欧州関連

武器システムの主権回復、AirbusがITAR Freeの対ドローンシステムを発表

AirbusはShahedのような自爆型無人機への対抗策=LOAOのコンセプトを発表し「地上配備型レーダーでカバーされていない地域を保護できる」「LOAOは米国の技術を一切採用していない」と説明、米メディアはLOAOがITARの規制を受けないことに注目している。

参考:Airbus announces missile-slinging drone for air defense
参考:Micro Missile-Slinging Drone-Killing Drone Concept Revealed By Airbus

Airbusの主張はLOAOがITARの規制を受けないことを意味している

英国は革新的なASRAAM(射程40km超えのIRH式空対空ミサイル)を1980年代後半に実用化、これに匹敵する交戦距離を備えたAIM-9は2003年まで登場せず、海外輸出が有望な防衛装備品と期待されていたものの米国の国際武器取引規制=ITARが障害となり、オーストラリアとインドへの2ヶ国にしか輸出が実現しなかった。

出典:Ministry of Defence UK/OGL v1.0

ITAR規制に引っかかったのはFPA方式のHughes製赤外線シーカーで、この技術や設計はBAeからHughesに移転されたものなのに海外輸出には米政府の同意が必要で、ITARに指定された米国の技術や部品を1つでも採用すると「開発した武器システムの主権が保てなくなる」という意味になり、英国は国内開発した赤外線シーカーを採用したBlock6でASRAAMのITAR Freeを達成、英仏が開発したStorm Shadow/SCALP EGもITARに指定された部品を採用したためエジプト輸出が阻止されたものの、現在は当該部品を排除することでITAR Freeを達成している。

タイフーンやラファールもITAR Free(統合された武器システムの一部に規制対象の技術や部品が含まれている)に向けた作業が続いているものの、欧州はウクライナとロシアの戦争を通じて「武器システムの主権確保が如何に重要か」「これが有事の際の政治的選択肢を左右する」と再認識し、BAE Australiaが昨年9月に発表したブッシュマスター搭載の自律型戦闘車輌も、ドイツ、フランス、イタリア、ポーランドが共同開発する地上発射型巡航ミサイルもITAR Free設計で、もはや海外市場におけるトレンドの1つと言っても過言ではない。

Airbusもドイツで開催された無人機システムの見本市でShahed-131/136のような自爆型無人機への対抗策=低コスト防空システム(LOAO)のコンセプトを発表、このシステムはターゲットドローン=Do-DT25を改良したものので、複数の誘導ミサイルを搭載したLOAOは約1時間ほど空中に留まることができ、自律的に自爆型無人機を捜索・検出、オペレーターが承認すれば目標と交戦することができ、プロトタイプが年末までに初飛行、2027年までに量産機を完成させる予定だ。

誘導ミサイルを含むLOADシステム全体は使い捨てできるほど安価に設計されているが、任務終了後にパラシュートで回収することも可能で、Airbusは「地上配備型レーダーでカバーされていない地域をLOAOで保護できる」と説明し、欧州が米国依存から脱却しようとしていることを背景に「LOAOは米国の技術を一切採用していない」と主張している。

Defense Newsも「Airbusの主張はLOAOがITARの規制を受けないことを意味している」と、WarZoneも「興味深いことにLOAOは米国の輸出規制から独立したソリューションだ」「ITARの規制を受けないLOAOは米国の承認なしで何処へでも輸出できる」「これは米国依存を減らそうとする国にとって重要だ」と述べており、ITAR Freeの武器システムは今後も増え続けるだろう。

関連記事:欧州が取り組む武器システムの主権回復、ITAR Freeがトレンドに浮上
関連記事:BAE Australia、ブッシュマスター搭載の自律型戦闘車輌を発表
関連記事:英国、ASRAAMの最新バージョン「Block6」が間もなくデビュー

 

※アイキャッチ画像の出典:IMA Media 演習に登場したShahed-136

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コメント

  • コメント (16)

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    • メロン
    • 2025年 3月 27日

    >任務終了後にパラシュートで回収することも可能
    面白い
    使い捨てで行けそうなのに再利用も両立しようと考えてるのは野心的な良い設計だ

    10
    • トーリスガーリン
    • 2025年 3月 27日

    ITARフリーが一気にトレンド化しましたね(各計画はずっと前から始まっていたわけですが)
    チャイナフリーではなくステイツフリーの時代かぁ…

    GCAPってITARフリーになれるんですかね?流石にあの規模の兵器システムだと無理か

    13
      •  
      • 2025年 3月 27日

      センサー類や火砲については比較的問題なさそうだけどもその他もろもろがどうなるやら…

      1
    •  
    • 2025年 3月 27日

    兵器の性能は最低限実用的なら、必要な時に必要な数を持続的に供給し続けられるかどうかだけが絶対的な強さであって、どれだけ一つの兵器の性能が高くとも戦略的に無意味だ。撃たれる兵士にとってはアルマータかT-34かなんて意味がない。乗る方は別とはいえ…。そういう点では武器の主権というのは本当に大事なところ。韓国兵器産業はもともと技術移転と国産化に積極的で、多難ではあったが今の流れは追い風だろうか。日本は歩兵戦闘車のあれこれをみても自国の兵器産業にやや慢心が見られる節があるからこの先不安である。

    23
    • kitty
    • 2025年 3月 27日

    米国軍需物資リスト (USML)になる部品・技術を使っていないというだけで、本当に中国生産・米国企業の部品を排除できているのかなあ。
    ロシアですら密輸した米国製チップ使っているのに。

    13
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 3月 27日

    全部とは言わなくても5~7割をITAR Freに出来れば欧州としては一安心でしょう
    それに何年掛かるかは……まぁ努力するしかないでしょうね

    5
    • ブルーピーコック
    • 2025年 3月 27日

    しかしだねぇ、欧州はITARをフリーにしたところで人権問題がフリーでは無いのでねぇ。そっちが輸出で引っ掛かって開発国同士で揉めそうな気がしなくもない。

    10
    • ゲストさん
    • 2025年 3月 27日

    トランプ大統領は製造業の復興を旗印にしていたので、アメリカの軍需産業としては好景気を期待していたのでしょうが、蓋を開けてみると軍縮と顧客離れで売上の減少を招きそうですね。
    今はあ痛っ!って思ってるかも知れません。

    12
      • メロン
      • 2025年 3月 27日

      復活させたいのは「製造業」であって、「軍需産業」じゃないんだろうなって
      財政健全化を掲げている以上、軍需もその影響を免れ得ないというか

      11
    • レプタリアン
    • 2025年 3月 27日

    想像図が凄くV1ぽくてかっこいい
    ロンドン爆撃したい

    5
      • ブルーピーコック
      • 2025年 3月 27日

      そんな貴方に集団攻撃も可能なヘルシング社の自爆攻撃型ドローンHX-2。ドイツ製です。

      2
    • ザコ
    • 2025年 3月 27日

    >複数の誘導ミサイルを搭載したLOAOは約1時間ほど空中に留まることができ、自律的に自爆型無人機を捜索・検出、オペレーターが承認すれば目標と交戦することができ

    昔エリア88で地中に埋め込んだSAMを空中機雷(地雷?)と称していましたがこれなんかもう本物の空中機雷ですな…
    こんな一昔前ならSFみたいな存在が実用化とは技術の進歩は速いもんですな

    5
      • ブルーピーコック
      • 2025年 3月 27日

      エリア88では陸上空母に無人機として改造されたホーネットが搭載されてましたが、あれってまさにスウォーム攻撃ですよね。さすがにサイズ感が違いますが。

      2
        • kitty
        • 2025年 3月 28日

        地上空母と山岳航空基地は実現していないですが、他は実現しましたかねえ。
        空母売却は米国じゃ無くてロシアがやりましたが。

        3
    • ふむ
    • 2025年 3月 27日

    >複数の誘導ミサイルを搭載

    本当に低コストで収まるんでしょうかね?

    1
    • 58式素人
    • 2025年 3月 28日

    ”誘導ミサイルを含むLOADシステム全体は使い捨てできるほど
    安価に設計されているが、任務終了後にパラシュートで回収することも可能”
    パラシュートその物の重さは問題にならないのかな?。
    一人用のそれは、約20kgと聞いたことがあります。
    シャヘド136なら、重量200kgで弾頭が30〜50kgとあります。
    パラシュートより、キャッチネットの方が良いのかな、思ったり。
    空母などで、艦載機の非常着陸用のものなど。

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