ウクライナのゼレンスキー大統領は「もし米国が(PAC-3 MSE備蓄量の)5%を売ってくれたら冬を乗り切ることができ、もし10%ならロシアの弾道ミサイルを全て破壊できる」と述べ、ポーランドはウクライナに対して2回目となるPAC-3 MSE供給を検討中で数日以内に決定が下される。
参考:Ukraine’s Air Force faces backlash over decision to stop publishing Russian ballistic missile figures
参考:Sell Ukraine 10% of US Patriots and ‘we will destroy all the Russians’ ballistic missiles,’ Zelensky tells CNN
参考:Magdalena Sobkowiak-Czarnecka o zmianach w alertach RCB: To musi być kwestia tygodni
5回目の冬を乗り切るための準備はもう始まっており、今年の冬が過去4回と異なるのは「ロシアもウクライナ軍の激しい長距離攻撃に毎日晒される」という点
ゼレンスキー大統領はNATO首脳会談前に「パトリオットシステムで使用する迎撃ミサイル(MIM-104F PAC-3 MSEのこと)の残弾がないので弾道ミサイルを迎撃できない」と公に認め、米国はPAC-3 MSEの大量供給は拒否したものの「毎月一定数を供給する」と約束、ポーランドも備蓄分からPAC-3 MSEを5発供給したが、ウクライナ軍は8月5日に28発のミサイル(ツィルコン、オニクス、イスカンデルM、RM-48U)を1発も迎撃できず、8月9日以降の発表から弾道ミサイル、巡航ミサイル、対艦ミサイル、対レーダーミサイル、誘導ミサイルの発射数と迎撃数のデータ公開を停止。
ブルームバーグも11日「ウクライナ軍は11日未明にロシア軍のドローン120機中98機を撃墜したと発表したものの、発射されたミサイル数に関するデータは公表しなかった。これは28発のミサイルを1発も阻止できなかった先週の攻撃(8月5日)を受け、弾道ミサイルの迎撃に関する報告を取りやめた数日後の出来事だ」「匿名の関係者によればウクライナ軍は敵の攻撃に対する安全保障上の措置として報告フォーマットを変更したという」と報じた。
ウクライナ空軍のイグナット報道官も13日「弾道ミサイルの発射数と撃墜数の正確なデータの公表を停止する」と表明し、データを公表停止にした理由について「誰もがすでにすべてを承知しており、特に首都にとってこの話題が非常に敏感であることを理解しているが、迎撃数が28発中0発という公式メッセージを出した結果、全メディアが『空軍はミサイルを1発も撃墜できなかった』と報じて国中に広めてしまう。そして敵メディアもこれを自国向けに報じてスタンディングオベーションを送るのだ」と説明し、今回の決定は「弾道ミサイルを1発も撃墜できないという一連の否定的な報道に関連している」と説明したものの否定的な意見も多い。
交戦国が都合の悪い公式データを公表しなくなるのはよくある話で、ロシアも2024年に戦死者数の推定に活用されていた人口統計データの「死亡数」と「外因死」を非公開にし、最近では精油所への攻撃に起因した燃料価格の高騰を国民から隠すため、連邦国家統計局=ロススタットのウェブサイトで公開されていたガソリンおよびディーゼル燃料の消費者価格に関するデータを非公開にしたばかりで、そもそもロシア国防省は無人機の撃墜数しか公表しておらず、発射数や着弾数に関するデータは公表していない。
交戦国にとって「わざわざ敵の情報戦に利用されるデータを与えてやる必要はない」といったところだが、ウクライナのマスメディア研究所は「コミュニケーションが途絶えて生じた空白は疑念や噂で埋め尽くされ、逆に不信感が増大する可能性がある」「国家は安全保障上の理由から情報を隠す権利を確かに有しているが、不快な報道を生み出すという理由だけで社会的に重要なデータを隠すべきではない」と指摘。

出典:Mil.ru/CC BY 4.0
イグナット報道官のFacebookには「誠実さと透明性のあるコミュニケーションこそがウクライナ軍とロシア軍を区別する要素だ」「市民は弾道ミサイルを撃墜する手段がないことを理解しているが、社会の安定を築く最善の方法は現実を黙殺するのではなく、率直に話し合うことだと信じている」といったコメントが多数寄せられ、こうした批判にイグナット報道官は「ロシア軍が発射した弾道ミサイルの総数は引き続き毎月発表する」「テレグラムで発信している弾道ミサイル発射の警告にも変更はない」と対応している。
ゼレンスキー大統領はCNNの取材に対して「もし米国が(保有するPAC-3 MSEの備蓄量の)5%を売ってくれたら冬を乗り切ることができる。もし10%を売ってくれたらロシアの弾道ミサイルを全て破壊できる」と述べたが、対イラン作戦=エピック・フューリー作戦の影響で米軍備蓄は推定2,330発から推定759発~827発まで減少しており、毎月生産されるPAC-3 MSEの数も推定54発~58発程度(年650発~700発)しかない。

出典:Center for Strategic and International Studies
米軍備蓄の推定数が正しいと仮定するなら5%は37発~41発、10%なら75発~82発となり、イスカンデルMの生産数は7月65発(毎月この数字が安定して生産されているかどうかは不明)、精密攻撃には使用できないRM-48Uの対地バージョンは月40発なので、もし10%を売ってくれたらロシアの弾道ミサイルを全て破壊できるという大雑把な話も理解できるが、重要なのは「5%もしくは10%の売却」が1回限りの供給ではなく「毎月の供給数」である点だ。
毎月5%=37発~41発を供給するなら毎月生産されるPAC-3 MSEの大部分をウクライナに回すことになり、パトリオットを運用する米国や同盟国・パートナー国(計17ヶ国)は毎月10発程度のPAC-3 MSEを奪い合うことになる。そして毎月10%=75発~82発を供給するなら毎月生産される数を上回るため、パトリオットを運用する米国や同盟国・パートナー国の備蓄は緩やかに減少し始めるだろう。

出典:Lockheed Martin
国防総省とロッキード・マーティンは「2030年までにPAC-3 MSEの年間生産量を3倍(推定1,800発)に引き上げる契約」を最大586億ドルで締結、さらに「2026年から7年後=2033年までに年間生産能力を約600発から2,000発に引き上げる枠組み」で合意しているが、最大586億ドルの初年度分や7年間の枠組みの財政的裏付けとなる2027会計年度の国防権限法案も予算案も成立しておらず、PAC-3 MSEの増産に関する取り組みは資金待ちの状況で、これが新しい会計年度の初日=10月1日まで成立する見込みは限りなくゼロに近く、すでに上院はつなぎ予算を可決して国防権限法案と予算案の審議時間を稼ごうとしている。
ワシントン・ポストも「国防総省が産業界と締結した枠組み合意を実行に移すためには、少なくとも裁量予算から支出される1兆1,500億ドルの国防予算が議会で可決されなければならないが、この予算案は巨額の支出増に反対する民主党の抵抗によって行き詰まっている」と指摘し、恐らく11月の中間選挙結果が出るまでは予算全体が動くことはないだろう。

出典:Lockheed Martin
仮に奇跡が起こって財源が確保されても、高度な兵器を生産するためのリードタイムは非常に長く、発注から納品までかかる平均時間はPAC-3 MSEで約42ヶ月間、THAADで約53ヶ月間と推定されており、さらに発注数が生産能力を大幅に超過している状態なのでサプライチェーン全体のパイプラインを太くすることから始めなければならず、数万点から数十万点に及ぶ特注の構成部品は市場に出回る汎用品で代用することもできないため、増産が始まった1年目=2027年にPAC-3 MSEの生産数が年700発から年1,000発に増えるということはまず起こらない。
現実的で短期的な動きとして確認されているのは「ポーランドがウクライナに対して2回目となるPAC-3 MSE供給を検討している」というぐらいで、ポーランドラジオのRMF FMに出演したソブコヴィアク=チェルネツカ国防副大臣は「以前のミサイル移送は適切だったかどうかについて政治的な騒ぎが起きたが、我々はもっと多くのミサイルをウクライナに移送する意向だ。なぜなら敵のミサイルがポーランド領に侵入するよりも、ウクライナ領空で撃墜される方が望ましいと考えているからだ」と述べ、2回目となるPAC-3 MSE供給は数日以内に決定される見込みだ。
🟡🔵#RozmowaRMF!
💬 To jest zawsze decyzja, która zapada na najwyższym szczeblu
– Kiedy zapadnie?
💬 To jest kwestia najbliższych dni – @magdasobkowiak, wiceminister @MON_GOV_PL o tym czy Polska przekaże Ukrainie pociski Patriot@RMF24pl @Radio_RMF24 pic.twitter.com/NWc9339ZU8— RozmowaRMF (@Rozmowa_RMF) August 13, 2026
ポーランドは米国務省が2017年と2023年に承認した対外有償軍事援助の上限(最大208発+最大644発=最大852発)で契約したものの、最初の契約分しか納品が終わっていないためPAC-3 MSEの保有数は208発(ここから5発をウクライナに移転済)となり、2回目の契約に含まれるPAC-3 MSEの納入開始は2026年を予定しているものの「エピック・フューリー作戦での消耗」「ウクライナに対する供給」といった要因で遅れる可能性が高く、ポーランドが203発の備蓄をどこまで切り崩せるのか、2回目の供給も5発程度になるのかが最大の関心事になるだろう。
ちなみに「ウクライナが冬を乗り切るために必要なPAC-3 MSEの数」もアプローチによって変動し、PAC-3 MSEで保護する対象をエネルギーインフラのみに絞り込み、軍需産業を含むあらゆる産業は分散と地下化、人間はシェルターへの避難で対応しながら、長距離攻撃能力で弾道ミサイルの製造に関連したサプライヤーを攻撃して生産を妨害し、イスカンデルM、KN-23、RM-48Uを発射するランチャーを直接破壊して発射を抑制できれば、冬を乗り切るのに必要なPAC-3 MSEの数を少なくすることができるかもしれない。

出典:TpyxaNews
そして5回目の冬を乗り切るための準備はもう始まっており、今年の冬が過去4回と異なるのは「ロシアもウクライナ軍の激しい長距離攻撃に毎日晒される」という点で、ロシアにとっては冬場の停電という困難に立ち向かう初めての冬になる。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin





















ソブコヴィアク=チェルネツカ国防副大臣曰く
”敵のミサイルがポーランド領に侵入するよりも、ウクライナ領空で撃墜される方が望ましい”
~こういう考え方も在りなんですね。
ロシアにとっては冬場の停電という困難に立ち向かう初めての冬になる。
~ざまあみろ、っですね
ロシア側の弾道ミサイル生産量がジワジワ増えていることを考えると、攻撃と防御がバランスすることは、もうあり得ないと思います。
ウクライナの都市部のシェルター整備状況はどう言い繕っても順調とは言い難いため、シェルターへの避難で防空兵器の消費を軽減することはリソース的にも政治的にも難しいように思えます。
例えばキエフの場合、今戦争中に新設されたシェルターは片手の指で数えられる程度ですし、殆どはソ連時代のもので新基準に適合しているケースは少数派です。
また、これらのシェルターは数字の上では都市の全人口をカバー出来ますが、位置は偏在しており、人口分布に即したものではありません。登録されている施設には、シェルターとしては強固でも生活には適さない地下歩道や、平時は立入禁止で放棄状態に近い施設が少なくないのも問題でしょう。
そして最も重要なのが、多くの人々がシェルターを使わないという点です。これには上記の理由や(ミサイル相手では時間的猶予が少な過ぎるというのもある)交通事故等と比較した死者数と確率の問題もありますが、それ以上に仕事の都合が大きいとされています。結局のところ、社会と経済は避難を前提とした余裕を持っておらず、政府もそこに手を付けようとしません。
攻撃的な案は別として、防御的な案としてのシェルター利用が難しい以上、農村部やEUへの分散を図る、攻撃的な外交で不満を逸らす、あたりが過去の実績も踏まえた上で採り得る選択肢でしょうか。
とはいえ大都市の住人や国内避難民(例えばキエフだと45万前後のはず)などは、戦災者への支援条件を用いた分散の推進などで意思を曲げなかった人々なので、農村部への疎開は難しいかもしれません。
対してEUへの避難者はここ数か月で急増しているため、そちらはある程度機能するはずです。近頃の各年齢層へ向けた国内定着キャンペーンの増加を見るに、政府にとっては望ましくない流れでしょうが。
AIサーバー用の電源確保のため、世界中の発電所建設が盛り上がっていて、(中古含め)発電設備・変圧器が取り合いになっているんですよね。
スペースXが、トレーラー搭載型の移動式ガスタービン・発電機の会社を買収した事も話題になるくらい、リードタイムが間に合わなくなってるなと。
ウクライナ・ロシア両国ともに、冬前~冬にかけて発電設備・変電設備などを破壊していったとすれば、早期復旧が可能なのかは少し気になっています。
米軍がイランのミサイルですらろくに落とせないのになんで一割程度でできるのか
ウクライナ軍の中の人は「我々は1発の弾道ミサイルに対して1発の防空ミサイルで迎撃している」と豪語してましたからね。
もっとも今考えればこれは単に防空ミサイルの不足により1つの目標に対して1発のミサイルしか割り当てられないという話で、「迎撃している(撃墜出来ているとは言ってない)」という意味だったようですが。
ではなぜPAC3がベストセラーになっているのでしょうか?
事実上買える選択肢が他にないから、というケースが大半だと思いますよ。
トルコみたいにペトリに早々に見切りつけてS-400を買ったら、とんでもない規模の経済制裁を米国などから喰らってしまった国もありますし。
他に西側で同様の選択肢としてはイスラエルのアローやダビデスリングなどが挙げられるでしょうけど、政治的な理由で買えない国のほうが多いでしょうし。
インドのようなしたたかな外交路線で長年やってきてる国のほうが珍しい。
前線は遅々として進まず、後方も弾道ミサイルも防空ミサイルも大量生産出来ないので破壊も防衛も遅々として進まず。
戦術的にも戦略的にも手詰まりの状況で人だけが死んでいく。
軍事面で決着つくことないでしょうから、どちらかが音を上げるまで続くんでしょう。ウクライナ側は民意のコントロールに最大限気を使って欲しいですね。
一時期欧州側の支援疲れなんて話もありましたが、トランプの登場で欧州一致団結してウクライナ支えようとなったのは、ある意味数少ないトランプの功績なのかもしれません。
個人的に後2年位はノーガードで殴り合う覚悟もなく迎撃弾の無心をするなら降伏すべきだとは思う。
弾道弾迎撃ミサイルを作るフレイヤ計画までの繋ぎは欲しいだろうがすんなり量産化出来るかは未知数で欧州には適当なミサイルが無く、他にイスカンデルMに対応出来そうなのはダビデスリングだが簡単に導入出来る物でも無い。世界のPAC-3MSEをウクライナが吸い取る以外に選択肢がないがそれをどこまで許容出来るだろうかが見えない。
代わりになるようなPAC-3ACEの量産開始は3年後で喫緊の在庫問題を解消する物ではない。いずれPAC-3ACEでMSE分を補充を出来るから在庫を吐き出せみたいな話も出るかもしれないが姿勢制御セクション(ACS)とリーサリティエンハンサー無しの特徴を失った廉価版の可能性が高い。
対弾道弾に関してはどこまで期待出来るのか未知数で代替ミサイルとしては釣り合いが取れるか判断が出来てからじゃないと在庫を渡す国なんて無いと思うしMSE供給される前提で戦争継続を考えているなら流石に見通しが甘い感じがする。
少し前に、三菱電機が相模原事業所の隣にあった別会社の土地を買い取って設備の拡張を始めたというのがあるのですが、パトリオットやSM-3のライセンス生産に関して、今までレイセオンやボーイングからの輸入に依存してきた部分のライセンス生産でもやる為なのではないかと見ていますけど。
ひょっとしたら、SM-6のライセンス生産も準備を進めてておかしくはない。