欧州関連

ノルウェーの新型フリゲート艦調達、現地企業はコンステレーション級押し

ノルウェーはフリチョフ・ナンセン級フリゲートの後継艦調達を発表、現地企業は「コンステレーション級を国内建造すればリードタイムが短縮される」とアピールしているものの、米ディフェンスメディアは「この認識はコンステレーション級の現実と食い違っている」と指摘した。

参考:Norway’s Vard hosts senior officials, argues for Constellation-class designed by ‘our closest ally’

ノルウェーは新型フリゲート艦の国内建造を条件に挙げていないため現地企業の優位性は殆どないのかもしれない

ノルウェーのストーレ首相は4月「今後12年間の国防費増額(6,000億クローネ)を議会に提案した」「この計画が承認されれば国防予算は現在の約2倍となり、2024年~2036年までの国防支出額は1兆6,400億クローネ(約23兆円)に達するだろう」と表明、この長期計画において最大の投資先はノルウェー海軍の強化で、ウーラ級潜水艦の後継艦(212CD)を5隻、フリチョフ・ナンセン級フリゲートの後継艦(対潜ヘリ搭載のフリゲート艦)を5隻取得する予定だ。

出典:The Norwegian Defence Pledge

さらに注目すべきは新型フリゲート艦の納入時期が2029年に設定されている点で、この短納期を実現するためノルウェー海軍は「既存のフリゲート艦を調達する」「独自の要求要件に合わせたカスタマイズを行わない」と決定、Naval Newsは「英国の26型、オランダのASWF、ドイツのF126、フランスのFDI、米伊のコンステレーション級、スペインのF-110が候補になる」と予想し、各陣営もノルウェーの新型フリゲート艦調達に関心を示しているが、まだ正式な調達手続きは開始されていない。

親会社にフィンカンティエリをもつノルウェーの造船企業=VARDもコンステレーション級フリゲートの売り込みを始めており、グラム国防相やヴェードゥム財務相もVARD所有のラングステン造船所を視察し、新型フリゲート艦の調達を含む長期計画についてVARD側と協議したと報じられている。

出典:fincantieri

VARDも声明の中で「ノルウェーの最も強力で緊密な同盟国=米国向けにフィンカンティエリはコンステレーション級フリゲートを建造している」「もしノルウェーでフリゲート艦を建造するならVARDが当然の選択肢になる」「既にノルウェーはイージス・システムやシーホークを運用するファミリーの一員だ」「コンステレーション級は米国とノルウェーの双方にとって運用上の利点が多い」「これをノルウェーで建造することによりリードタイムが短縮され地元経済にも波及効果がもたらされる」と指摘したが、Breaking Defenseは「VARDの認識はコンステレーション級の現実と食い違っている」と指摘した。

米海軍はFREMMベースのコンステレーション級を採用したものの、途中で大幅な設計変更を加えたためFREMMとの共通性は15%まで低下し、米政府説明責任局はレポートの中で「設計上の変更は計画外の重量増(10%以上)を招き、耐用年数を満たすのに必要な近代化工事を受け入れる重量的余裕が無くなった可能性がある」「近代化工事の受け入れに必要な重量的余裕を確保するには推進能力を削減して最高速度の低下を受け入れなければならない」と述べ、1番艦の引き渡しも36ヶ月遅れになると予想されている。

出典:Ian Dick/CC BY 2.0

Breaking Defenseは他にも「ノルウェーは同盟国との相互運用性を重視し『新型フリゲート艦をノルウェーの技術に基づいたもので建造したくない』と公言しているため、現地企業が入札で勝利するのは困難な戦いになるだろう」「VARDも26型を提案するBAE、FDIを提案するNaval Group、ASWFを提案するDamenとの競争に直面している」と指摘しており、そもそもノルウェーは新型フリゲート艦の国内建造を条件に挙げていないため現地企業の優位性は殆どないのかもしれない。

因みにTelegraphは「英国の安全保障にとってノルウェーへの26型提供は有用で、グラスゴー造船所の仕事を確保するにも役立ち、最も強力な競合と見られていたコンステレーション級の建造が最大3年も遅れると判明したため、ノルウェーの入札において26型はポールポジションに立つ可能性がある」「但し、2029年の納入に間に合わせるには建造中の3番艦ベルファストか4番艦バーミンガムをノルウェーに譲る必要がある」と指摘し、BAEがノルウェーの入札に参加できるかどうかは「英海軍の決断次第」と述べている。

関連記事:ノルウェー海軍のフリゲート艦調達、ネックは2029年までの1番艦引き渡し
関連記事:ノルウェーが長期防衛計画に基づく国防費増額を表明、12年間で約23兆円
関連記事:コンステレーション級が計画外の重量増に直面、耐用年数が短くなる可能性
関連記事:何もかも遅れる米海軍の計画、コンステレーション級は最大3年遅れる可能性

 

※アイキャッチ画像の出典:Fincantieri

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コメント

    • 田舎者
    • 2024年 9月 28日

    桁違いの膨大な予算、開発や製造に関するゴタゴタや遅延の記事を読むたびに、有人航空機や護衛艦とその延長にある開発中の兵器が、急速に発展多様化している安価な無人兵器群に対応出来るのか疑問に感じます。キャリアーとしてもチープ無人機の比率が高まるとしか思えません。

    今回のフリゲート艦の話題でも、無人兵器群の飽和攻撃に耐え、費用に見合う活躍出来るのか気になってしまいます。

    そう考えている私の推論が稚拙であって、実際には導入や開発が継続していて予算が投入されているのですから、素人には分からない費用対効果の”見込み“試算があるのかもしれませんが。

    10
      • hiroさん
      • 2024年 9月 28日

      無人兵器に全振りするのも危険な段階かもね。
      相手(仮想敵国)が持っているモノはこちらも持って対抗できるパワーバランスを保つというのも必要なのが現状でしょう。
      ウクライナ海軍の様に主力戦闘艦がゼロで無人兵器(+ミサイル)を活用せざるを得ない状況ならともかくね。

      17
        • 田舎者
        • 2024年 9月 28日

        自国産業に対する保護姿勢や多国間関係に配慮して、価値が凋落している兵器に有限な予算を過大に振り分けている可能性を危惧しています。

        有効な装備をフル活用した少数の勢力に、正規軍が蹂躙される未来が出てくるような気がしています。

        黒海艦隊は先駆けた事例となっているかも。

        5
          • kasugi
          • 2024年 9月 29日

          黒海のように限られた海域、それも敵の港湾が目と鼻の先にある状況ですら活動を抑止しきれていないというのがドローン海軍の限界です

          6
    • NHG
    • 2024年 9月 28日

    >ノルウェーは同盟国との相互運用性を重視し『新型フリゲート艦をノルウェーの技術に基づいたもので建造したくない』と公言している

    NATO加盟のときに話があったけど現地の環境にあった小物(生産量的に)がなくなるっていうのがいいのか悪いのか

    2
    • 名無し
    • 2024年 9月 28日

    どれも微妙な候補
    こっから選ぶとか地獄だなあ、どれ選んでもグダグダになる未来しかなさそう
    国内でちゃんとしたのを作れる海自は恵まれてるな

    27
      • マサキ
      • 2024年 9月 28日

      米海軍のグダグダをみていると、スケジュール通りに作れて、問題なく動くだけで凄いと錯覚してしまう。
      いや、実際に凄いのか。

      30
      • トーリスガーリン
      • 2024年 9月 28日

      国内造船業が中韓相手に踏ん張って戦い続けてなんとか維持されてきた大事な基盤
      何としても維持して行く必要があるので、防衛分野でも海外市場を切り開いて行かないとですね

      そんな中で新総理が石破さん…総理なので個々のあれこれに口を挟む余裕は無いだろうけど過去を思うと不安になる(;´Д`)

      28
        •  さ
        • 2024年 9月 28日

        アジア版NATOなる幻想構想をお持ちだからなぁ
        中国を入れるか入れないか、台湾を入れるのか入れないのか、
        韓国を、北朝鮮を(ry

        何をどうやっても恐ろしい大混乱が起きるという

        6
        • F-2
        • 2024年 9月 28日

        マイクロマネジメントしてきそう。
        今度は何を削減するのだろう?
        P-1とC-2かな。

        20
          • トーリスガーリン
          • 2024年 9月 28日

          今槍玉に挙げられるとしたら共通戦術装輪/装軌ですかねぇ
          16式以外の8輪クラスの装甲車をAMVバリエーションで統一しろという主張には一考の価値があるのが厄介なところです

          いっそのことKC-46についてなら…話が拗れてそうだからやっぱ放っといて欲しいですね(;´∀`)

          7
          • 無印
          • 2024年 9月 28日

          C-2って
          「ラピットドラゴンの発射機やります」
          「陸自車両の輸送やります、開発採用テストも手伝います」
          「邦人避難のため海外行きます」
          「普段の輸送任務も当然やります」

          って色々やらされてるのに減らされるのは勘弁してして欲しい…

          9
            • バーナーキング
            • 2024年 9月 29日

            「電波情報収集機」
            「スタンドオフ電子戦機」
            「次期戦闘機用のFTB」
            なんかもありますねぇ…

            5
    • hiroさん
    • 2024年 9月 28日

    もがみ型は排水量が少ないしミサイルセル数も足りないので候補に入っていないのだろうか?
    短納期のニーズには合っていると思うけど、海自の調達もあるから候補になっても対応できないか。
    現地生産が不要なんて日本にお誂え向きな気がするが。

    7
      • 匿名希望係
      • 2024年 9月 28日

      他国がF-35を入れたときのフランスのうざさを考えるとものすげーぐちぐち言ってくる予感
      NATO諸国内が望ましいとは思ってそう

      2
      • イーロンマスク
      • 2024年 9月 28日

      もがみ型は速力に振ってるのでデカくしようと思えばできそうではある
      けど、自分なら同じく北海で運用されるイギリスの船買うだろなぁ

      3
        • ras
        • 2024年 9月 28日

        最近の動向は特にないといいますかうまくやっているのでしょうが、イギリスとは北海の油田や漁業権で係争の可能性がある相手なので。必要以上に互いに技術開示や依存関係になりたくないというのはあるかと思います。

      • バーナーキング
      • 2024年 9月 28日

      自国で建造する気がないなら何かの時に建造元で何とかしてもらいたいだろうから地理的に日韓は絶対無理とは言わないけどかなり厳しいんじゃないかなぁ。

      6
    • nimo
    • 2024年 9月 28日

    コンステレーション級以外がどんなものなのかわからん

    2
    • 58式素人
    • 2024年 9月 28日

    フリチョフナンセン級はイージスシステムを載せていますね。
    その後継艦となれば、やはりイージスシステムを載せるのでは。
    俎上に上がった、英国の26型、オランダのASWF、ドイツのF126、
    フランスのFDI、米伊のコンステレーション級、スペインのF-110
    の内、イージスシステムを載せているのは、コンステレーション級だけかな?。
    他に、Mk41を載せたものはいくつかあルようですが。
    であれば、順当に行けば、コンステレーション級と予想します。

    2
      • 半分の軍事費の国から
      • 2024年 9月 28日

      英国の26型はカナダでリバーRiver級フリゲート(満載8000t)として最近、建造が開始されたのですがSPY-7搭載予定なので、カナダで建造して納める方法も可能かもしれませんよ。又、スペインのF-110(満載6170t)はSPY-7搭載予定ですよ。そして、イージスシステム搭載艦[警備艦](基準12000t)をフリゲートとして売り込むという裏ワザが‥出るかな?SPY-7ファミリーに活躍してもらいたいですね‥システムコストダウンしか考えていない脳。ですが、ドイツのF126(満載10550t)もフリゲートなので、問題は無いと思われます。

      1
    • いそきち丸
    • 2024年 9月 28日

    これがロシアへの抑止に役立つかもしれない。
    バレンツ海ではロシアとノルウェーとの排他的経済水域の境界付近で、ノルウェーの漁船がロシアの駆逐艦に威嚇されて排除されることがよくある。南シナ海の中国とフィリピンみたいなもん。ロシア北方艦隊の本拠地も近くにある

    ノルウェーにとってロシアの脅威が喫緊の問題だから、購入価格とか現地企業の優位性とかは二の次なのかもしれない。

    3
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