に対応するため欧州企業に協力を求めるだろうという計算も働いている。

もう多連装ロケットシステムはロケット弾を発射するだけのプラットフォームから、弾道ミサイル、巡航ミサイル、対艦ミサイル、徘徊型弾薬、対戦車地雷を散布するロケット弾などを発射するマルチプラットフォームに変化を遂げているため、欧州諸国は多連装ロケットシステムに対する弾薬統合の自由を求めており、フランスもEuroPULSを選択する可能性が非常に高くギリシャもPULS導入が濃厚だ。

HIMARSの納品遅れに直面しているエストニアも状況次第で他システム=Chunmoo、KHAN、PULSを選択する可能性が浮上しており、ノルウェーもHIMARS、PULS、Chunmooを検討中で、EuroPULSとイスラエル製ロケット弾の欧州生産が立ち上がれば更に多くの顧客を獲得するかもしれない。

関連記事:弾薬統合の自由、ドイツ軍の選択はGMARSではなくEuroPULS
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※アイキャッチ画像の出典:Elbit Systems

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コメント

    • ブルーピーコック
    • 2025年 2月 12日

    EUの国同士で弾の融通が利かないなんてアホな事は避けたいだろうから、すったもんだの末に統合されるとは思うが何年かかるかな。
    とりあえず2030年頃にまとまるに1000ギニー

    13
    • hogehoge
    • 2025年 2月 12日

    自衛隊も備蓄弾薬の多様化は避けられない問題なんだから
    地対艦部隊などのランチャーを順次マルチプラットフォーム化させて対応させるべき課題だよね

    新規弾薬開発するのと同じぐらい共通化基盤という足まわりも重要ということ

    16
      • T.T
      • 2025年 2月 12日

      やはりタイフォンミサイルシステムが一番か。
      失敗作のタイフォンシステムと名前が同じなのが少し不吉。

      2
    • たむごん
    • 2025年 2月 12日

    有事を考えれば、使える弾種・弾薬が多いことはメリットであり、リスクヘッジできますからね。

    アメリカも一つの民主主義国家なわけで、大統領・与党政党内の力学・議席バランス・世論動向によって、どうなるのか分からないでしょうし。

    8
    • paxai
    • 2025年 2月 12日

    M270 射程32キロ~300キロまでカバーします!
    マルチ化は分かるけど無理があると思うの。そろそろ完全新作とかは・・・計画ないのかな?

    10
    • もへもへ
    • 2025年 2月 12日

    ドイツが武器の自由と主権化を推し進めるのは昨今の情勢から当然だと思う。アメリカ製はたとえ自国の装備であったとしても使用とかに許可いりそうだし。

    ただドイツはレオパルトとかユーロファイターで他国に人権とかを口実に口を出してるので、それもやめろとは思う。

    33
      • 匿名
      • 2025年 2月 12日

      自分達が多用する手段だからこそ、他国に同じ手を使わせないという判断に至ったのでしょうね🙄…
      人は誰しも制約なく一方的に相手をボコりたいものなので

      14
    •  
    • 2025年 2月 12日

    ドイツは欧州の主権だとかなんだとか理屈こねて自国に利益誘導したいだけさ

    9
    • 無明
    • 2025年 2月 12日

    K239でいいじゃん感

    3
    • イーロンマスク
    • 2025年 2月 12日

    トランプ見てるとリスクしかないからな
    そりゃ米国兵器への依存度下げたいわ

    26
      • 味噌煮
      • 2025年 2月 13日

      政権の立役者に貶められるトランプ氏の図

    • Mr.R
    • 2025年 2月 12日

    あれだけ縛りプレイされているウクライナを見れば制限無しで使いたいって思うわな···

    22
    • 無印
    • 2025年 2月 12日

    ていうかM270が古いんじゃないの?
    C-130もM109もMLRSも、アメリカがいつまでも後継開発しないから、ドイツや韓国やブラジルが「いっちょ自分で開発するわ」なるよ
    日本ですらMLRSの後釜に高速滑空弾に乗り換えてるし

    16
      •    
      • 2025年 2月 12日

      性能とコスパで明確な優位性がないと、なかなか移行しないからね。
      M2機関銃とか次世代を開発しても、コスパで負けちゃうし。ロシアなんて相変わらずBM21だし・・・
      射程100キロ超えると、それもうミサイルじゃない?とか言いたくなっちゃうし。翼がないから積載火薬の量と価格のバランスが悪くなるんだよね。長距離ドローンともかぶりそうだし。

      3
      • 名無しの万能兵器
      • 2025年 2月 12日

      日本はちがくないか?
      日本は面制圧いらねしただけ、高速滑空弾では後釜にはならないでしょ?

      11
        • 無印
        • 2025年 2月 12日

        確かに後釜はちょっと違ったかも…
        ただ、面制圧するにしても、長距離攻撃するにしても、M270ではもうどっちの要求にも対応出来なくなってきてるのかな~、と思ったので

        4
        • ネコ歩き
        • 2025年 2月 13日

        陸自はクラスター弾禁止条約批准を受けM270MLRSの運用弾を単弾頭のM31に切り替えましたが、戦略転換した島嶼部防衛構想においては射程の点から存在意義が薄れていました。
        ですから、島嶼防衛用高速滑空弾や12式地対艦誘導弾能力向上型がM270MLRSの後釜というのは合ってます。

        2025年度予算に計上された「予備装備品の長期保管」対象にM270が入っていますので、運用法について別途に何らかの構想があると思われます。2014年島嶼奪還演習「鎮西26」においてMLRSを「しもきた」甲板上に展開し艦上射撃準備訓練を実施していますし。

        5
    • 半分の軍事費の国から
    • 2025年 2月 13日

    日本もPULSかMLRSを使用出来るミサイル兼用ランチャーを揚陸艦に搭載して火力支援艦にしてしまえば、ドローンで偵察して安価な火力で面制圧出来て、陸上でもそのまま揚陸して運用出来れば何かと便利な気がするのですが・・長距離ミサイルは単価が高いので汎用性を持たせて、装填は機械化で海上でも高速で行えれば、バランス取れると思うのですが。

    1
      • 名無し
      • 2025年 2月 13日

      ほぼロケット弾の155mmLRLAP弾を高速自動装填する装置が艦前方に収まってるから、ズムウォルトはあんな巨大なわけで…
      妥協して人力でやろうにも揺れる環境下で2tちかいコンテナをクレーンで吊るして取り付けなんて事故不可避

        • 半分の軍事費の国から
        • 2025年 2月 13日

        ランチャーが海上コンテナ状態になっていて、車両を使って動かして、揚陸艦に載せてエレベーター使って艦内からデッキに上げて使用して、使い終わったらコンテナ入れ替えて撃てるとか、海自でも海上コンテナ型ミサイルランチャーは検討していたはずですよ?台風とかは除外すれば方法は有るのではないかと思いますよ。それか、コンテナ船に海上コンテナ状態ランチャー搭載して、イージス艦のエンゲージオンリモート機能対応にして、イージス艦再装填問題に対応するとか、違う方法も見つかるのではないかと思いますよ。

        1
    • kitty
    • 2025年 2月 13日

    政治的自由とか以前に、最近米国製兵器が予定通りに送れずデリバリされたことの方が珍しいんでは。
    そりゃ商売相手として信用失いますわ。

    4
    • ななし
    • 2025年 2月 13日

    トランプがロシア寄りのウクライナ停戦を実現させようとしてる今、欧州が軍事的選択肢を一つでも自分たち有利にしようと動くのは当然ですよね。
    アメリカは政権が変わると政策も極端に変わる実例ができてしまったのを見せられたら考えも変わる。
    グローバリズムは世界が理想的な状況で先進国同士の戦争も貿易で大きなすれ違いがないのが前提だと分かってしまったから、欧州ファーストは加速するでしょうね。
    第一にアメリカ製で魅力ある新兵器自体減ってますし。

    • 58式素人
    • 2025年 2月 13日

    M270の近代化改修を行なっても良いのでは?。
    お金のある国はM270wo好きな物にに更新しても良いでしょうが。
    ロックマートがGMARSで提案したように機動力を増す車台とか、
    次世代のGMLRSを開発するとか。当然、射統設備も更新して。
    素人などは、M270を装輪式に改修できないか?などと妄想しますが。
    被空輸を考えなければ、今の大きさでも良いと思えるので。

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