欧州関連

パトリオット迎撃ミサイルの代替品、アスター生産量は2022年初頭と比較して5倍

世界的に迎撃ミサイル不足が問題化している中、MBDAのエリック・ベランジェ最高経営責任者は26日「主要ミサイルの生産量は2023年から2025年末までに倍増した」「Asterの生産量は2022年初頭と比較して5倍になった」「2026年には40%の生産量増加を計画している」と言及した。

参考:MBDA: stepping up to a new strategic dimension
参考:MBDA to double Aster air-defense missile output in 2026
参考:MBDA will Output im laufenden Jahr um 40 Prozent steigern

MBDAはAster増産で善戦しているのか、それとも物足りないのか

フランスのマクロン大統領は2022年6月「戦時経済への移行」を産業界に要請、NexterはCaesarの納期短縮と増産に取り組んで生産量を月8輌に増やし、MBDAもミストラルの生産ペースを倍増させ、ThalesもGM200の納期短縮に成功したが、MBDAが製造する迎撃弾=Asterの増産は難航していた。

ルコルニュ国防相は2024年1月、Le Parisien紙とのインタビューの中で「私にとってAster-15とAster-30が最優先事項だ」「Asterの生産には時間がかかり過ぎている」「MBDAに納期を半分にするよう要請した」と言及、これは「2023年1月に受注した9億ユーロ相当(約200発分)のAsterを2026年ではなく2024年後半に納品しろ」という意味で、さらにルコルニュ国防相は増産は難航している原因について以下のように述べた。

“生産スピードに改善が見られない原因はジャスト・イン・タイムで仕事を進めたい誘惑に惑わされているためだ。企業は十分な原材料や部品の在庫を持たないことで固定化された財務リスクを負いたくないのだろう。しかし、ウクライナでの戦いを目の当たりにした後で改革を継続しないという選択肢はあり得ない。産業界の生産効率に改善が見られなければ権限を行使して元請け企業や下請け企業から人員、在庫、生産設備を徴発し、商業ニーズよりも防衛ニーズの契約を優先するよう強制する。MBDAの下請け企業に防衛ニーズを優先させるという考えは至極当然な話だ”

出典:MBDA

MBDAの広報担当者も「ルコルニュの主張を好意的に受け止めている」と述べ、産業界全体で商業ニーズよりも防衛ニーズを優先する方針を支持したが、産業界の関係者は「元請け企業は別にしても下請け企業まで『防衛ニーズの優先』を浸透させるのは難しい。下請け企業の生産量に占める防衛ニーズが仮に1%に過ぎなかった場合、99%の商業ニーズよりも1%の防衛ニーズを優先させるなら追加コストが発生するだろう」と指摘していた。

この問題についてFinancial Timesも2025年4月「Aster増産の困難さは平時に問題にならなかった非効率性を浮彫りにしている」「各製造段階毎にミサイルはアルプス山脈を越えて何度もフランスとイタリアの間を行き来する」「MBDAは出資者=BAE、Airbus、Leonardoの利益を調整しなければならないため、産業的利益が殆どなく時間を浪費するだけのやり方を簡単に改める事ができない」「MBDAは製造拠点の簡素化を提案したがフランスはグループ内での主導権が脅かされるとして拒否、英国も協力的でなく、イタリアのみ簡素化が自国に有利だと判断した」と指摘。

MBDAで働く匿名の人物も「Asterは大量生産を必要としない時代に設計されたため複雑さのデメリットは考慮されてない。製造行程は関与する国を満足させるためパズルのように細分化されており、Asterは戦場で有効性を証明した優秀なシステムでも工業的には悪夢だ」と述べ、何度もフランスとイタリアの間を行き来する製造行程の見直し=製造の集約化も「新たな生産ラインの再認証」というリスクが潜んでおり、長期的に有効でも短期的には生産量が品質が低下する恐れがある。

つまりMBDAは出資国(英国、フランス、イタリア)に分配されたワークシェアを通じて産業能力や雇用を維持しなければならず、これを無視した効率優先の集約化は不可能で、システムの設計や製造にも「国際協力のDNA」が深く刻まれているため「大規模生産への転換」が難しいのだが、MBDAのエリック・ベランジェ最高経営責任者は26日の決算発表の中で「主要ミサイルの生産量は2023年から2025年末までに倍増した」「2026年には40%の生産量増加を計画している」「2025年に発表した計画の2倍となる50億ユーロを2026年から2030年に投資する」「2026年だけで2,800人の新規雇用が見込まれる」と言及。

出典:MBDA

Asterについても「Asterの生産量は2022年初頭と比較して5倍になった」「これは生産設備(専用機械の導入)への多額な投資と3交代制の導入によって達成された」「Asterに関しては専用機械の導入がほぼ完了し、まだ届いていない発注済みの機械もまもなく到着する」「さらにAsterの第2組み立てラインをイタリアに建設中だ」「Asterを含む防空分野については高い需要が見込まれているため、正式な契約なしで生産を開始している」「昨年は正式な契約なしで10億ユーロ分の支出を行った」と述べたが、Asterの具体的な生産数については明かしていない。

とにかくAsterの年間生産能力については情報やデータが極端に少なく、フランス装備総局のエマニュエル・チバ代表が2024年12月の公聴会で「2028年には年間300発超の生産能力を達成する」と言及、軍事アナリストのファビアン・ヒンツ氏も2025年7月「Asterの年間生産数は2025年=推定190発~225発、2026年=推定230発~270発」と見積もっており、どの数字もAster-15、Aster-30 Block1、Aster-30 Block1NTの合計値だ。

出典:Lockheed Martin

パトリオットシステムで使用するPAC-3 MSEの年間生産能力は約600発で、国防総省とLockheed Martinは7年後の2032年までに年間生産能力を2,000発に増強することで合意しているため、もしAsterの年間生産能力が2028年に300発超を達成するなら「Asterの年間生産能力はPAC-3 MSEの約半分ぐらい」と考えても良さそうだが、正直に言うとAsterとPAC-3 MSEを比較するのは間違っている。

Aster-15は短・中距離をカバーする迎撃ミサイル、Aster-30 Block1は短距離弾道ミサイルの迎撃能力を備えた長距離をカバーする迎撃ミサイル、Aster-30 Block1NTは中距離弾道ミサイルの迎撃能力を備えた長距離をカバーする迎撃ミサイルなので「Aster-15とESSM」「Aster-30 Block1とPAC-3 MSE」「Aster-30 Block1NTとSM-3」で比較するのが適当だが、Asterは陸上配備型のSAMP/Tと艦艇の両方で使用されるため、厳密に言うとAster-30 Block1の生産能力は「PAC-3 MSE」と「SM-6」の合計数で見るべきかもしれない。

国防総省のFY2026予算説明資料の中で言及されたPAC-3 MSEの調達数
調達数FY2024FY2025FY2026
PAC-3 MSE230214233+96
FY2026の通常予算で調達するPAC-3 MSEの数は233発、議会が許可した特別予算から調達するPAC-3 MSEの数は96発、米陸軍が調達するPAC-3 MSEの推定単価は387万ドル

ちなみにPAC-3 MSEの年間生産能力が約600発だったとしても半分以上が同盟国向けで、THAADミサイル、トマホーク、AMRAAM、SM-3 Block IB、SM-3 Block IIAなどは十分な購入資金がないので逆に生産能力を持て余しており、国防総省と締結した7年間の枠組みで生産能力を4倍に拡張しても調達資金が流れ込んでこないと意味がなく、弾薬備蓄の問題は生産能力だけではなく調達コストが高すぎることにも問題がある。

切り口を変えると課題や問題も変わるので「年間生産能力がAsterがPAC-3 MSEに多く劣っていても開発国の年間調達数にそこまで大きな差はない」とも言えるため、MBDAがAster増産が善戦しているのか、物足りないのかは断言しにくい。

関連記事:国際的な防衛産業再編の弊害、細分化された製造分割は工業的に悪夢
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※アイキャッチ画像の出典:MBDA

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コメント

  • コメント (10)

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    • MK
    • 2026年 3月 27日

    平時の防衛産業って公共事業的な側面が大きすぎなんですね。雇用を守る=非効率って図式ばかり。これも米国のように新興企業出て来て廉価版ミサイル量産されたりするのだろうか。

    4
      • Kaeru
      • 2026年 3月 27日

      イザとなってからじゃ大量に作れない、でも、平時に大量に買っておいてもいざって時には時間が経ちすぎて陳腐化、とかもあるだろうし難しいですなぁ
      FPVドローンもそうかもしれないし、長距離ドローンや対ドローン兵器なんて余計そうだろうし

      15
        • 理想はこの翼では届かない
        • 2026年 3月 27日

        “いざという時に大量生産できる体制”を維持しようとすると、生産しようがしまいが相応のコストが掛かり続けますし、ご指摘の通り陳腐化のリスクもあるしで悩ましいですわな
        今も作れ作れとせっつかれているけど、ウクライナ・イランが落ち着いたら途端に作る必要性が激減する訳で倒産の危機になりかねないし

        8
    • ブルーピーコック
    • 2026年 3月 27日

    AMRAAMやトマホークなどの生産能力が『余ってる』のか『戦時のために余裕を持たせる』のか。そこは聞かなきゃ判断できんな。言わないだろうけど。

    「後の事は考えるな撃ち続けろ!」だと、USA!!よりロボットアニメだな。

    2
    • たむごん
    • 2026年 3月 27日

    防衛産業の特徴は、新規参入が難しく許認可・規制が複雑なため、『産業障壁が高い』ことなんですよね。

    (共産圏の自動車のように)売れてる商品でも、将来の競争すら見込めなければ、設備投資する必要もなく生産性が上がらないということになります。

    アメリカの強みは、スペースX・Andurilのような若い巨大企業が安全保障分野でも活躍しているわけですから、今後どうなっていくのか見守りたいと思います。

    4
    • せい
    • 2026年 3月 27日

    国際共同生産て各パーツをそれぞれの割り当てられた国で作るから、早く大量生産できるイメージだったけど、それぞれの国を何度も往き来するってそれ設計からやり直した方がよくないか?

    9
      • MK
      • 2026年 3月 27日

      ホントそうですよね。AとBの国で作った部品をCの国で組み立てる、くらいー1ッpーーーーーpーーpー0ーはい、わかりましたに思ってたのに何往復もするとか意味わからんですよねえ。

      3
    • dd4
    • 2026年 3月 27日

    普段から需要が少ないから生産能力が少なくて、それなのに改善だの設備投資を、と言われても難しくないかなぁと

    アスターってESSMのような小型化をしてないからか、艦艇に積んでも搭載数が少ない印象が強いんだよなぁ
    ある程度大きな船にしか積めないなら、予算の少なくて大型艦に手を出しにくい大半の海軍からは、搭載候補として選びにくい
    だから需要が少ない、イメージがある
    おまけに同じEUというかフランスのVL-MICAのような廉価版的な競合相手もいるしなぁ…

    5
    • 名無
    • 2026年 3月 27日

    <何度もフランスとイタリアの間を行き来する製造行程
    これ考えついた人「八方丸く納まる方法考えたオレ天才www」とか思ったんだろうな
    部品を各国で作って部品作らない国に組み立て工場とかでまとめれば良かったのに

    7
    • ななし
    • 2026年 3月 27日

    日本の護衛艦が期限を守って納入されているのは、1隻の船を最初から最後まで一つの工場で建造する方式に一つの要因があるとい記事を他の場所で見ました。
    平時においてワークシェアリングは国内の兵器産業を生き残らさせるという意味があったのですが、大増産の時代には足枷にしかなっていないのが現状ですね。

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