欧州関連

16年ぶりの受注が水の泡、ドイツがカザフスタンへのA400M売却を禁止

ドイツ政府はカザフスタン暴動に関連して「同国へのA400M売却を禁止する」と発表、これによりエアバスは昨年9月にカザフスタンから受注したA400Mの契約を履行できなくなった。

参考:Germany Withholds Airbus A400M Aircraft Supply to Embattled Kazakhstan

16年ぶりに受注したカザフスタンとのA400M輸出契約をエアバスは履行することが出来ない

欧州のNATO加盟国はC-130など戦術輸送機の後継機を共同開発するためA400Mの開発計画(後にエアバスが開発プログラムを主導することになる)を立ち上げたが、各国の思惑や開発コストの問題等でイタリア、ポルトガルが計画から離脱するなど国際共同開発の悪癖に悩まされるものの何とか形になったA400Mは開発参加国から170機(当初計画より10機減)の受注を獲得済みで、すでに100機以上のA400Mが引き渡され輸送任務に従事しているが肝心の海外輸出には苦戦している。

出典:AIRBUS カザフスタン空軍向けのA400M

当初はA400Mに複数の国が関心を示していたものの開発遅延の影響で引き渡し開始が2009年→2013年にずれ込み、開発コストの高騰で調達コスト上昇も見込まれたためA400Mを契約していたチリと南アフリカはA400M購入をキャンセル、マレーシアだけが契約を維持して2015年に引き渡しを受けたが、それ以降輸出話が浮上しても正式な契約まで至らず苦戦していたがエアバスは昨年9月に「カザフスタンから2機のA400Mを正式に受注した」と発表して注目を集めていた。

しかしドイツ政府はカザフスタン暴動に関連して「同国の状況を考えるとA400Mの売却禁止は必要な措置だ」と発表、開発国でA400Mの海外輸出に必要な承認権をもつドイツの決定を受けて16年ぶりに受注したカザフスタンとのA400M輸出契約をエアバスは履行することが出来ない。

出典:Esetok / CC BY-SA 4.0

ドイツは欧州の中でも人権問題に敏感で特にショルツ新政権は「EUに拘束力のある武器輸出政策導入」を掲げており、市民の抗議を武力で鎮圧したカザフスタンに装備品を売るなど以ての外なのだろう。

因みに旧ソ連末期から30年近くカザフスタンを支配してきたナザルバエフ前大統領の末娘にあたるアリヤ氏は個人資産3億ドルを国外に移し、英国で脅威的な散財(ボンバルディア製のプライベートジェット購入に2,500万ドル、英国での居住権獲得のために必要な不動産購入に1,200万ドル、ドバイのパーム・ジュメイラにある別荘取得に1,400万ドル、不正資金の追求を回避するためスイスの高級プライベートバンク買収に1億800万ドルなど)を続けていると報じられている。

関連記事:詐欺師だと批判を受けるドイツのショルツ政権、都合よく人権と武器輸出を使い分け
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関連記事:エアバスがA400Mの正式受注をカザフスタンから獲得、累計受注数は176機に到達
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※アイキャッチ画像の出典:AIRBUS

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コメント

    • 伝説のハムスター☆☆☆
    • 2022年 1月 11日

    売ればいいのに
    輸出すれば開発費が回収できる、問題が生じた時は部品供給で嫌がらせでき、相手の財政への負担をかけれるし一石二鳥だと思うんだけどな
    正直言ってカザフスタンは民主化は絶対にしないし(ロシアが介入するため)供給を通じて庭を荒らす意味でも武器は売るべきだと思う

    8
      • 名無しさん
      • 2022年 1月 11日

      原文も見てみましたが、売却禁止、契約履行が出来ないと言っても
      ・一時的な凍結なのか(契約は残す)
      ・契約そのものの破棄なのか(要は白紙撤回)
      どこまで踏み込んだ処置なのかがはっきりしませんね
      政治的な混乱が収まったら復活させる含みぐらいは残してるんでしょうか。

      13
    • ラムダ
    • 2022年 1月 11日

    これで輸出承認しようもんなら詐欺師の誹りが加速して下手すると政権への致命的ダメージになりかねんからそりゃそーなるわという感想。

    23
    • 無印
    • 2022年 1月 11日

    言っても2機だもんなぁ…
    中国あたりから代わりの機体を導入しますわ
    であっさりかわされそうな予感

    26
    • ぬるぽ
    • 2022年 1月 11日

    待ってましたとばかりに中露が売り込みかけるのが見える見える…
    いい加減殿様商売やれる身分じゃないって気づけよ

    26
    • もり
    • 2022年 1月 11日

    ドイツは戦後人権問題には過敏になってるからね
    事ある事にナチスがー!言われてりゃそうなるのも当然なんだわ
    ドイツをこうしてる原因は戦後連合国世界秩序による所が大きい
    ドイツが悪いと言うより世界が悪い

    32
      • 戦略眼
      • 2022年 1月 11日

      中露には、甘いけどね。

      10
        • バーナーキング
        • 2022年 1月 12日

        それも戦後連合国世界秩序の一環でしょ。

        1
    • 折口
    • 2022年 1月 11日

    「独裁政権が統治する国には経済制裁をして圧力をかけます(負担は民衆に)」「独裁者とその家族のお買い物は是非ヨーロッパで」が同時並行で進んでくあたり普段どおりの欧州ですね…。
    真面目な話ここで手続きとめたところでロシアからIl-76あたりを融通されて終わりのような気もしますが、まぁ軍事独裁政権に公然と武器を輸出するよりはマシですよね。

    この件があるまでのカザフはそれこそエアバス製の戦術輸送機を入札で買うくらいには、所属陣営が曖昧な第三世界になってたんですけどね。ロシアのテリトリーであることが強調されてしまいましたね。

    27
      • 無題
      • 2022年 1月 11日

      どこの陣営であれ国民を撃つことにためらいのない国と付き合うのは国益にならないな

      9
    • 幽霊
    • 2022年 1月 11日

    カザフスタンは購入代金をもう支払っていたのかな?
    支払っていた場合メーカーは返金と違約金を支払う必要があるのかな?

    6
    • hiroさん
    • 2022年 1月 11日

    うろ覚えで恐縮ですが、米国も空中給油機を受注していたような。
    こちらも凍結するのですかね?
    それとも引渡し済み?
    間違えていたら済みません。

    2
      • クローム
      • 2022年 1月 11日

      調べましたが米国の空中給油機(KC-46、KC-130 現在も生産しているのはその2機種だったはず)を注文したという情報は見当たりませんでした。
      エアバスの傘下のエアバスヘリコプターズがH225とH145を受注(現地生産かも)しているのでそちらも心配ですね。

      4
        • hiroさん
        • 2022年 1月 12日

        わざわさお調べ頂き、ありがとうございました。
        自分でちゃんと調べるべきでしたね。

    • 334
    • 2022年 1月 11日

    現代戦争で最も威力を発揮してるのはポリコレ砲かもしれん

    6
      • 感謝します
      • 2022年 1月 12日

      民主国家には一番効きそうw
      独裁国家ならそういうのは逮捕なりして消せば済む話だけど、民主国家だとそうはいかないからなあ。

      4
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