欧州関連

ドイツに残された唯一の選択肢?トーネード後継機として間に合うのは「F/A-18E/F」だけ

ドイツメディアによれば、ドイツ空軍はトーネードの後継機に、ユーロファイター・タイフーンではなく、米国のF/A-18E/F スーパーホーネットを購入する必要があると報じている。

参考:Bundeswehr muss vermutlich “F-18”-Kampfjets aus den USA kaufen

トーネードの後継機には、ボーイングのF/A-18E/F スーパーホーネットの方が有利?

ドイツ空軍は老朽化した戦闘機「トーネード」の後継機を選択する過程で、ロッキード・マーティンが製造する第5世代戦闘機「F-35A」を候補から除外し、エアバスが製造するユーロファイター・タイフーンと、ボーイングが製造するF/A-18E/F スーパーホーネットから後継機を選ぶことにした。

なぜドイツが、トーネードの後継機候補からF-35Aを除外したのかについて、先月ワシントンを訪れたドイツのカレンバウアー国防長官は、米国のエスパー国防長官に対し、同種の戦闘機開発(恐らく、第6世代戦闘機「FCAS」のこと)に悪影響を与えるためだと説明している。

出典: JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 パリ航空ショーで発表されたダッソーFCASのモックアップ

これはロッキード・マーティンが、第5世代戦闘機として開発したF-35Aについて、将来的に第6世代機と同等の能力までアップグレードすると話しており、これをトーネードの後継機として導入すれば、独仏主導(現在スペインが計画に合流)で開発を進めている第6世代戦闘機「Future Combat Air System(FCAS)」と用途が重複し、ドイツのFCAS導入数に影響を及ぼす、もしくは2機種の第6世代戦闘機を同時運用するコストを考えた場合、FCAS導入中止、F-35Aの追加導入という可能性も否定できない。

このような選択は、共同開発国のフランスに疑念を生むことになるため、トーネードの後継機候補からF-35Aを除外したという意味だ。確かに、この話には一理あるが、米国から提供された核兵器を運搬能力保持という義務を達成するため、解決すべき問題がより複雑になったとも言える。

F-35A以外のタイフーンとF/A-18E/Fは、ドイツがNATOの一員として「ニュークリア・シェアリング」の義務を果たすための能力が認証されていないため、費用と時間を掛けて核兵器運搬能力を付与し、NATOによる能力の認証(実質的には戦術核兵器を提供する米国の認証)を受けなければならない。

この辺りの説明は以前、記事にしているので良くわからないと言う方は読んでみて欲しい。

ドイツメディアによれば、この認証手続を受けるには「具体的」に何が必要なのかを説明するよう米国にドイツが要求していたが、米国からの回答の結果、タイフーンが承認手続きを完了するには、F/A-18E/Fよりも3年から5年は余計に時間が掛かることを暗示していたという。

カレンバウアー国防長官は2020年中に後継機を決定すると言っているが、トーネードは2025年から段階的に退役(2030年までに退役完了予定)が始まるため、後継機決定から初号機引き渡しまで5年の猶予しかなく、F/A-18E/Fよりも承認手続きに時間がかかるタイフーンを選択した場合、スケジュールにトラブルが発生すれば2025年までの引渡しが間に合わなくなる可能性が非常に高い。

出典:pixabay

タイフーンを提案しているエアバスは、2025年ではなくトーネードが完全に退役する2030年まで「十分時間がある」と見ており、F/A-18E/Fよりも時間がかかる承認手続きも十分スケージュール内に収まるだろうと話している=核兵器運搬能力の空白期間が多少発生しても問題がないと考えている。

しかしドイツは、核兵器運搬能力の空白期間発生は容認できないと考えているため、F/A-18E/F採用の可能性が高まってきたとドイツメディアは伝えている。

ただし、ドイツ空軍が保有する全てのトーネード(85機)が核兵器運搬能力を保有している訳ではないので、比較的承認手続きが簡単なF/A-18E/Fを少数導入し、残りは核兵器運搬能力を持たないタイフーンを導入するという手も残されているため、果たしてドイツはどのような判断を下すのか注目される。

F/A-18E/Fを製造するボーイングにとっては、非ステルス機、非第5世代機というマイナスな部分が、逆にメリットになったという複雑な結果だが、ステルス機製造を行っていない同社にとっては貴重な海外輸出のチャンスとなるだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Janweb B. Lagazo/Released

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コメント

    • 小さな仔猫
    • 2019年 10月 06日

    「F-15EXがロシア戦線では、役不足ではないか?」と記事見た。
    記事の内容としては、F-15EXでは、非ステルスの点でS-400等のSAMから遠距離で探知され遠距離で迎撃される(戦闘機の長射程AAM含む)らしい。F/A-18E/Fの最新型は、ステルス化される話だが、RCSでF-35を上回ることはないでしょう。

    理想は、核攻撃部隊は、F-35Aで、他の戦闘部隊は、EF-2000で編成するのがベターでしょう。
    次期戦闘機でフランスがガタガタ言うなら、テンペストの方に鞍替えありでしょう。

    • 匿名
    • 2019年 10月 06日

    ドイツ、フランスがF-35を選択しない理由は自国の防衛産業の保護ってだけでしょうね。
    現在はユーロファイターで防衛産業に仕事がある、F-35を買ったら、次期のEU開発の戦闘機(実際はフランス主導の開発で、空軍と海軍機、ドイツは製造でおこぼれをもらう なおトーネードはイギリスの設計)
    での仕事が無くなる

    海軍機は、イギリスは空母はスキージャンプなのでF-35Bが必須、ドイツは空母を持っていない、フランスの空母はカタパルトを持ってる制式空母なのでF-35Bは必要ない って呉越同舟、同床異夢。
     タイフーンは・・・イギリス/BAEがトランシェ3BのAESAレーダーの統合を担当してるけど、イギリス空軍はトランシェ3Bは購入しないと宣言してしまった(トランシェ3Aのパルスド・ドップラーレーダー+限定的な対地攻撃能力で対応する・・・それも未だに獲得されていない)
     結局、EUでまとまる事はできないでしょうし、経済力、開発資金でアメリカを凌駕することはできない(日本も超えてない?)から、EUの戦闘機開発プロジェクトってこのままズルズルと遅延して・・最悪は霧散するかもね。

    •  
    • 2019年 10月 06日

    核シェアで自国領土への核攻撃を発動する時には、WW3が起こり戦線がぐっちゃぐちゃになった状態の話であるので、
    ステルス性とかはあんまり関係の無い状態であろうから、核運搬能力はもちろん必要なのですが、
    それは条件としては従で、主としてはドイツ空軍のトーネードの後継戦闘機を何にするかって話じゃないでしょうか

    • 匿名
    • 2019年 10月 06日

    そもそも自国領を露助に犯された際、自身で自国民ごと核で敵軍を吹き飛ばすというベルカ式国防術を維持するか、そんなシチェーションが起こる可能性は如何程か、という所から問い直すつもりなのではと

    • 全てF-35B
    • 2019年 10月 06日

    F-35が駄目なら、タイフーン一択。
    ダークホースで、F-16Vのレンタルは駄目なのか。
    オランダやベルギーの基地なら整備出来るだろう。
    それより、現在の稼働率は、どうなっているのか?

    • 匿名
    • 2019年 10月 06日

    ドイツとしてはユーロファイター選びたいんじゃないかな
    予算不足のドイツ空軍がさらに機種数を増やす選択するとは思えない
    5年余計にかかるとは言っても、トーネードには詰めたんだしそこまで難しい事ではないだろう
    最悪空自のファントムみたいにトーネードの寿命を無理矢理伸ばすのも可能だし

    • 匿名
    • 2019年 12月 18日

    、比較的承認手続きが簡単なF/A-18E/Fを少数導入し、残りは核兵器運搬能力を持たないタイフーンを導入
    するという手も残されている

    これでいいじゃん

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