欧州関連

NATO事務総長、ウクライナで発生する最悪の事態に加盟国は備えなければならない

ストルテンベルグ事務総長は「ウクライナで起こるかもしれない最悪の事態にNATO加盟国は備える必要がある」と語り注目を集めている。

参考:NATO chief says allies must prepare for the worst in Ukraine

欧州情勢には中国がロシアを支援する側に回り、インド太平洋情勢ではロシアが中国を支援する側に回る構図が出来上がっているのかもしれない

プーチン大統領は先月30日に「何らかの攻撃システムがウクライナに登場すればモスクワまで7分~10分、これが極超音速兵器であれば5分でモスクワに到達する。このような行為は我々のレッドラインを踏み越える行為だ」と延べ、これについて西側メディアは「NATOにウクライナから手を引けとプーチンが恫喝した」と受け止めており、ストルテンベルグ事務総長も「NATO加盟国はウクライナで起こるかもしれない最悪の事態に備える必要がある」と語り注目を集めている。

出典:Mil.ru / CC BY 4.0 ロシア軍のT-72B

ウクライナとの国境近く展開しているロシア軍の数は9万人(10万人に達したという情報もある)を越えており、この問題を集中討議するためのNATO外相会談に出席したストルテンベルグ事務総長は記者団に対して「ロシアのウクライナ侵攻の確率が現時点で20%なのか80%なのかを議論しても、変化する可能性を秘めた将来のことは予測不可能でロシアには前例(クリミア)もある」と語り、NATO加盟国はウクライナで起こるかもしれない最悪の事態に備える必要があるとの見解を示した。

結局これは「ウクライナのNATO加盟を認めない」というロシアの主張と「ウクライナは見捨てない」というNATOの主張のぶつかり合いであり、もはや当事者のウクライナの意向は関係がない。

前回の記事で紹介したようにロシア側もウクライナ侵攻で払拭することができる安全保障上の問題と支払う対価(欧米による経済制裁など)が釣り合わないことを自覚しているが、元ロシア外相のイーゴリ・イワノフ氏は「合理的な判断(利益と損失の勘定)が緊張状態のエスカレーションを止めることが出来なかった事例は歴史上幾つもある」と指摘しているように政治的な駆け引きや軍事的な行動で示すメッセージの伝え方を間違えると年末から正月にかけて紅白以外の番組を視聴しなければならないかもしれない。

出典:Photo by Staff Sgt. Keith Anderson

まぁプーチン大統領はバイデン大統領に「中国に集中したいならウクライナを切り捨てろ」と迫っているようにも受け取れるが、米国としてもインド太平洋地域に集中したい時期に欧州で事を構える余裕は何処にもなく、日本の都合や視点だけで言えば「ウクライナ問題が悪化すればするほど中国が喜ぶだけ」で本当に勘弁して欲しいところだ。

参考:Belarusian, Chinese defense ministries sign military technical cooperation memorandum

因みに中国は緊迫するウクライナ情勢の中で、親ロシアを掲げるベラルーシとの軍事協力強化を確立する文書に締結するなど徐々に欧州情勢にも動きを見せてきたため、やはり欧州情勢には中国がロシアを支援する側に回り、インド太平洋情勢ではロシアが中国を支援する側に回る構図が水面下で出来上がっているのだろう。

関連記事:元ロシア外相が語るウクライナ侵攻目的、ドニエプル川を国境に東ウクライナ国家の創設

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    NATOやEUをウクライナに近づけさせないように西側首脳に確約させても(今ウクライナにNATOの軍はいないので)ロシアが得るものは多くないし、逆に侵攻したら地理的な区切りになるドニエプル川までウクライナを追いやることで7年も続いてる紛争を一挙に終結させられる。西側を交渉につかせるためのブラフだと割り切って見るには、露は成功で得られるものが少なく失敗でも得るものが多い。NATOの出方次第、ひいてはバイデン政権の対露政策の本気度と対中政策との優先順位次第で露の対応もいくらでも変わってしまいそうで本当に怖い。だからこそ米国が率先して毅然とした対応を宣誓すべきだと思うが、それを言えるのは大統領だけなんだろう。

    20
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    中国が”大規模演習”の実施を発表して兵力集めたらどうなるんだろう
    ただ普通に演習するだけでも警戒して戦力割かないわけにはいかんだろうし

    8
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    >>「何らかの攻撃システムがウクライナに登場すればモスクワまで7分~10分、これが極超音速兵器であれば5分でモスクワに到達する。このような行為は我々のレッドラインを踏み越える行為だ」
    じゃあヴォルガ川の向こうに遷都しろよアホロシア人
    WW2であんなハメ陥ってんのになんでクレムリン後ろ下げねえんだよ
    衛星国下僕が永続すると思ったか?

    12
      • 匿名
      • 2021年 12月 02日

      だとすると我々は松代に首都を移転させねばなりませんなぁ

      7
        • 匿名
        • 2021年 12月 03日

        機能を分散させるのは良いアイデアかもしれません。某アルペジオの北海道、東京、長崎みたいに、どこかが落ちても、どこかが機能してくれる。

    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    > プーチン大統領は先月30日に「何らかの攻撃システムがウクライナに登場すればモスクワまで7分~10分、これが極超音速兵器であれば5分でモスクワに到達する。このような行為は我々のレッドラインを踏み越える行為だ」と延べ、
    ロシア版のキューバかな?

    10
      • 匿名
      • 2021年 12月 02日

      核兵器をウクライナに返してあげよう。

      9
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    ウクライナの抱える、軍事要素以外の問題
    汚職や民族主義者による扇動、非効率な国営企業、年金
    といった問題は解決するめどがあるんだろうか?

    ウクライナの西半分が政治・経済的にしっかりしていないと、軍事支援だけでは長く持たないかと

    11
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    >やはり欧州情勢には中国がロシアを支援する側に回り、インド太平洋情勢ではロシアが中国を支援する側に回る構図が水面下で出来上がっているのだろう。

    北東アジアの対中正面が先鋭化する中で、欧州の正面が融和的で曖昧なのはいい面悪い面あるでしょうが、後者が先鋭化すれば、対中包囲でドイツのような日和見国の抜け駆けを抑える効果が出てくると思います。
    ブルーvsレッドが、欧州とアジアが連動して色分けがはっきりするのは、日本にとってはいいことだと思いますけどね。

    1
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    ロシアは、侵攻によって、さらなる経済制裁を受ける覚悟があるのだろうか。
    ロシア外務省が延々弁解しても、割を食うのはロシア国民にほかならない。
    それはプーチンの評価を下げ、デモを引き起こす要因にしかならないだろう。
    まさか、プーチンが習近平のようにレガシーを欲しがっているなんてことは
    無いだろうと思うが。

    3
      • 匿名
      • 2021年 12月 02日

      ドイツ「天然ガス買います」

      10
        • 匿名
        • 2021年 12月 02日

        人権と環境のガチ勢緑の党に期待

        9
      • 匿名
      • 2021年 12月 03日

      プーチンが国益まで考えた外交的損得勘定よりは、自分自身の損得勘定を優先したのがクリミア侵略戦争だし
      内政的には問題だらけだから、外部に敵を作り続けるのは分かるんだけど
      実行できる軍事力があるのが大問題なのがプーチンロシア

      1
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    具体的に何らかの攻撃システムってどんな兵器をさすのか。航続や航続距離さえあれば、即応性/速度/威力関係なく対空ミサイルですら対象にするとかだと、相当無茶苦茶だが線引しっかりしないのは意図的なのか。

    2
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    ロシアとしてはできるだけ侵攻したくないだろうから後はゼレンスキー次第
    ウクライナがミンスク合意を守らずTB2で爆撃を続けるようならロシアも攻撃するしかなくなる
    今行われているバイデン政権のウクライナ押さえつけにかかっている

    3
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    オミクロン騒動で開戦中止か延期になったら、オミクロンGJ!!なんだけど

    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    やはり、日本は中露の二面作戦になるんだね。正直きついなぁ。
    早く新型の哨戒艦ともがみ型・P-1の増産・配備を願う。
    あと、電磁・サイバー・宇宙軍の増強も。

    15
    • 匿名
    • 2021年 12月 02日

    トランプ政権初期の頃はロシアと協力して中国を封じ込める構想があったんだけど、あれ潰されなければ戦略状況としてもっとマシだったのにね。欧米がウクライナに民主化工作した流れでここまで来てるとして、裏目にしかなってない。ロシアの脅威がはっきりしたおかげでNATOが強化されたとかも誤差程度だし。

    あと北朝鮮を中国包囲網の一角にする考えもあったんだろうけど、これも全くうまくいかなかった。おそらく台湾有事の際には北朝鮮は参戦はしないまでも変なミサイル実験の動きをして、日米にミサイル防衛用イージス艦などの資産を誘引浪費させる役割でもして中国から見返り貰うんだろうな。

    WW2でソ連と組んだとか、冷戦で中共と組んだとか、そういう勝つための冷徹な合理性が今のアメリカには無い。いや、あるとしたら一度同盟国が大被害を受けてそこからの立て直しと意識変革させてで数十年後に最終的に勝つシナリオにでもしてるのかね。まぁどっちにしても日本にとっては本当にろくでもない戦争になりそうだ。日韓台に核武装させて後はお前らで何とかしろ、の方がよほど平和的でマシな未来なんだけど、アメリカはそうする気はないんだよね・・・。

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