欧州関連

英空軍はテンペストと無人戦闘機を優先、F-35Bの調達規模は60機~72機程度?

英国のベン・ウォレス国防相は英国軍の具体的な再編内容を22日に発表、今回は空軍の再編内容をより深く掘り下げていく。

参考:The RAF is to lose 114 aircraft including some frontline Typhoon fighters in defence review plan to increase the use of pilotless aircraft armed with missiles and bombs
参考:New British plan looks to boost F-35 numbers, but is it still aiming for 138?

F-35Bを予定通り調達しながらテンペストプログラムを進めるのは現実的ではないが、F-35コミュニティも無視できない

英空軍は現在136機のタイフーンを運用中だが最も能力的に劣っている24機のトランシェ1を2025年までに廃止することで戦闘機の運用コストを削減、浮いた資金をタイフーンのアップグレードに回す予定で英国が独自に開発中の「Captor-E MK.2」への換装や空対地ミサイル「スピア3」が含まれている。

補足:英国が実用化を目指して開発中の「Captor-E MK.2」は米国がF-35向けに開発した「AN/APG-81」と同じMulti-Functional Array(MFA:多機能アレイ)方式で、空対空モードや空対地モードを行使するレーダーとしてのパワーや精度を維持しつつ、広帯域での電子戦能力を同時に運用することが出来る設計で従来のAESAレーダーよりも多くの送受信​モジュールを搭載していると主張しており、MK.2は世界で最も優秀な戦闘機用​AESAレーダーになるらしい。

トランシェ1を廃止すると英空軍が保有するタイフーンは112機まで減少するが、同機を装備する7つ飛行隊(カタール空軍との共同飛行隊を含む)は維持される予定で実務に大きな影響はない。

出典:Trevor Hannant / CC BY-SA 2.0

老朽化した早期管制警戒機E-3Dを更新するため注済済みのE-7Aを5機→3機に変更、テロとの戦いに投入されている9機のRQ-9は2024年までに16機のプロテクターRG.1(RQ-9B)で更新され、輸送戦力はC-130Jが全廃され22機のA400Mと8機のC-17Aで再編される予定で、老朽化したチヌークの幾らかが退役して新たに調達される新型のチヌーク(MH-47G)に置き換えられると言われているが正確な数については不明だ。

逆に英空軍が新たに投資を注ぎ込むのは第6世代戦闘機や無人航空機の分野で、2025年までに無人戦闘機やスウォーム対応の無人航空機開発を含むテンペストプログラムに20億ポンド(約3,020億円)以上が投資される予定で第6世代戦闘機の本格的な開発が始まることを予告しているのだと思われる。

出典:BAE Systems テンペスト

問題は138機調達を予定していたF-35Bについていたが、事前の報道では48機以降の調達が打ち切られると報じられていたが実際の発表では「48機以上に成長させる」としか言及されておらず具体的に何機調達するのか明らかにしていない。

この部分について現地メディアはF-35B削減に関する決定は2025年予定されている次の防衛レビューに先送りされたと報じているが、英国王立防衛安全保障研究所のジャスティン・ブロンク研究員は「今後10年間でF-35Bを予定通り138機調達しながらテンペストプログラムを進めるのは現実的ではないが、F-35を複数の国で使用するコミュニティを無視できない」と指摘して英国が最終的に調達するF-35Bの数は60~72機程度になるのではないかと予測している。

出典:Royal Navy / OGL v1.0

どちらにしても英国はF-35Bの調達を現段階で切ればテンペストプログラムが失敗したときのバックアッププランを失うため、本当に追加調達を行うのかは謎だが「48機以上に成長させる」と曖昧な表現で繋ぎ止めておくことでテンペスト開発が進んだ2025年頃に再評価するつもりなのだろう。

因みに管理人はテンペストプログラムに異変でも起こらない限り間違いなくF-35Bの調達は削減されると思っている。

関連記事:狙いはF-35超え? 英国、世界で最も優秀な​AESAレーダー開発に着手
関連記事:テンペストを優先する英国、138機調達予定のF-35Bを48機まで削減か
関連記事:英国が軍の再編内容を発表、陸軍は約1万人削減されF-35B削減は次回に持越しか

 

※アイキャッチ画像の出典:BAE Systems テンペスト

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    いろいろな物は棄てても、自前の航空機産業だけは残したい、か。
    こっちもやがて何らかの取捨選択を迫られる日が来るかと思うと、しばらくは英国を注視しときたい

    34
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    世界最高の電子戦技術を持つBAEsとジェットエンジンの雄ロールス・ロイスが付いてますからねぇ英国には

    19
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    F35買ったやつが負け組みたいになってるなぁ。
    F15EXがベストセラーとかになったらなおさらだぞ。

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      ボーイングの現在の惨状からしてそれは考えにくいかと…ただ、レーダー技術の発達でF35に限らずステルス機の優位性が今後徐々に失われていく可能性は十分に考えられます。とはいえ、優れたレーダーが開発されても既存のものとすぐに置き換えられるわけではないので、ステルス機の相対的優位性は当面の間は保たれるのではないかと思います。

      16
        • 匿名
        • 2021年 3月 23日

        これ言う人多いけど、対ステルスには当然それ相応の出力が必要で、バイスタティックレーダーとかの類の技術ならまず固定サイトからになるだろうし、
        警戒/管制機や戦闘機、果ては撃ちっぱなしミサイルのシーカーまでキルチェーンの全てを対ステルス化できるのなんて相当先(不可能?)でしょ?
        共同交戦能力とかである程度補えるとしても、防衛戦でステルス機の優位が全くなくなるのは当分先、というかほぼないんじゃないのかね?

        24
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      F-35って武器のバリエーションが少ないからたくさん買っても圧倒的優位に立てるわけじゃないしな
      4世代機そこそこ持ってる国なら70機くらいあれば十分だわ

      2
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      F15につけるジャミングポッドとかないかな…電子戦機みたいな事しながら近づく。レーダー上から消えられれば良いなぁ。

        • 匿名
        • 2021年 3月 24日

        Fー15DJを電子戦機化してエスコートジャマーにするって話ってどうなったんだっけか?
        偵察機型はポシャったけど電子戦型の話はポシャった話を聞かないが完成した話も聞かない。

        2
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      Fー35の場合はIRSTで捕捉される距離とレーダーで捕捉される距離が変わらない位みたいなので、ステルスは有効では?敵の対処に使える時間を減らしてロングレンジミサイルを無効に出来るので設計の通りですよ、今は1990年じゃ無いデスし。

      1
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    なんだかんだで英国の軍備は時代の最先端を行きそうだな

    8
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    スクランブルでひーこら言ってる国の人間としては無人戦闘機に注目

    10
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      キャンベラ級作ったのにF-35Bは蹴っ飛ばしてロイヤル・ウィングマンに御執心な国もあるしね
      イギリスもオーストラリアも新技術開発に自信があるんやろなあ

      4
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    まあ予算は限られてるからF-35Bとテンペストならテンペストを選択するよね
    FCASの先行きが怪しいから英国テンペストとスウェーデンテンペストは形になって欲しいよ

    13
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    技術の進歩と戦場環境の変化がすごい。思えばここ20年ほどの「F-35まだかな」をずっとやってたのは停滞の時代だったのかもしれない

    10
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      F-35の20年前、ってF-22はもちろんF-2やラファールやタイフーンも運用はじまってませんが…

      1
        • 匿名
        • 2021年 3月 24日

        ごめん、「ここ20年」か。
        それならF-2は外れるね。

    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    英国は以前にユーロファイター3B用の予算を削減してF-35に回して、今度はF-35の導入を削減してテンペストに回して・・
    どちらも開発だけではなく製造にまで関わっていて、ここ数十年で戦闘機だけに凄まじい予算を食われてる
    前向きに見れば損切りが上手いんだろうが・・次のテンペストは成功して欲しいな

    6
      • 匿名
      • 2021年 3月 24日

      テンペストの最大のネックは費用だからねぇ。
      参加各国できる範囲で技術を共有した上で好きな仕様で好きな部品で作ればいいよ、という
      縛りの無さは理念としては素晴らしいけど、それ共同開発のメリットもほぼないじゃん、と。
      単発小型機を作るであろうスウェーデンと多分そっちを買う?イタリアと組んでも
      英国にとって費用面では単独開発とあんまり変わらない気がする。

      理念的には日本やスウェーデン的には渡りに船だったはずなんだけど、
      日本が話を蹴ってスウェーデンもなんか歯切れが悪いとこを見ると
      実交渉に入ると理念通りじゃない部分が見えちゃうんだろうなぁ、と邪推。

      1
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    以前の記事で比較的新しいい韓国のF-35Aのブロック4へのアップデートにもかなりお金がかかるとのことだったし、初期型に近いイギリスのF-35Bはブロック4へのアップデートにさらにお金かかるだろうから、しばらくは追加購入は控えたいだろうしね。

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    どっちにしろクイーンエリザベス級2隻運用するんなら予備も含めて60機くらいのF35Bは必要だろ。
    テンペストは艦載機じゃないだろうし。
    それか、いつまでも米海兵隊頼りで運用するつもりなのかな?
    軍事的プレゼンス用空母として使うつもりなら、(つまり威嚇するだけで、ガラガラ運用)、2隻で24機+αあればいけるけど。

    6
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      クロスデッキなら、ガラガラ運用でも構わない。
      逆に2隻も不要で、片方は”お困りの国”に売っぱらいテンペストに注力するかも。
      (必要な時は、他国の甲板を借りる?)

      2
      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      QE級は2隻同時運用はしないで航空団は1個のみの想定では

      1
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    F35を導入予定していた国々が配備数を大幅に削減しているな
    本国アメリカでも減らしているし
    コロナショックも一因だろうが、何か重大な欠陥が見つかったとしか思えない
    アメリカになるべく頼らずに、戦闘機開発をして本国の産業を守りたいという思惑もあるみたいだが
    日本が開発するF3のように
    日本だけかな予定どうり配備するのは?

      • 匿名
      • 2021年 3月 23日

      削減されるのは規模の縮小と整理を行っている海兵隊用のB型だけで米国は現状維持ですよ。
      重大な欠陥が見つかったわけでもありません。
      ただ単にみんな金がなくなったから、優先順位をつけて削減しているだけです。

      17
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    イギリスはテンペストに相当な自信があるのかな

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 23日

    というか流動的ってだけの話でしょ。
    最低でも60機くらいは導入するだろうけど今の時点で120機相当を導入すると宣言する意義が薄いというか。

    B型はあくまでハリアー後継。正規の空母を手に入れた英国が、ステルスとはいえハリアー後継の35Bを100機以上導入すると決めるのは正直どうかと思う。
    テンペストかもしくは無人戦闘機が英空母に最適化された艦載機として出てくるかもよ。

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