欧州関連

ポーランドがTB3取得を検討中、導入したTB2が十分な成果を上げている

ポーランドはTB2だけではなくMQ-9Bも取得予定だが、Defence24は16日「国防省が無人機戦力増強の一環としてTB3取得を検討している。これは導入したTB2が十分な成果を上げていることを意味する」と報じ、中高度を長時間飛行な無人機へのニーズが衰えていないことを示唆している。

参考:Will Poland buy new Turkish UAVs? [Defence24 Exclusive]

武装可能な無人航空機も、有人戦闘機に随伴可能な無人戦闘機も「想定されている能力や役割」への誤解が大きい

LeonardoとBaykarは3月「無人機に対する欧州市場のニーズはを取り込むため合弁会社を設立する」と発表、Leonardoは第1四半期の業績報告でも「Baykarと協力して輸出可能な製品を出来るだけ早く欧州市場に投入したい」「パリ航空ショーで幾つかのプロトタイプを公開する」と述べていたが、両社はパリ航空ショーの初日に「無人航空機技術の開発に特化した合弁企業=LBA Systemsを設立する」と発表、Leonardoは「今回の提携によって当社は無人機技術分野における主要プレイヤーの地位を確立した」と、Baykarも「今回の提携はグローバルイノベーターとしての役割を拡大させるという当社の長期戦略を反映したものだ」と述べた。

出典:Leonardo

Baykarがもつ無人機セグメントを網羅するポートフォリオの中で中心を占めるのはTB2やAkinciといった武装可能な無人航空機=UCAVで、ウクライナとロシアの戦いで消耗型ドローンに注目が集まっているものの、依然として再使用が可能な上、武装も携行できるペイロードを活かした多用途性は消耗型ドローンにはない戦術面の柔軟性をもたらすため、現在でも多くの国でUCAVの取得が行われており、徐々に関心が高まってきているのはテストを繰り返している最中のTB3だ。

TB3はTB2と比べて機体サイズが拡張されているためペイロードが増加し、強力な短距離離着陸能力や折りたたみ可能な主翼の採用によって空母や強襲揚陸艦での運用も可能で、国産化に成功したエンジンやEO/IR/LDも競合と比較しても十分な能力を有しており、まだ開発の完了は正式に宣言されていないものの、インドネシアは2025年2月にTB3を60機発注している。

UCAVを空母や強襲揚陸艦で運用するというコンセプトにGA-ASIも参戦し、強力な短距離離着陸能力を備えるMojaveやMQ-9B STOLを展開、Hanwha Aerospaceと共同でGray Eagle-STOLの開発も進めており、英国のイーグル防衛装備担当閣外大臣は5月「クイーン・エリザベス級向けに導入したMerlin AEWの後継候補としてMQ-9Bを検討している」と発言、韓国海軍も中止された「F-35Bと軽空母の組み合わせ」の代替として無人機空母=UCAVを運用するプラットフォーム取得を国防部に提案中だ。

この提案を意識してHanwha Oceanと現代重工業はMADEX 2025で独自のコンセプト案を披露し、Hanwha Oceanは2年前に披露したSF映画に出てくるような設計を一新、アングルドデッキを採用した現実的な軽空母デザイン、大型機の運用を可能にする電磁式カタパルトやアレスティングワイヤー、揚陸艇、水陸両用車輌、USV、UUVを運用可能なウェルデッキを採用したGhost CommanderII(排水量4万2,000トン)を提案、このコンセプトは中国海軍の076型の影響を受けているらしい。

現代重工業はGhost CommanderIIよりも小型な無人機空母=HCX-23Plus(排水量1万5,000トン)を提案し、発艦用と着艦用の飛行甲板が上下段に分かれているため雛段式空母を彷彿させる設計で、こちらも艦尾のウェルデッキからUSVやUUVの運用が可能なため、両社の提案は「UCAVを運用するプラットフォーム」ではなく「空、海上、海中に対応した全ての無人戦力を運用するためのプラットフォーム」と言ったところだろう。

まだ国防部は正式に無人機空母計画を進めるかどうか決定を下していないため、両社の動きは自発的な提案に過ぎないものの、海軍や国防部の動きに素早く反応してコンセプトを提示してくる営業力だけは本物で、海外のディフェンスメディアも両社の提案力や先進的なコンセプトに魅了されている。

出典:Airbus

スペインでもアフガニスタン作戦時に緊急導入したイスラエル製無人機=サーチャーの耐用年数がまもなく尽きるため、コロンビアと共同開発したTB2に類似したUCAV=Sirtapを取得する予定で、Navantiaは今年1月「Airbusとフアン・カルロス1世にSirtapを統合するための覚書を締結した」と発表し、スペイン海軍も強襲揚陸艦でUCAVを活用したいのだろう。

この分野における最新の動きはポーランドで、2021年1月に当時のブラスザック国防相が「TB2を24機購入する」「この無人機の能力は実戦で証明されている」「潜在的な侵略者=ロシアを抑止するのに役立つ」と発表したものの、当時は「有人機の戦闘機と比較して機体性能が劣るTB2が正規軍相手に役に立つはずない」「TB2による対地攻撃ミッションなど高度な防空システム相手に撃墜されるだけ」「政府は金をトルコに無駄に流出させている」などと散々批判された。

出典:Poland MOD

ブラスザック国防相はUCAVに対する国内の誤解を解くため「TB2は有人戦闘機の代替品ではない」「TB2と有人戦闘機は競合関係ではなく補完関係だ」「TB2による対地攻撃ミッションは能力の1つに過ぎない」と言葉を尽くしてきたが、TB2がウクライナで再び効果を証明すると導入に対する批判も沈静化し、ブラスザック国防相もTB2を受け取ると「ウクライナでの結果を見れば偵察にも攻撃にも使用できるTB2の有効性は明らかだ」「もはや無人機(ここでいう無人機とはUCAVのこと)を保有しない近代的な軍隊など存在しない」と述べたことがある。

TB2に搭載されたMX-15Dは最大75km先の車輌を認識でき、組み込まれたレーザー距離計は最大20km先にある目標の位置を測定することができ、UCAVのハードポイントには追加のSIGINT機材、電子戦装置、戦術通信の中継機を搭載することも可能で、ブラスザック国防相も「TB2は単独で作動するのではなく他の軍事資産と連携して相乗効果を発揮することが重要だ」と指摘し、これはTB2がもたらす戦場認識力と長距離攻撃能力が相乗効果を発揮していることを示唆している。

出典:Головнокомандувач ЗС України

固定された前線が登場して戦場上空をカバーする濃密な防空システムや電子戦システムが構築されるとTB2による対地攻撃ミッションは不可能になり、Mavicや軍事用の小型ドローンが普及したことで前線の戦場認識力も大きく改善したが、この種の小型ドローンと中高度を長時間飛行な無人機(MQ-9、MQ-1C、TB2、Akinciなど)が提供する認識力は根本的に深さが異なるため全くの別物で、ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARは「ウクライナ軍は黒海やドニエプル川の対岸を監視するためTB2を運用している」と指摘している。

さらに黒海での海上作戦に投入されているUSVとの通信もTB2によって中継されている可能性が高く、中高度を長時間飛行な無人機は戦争の流れを変えるゲームチェンジャーではないものの、小型ドローンにはない多用途性、長時間の滞空能力、柔軟な運用性は現代戦に不可欠な要素の1つと言っても過言ではない。

出典:Poland MOD

ポーランドはTB2だけではなくMQ-9Bも取得予定だが、ポーランドのディフェンスメディア=Defence24は16日「国防省が無人機戦力増強の一環としてTB3の取得を検討している。これはポーランド軍におけるTB2の運用が十分な成果を上げていることを意味する。大型の無人機は戦場での生存性が非常に限られており、機体サイズが大きくなればなるほど破壊されるリスクが高まるが、同時に運用方法や戦術も進化し、新たなニーズとしてShahedのような自爆型無人機への対処も期待されている。この種の任務に武装可能なUCAVは適しているかもしれない」と報じている。

“TB3はTB2の発展型で、その違いは艦艇の飛行甲板から運用できる能力だけではない。TB3はTB2と比較して最大離陸重量が2倍以上、ペイロードもほぼ2倍(ハードポイント4ヶ所で150kg→ハードポイント6ヶ所で280kg)に増加し、巡航速度も130km/hから230km/hに大幅に向上しているだけでなく、搭載する武器システムもTB2に比べて増えている”

BaykarはTB2の対地攻撃能力を強化するためジェットエンジンで作動し、最大到達範囲が200kmもある徘徊型弾薬ル=KEMANKEŞを開発中だが、これはTB2とTB3のどちらにも搭載可能なため、TB2で運用できないTB3のみで使用できる武器システムはAkinciに統合されたIHA-122(多連装ロケットシステム向けに開発された122mmロケット弾=TRG-122)のみだが、TB3はTB2よりもペイロードが増加しているため拡張性や柔軟性の点においてTB2よりも有利なのは確実だ。

まだTB3は完成していないものの、Baykarが見据える展開先には「インド太平洋地域の飛行甲板を備えた艦艇」が確実に含まれているはずだ。

出典:U.S. Air Force

因みに有人戦闘機に随伴可能な無人戦闘機=ウイングマンにも「武装可能な無人航空機と同じ様な誤解」が生じていると思っており、米空軍が開発しているYFQ-42AやYFQ-44Aは有人戦闘機と競合するものでも、有人戦闘機の役割を奪うものでもなく、有人戦闘機に随伴して飛行することで「有人戦闘機が行使できる能力を拡張する存在」「有人戦闘機のペイロードを直接拡張するのではなく無人戦闘機を随伴させることで追加のペイロードを利用できる」「無人機闘機を100km先行させることで追加の状況認識力をもたらす」「囮として有人戦闘機の生存性を向上させる」ものだ。

AI技術による無人戦闘機の自律性も、パイロットが操縦する有人戦闘機のように無人戦闘機を操ることではなく「随伴飛行の制御を容易にするもの」「事前に設定されたミッションセットの範囲内で自律的な飛行を可能にするもの」でしかないのだが、無人戦闘機という言葉のイメージが「想定されている能力や役割の理解」を邪魔しているのだろう。

兎に角、有人戦闘機に随伴可能な無人戦闘機とは「有人戦闘機の能力を拡張させるためのもの」「パイロット1人が操縦する有人戦闘機の戦闘能力を後付で強化できるウイングマン」であり、高度なAIが搭載された無人戦闘機が有人戦闘機の代わりに敵戦闘機と自律的に交戦したり、激しいドッグファイトを演じるというのは想像力の中にしか存在しない未来の光景だ。

追記:フランス装備総局(DGA)はパリ航空ショーで「最近の激しい紛争を通じて中高度を長時間飛行できる武装可能な無人航空機=UCAVの必要性が浮き彫りになった」「現代戦においてUCAVは重要な役割を果たしている」と述べ、仏企業5社と契約して国内開発に乗り出すことを発表した。

関連記事:パリ航空ショーが開幕、初日から人気の高い無人機関連の発表が相次ぐ
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※アイキャッチ画像の出典:Baykar

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コメント

  • コメント (14)

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    • 2025年 6月 21日

    日本もひゅうが型の艦載機にどうだろうか
    手っ取り早く攻撃力と情報収集力の向上が見込めるけど
    実際に海自の関係者がTB3を視察してるって話もあるし

    5
      • 無印
      • 2025年 6月 21日

      Baykarの偉い人はひゅうが型といずも型の艦載機にいかが?って言ってたような
      でもTB3を導入したら、ミサイルなどもトルコ製を丸っと入れなきゃいけないのがしんどい

      3
        • Easy
        • 2025年 6月 21日

        実際はミサイルだけに留まらず、通信装置からソフトから何から何まで全部揃えなければならないのがキツイところです。
        TBシリーズは無人機としてより、その運用含めたエコシステム全体が評価されてますから。
        無人機作るだけなら日本でも作れるでしょうが、トータルシステムの構築は日本の縦割り社会が最も苦手とする分野です。

        11
    • p-tra
    • 2025年 6月 21日

    TB-2が75km先の敵を認識できるってホントなんですかね。
    確かにL3Harrisのホームページにはそう書いてあるんだけど。
    イエメンに撃墜されたMQ-9,最近イランが撃墜したヘルメス、ロシアが
    撃墜したTB2(シリアでもウクライナでも結構撃墜してる)にしろ
    このサイズのMALEはあっさり敵防空範囲に踏み込んで殺されてる
    ように見える。
    実際は複雑な地形、敵の隠蔽によって結構近接する必要があるので
    それなりの確率で撃墜される…というのが現実だと思う。
    ただペイロードがでかいから上手くそこを誤魔化せれば役に立つ、という
    のも正しいだろう。
    要するに要領の良い軍隊がお手軽に戦果を拡張できるユニットってことだ。
    敵がニアピアで制空権が怪しいみたいなシビアな状況なら多分無用の長物。

    7
    • Easy
    • 2025年 6月 21日

    日本にとって悩ましいのが、「微妙に自国で作れそう」な技術水準なんですよね。
    自国で作れるなら自国産するべきではあります。
    が、日本が自国で作るとゴミになるのは確定です。
    しかし,作らねば技術の蓄積が出来ず。大変悩ましいですね。

    8
      • 無印
      • 2025年 6月 21日

      だったら作ればいい
      最初から100点なんて誰も開発出来ないんだから

      16
      • 2025年 6月 21日

      駄作になろうがなんだろうが結局作らないと何もならないし長期的に考えても永久に海外製頼みも問題だよ。
      とは言えやはり今の日本には性能が高く実績があるUCAVが今すぐ必要なのはわかるがね。

      18
      • 伊怜
      • 2025年 6月 21日

      ウクライナでTB-2の撃墜が相次いだのは射程15kmしかない対地ミサイルで狩りを続けたからじゃないですかね…
      開戦初期はロシア側の防空兵器が活発でなかった事と前線防空兵器の射程がおよそ15km未満、またはギリギリ届くぐらいしか無かったため十分だったが

      6
        • 伊怜
        • 2025年 6月 21日

        返信先間違えました
        正しくは一個上です…申し訳ない

        • 名無し
        • 2025年 6月 21日

        そもそも安価なマルチコプターや自爆前提の小型機と違って、高価なセンサーを積む無人機ならミサイル使っても惜しくない(撃墜にそれだけの価値がある)ので普通に撃墜されるだけ
        有人機は大柄でより多くの妨害機器みたいなものも積んでたり、撃墜の損失が高いからそういう危険な運用を避けるからなんとかなるだけで

        3
      • たむごん
      • 2025年 6月 21日

      仰る点、本当に悩ましいですね。

      日本が『少量を自国生産』したとして、取引先は儲からなければ撤退して、サプライチェーンすぐに崩壊するリスクあるわけですし…

      11
      • まめ
      • 2025年 6月 21日

      攻撃ヘリを無人機に変えるって言ってたし、ひゅうがとかに艦載の海上監視機とか有効だし

      2
    • ののの
    • 2025年 6月 21日

    >>「無人機闘機を100km先行させることで追加の状況認識力をもたらす」

    ウィングマンの存在意義はこれよ。特にステルス機同士の空戦では必要不可欠。互いにレーダーで捉えられる距離が激減するから、先んじて小型の無人機を先行させて、敵の位置を早期に特定する必要がある。ステルス小型無人機は大型のステルス有人機と比べて被探知距離が短いので、懐に潜り込んでもなかなか探知されにくい
    そうして補足した敵めがけて、後方から母機がAIM-260だのPL-15だのをクラウドシューティングの要領でひたすら撃ちまくれば比較的被害少なく勝てる。
    まあステルス機相手だとミサイル搭載のレーダーシーカーの被探知距離も短くなるから、ミサイルの命中率も下がるんだが。

    4
    • kitty
    • 2025年 6月 21日

    MADEX2023denoSF的デザインの空母が気になって、見てきましたが、上甲板を真っ直ぐにしたところで多段空母という色物枠は変わってないじゃないですか〜。
    レシプロ機の時代に廃れた多段空母という概念を復活させるからにはそれなりの技術進化があったのかと思いますがEMALSなのかな。

    あと『他人の国の兵器をパクるとは許せないアル!!』

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