ポーランドは対米関係を外交の基軸に据えてきたが、ロシアとの緊張や欧米の対立を背景に「安全保障政策の欧州回帰」が進んでおり、欧米のディフェンスメディアは「ポーランドがAirbus参加を模索している」「参加に合わせてA330MRTTとA400Mを購入するかもしれない」と報じている。
参考:Polonia busca entrar en Airbus
参考:Airbus, Boeing angle for Polish tanker aircraft deal
参考:Pistorius spricht von »historischem Tag« – FDP nennt Einigung »verantwortungslos«
ポーランドの外交方針や安全保障政策の軸足が、防衛装備の調達先が米国から欧州に移るかもしれない
ポーランドは本格的なウクライナ侵攻勃発前から安全保障体制の改革に着手、2021年10月に新国防法導入を発表してポーランド軍の大規模な拡張を開始し、2022年に戦争が勃発すると当時のPiS政権は「ロシアが再び襲いかかってくることはないという主張は幻想だった」「来年の国防予算をGDP比2.4%から3.0%に引き上げる」「最終的に5.0%まで引き上げたい」と、ドゥダ大統領も2023年2月「ロシアの侵略や占領、ロシア軍の行動が何をもたらすかを忘れていない」「ロシア軍が来るということは死、残忍さ、慈悲のない戦いを意味する」「2023年の国防予算を4.0%以上に引き上げる」と言及。

出典:16 Dywizja Zmechanizowana
この資金でM1A2/SEPv3×250輌、M1A1/FEP×116輌、HIMARS×500輌、K2×180輌、K2PL×800輌、K9×648輌、Chunmoo×288輌、Borsk×1,400輌、FA-50×12機、FA-50PL×36機、AH-64E×96機、AW149×36機、Saab340 AEW&C、Arrowhead140×3隻、偵察衛星×2基といった調達契約を締結、さらに戦闘機の追加調達、F-16Block50+/52のアップグレード、輸送機の調達、新型潜水艦の導入、ロシア・ベラルーシ国境沿いの要塞化も進めており、2025年の国防予算はGDP比4.7%=1,866億ズウォティ(約7.1兆円)に達する見込みだ。
トランプ政権のヘグセス国防長官も欧州初訪問の地にワルシャワを選択し「ポーランドの取り組みは自国防衛に留まらない大陸防衛への貢献を示している」「我々はポーランドのことをNATOの模範的同盟国と見なしている」と褒め称えたが、トゥスク政権は前政権時代の「対米関係優先」を修正して欧州主要国との関係強化を取り組んでいる最中で、戦闘機の追加調達においても「F-35の追加購入かF-15EXの新規調達が濃厚」という見方に反して「タイフーン調達の噂」が浮上し、Airbus自体への参加も模索しているらしい。

出典:public domain
スペインのディフェンスメディア=Infodefensaは先月28日「ロシアとの緊張や欧米の対立を背景にポーランドはAirbus参加を模索している」「トゥスク首相はポーランドがフランス、ドイツ、スペインと共にAirbusの正式参加国になることを希望しているが、Airbus側は創設国と同じ権利でポーランドを迎える考えはない」「Airbusに参加するなら株式購入しかない」と、Defense Newsも「ポーランドで空中給油機の取得計画が浮上してBoeingとAirbusの競争が激化している」「ポーランドは株式購入によるAirbusへの資本参加と合わせてA330MRTTとA400Mを購入する可能性がある」と報じている。
さらにポーランドは「1時間を予定していたドゥダ大統領とトランプ大統領の会見が10分で終了したこと」「これを会談成功と取り繕わなければならない立場の弱さ」を屈辱だと感じ、トゥスク政権は「ウクライナ・欧州抜きの停戦協議」「ウクライナへの軍事支援停止」にも明確に不満を表明しているため、ポーランドの外交方針や安全保障政策の軸足が、防衛装備の調達先が米国から欧州に移るかもしれない。

出典:President of Ukraine
因みに独首相候補のメルツ氏は「(安全保障分野で)米国からの独立を達成することが優先事項になる」と述べ、Breaking Defenseも「メルツ氏はトランプ政権のAmerica firstを批判し『米国が信頼できる同盟国でなくなる最悪のシナリオに備えなければならない』と述べ、政権樹立前に関わらず社会民主党と協力して最大2,000億ユーロの特別防衛費を承認する予定だ」と報じていたが、キリスト教民主・社会同盟と社会民主党は国防・インフラ整備のために歴史的規模の財政パッケージで合意した。
このパッケージは「GDP比1.0%を超える国防支出を債務制限の対象外として扱うこと」「10年間で総額5,000億ユーロの特別インフラ基金設立」で構成され、これにより政府は債務ブレーキ条項を気にすることなく国防費を増額することができ、特別インフラ基金も債務ブレーキ条項の対象外として扱われ、総額5,000億ユーロの資金は鉄道や道路といった産業基盤の修復や強化に投資されるため間接的にドイツ軍の強化に繋がる。

出典:Elbit Systems
ピストリウス国防相は今回の合意について「ドイツ軍にとって歴史的な日」「国民と同盟国に強いシグナルを送った」「議会が合意内容を採決すればドイツはNATO強化において主導的な役割を果たせる」と述べた。
短期間で米国に依存してきた安全保障の自立、資金不足で縮小した防衛産業基盤の再建を成し遂げるのは不可能だが、これまで米国重視と欧州重視に分かれていた立場も「トランプ政権の分かり易い欧州への態度」で1本化しつつあり、国防費増額の足かせとなっていた財政規律の緩和も始まっているため、5年から10年程度の時間があれば欧州の防衛能力は飛躍的に向上するだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Bundeswehr/Jane Schmidt
欧州諸国の軍拡大いに結構だと思います。
ただポーランドのGDP5%など持続可能性があるのかというには少し疑問に思ってます。
今はウクライナ戦争のショックで軍事費大幅増でも国民の支持がありますが、それのインパクトが薄れたタイミングで必ず予算を軍事費か社会保障かとどちらを重視するのかという疑問が出ると思います。
欧州のような先進国で軍事費増加のための増税が簡単に通るわけがないし、日本ほどではないですが増え続ける社会保障費をどうするのかで数年後必ず揉めると思う。
数年後どころか停戦、終戦した瞬間手のひら返して揉めそうですね。
防災用品とかと同じで緊急時にしか使われないものって平時には軽視されてお金をかけるのが馬鹿らしくなってしまいがちですからね…
各国の軍備増強も停戦後、数年したら削減の荒しに合うんじゃないですかね?
>5年から10年程度の時間があれば
問題は、2035年頃まで欧州の不況が続けば、各国の政権が自国優先の極右に取って代わられる可能性が高いこと。達成した欧州の軍備を、仲の悪い隣国同士で撃ち合うことにならねばよいが。『ネオナチに継承するための軍備を10年かけて整えた』となれば、本末転倒な事態になってしまう。セルビアやボスニアなどで、相当にヤバイ雰囲気を感じる。あそこから火種が飛び火するリスクが高い。
戦闘機での対米自立と言う事ならFCAS参加もあるのかな。
平和を維持するには金が掛かりますね
根本的な話をするとウクライナへの民主化工作なんてやらずに緩衝地帯として放置して、資源貿易を通じて経済的協力関係を続けていれば、そんな費用を掛けなくてもよかったのかもしれませんが、タラレバなので論じてもしょうがない
人類は何時になったら争いの歴史から脱却できるんでしょうね
その平和を維持する為の負担をアメリカに押し付けて、軍縮して他の分野に回してたのをアメリカが長年不満に持ってて、それで欧州の事は欧州がやれって路線になったのが今ですからね。
人間が二人以上いれば限り争いは必ず起きるので、無理なんであるかもしれないと何事も備えるのが一番かと。
ウクライナ侵攻の最大の教訓は、核一本柱による軍事大国(NATO)への抑止は可能
ってことなわけで、ヨーロッパ単独で相互確証破壊野体制を築く衛生網と核弾頭、運搬手段の増産を急ぐのが一番効率が良さそうに見える
米製兵器はただでさえ高価な上、機微の経済まで失いつつあるようですね
自国第一主義を掲げて、いつ敵対するか分からない国の兵器はリスクでしかありませんし
10年後には米国に依存する少数の国へ政治的圧力で押し売りする位しか販路が残っていないのでは?
5~10年かかるということはその間ロシアの目線を逸らし続ける必要があるので、ウクライナには気の毒だがあと5~10年あの手この手で頑張ってもらおう。仮に全土が占領されても、ガザやアフガンやイラクみたいに苛烈な抵抗運動でロシアの軍事力を引きつけるくらいは出来るはずだ。ゼレンスキーをトップに据えてしまったのが運の尽きなのでしっかりツケを払ってもらいましょう。
非効率で無能な高額すぎる軍需産業を監査・調査をしなければ効率的な生産体制は作れない。観光地でココナッツジュースを作る労働者を弾薬工場に振り向けることは10年あっても容易ではない。百万発の砲弾の恥辱は他力本願では何も守れない教訓である。
欧州の再軍備には全ての加盟国がポーランド並みの投資と国防意識が必要だが、生活水準を落としてまで人口減少するロシアの脅威を真剣に捉える有権者がどれほどいるのかは不明だ。欧州の本気が今度こそ本当なのかは時が教えてくれるだろう。
A400Mはともかく、A330MRTT購入は別に米国との関係云々を抜きにしても当然の選択ではw。
ポーランドは現在フライングブーム対応の空中給油機を保有していないため、KC-46Aである必要もないんですよね。
A330MRTTならF-35やF-16にも給油できるしEU圏内での共同利用にも向くと思います。
「Buy American」を主張しないトランプ大統領は公約守ってるのかと疑問になりますが、「気に入らないディールは他所で勝手にやれ」なんでしょうね。
あれだけアメリカ製兵器を導入しまくってたのに、肝心の対ロシア戦で使えない可能性が出てきたなんて、ポーランドには「はぁ、何それ!?」でしかないですね