欧州関連

3つの運用国から見限られたNH90、それでも商業的機会が残されている

オーストラリア、ノルウェー、スウェーデンは運用性やスペアパーツの入手性を問題視してNH90廃止を発表、この一連のトラブルでNH90の評価は大きく傷ついたものの、NHインダストリーズは「まだNH90には多くの可能性が残っており、最大100機分の商業的機会が見込まれる」と主張した。

参考:After troubles, a future upgrade, better availability should put NH90 in clearer skies: NHI CEO

もしかすると2070年以降もNH90は空を飛んでいるかもしれない

フランス、ドイツ、オランダ、イタリアが共同開発したNH90は海外市場でUH-60、AW149、H225M等と競合するものの、スペイン、ベルギー、フィンランド、ギリシャ、ノルウェー、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド、オマーン、カタールへの輸出に成功して商業的成功を収めたが、オーストラリア、ノルウェー、スウェーデンは運用性やスペアパーツの入手性を問題視してNH90廃止を発表した。

出典:Public Domain

オーストラリアは陸軍や海軍が運用していたS-70A、UH-1H、シーキングMk.50Bを更新するため2005年にNH90を発注、最終的に計47機を導入したものの不具合解消に時間を要し、スペアパーツの入手性に起因した稼働率の低さも問題になり、オーストラリアは2021年12月「NH90を早期退役させUH-60Mを導入する。まだNH90は耐用年数に達していないものの、UH-60Mに切り替えることで豪州の納税者は2037年まで18億ドルを節約することができる」と発表。

ノルウェーも発注したNH90の引き渡しが10年以上も遅れ、稼働率も期待していた半分以下(14機で年間3,900飛行時間を予定していたが実際の年間飛行時間の700時間/8機)で、2022年6月「どれだけエンジニアが時間を費やして整備をしても、どれだけスペアパーツを購入してもNH90は軍の要求要件を満たせないという結論に達した。我々は今後受け取ったNH90やスペアパーツの返却作業を開始し、これまでに支払った約50億クローネとその利息を返還するようNHインダストリーズ(NHI)に要求する」と発表。

出典:Forsvaret

スウェーデンも稼働率の低さを問題視して2022年11月「NH90を廃止する(UH-60M取得を予定)」と発表し、NHIの最高経営責任者を務めるアロシオ氏も8日「ノルウェーとの調停が不調に終わり法的手続きが開始された」と明かしたが、評判を傷つけたNH90の問題について「サプライヤーの供給スピードについて理解不足だった」「顧客から期待されていたものに対して我々の能力サイズは小さすぎた」「稼働率改善のため整備計画の簡素化やスペアパーツの供給スピードを高める」と述べた。

さらにNH90の将来についても「このプラットフォームには多くの可能性が残っている」「機体、エンジン、可動部品には余力が残っているためペイロードの強化について顧客と協議している」「運用国からの追加調達や中東諸国からの関心を加味すると50機~100機相当の商業的機会が見込まれる」と語り、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダもNH90向けソフトウェアのアップグレード開発(Link22、LEOSS-T、ソナー等の追加システム統合を含む)で合意している。

出典:NATO オランダ海軍のNH90

一連のトラブルでNH90の評価は大きく傷ついたものの、NHIは運用国とBlock2開発について協議中で、運用国もNH90への投資を継続する可能性が高く、アロシオ氏も「このプラットフォームは少なともあと50年から60年は存続しつづける」と主張しており、もしかすると2070年以降もNH90は空を飛んでいるかもしれない。

関連記事:オーストラリア、NH90の運用再開が絶望的なので退役予定を前倒し
関連記事:ノルウェー国防相、要件を満たさないNH90を返品するので支払った金を返せ
関連記事:豪軍が導入して日が浅いNH90退役を決断、後継機としてUH-60M導入を発表

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain

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コメント

    • パーツの入手性
    • 2024年 10月 10日

    兵器ではよく問題になるが、契約の段階で余分に発注すればいいのに。

    1
      • hiroさん
      • 2024年 10月 10日

      どの国でも予算があるし、補用部品も必要量を計算した上で発注していると思いますよ。
      無茶な量でなければ追加発注した際に供給出来ない生産者側に問題ありと判断されても仕方が無い対応なのでしょうね。

      14
      • nachteule
      • 2024年 10月 11日

       そもそもパーツ寿命が想定外に低いなら余分もクソもない。メーカーが突っぱねて無い所を見れば顧客問題より自社の方の問題として考えてる感じはするが?

      6
    • すけさん
    • 2024年 10月 10日

    清谷さんは海自がSH-60Jの後継機にNH-90ではなく60Kを選定したことを批判してたけど、海自は正しい選択をしたことが明らかになりましたね。
    EH-101も稼働率で苦情が出ていたし、日本では今後も第一線機は米国製が主流でしょう。

    50
      • kitty
      • 2024年 10月 10日

      軽く検索しただけですけど

      「海自ヘリ選定巡る下克上と内局」の記事ですか?

      この記事だといつもの調達問題へのケチ付けと、どちらかと言えばMCH-101推しだったような。

      11
    • 2024年 10月 10日

    見た目は好きなんだけどな〜
    どこもかしこもブラックホークはつまらんから、割と本気で頑張っては欲しい

    22
    • アンゴラ
    • 2024年 10月 10日

    安ければ他の使い道もあるかも知れないけど値段がねぇ

    6
    • 名無し
    • 2024年 10月 10日

    欧州の車やバイクは整備に手がかかるから愛着が生まれるって友人が言ってたから、、、

    12
      • AH-X
      • 2024年 10月 11日

      兵器でそんなこと言ってたら負けるだろ。

      8
    • 元ねじ屋
    • 2024年 10月 10日

    でNHインダストリーズはいつ解散するの?

    4
      • 戦略眼
      • 2024年 10月 10日

      主要国が運用しているから、未だないでしょう。
      民間には、売れないだろうけど。

      6
        • 元ねじ屋
        • 2024年 10月 10日

        そうか寿命前に手放す国が増えれば部品供給も改善するか…

        4
    • 無印
    • 2024年 10月 10日

    何でこんなに評価が真っ二つになっちゃったんだろう
    2070年代も飛んでるかもだけど、その頃の他の対潜哨戒機は完全無人化してそうだ

    2
    • たけやぶやけた
    • 2024年 10月 11日

    水上艦艇に積むならサイズが重要ですが、NH90はサイズが中途半端なのがねぇ
    無理すれば2機詰めるMH-60は魅力的ですし、1機であきらめるなら掃海装備積めるEH-101にするでしょう

    6
    • れんちゃ
    • 2024年 10月 14日

    根本的な運用上の問題が大きすぎるので…そこまで存続するとしてもその頃にはもう中身が別物になってそうな気もしないでもないw

    1
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