欧州関連

ノルウェー軍の調達部門、レオパルト2A7とK2に大きな性能差はなかった

ノルウェーメディアは17日「レオパルト2A7とK2のテストを行った軍の調達部門はK2調達を2度も勧告したが、政府は勧告に逆らってレオパルト2A7調達を選択した」と報じており、この買収プロセスの顛末は中々興味深いものがある。

参考:Forsvarsmateriell anbefalte koreanske stridsvogner – likevel valgte regjeringen å kjøpe tyske

次の大規模調達では戦略的パートナーからの購入が買収プロセスの評価より優先されるのかどうかを事前に明かしておいて欲しい

ノルウェー陸軍はレオパルト2A4を更新するため次期主力戦車の選定を2021年に開始、2022年の厳寒期にレオパルト2A7NOとK2NOの実地テストして年内に選定結果を発表する予定だったが、ウクライナ侵攻の影響を受けて陸軍参謀総長が戦車調達への投資に反対=戦車より長距離攻撃能力(恐らく多連装ロケットシステム)を優先すべきだという意見が浮上、この様な紆余曲折を経てノルウェーは2月「陸軍の次期主力戦車にレオパルト2A7NOを選定した」と発表。

多くの海外メディアは「K2NOが比較テストで良好な成績を収め、経済協力案の内容(現地製造)も優れているのでノルウェーは韓国の手を挙げるだろう」と予想したためレオパルト2A7の選択に驚いており、ストーレ首相は「品質や能力だけでドイツ製戦車を選択したのではなく、今後欧州で重要な役割を果たすであろう同盟国ドイツと協力し、北欧の隣国であるオランダやポーランドと同じタイプの戦車を手に入れるという安全保障政策面での意味合いも含まれている」と説明。

韓国製のK2は現実的な選択肢だったのかという質問について「ロシアのウクライナ侵攻が北欧とドイツの協力関係を強化するという決定に影響を与えた。韓国製戦車は高品質だと考えていたが最終的にドイツ製戦車を選択することになった」と回答、さらに「ウクライナ侵攻がなければ現在と同じ决定を下していたか」という質問については「そのようなことを考えている暇はない。ウクライナで戦争が起こり安全保障上の課題に真剣に取り組まなければならないのが現実だ」と述べていた。

出典:Norsk hær

この件についてノルウェーメディアのTeknisk Ukebladは17日「レオパルト2A7とK2のテストを行った軍の調達部門(FMA)はK2調達を勧告したが、政府は勧告に逆らってレオパルト2A7調達を選択した」と報じており、中々興味深い事実について言及している。

FMAはレオパルト2A7とK2の性能についいて「ドイツ製は韓国製より約10トン重いものの(両者の性能に)大きな違いはない」と評価しており、最終交渉の内容、実施テストの結果、提示された納期や価格、これら要素を加味したコストパーフォーマンスを検討したFMAは昨年11月「次期主力戦車の供給者に現代ロテムを推奨する」と勧告していたらしい。

出典:Norsk hær K2NO

さらに調達数削減(72輌→54輌)を通知後、FMAは「KMWはレオパルト2A7の単価を値上げしたが、現代ロテムはK2の単価を維持したたため以前の奨励を強化する」と勧告を改定しており、現代ロテムが提出した納品スケジュールはK2NOの最終的バージョンを検証後に生産を開始するが、KMWは最終的バージョンの検証前に生産を開始することになっていたため「納品後に改修が発生する」と指摘している。

つまりレオパルト2A7とK2は主力戦車として同等の能力を有しているが、重量(雪上での機動性)とコスト面でK2はレオパルト2A7を上回っており、納品スケジュールでもレオパルト2A7は若干の問題があるためFMAは「レオパルト2A7ではなくK2を調達するほうが望ましい」と軍や政府に2度も勧告していたが、政府は政治的要因を優先して「レオパルト2A7調達を選択した」という意味だ。

この件についてMilitary Equipment Denmark(ノルウェーにおける現代ロテムの代理企業)のモーゲンセン代表は「現代ロテムはFMAの買収プロセスにはとても満足している。他国での経験と比較してもノルウェーの買収プロセスは非常に熟成されていると思う。政治的な要因でドイツから戦車を購入するのが最も望ましいと考える政治家が現れるまでFMAの買収プロセスにとても満足していた」と述べ、客観的な評価ではなく政治的要因を優先したノルウェーの政治体制には苦言を呈しているの興味深い。

モーゲンセン代表は「今回の件を通じてノルウェーの政治体制は調達部門の客観的な評価を無視する用意があることを示した。次の大規模調達では戦略的パートナー(ドイツ、英国、米国など)からの購入が買収プロセスの評価より優先されるのかどうかを事前に明かしておいて欲しい」と毒々しい苦言を述べている。

KMWはレオパルト2A7とK2が直接競合する買収プロセスに勝利してノルウェーの牙城を守ることに成功、負けた現代ロテムもガチンコの買収プロセスで「レオパルト2A7とK2に大きな性能差がない」という第三国の評価を手に入れることができ、個人的には非常に興味深い買収プロセスだった。

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※アイキャッチ画像の出典:Forsvaret

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コメント

    • 名前
    • 2023年 3月 17日

    10トン重さが違うのに性能が大差ないのではかなり大差あるよなぁ

    33
      • hoge
      • 2023年 3月 17日

      その分、車体長が短くて砲塔正面の主装甲のカバー範囲が少なく、周囲の監視や整備を担ってくれるローダーがいないので、そういったことも考慮して「(一長一短で)大差ない」のだと思われ。

      16
        •  
        • 2023年 3月 17日

        それに戦車は重ければその分主砲の反動や動揺を軽減できる、ひいては連射速度を早くできるという面もありますね

        2
          • のー
          • 2023年 3月 17日

          連射速度は、自動装填装置のあるK2の方が圧倒的に速いでしょうね。
          手動だと走行しながらの装填も無理だし。

          8
            • 匿名
            • 2023年 3月 17日

            レオパルドに自動装填装置が無いのは痛い。この点だけでもウクライナ供与に最適なのはK2かもしれない。まともなもの何両揃えられるかは別として。

            3
            • hoge
            • 2023年 3月 18日

            その辺はAbramsの中の人がインタビューに答えていて、
            – 目標の選定と照準にかかる時間 > 手動での装填速度なので問題にならない
            – そもそも手動での装填が困難になるような速度は砲撃の精度が落ちるので、やらない
            とのこと。後は散々自動装填装置は検討していて、1台一億円以上して遙かに複雑だと思われるASPは即購入が決まっているので、単に優先順位が低いのだと思われ。
            リンク

            11
      • 折口
      • 2023年 3月 17日

      主力戦車において総重量は防護性能とは比例しないんです。

      確かに戦車の装甲ユニットは重いですから、重装甲にしようと思ったら総重量も増えてしまうのは間違いないです。でも例えばエンジンが大きくなっちゃったとか燃料タンクや内部空間を広めにとったとしても車格が増して総重量は重くなってしまうのです。ですから、日本やソ連の戦車のように車内空間を狭くしたりシルエットも小さくした結果軽くて重装甲(ソ連戦車は登場時点ではいずれも重装甲だった)な戦車がある一方、中の居住性を重視していたパットンシリーズでは重い割に最大装甲厚が低いという現象がありました。

      K2は10式のような極端な小型化はしていないですが砲塔が低姿勢で装甲面積を節約できていますし、基礎設計が80年代で繰り返し追加改修や設計変更を経てきているレオパルト2より効率的に(省重量で)同等のスペックを実現できているのではないでしょうか。

      17
    • hoge
    • 2023年 3月 17日

    兵器の生産、調達には政治力が大事なのは今に始まったことではないのでは。
    日本のF-X選定と同じで先に本命、結論が決まっていて、戦略的なパートナー以外は良い条件を引き出すための当て馬に過ぎないと。

    25
    • あああ
    • 2023年 3月 17日

    政治力の独勢と実力の韓国勢ですかね。しかし今どきのMBT選定には特殊装甲の内容が全く無縁で驚きます。いくら秘匿性で最上位のファクターとは言えどもここに触れた報道は一切見たことも無い。
    走行性能はそりゃルクレルの影響受けまくりのK2が上でそりゃ当然ですよ。低姿勢砲塔に短車体で低重心で軽い上にサス制御はセミアクティブですからね。ねじり棒にロータリーダンパー追加しただけのレオ2が勝るはずもない。
    しかしこの点にしろサス系ASSYをより多く必要とするデメリットは内包されるわけです。単価は安くとも維持費は必ずしもな部分は多少にある。ポーランド製で供給の前提ではあるんでしょうがね。
    また後々のアプグレも独勢は強いです。K2はポーランド向けのに準ずる以外で選択肢は無いでしょう。ノ軍の勧告も目先の得って部分が強めに思えますね。

    14
      • 戦略眼
      • 2023年 3月 17日

      ポーランドには、是非K2をウクライナに提供して実戦投入して欲しいですね。

      5
    • xn5w1
    • 2023年 3月 17日

    ポーランドはK2戦車を購入できて良かったのでは。
    裏を返せばポーランドはドイツに期待していなかったということですが。

    10
      • ネコ歩き
      • 2023年 3月 17日

      ポーランドは歴史的経緯から基本的に嫌露嫌独なので、民族主義右派現政権はNATO同盟があっても可能な限り安全保障面でドイツの影響力を排除したかったのかと。
      その意味で、K2は条件的にも好都合で最善の選択だったのでしょう。

      22
    •  
    • 2023年 3月 17日

    戦車万能論

    6
    • ぬるぽ
    • 2023年 3月 17日

    韓国のミリタリー専門誌の編集長が決定の2ヶ月前から「ああ、これは無理だ」ってYou Tubeで言ってた。
    その人いわく、ウクライナ戦争で原油価格高騰した時にノルウェーが海上油田であまりにも稼ぎすぎて
    ドイツに睨まれてしまって、その義理立てするためにもレポパルドを選ばざる得ないって言ってた。

    31
      • STIH
      • 2023年 3月 17日

      日本が海外から買う兵器の多くが米国製、という理由の一端も表側も裏側も似たようなもんですからねえ。日本の場合貿易赤字が絡むからオフセットの要求はできないでしょうし。

      24
    • 戦略眼
    • 2023年 3月 17日

    手持ちのLeopard2A4を近代化改修して、戦力を追加出来るのも大きいのでは?

    6
    • たけやぶやけた
    • 2023年 3月 17日

    基本設計で言えばK-2の方が圧倒的に新しいので、K-2が有利なのは当たり前では。
    逆に言えば、それを互角に持っていかれている事自体今後の販売に影を落としたと感じたのだが。

    4
      • hoge
      • 2023年 3月 17日

      第三世代戦車は設計がすでに煮詰まっており、性能の大部分を占めるコンポーネントがモジューラ式で交換可能で筐体自体は味付けの違い程度の意味しかないようなので、ある意味分かりきっていたことなのかなと。
      アメリカがひたすらM1を更新しているのも同じ理由でしょうし(大金を賭けるのは内部のコンポーネントにすべきで筐体ではない)

      5
      • xn5w1
      • 2023年 3月 17日

      機動性はK2戦車の方が上で機動性以外の性能もレオパルト2A7と大差ありません。
      そして価格はK2戦車の方が大幅に安いのでK2戦車の方が魅力的だと思いますよ。
      K2戦車のアピールポイントが増えたのでは。

      10
    • nimo
    • 2023年 3月 17日

    整備のために手持ちのと共通規格にしたかったせいだと思ってた

    3
    •  
    • 2023年 3月 17日

    海自のヘリの時にエアバスが言ってたな
    性能よりも政治で採用を決めるんだから応募するだけ無駄だわって

    9
    • ザコ
    • 2023年 3月 17日

    兵器の導入がスペックだけじゃ決まらないのは現代ロテムだってわかってたでしょうしね。
    とりあえずスペックじゃ負けてないと言う話が表に出ただけでも御の字でしょうか。

    7
    • 匿名希望係
    • 2023年 3月 17日

    ポーランドはK2を入れるって考えると連携を考えるならk2だよな

    なんで政治面でドイツに負けていると

    1
    • 匿名
    • 2023年 3月 17日

    ところでK2は完成(実践投入可能)しているといえるのか?量産ラインもテンパっていたと思うが

    3
      • xn5w1
      • 2023年 3月 17日

      普通に完成していますが…。
      K2戦車は韓国軍に206両配備されていて第3次量産(54両)中です。

      16
        • シャイターン
        • 2023年 3月 18日

        出力や耐久性の問題で暫定生産のはずでは

        3
          • xn5w1
          • 2023年 3月 18日

          出力や耐久性の問題というのはパワーパックのお話ですか?混合パワーパックに大きな問題は発生していないと思いますが。
          韓国は暫定生産だと発表したのですか?ソースが分かりません。
          K2戦車の当初配備予定数は200両程度でしたし、現状は暫定生産ではないと思います。

          7
          • STIH
          • 2023年 3月 21日

          ユーロパワーパックを使ったものは、大きな問題はなかったですよ。韓国産パワーパックの方の耐久性に難があったとされているだけで。そっちは試験内容に問題があったとか汚職があったとかされてますが。
          その韓国産パワーパックも確かトルコあたりが採用するという話があったはず。
          いずれにしてもポーランドへの即納モデルについては、韓国軍向けをポーランドに廻していること以外に問題はなかったと思います。

    • 反革命分子
    • 2023年 3月 18日

    一生懸命プレゼンしたのに「政治要因に配慮してドイツ選ぶわ」じゃあ怒りますわな。
    ちなみに性能はK2優勢みたいだけど、性能差がどれくらいあれば政治判断を覆せるんだろうか。

    1
      • 半分の防衛費の国から
      • 2023年 3月 18日

      T-14アルマータ位の性能がないと難しいと思いますよ、主砲の性能125mm2A82 砲弾タングステン3BM70 貫徹900mm~ウラン3BM69 貫徹1000mm 152mm2A83(2A82の脇にそれらしい数値が‥) タングステン 貫徹1000mm付近 ウラン 貫徹1200mm付近 装甲1200~1400mm 予想は1350mm付近 とか このスペックが示されたのが2005年辺りなので、改良されて10%~20%向上している可能性が高いですよ、後は砲塔無人化とか、AI搭載とか、エイブラムスXの米軍公式動画でも見てもらえれば良いかと。

      3
    • XYZ
    • 2023年 3月 18日

    カタログスペックではなく、実戦での能力はどうなんでしょうか?

    攻撃力に関してはテストしやすいと思いますが、防御力についてはそれこそ今のウクライナで使ってみるくらいしかテストしようがなさそうです。

    特に装甲は高度な製鉄・製造技術が必要ですので、昔から定評があるドイツと韓国では差があるような気がします。
    カタログスペックでは同等でも、実戦でのギリギリの粘り?みたいなのは違いがありそうです。

    K2に必要なのは実戦での評価でしょうね。
    ウクライナへの供与は絶好のチャンスだと思いますが。

    3
    • うるふりっく
    • 2023年 3月 19日

    むしろ機動性がK2>レオ2だという評価が驚きなんだが
    カタログスペック的には0→32Km/hの加速力がレオ2の方が2秒早くて機動力はレオ2が上なのかと思っていたよ
    びっくりしてK2をググったらこの戦車って高解像度地形スキャンシステムを装備してんだってな
    こういう装備ってカタログスペックには出て来ないけど性能に大幅に影響を与える類でそりゃあ機動性が高いわけだ

    3
      • STIH
      • 2023年 3月 21日

      やっぱ貴重な新車ですからねえ。改修車とくらべて機能面では優れてんではないかと。

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