欧州関連

ノルウェーがJSMを初取得、問題はF-35Aが運用能力を備えているかどうか

ノルウェー政府は28日「計画されたF-35Aの全てを引き渡された初めて国となった」「さらにKongsberg Defence&Aerospaceからも初めてJSMが納品された」と発表したが、問題はF-35AにJSMの運用能力が備わっているかどうかだ。

参考:Norway unveils its first new super missile, JSM, and celebrates delivery of all 52 F-35 fighter jets
参考:USAF F-35s Are Officially Getting Joint Strike Cruise Missiles That Fit In Their Bays

参考:F-35 Set to Receive Critical Upgrades in 2025 Production Lots

問題はF-35AにJSMの運用能力が備わっているかどうかで、F-35AがJSMの初期運用能力を獲得したという公式のアナウンスはない

ノルウェーはF-35プログラム出資国の立場を活かし、Kongsberg Defence&Aerospace製のNSMから派生したJoint Strike Missile=JSMのF-35統合を計画、米国製のJASSMやLRASMはF-35のウェポンベイに収まるサイズではないためステルス性を犠牲にして機外に搭載する必要があるものの、JSMはF-35A/Cのウェポンベイに収まるためステルス性を維持したまま海上と陸上の目標を遠距離から攻撃することができ、ノルウェー、オーストラリア、日本、米国がF-35A向けの巡航ミサイルとして調達を予定している。

出典:Forsvaret

ノルウェー政府は28日「計画されたF-35A(52機)の全てを引き渡された初めて国となった」「さらにKongsberg Defence&Aerospaceからも初めてJSMが納品された」「オーランド空軍基地でJSMの備蓄作業が開始される」「JSMはF-35のウェポンベイに搭載可能な同クラスのミサイルとして唯一の存在で、ノルウェーの他にもオーストラリア、日本、米国も調達を予定している」と発表したが、問題はF-35AにJSMの運用能力が備わっているかどうかだ。

F-35への統合作業は2020年に開始され、F-35AのウェポンベイからJSMを安全に切り離すため模擬投下テストを地上で行い必要なデータを収集、2021年にF-35Aベースの特殊試験機=AF-01を使用して飛行中の機体からJSMの投下(切り離し)に成功したのだが、JSMの運用能力は「開発中のBlock4に関連している」と言われており、今のところF-35AがJSMの初期運用能力=IOCを獲得したという公式のアナウンスはなく、具体的なIOC獲得時期も明かされていない。

出典:Royal Air Force. UK Crown Copyright

英国もミーティアやブリムストーンのF-35統合を進めているものの、IOC獲得時期は当初「2020年代半ば」と報告していたが、2022年2月には「早くても2027年頃になる」と、2024年1月には「2020年代末」と遅延を繰り返しており、これもBlock4の開発遅延に関連していると言われているが、公式の詳しい説明がないので実際のところは謎に包まれている。

防衛省は令和6年度概算要求の中で「F-35A能力向上改修=JSM搭載×29機分」として234億円を計上しているため、JSMの運用能力を獲得するには何らかの改修(1機あたり8億円)が必要なのは確実で、Lot15=TR3構成機(海軍はLot15からウェポンベイの兵器搭載を4発から6発に増加させるSidekick搭載機を数機受領したが運用は始まっていない)と関係があるのかないのかも良くわからない。

出典:U.S. Navy photo by Petty Officer 2nd Class Nicholas

因みにNaval Newsは3月「Lot15のF-35BとF-35CにはLRASMの統合、GBU-53/Bの早期運用能力=EOC、Sidekickの搭載が含まれる」「米海軍はAARGM-ERのような長距離攻撃兵器との互換性もLot15の機体に搭載される予定と述べたが、Lockheed Martinや米海軍が統合テストを完了させたのか、そもそもテストを開始しているのかも不明だ」「Lockheed Martin、米海軍、F-35JPOの何れもAARGM-ER統合に関する発表を行っていない」「GBU-53/BはEOCに最も近く、2025会計年度の第2四半期までにEOCの宣言が行われる見込みだ」と言及している。

具体的な言及はないもののLot15のTR3構成機にJSMの運用能力が含まれていても不思議ではないが、仮にそうだったとしても既存のF-35AでJSMを運用するにはTR3の構成要素=コアプロセッサ、メモリユニット、コックピットディスプレイなどの交換が必要で、TR3のソフトウェアは不具合の問題で訓練用バージョンしかリリースされておらず、Lockheed Martinは「戦闘に対応した完全バージョンのリリースも2025年から2026年にずれ込む」と明かしており、多分「JSMの運用能力を獲得した」とノルウェーがはっきり言及しないのはそういうことなのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Forsvaret

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コメント

  • コメント (12)

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    • 無印
    • 2025年 4月 29日

    >「オーランド空軍基地でJSMの備蓄作業が開始される」
    あっ…察し
    エースコンバットでF-35使ってガンガン艦艇沈めてたけど、実機はまだ対艦ミサイルが「使える」状態じゃなかったのか…

    16
    • 名無し
    • 2025年 4月 29日

    こんなグダグダになるくらいなら戦闘ソフトウェアなんて第4世代機くらいシンプルなもんでよかったでしょう。

    12
      • DEEPBLUE
      • 2025年 4月 29日

      今後もスパゲティ化が進みそうですけど

      5
    • kitty
    • 2025年 4月 29日

    AARGM-ERなんかも物理的に搭載できててもBlock4来ないと撃てないわけで。
    JSMも見込み発注なんでしょうね。

    8
    • hoge
    • 2025年 4月 30日

    LMは次のTR3でプロセッサの性能が25倍(うろ覚え)になるとか言ってるけど
    むしろ現行世代はどれだけカビの生えた石で高い金をふんだくってるんだよと……
    PCやスマホが2.5年で製造プロセスが切り替わって概ねその間にアーキテクチャも更新されることを思えば
    国防総省がイライラして「民生品並みにやれないのか?!」と言い出すのもわかる

    しかもLMってIntel 18A(RAMP-C)へのコミットもボーイングやノースロップより2年くらい遅かったんですよね
    ぶっちゃげアメリカで一番中国のことを舐めてる企業だと思う

    13
      • hiro
      • 2025年 4月 30日

      TR3のプロセッサも民間基準でいえば骨董品レベル。。

      2
        • バーナーキング
        • 2025年 5月 01日

        民間基準で最新のプロセッサはまず間違いなくMIL-STD-810G通らないので…

        3
    • 山田さん
    • 2025年 4月 30日

    ソフトウェアで難しいのは、母機とミサイル間の情報授受なんだろうけど
    ここらへんLink-16なり、JREAP-Cなり、NATO内で共通化された通信フォーマット存在しているんだし
    そのミサイル版を作れないのかね?

    西側はDCから機体までの通信は規格化されてるけど、機体と飛翔体・衛星間の通信フォーマットが
    メーカー依存になってるように見える。

    2
    • ゴモラ
    • 2025年 4月 30日

    実際の所、数ある第5世代機の中でF35.F22.Su35.J20.35優秀な機体てどれくらいあるんだろ?

      • ドゥ素人
      • 2025年 4月 30日

      優秀以前にまともに運用できる機体がどれなんでしょうね?
      ドタバタしてるのは西側だけで、中国やロシアは搭載ミサイル、システム含めて順調なんでしょうか…

      1
      • バーナーキング
      • 2025年 4月 30日

      Su-35は自称ですら4.9世代機とか(一般的には4.5世代)では…

      1
      • DEEPBLUE
      • 2025年 5月 01日

      中国機は低く評価されてるけど、大量生産されるという事はその分不具合を潰せるという点なのでそこに置いてはF-35を上回ってると思う。

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