ポーランド空軍は保有するF-16 Block50+/52+のMLUを予定しており、このアップグレードに含まれる新しい電子戦システムを巡ってノースロップ・グラマン製のAN/ALQ-257(IVEWS)とL3ハリス製のAN/ALQ-254(VIPER SHIELD)が激突している。
参考:Northrop Grumman, L3Harris lock horns for Polish F-16 EW package
ポーランド空軍はBlock50+/52+に何処までのアップグレードを施すのか、IVEWSとVIPER SHIELDのどちらを選択するのか
ポーランド空軍は保有するF-16 Block50+/52+のMLU=Mid-Life Upgradeを予定しているものの、まだアップグレードの範囲については決まっておらず、Block70/72に準拠した内容になるか、独自のカスタム仕様になるか不明だが、ポーランド空軍が採用する新しい電子戦システムを巡ってノースロップ・グラマンとL3ハリスが激突しているらしい。
ロッキード・マーティンは台湾からの投資を引き出してF-16 Block70/72(通称:VIPER=V仕様)を開発、同機に採用されたAN/APG-83(通称:SABR)は「AN/APG-81に近い能力を持っている」と言われており、米空軍関係者もSABRを採用したF-16C/D(Block40/42及びBlock50/52)のアップグレードについて「AN/APG-68では1度に2つ以上の移動目標を追尾出来ず、敵が使用する巡航ミサイルの検出能力も0に等しかったかった」と述べて「SABRへの換装でその辺りの問題が解消している」と示唆したことがある。
このBlock70/72には台湾、スロバキア、モロッコ、ブルガリア、バーレーンから発注が入り、台湾は保有するBlock20、ギリシャは保有するBlock50/52からBlock70/72へのアップグレードも行なう予定だが、米空軍が実施しているF-16C/DへのアップグレードパッケージとF-16Vへのアップグレードパッケージは基本的には別物(SABR換装など重複する部分もある)で、新規製造のBlock70/72と既存機からのアップグレードも完全な同一仕様ではなく、最大の違いは採用する電子戦システムが異なる点だ。
米空軍はAN/APG-83に統合された内蔵式のAN/ALQ-257(IVEWS/ノースロップ・グラマン製)を、新規製造のBlock70/72=輸出仕様も内蔵式のAN/ALQ-254(VIPER SHIELD/L3ハリス製)を採用する予定だが、既存機からのアップグレード機は電子戦ポッドを携行する必要があり、今のところIVEWSやVIPER SHIELDに電子戦ポッドタイプは存在せず、L3ハリスは「もしポッド式のAN/ALQ-254に発注があれば5年後に量産品の納品が可能で月産2~3セットを供給することができる」と述べている。
つまり電子戦システムを内蔵する設定されていない旧型機からBlock70/72にアップグレードした機体は「最新のIVEWSやVIPER SHIELDを当面利用することが出来ない」という意味で、この問題で台湾は躓いているのだが、ポーランド空軍が保有するF-16 Block50+/52+は電子戦システムを内蔵する設計なので特に問題がない。
輸出型のBlock70/72にはVIPER SHIELDが採用されているものの、ノースロップ・グラマンはポーランド空軍に米空軍採用のVIPERを売り込んでおり、ポーランドで開催されたMSPO 2024でも「VIPERは第4世代機で採用されたEWシステムと比較して感度と範囲が4倍だ」「従来の脅威に加えて未知の新しい脅威に対しても効果的だ」とアピールした。
IVEWSもVIPER SHIELDもF-15EX向けのEPAWSSと同じようにAIと機械学習を応用した統合型EWシステムで、予め収集された信号に基づいた警告や妨害にしか対応していない従来のEWシステムとは異なり、未知の信号に対しても瞬時に解析を行い使用された無線周波数を特定、その情報を元に機上で再プログラムが可能なデジタル無線周波数メモリ(DRFM)やデジタル周波数技術ジェネレーターを同時に駆使して広範囲に自機の位置や速度を偽装した誤信号をばら撒きF-16を保護することができる。
果たしてポーランド空軍はBlock50+/52+に何処までのアップグレードを施すのか、IVEWSとVIPER SHIELDのどちらを選択するのか、どちらに転がっても非常に興味深い。
因みにポーランド空軍は導入中のF-35AやFA-50とは別の戦闘機導入を検討中で、この需要を巡ってF-15EXとタイフーンが激突しているものの、新たに誕生したトゥスク政権は仏独との軍事関係(合同演習、相互運用、産業協力)強化を打ち出し、仏独もPiS政権時代に遠ざかっていた協力関係の強化を歓迎しているため政治的にタイフーンを選択するかもしれない。
関連記事:F-16V向けの次世代EWシステム、2025年頃にVIPER SHIELDが登場予定
関連記事:台湾が米国の武器販売に不満、ボーイング救済を押し付けられた?
関連記事:AN/APG-83を搭載したF-16が増加、米軍仕様と輸出仕様では異なる点も
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Duncan C. Bevan
ポーランド陸軍空軍ともに、着々と軍備を整えていて、興味深いですね。
F16ロングセラーの名機として稼働率も高く、メンテナンスなども習熟しているでしょうから、アップグレードしていくメリットを感じますね。
管理人様の過去記事に、アメリカ空軍の稼働率が掲載されていますが、F16コストパフォーマンスだけでなく稼働率の面から見ても優れていることが分かりますね。
F-15C 212機 71.47%
F-15E 218機 71.16%
F-16C 725機 70.03%
F-22A 186機 51.74%
F-35A 147機 49.55%
(2020.05.8 F-22稼働率引き上げは絶望的か、米空軍は正式に戦闘機稼働率80%という目標を放棄 航空万能論)
流石ベストセラー機なだけあってF-16は色々改修プランがありますよね。
50年後も現役で飛んでそうな気がします。
双発エンジンで保守コストのかかるF-15の方が先に引退しそう。
そういえばF-15はE型でかなり再設計されたらしいけど、F-16はそういうのはないな。F-2は除く。
F-2の電子戦装備は90年代に開発されたものそのままだろうか?
AAM-4B搭載を出来る様にした後に、J/APG-1からJ/APG-2にバージョンアップしたりしてますね。
確か、2010年台にバージョンアップを図ったF/A-18系列に搭載してるAN/APG-79より性能が上だとうたってますし、他にも色々バージョンアップしてますからね。
F-2に電波妨害をするジャマーがあるのか知らないが、あったとしても90年代から更新されているんだろうか。
↓のようなことができればいいのだが。
>広範囲に自機の位置や速度を偽装した誤信号をばら撒きF-16を保護することができる。
F-2自体が支援戦闘機っていう、他国からすると、攻撃機、戦闘爆撃機に当たる、対地、対艦への攻撃を伸ばした機体なので、ジャマー等を伸ばしていない感じですね。
そちらの方はF-15J/DJ、F-35を改修等して電子戦装備を伸ばしてる感じなので、分けられてる感じです。
RWR等によりECM/チャフ/フレア等を統合・自動制御する電子戦システム(J/ASQ-2)を積んでます。
電子戦能力フォローアップの研究開発はしている様ですが、現時点ではご懸念の通り開発当時から大規模な改修はされてないのでIVEWSやVIPER SHIELDの様なイマドキの性能・機能は有していないでしょう。
ポーランドがF-16をアップグレードして軍備を整えるのは、非常に合理的な選択ですね。F-16は長年にわたって信頼性とコストパフォーマンスの高さで評価されており、稼働率も高いので、アップグレードによってさらに性能を強化できるのは大きな利点です。
日本でもF-2がF-16をベースに開発されましたが、そろそろF-2の電子戦装備のアップグレードが求められているかもしれません。特に周辺国の技術が進化している中で、日本もこうした最新の技術に追随し、F-2や他の機体の改修を進めることが重要だと思います。
F-15も日本で運用されていますが、双発エンジンによる保守コストは確かに課題ですね。将来的にはF-35や新型戦闘機との役割分担がさらに進むでしょう。
F-35入れたのでアップグレードしなさそう
今年の3月に9機のF-2の改修予算が決定したらしいし、やってる最中では?
あれは改修という名の延命でしょう。
後継機も派生機も作らずに生産ライン閉じちゃったんですから、もう進化どころか生存の袋小路ですよ。限界集落に地域おこし隊を派遣するようなもんです。
J/APG-1からJ/APG-2に2010年台にバージョンアップしてますし、JDCS(F)搭載、ASM-3、12式地対艦誘導弾能力向上型の搭載の為にリンク機能を強化したり、対ステルスの為に3次元高精度方探システムの研究をしたりしてちょくちょく改良はしてますね。
まあ、老朽化と能力向上限界からかF-3(仮)に力を入れてるから、余り改修に積極では無いのでしょうけど。
少し前に「F-2の電子戦能力フォローアップ」の研究開発要求は出てましたね。R9納期とかだったので上手くいっててもまだ少し先ですが。
過去にもJ/ASQ-2の改修とかはしてます。まあAAM-4対応とかで革新的な機能向上とかはしてなさそうですが、ソフトウェアやデータのアップデートくらいはしてるかと。
ポーランドがF-16をアップグレードして軍備を強化するのは、非常に合理的な選択ですね。F-16は長年にわたって信頼性とコストパフォーマンスの高さで評価されており、稼働率も高いため、アップグレードによってさらに性能を向上させることが大きな利点です。
日本でもF-2がF-16をベースに開発されましたが、F-2の電子戦装備もそろそろアップグレードが求められているかもしれません。特に、周辺国の技術が進化している現状では、日本も最新技術を取り入れ、F-2や他の機体の改修を進めることが重要だと思います。
やろうと思えば、最初期のF-16A/BからでもF-16Vへのアップグレードが可能とは聞いてたけど、細かいバージョン違いも多いF-16だから、当然、全部が全部、フルフルでバージョンアップできる訳じゃないし、いや…やろうと思えば出来るけど、機体の残寿命やらコスト的に見合わないという判断もあるという感じ。
本当に、各国の事情にあわせて選択肢が多い、という観点でF-16は本当に優れた戦闘機だと思う。
ただ、ウクライナへの供与で指摘されて初めて知ったけど、西側戦闘機では無類のハイコスパなF-16ですら、東側基準だと「整備が大変」「コストが高い」扱いなのが、面白い。
そのコスト差に比例する戦闘力があるのか、これから実戦で証明されるだろう点も含めて。
後々の部品供給やアップグレードとかのアフターマーケットの事を考えると生産数の多い機種は良いね。
やっぱり設計に余裕があるといいね
某機体はぎりぎり攻めてるから、電子装備アップグレードすると他のリソース削らないといけなくなる
Long-Life-Upgradeと言わずにMidと言うところがまだまだ続くんじゃよと言いたいのでしょうねえ。
ただ価格差がF-35と縮んできたのはどうかなあ。