欧州関連

平和のため戦争準備を進めるポーランド、米国から中古のクーガー装甲車×300輌を取得

ポーランドのブラスザック国防相は10日、M1A2/SEPv3の導入に続き米陸軍が使用していたクーガー装甲車を300輌導入すると発表して注目を集めている。

参考:Poland to acquire 300 used Cougar MRAPs from the US

アクセル全開の軍事力強化を押し進めるポーランド、今度はクーガー装甲車を来年に300輌導入

ポーランドは今年7月、次期主力戦車調達が目的のウルフプログラム/ProgramWilkとは別枠で「米国からM1A2/SEPv3を250輌導入する」と電撃的に発表したが、今度は「米陸軍が使用していたクーガー装甲車を300輌導入する」と発表して注目を集めている。

ポーランド軍が調達するクーガー装甲車は対戦車地雷とIED(即席爆発装置)に対する保護能力が施された対地雷伏撃防護装甲車(MRAP)の一種でイラクやアフガニスタンで使用された実績をもち、ポーランド軍もアフガニスタン派遣時に米軍から40輌のクーガー装甲車を貸与されて使用した経験があり、ポーランドは特殊部隊や山岳部隊などが使用する多目的車輌(約500輌調達を予定しており内200輌が特殊部隊向け)を調達するペガズプログラムを進めている最中だった。

このペガズプログラムもウルフプログラムと同様で選択した多目的車輌を国内で現地製造する計画だったのだが、ポーランドのブラスザック国防相は「米陸軍が使用していたクーガー装甲車を300輌導入する」と今月10日に発表、早ければ2022年中にクーガー装甲車がポーランドに到着する予定らしい。

因みにポーランド安全保障委員会のカジンスキー議長は「規模が小さくても十分に武装した軍隊」という今流行りの概念を断固拒否すると語り、平和を望むなら「戦争の準備をする」あるいは「強い軍隊を作る」といった古の原則に従って行動することが重要だと主張してポーランド軍14万人→30万人まで増強すると10月に発表、ポーランド空軍も航空戦力の近代化の柱であるF-35A導入と同時進行で軽攻撃機としても活用できる高等訓練機M346、日本も導入予定の空対地巡航ミサイルJASSM-ER、24機のバイラクタルTB2を含む無人航空機×470機の調達計画が進んでおり「AH-64E、E-7A、KC-46Aの調達に関しても検討が行われる」と明かしている。

ポーランド海軍も新しいフリゲート艦を3隻調達(現在入札中で英国がアローヘッド140、ドイツがMEKO型フリゲート、スペインがアルバロ・デ・バサン級フリゲートの派生型を提案)する予定で、さらに旧ソ連製の老朽したキロ潜水艦を更新するためスウェーデン海軍から退役予定のセーデルマンランド級潜水艦(A26型潜水艦の調達計画が進行中)を取得する交渉が行われている最中だ。

出典:Lockheed Martin ポーランド空軍向けのF35A(ロッキード・マーティンが制作したイメージ)

この中でポーランド軍が最も重視しているのは無人航空機による戦場認識力の拡張で、ポーランドが潜在的な脅威とみなしているロシアは最近「2,000機以上の無人航空機を運用している」とプーチン大統領が明かしているため、両国の戦場認識力の差は酷い格差が発生している。

本ブログでも何度も言及しているが、現在各国が競うように開発を進めている戦闘機とチーミングが可能な無人戦闘機(UCAV)ではなく情報収集・監視・偵察(ISR)が主任務の無人航空機(UAV)は高性能なレーダーでも収集できない電子光学センサーによる戦場情報をもたらしてくれるため、この能力で差がつくと敵よりも優れた判断を下すためにかかる時間が長くかかり戦闘効率面で不利な状況に立たされることが予想されており、各国がISR用途の無人機調達と戦力化に力を入れるのはそのためだ。

出典:baykarsavunma

専用の精密誘導兵器で地上目標への攻撃能力が特に注目されるバイラクタルTB2も主任務は地上攻撃ではなくISR任務であり、同機を導入したポーランドのブラスザック国防相も「この種の兵器システムは装甲車輌や防空システムを直接破壊することも出来るが、最も重要なのは搭載されたセンサーによる情報収集で戦場認識力の拡張に欠かせない価値があり、TB2は単独で作動するのではなくポーランド軍が保有する他の軍事資産(F-35Aやパトリオットなど)と連携して相乗効果を発揮することを前提に運用する」と語っている。

少々話が脱線したが、ポーランドの軍事力強化は当面アクセル全開でブレーキを踏むことだけはなさそうだ。

関連記事:バイラクタルTB2導入理由を語るポーランド国防相、実戦での実力を疑問視する声にも反論
関連記事:戦争を回避するには戦争の準備が必要、ポーランドが軍を14万人→30万人以上に増強すると発表
関連記事:ポーランドのM1A2導入の真相、やっぱり次期主力戦車プログラムは継続予定

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain クーガー装甲車

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    ちょいと昔、米軍が輸送費負担してくれるならタダで上げるよと言っていた装甲車ってあったよね

    3
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    以前アメリカが一万台以上のMRAPを友好国に欲しいだけ無償譲渡すると言っていたけど、その時のあまりものかな

    リンク

    14
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    それにしても平和の為の戦争準備なんて日本なら確実に集中砲火を浴びそうな事を普通に発言出来て国民の大半が受け入れているのが凄いですね。
    これも長年ロシアやドイツから侵略されて支配され続けた歴史的背景故なんでしょうね。

    39
      • 匿名
      • 2021年 11月 13日

      世界中で起こっている紛争や戦争の映像を毎日20時ぐらいに30分ぐらいテレビで流すようにでもすれば意識は多少変わるかね
      NHKが受信料関係の法律を都合のいいように変えろと言ってるけど、こういう風に国家安全意識高めさせる条件つけるぐらい国会でできないのだろうか

      17
        • 匿名
        • 2021年 11月 14日

        一周回って「戦争だけは絶対いけない」の世論が出来上がるのでは

        6
          • 匿名
          • 2021年 11月 16日

          南沙諸島虐殺事件の中国軍の映像流したら非武装無抵抗でも相手はおかまいなしということをいやでも思い知ると思う
          てかあれ見て危機感持たないのは中国側についてる人か想像力のない人ぐらいじゃないだろうか

          3
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    >現在各国が競うように開発を進めている…

    このなかに今一番脅威に晒されている日本がないのやばくないか。

    27
      • 匿名
      • 2021年 11月 14日

      与党であるはすの公明党代表が、自民党の防衛予算2%政策を堂々と否定する国ですからね。
      それに対して総理がノーコメント。
      創価学会婦人部へのばら撒きは断固やるのに。

      11
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    なんとなくレトロな感じを受けるデザイン

    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    いよいよベルリンに向かって進むのか

    1
      • 匿名
      • 2021年 11月 13日

      ……マジレスするけどベラルーシから難民アタック仕掛けられてるんで東側の国境が逼迫してるんじゃね?

      加えてウクライナがロシアに飲み込まれたら東部と南東部の二正面、場合によってはカリーニングラードと接してる北部含めた三正面でロシア陣営との最前線になるんでここまで軍備ガチるのもしゃーない

      しかも国境がただの平原なのに加えてポーランド国内自体山岳旅団が立てこもれそうな山岳地帯が南部国境エリアにしかないという、防衛難易度クッソ高い地形だし

      23
        • 匿名
        • 2021年 11月 14日

        立て籠もる地形がないなら作ればいいじゃない!
        マジノラインの復活だ!!

      • 匿名
      • 2021年 11月 13日

      むしろ(間接的とはいえ)ベルリンを守るために一生懸命、軍備拡張中ですよ

        • 匿名
        • 2021年 11月 13日

        そのベルリンが裏切りそう

        13
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    こういうのって乗組員も訓練しないと使えないのでは
    運転とかメンテとか、今から間に合うの?

      • 匿名
      • 2021年 11月 13日

      車の運転なんて誰でもできるだろ

      2
        • 匿名
        • 2021年 11月 13日

        AT限定、MT,大型、特殊作業者、その他もろもろ車両関係の免許が分けられている理由を考えてみては
        しかも軍用車となれば民間者ほぼ企画統一されてないから重量、重心、車幅、その他にも車種ごとにさらに運転の勝手が違ってくる

        8
      • 匿名
      • 2021年 11月 14日

      今から何時に間に合うのか分からんが
      仮に一から運転手を養成するにしたとしても、適正な指導があれば習熟に何年も掛かりゃせんでしょ。

      1
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    ルカシェンコが失脚したらそれが紛争の狼煙になりそうだな
    絶対にロシアが介入しそうだし

    5
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    東ヨーロッパと台湾海峡、どちらが先にドンパチがはじまるのやら…。

    9
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    全幅がブッシュマスター並なら自衛隊も貰えばいいけど、デカすぎるんだよな

    4
    • 匿名
    • 2021年 11月 13日

    世界中が危機感を感じ、行動に移しているのに
    日本の政治家やマスコミは危機感が感じられないのか?
    不干渉か??

    9
    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    最近のポーランドを見てると10年以内かもっと早くに戦争が起こるので備えています、って感じだけど、ベラルーシ国境の難民問題(難民問題自体は従来からあるものでも、あの騒動はルカシェンコ政権維持のために仕組まれたものだろう)なんかを考えると本当に時間がないのかもしれない。
    ベラルーシとの小規模な衝突や民兵を動員した戦いが、ウクライナの時のように露正規軍の全面動員に発展する可能性は否定できない。ポーランドはNATO加盟国なので米軍は真っ先に助けてくれるだろうけど、米国が露との頭越しの合意で紛争だけ残して撤退していくようなシナリオも有り得れば、そもそも欧州各国は派兵すらしないかもしれない。80年前の悪夢がチラつくんだと言われたらポーランドの行動を否定できないわな。

    7
    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    パトリアAMVライセンスのロマソクあるけど人員増やすから、使用感はあるが安いクーガー装甲車にするのか陸自のLAVみたいにまだ手軽に使える装甲車が欲しいのかどっちか。

    価格と取得時間、嘘か真か全周12.7mm防御が本当なら選択肢としてはベストだろうな。それにしてもサイズや重量をから燃費考えると悪いと思うしM1戦車も含めてけっこう兵站とかランニングコストはエグい事になりそう。

    戦力増強は分かるけど実際に維持する事まで考えるとポーランドの選択は戦わずにして敗北する方向じゃないのかと思えてくる。

    1
    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    ポーランド方面の攻勢はベラルーシを使った牽制だとは思うけど、
    ウクライナ方面はちょっと嫌な感じだな、ウクライナ人のロシア嫌いっぷりを見ると何やらかすか分からない

    1
    • 匿名
    • 2021年 11月 14日

    これ、買ったからつかう、の流れ化な?

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