NATO首脳会談の共同宣言にはウクライナ支援の枠組みが盛り込まれ、米国を除く31の加盟国は今後2年間の軍事援助として計1,400億ユーロ=約26兆円をウクライナに提供する見込みで、31の加盟国はEUの防衛・軍事援助を除いた残り800億ユーロを各自の国家予算から拠出する。
参考:Secretary General on the Ankara Summit: NATO delivers
参考:The Ankara Summit Declaration
参考:Ukrainian-Built Patriot Missiles Won’t Be Defending The Country’s Skies Anytime Soon
ウクライナは弾道ミサイルに対する防衛力が弱点、ロシアも自爆型無人機の攻撃から保護する防空リソース不足が弱点
EUはウクライナに対する無利子融資900億ユーロ(財政援助300億ユーロ+防衛・軍事援助600億ユーロ)を2025年12月に承認、ハンガリーのオルバン首相は2026年分(450億ユーロ)の援助実行を妨害し続けてきたものの、今年4月の選挙で勝利したマジャル首相はウクライナ向けの資金援助を承認したため、2026年分の財政援助150億ユーロと防衛・軍事援助300億ユーロが段階的にウクライナへ到着し始めており、この資金を活用して6月30日にグリペンE購入に関する正式な協定も締結した。

出典:Президент України
さらにNATO加盟国は7月7日の首脳会談に向けて「年700億ユーロのウクライナ支援」を検討し、これにイタリアは難色を示していたものの、南ドイツ新聞は3日「ドイツ通信社が入手した情報によると全NATO加盟国が年700億ユーロの枠組みで合意した」「米国を除く31の加盟国は2026年と2027年の軍事援助として計1,400億ユーロをウクライナに提供する」「この1,400億ユーロにはEUの防衛・軍事援助600億ユーロが含まれているため、31の加盟国は残り800億ユーロを各自の国家予算から拠出することになり、その大部分をドイツが負担する見込みだ」と報じた。
トルコで開催されたNATO首脳会談の共同宣言にも事前の報道通り「ウクライナは大西洋横断の安全保障に貢献しており、加盟国はウクライナの自由、主権、および領土保全の防衛に対する揺るぎない支援を結束している。現在、欧州の加盟国およびカナダが二国間ならびに多国間の枠組みを通じてウクライナに対する安全保障支援の大部分を負担している。同盟国はこの支援が公平かつ予測可能であり、長期的に持続可能なものでなければならないと強調する。加盟国はウクライナに対する2026年の軍事装備品、支援、訓練に700億ユーロの拠出を約束し、2027年も同等の水準を維持するというコミットメントを確約する」と盛り込まれた。

出典:NATO
ドイツは新たなウクライナ支援として大砲、ドローン、装甲車両などを供給するため115億ユーロを予算に計上済みで、2027年も同額の支援を行うと仮定すると31の加盟国が負担する800億ユーロの約29%をドイツが負担する格好だが、NATOはウクライナ支援として拠出する資金を国防費として計算すること認めている。
ドイツは非常に厳しい財政規律を緩和するため憲法改正(GDP比1.0%を超える国防支出を債務制限外として扱う例外規定)を行い、債務対GDP比率が60%前半台なので事実上「トリプルA格付けのドイツ国債で市場から資金を無制限に調達できる」と言われており、これは債務対GDP比率が高い他の欧州諸国と比べて「異次元の資金調達能力」という意味で、現在のドイツには米国の代わりにウクライナ支援の大部分を引き受けるだけの財政的余裕がある状態だ。

出典:NATO
ロシアは2026年に14.9兆ルーブル=約1,688億ユーロ(GDP比6.3%)を国防支出として拠出予定だが、ロシア軍はウクライナ侵攻に全戦力を割くわけにはいかず、ウクライナとの消耗戦に不向きなハイエンドの装備品開発や調達にも資金を割く必要があり、核抑止能力の維持や拡張にも大金を注ぎ込まなければならない。
米国を除く31の加盟国が800億ユーロを満額供給できるかも不明だが、それでも2027年までの2年間に計1,400億ユーロ=約26兆円が軍事援助としてウクライナに流れ込むことになり、ロシアはウクライナ侵攻に割ける資金力の戦いで圧倒され始めているように見える。

出典:Lockheed Martin
ウクライナにとって唯一の弱点は弾道ミサイルに対する防衛力、つまりパトリオットシステムで使用するPAC-3 MSEが事実上枯渇しているため、ロシア軍が発射する弾道ミサイルは迎撃されることなく全弾が目標に命中してしまう状況だ。
トランプ大統領はNATO首脳会談でゼレンスキー大統領に「パトリオット迎撃ミサイルを製造するライセンスをあなた方に供与する」と述べたが、ライセンスを与えるパトリオット迎撃ミサイルが「弾道ミサイルを直撃して運動エネルギーで破壊するPAC-3 MSE」なのか「破片効果弾頭で空中目標を破壊するPAC-2 GEM-T」なのか不明で、しかもPAC-3を製造するロッキード・マーティンやPAC-2を製造するレイセオンと事前調整を行わず発表されているため、現段階では実現性にかなりの疑問が生じている。

出典:President of Ukraine
The War Zoneも「トランプ大統領は発言の中で『ウクライナが国産のパトリオット迎撃ミサイルを実戦配備するまでそれほど時間はかからない』と示唆したが、ソ連時代のウクライナが兵器製造の最前線に立ってきたとはいえ、この見通しは良く見積もっても実現の可能性が低い」「こうした取り決めは議会の承認獲得といった官僚主義や規制上のハードルに直面する可能性がある上、ロッキード・マーティンでさえPAC-3 MSEの生産率は日2発(年約650発)に満たず、生産上のリードタイムはミサイル本体が24ヶ月、固体ロケットモーターが30ヶ月で、最大のボトルネックはシーカー供給だ」と指摘。
PAC-3 MSEのシーカーはアラバマ州ハンツビルにあるボーイングの生産施設で製造されており、2025年の納入数は約650基~700基に過ぎず、国防総省は2026年4月にPAC-3 MSE向けシーカーの生産量を3倍に引き上げる枠組みに署名したが、これは国内で生産するPAC-3 MSEを年2,000発に引き上げるためのものだ。

出典:航空自衛隊 PAC-3弾を装填したランチャー
The War Zoneは「日本もロッキード・マーティンとの間で年約30発のPAC-3 MSE製造契約を結んでおり、2024年にPAC-3 MSEの製造数を引き上げようとしたが、サプライチェーンの課題(増産分のシーカー供給が2027年以降になる)に直面して増産計画は難航している」「ウクライナが自国で製造したパトリオット迎撃ミサイルで空を守れるようになるまで相当時間がかかると思うが、この構想が実現するかどうかは最終的に技術移転とサプライチェーンのペースに懸かっている」と述べている。
ウクライナにとって唯一の救いはイスカンデルMの生産数(月50発程度で全弾をウクライナ攻撃で消耗できるわけではない)が限られていること、ウクライナの国産巡航ミサイル=FP-5による長距離攻撃が現実のものになり、国産弾道ミサイル=FP-7の実戦投入も間近に迫っているためS-400迎撃弾の攻撃転用も慎重にならざるを得ないことだが、PAC-3 MSEを入手できない場合の現実的な対策はイスカンデルMの生産を妨害する攻撃作戦を実施することで、ウクライナは既にイスカンデルMの構成部品を生産する産業拠点を自爆型無人機やFP-5で攻撃しているが効果は現時点では不明だ。

出典:Mil.ru/CC BY 4.0
EUとNATO加盟国からの軍事援助でロシアを苦しめる兵器の調達は2027年まで確保された格好だが、ウクライナにとって弾道ミサイルに対する防衛力は弱点であり、同時にロシアも広大な領土に分散する石油・ガス施設を自爆型無人機の攻撃から保護する防空リソース不足が弱点で、2026年後半から2027年にかけてどちらか一方が殴り勝つのか、双方が損害に耐えつつ殴り続けるのか、双方とも損害に耐えられず共倒れになるのかは結果を見るまで何も断言できない。
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※アイキャッチ画像の出典:NATO





















戦争まだまだ続きそうですね。
2026年に停戦の気配はないですし、2027年も戦争続行でしょう。
戦線あまりにも広く、細かい停戦ラインの交渉やっていくのに時間もかかるかなと
2030年になっても(局地戦まで考えれば)戦闘が続いてる可能性はありそうですね。
ウクライナ側にとっては資金の裏付けが出来たので米国や他欧州からPAC-3弾頭を購入するという手段も取れるようになったのと、宣言で米国・欧州の安全保障に貢献してると明確になったのはウクライナ側にプラスに働きましたね
ロシア側はウクライナのようにメイブンのような意思決定支援システムが活用されていないようなので、今後も防空はドローンに悩まされ続けそうではあります
『NATO加盟によってモスクワを射程に捉えたミサイルの配備を断念させる』のも開戦理由の1つだったはずですが……結局開戦したせいでモスクワも攻撃されているのは本当になんと言うか……
開戦直後にサンクトペテルブルクの目と鼻の先のフィンランドがNATOに加盟した時点で既に崩壊しちゃったというかなんというか
その内多少性能劣っても生産数重点で独自にシーカー作り始める気がしなくもない
ファイアポイント社の重点製品であるフラミンゴは積載量よりも経済性を重点しており、その細身のフォルムは猛禽めいた凶悪なアトモスフィアを放っている。 FP-5はサイバネアイでロシアの製油施設を重点。最重点攻撃目標発見。
フラミンゴも今後データが揃えば都度アップグレードされて、簡易的な回避起動とかやるようになるんだろなぁ