Leonardoは敵防空能力の制圧が可能なBriteStormを昨年10月に発表、英国もBriteStormを統合した新型無人機=StormShroudを2日に発表し「敵レーダーを盲目にすることでF-35Bとタイフーンのパイロットを支援し、有人航空機の生存性と運用効率を向上させる」と述べて注目を集めている。
参考:StormShroud arrival marks the future of UK Air Combat Power
参考:British jammer drone opens door to unmanned wingmen in combat
参考:UK welcomes new StormShroud autonomous drones
有人戦闘機に随伴できる無人戦闘機だけが有人・無人チーミングの可能性でないことを物語っている一例なのだろう
敵防空システムが作動する空域への侵入には「レーダーによって検出される可能性」を引き下げる必要があり、米国は機体形状や素材を工夫してレーダーパルスを照射元とは別の方向に反らしたり、これを吸収して熱に変換して敵レーダーの探知距離を縮めるアプローチを選択したが、欧州は第5世代機の開発・製造で出遅れたため電子戦システムの開発に力を入れ、ミサイル接近警報システム、レーダー警報受信機、フレア・チャフディスペンサー、ダミーデコイを統合した次世代の保護能力をデジタルステルスと呼ぶことがある。
このデジタルステルスで電子戦システムと共に重要な役割を果たすのが、デジタル無線周波数メモリ(DRFM)技術を使用したデコイで、Leonardoが開発した消耗型アクティブRF(Radio Frequency)デコイ=BriteCloudは敵の航空機、艦艇、地上配備型防空システム、ミサイルに搭載されたアクティブ・レーダー誘導システム等からのレーダーパルスを検出し、これを模倣して偽の標的信号をばら撒き認識力を混乱させることで敵の迎撃から対象を保護することが可能だ。
BriteCloudは英空軍のトルネードGR.4やタイフーン、米空軍州兵が運用するF-16にAN/ALQ-260(V)1として採用され、英空軍はF-35BやSPEAR-EWへの搭載を検討しており、米海軍航空システム・コマンドも昨年7月「消耗型アクティブデコイの供給契約(年間1,000基~2,000基)をLeonardoと締結した」と発表、要求要件がBriteCloudの能力に一致する上「F-35に対するサポート」も契約に含まれているため「F-35へのBriteCloud配備が確定的だ」と噂されているが、LeonardoはBriteCloudを発展させたBriteStormをAUSA2024で発表。
BriteStormはフレアディスペンサーから投射するタイプではなく、有人機に随伴するウイングマンや徘徊型弾薬に搭載するタイプで、有人機よりも先行して敵防空システムが作動する空域に侵入し、レーダーパルスの反射を模倣した偽信号をばら撒いて敵の認識を混乱させ迎撃能力を著しく低下させることが出来る、つまり機体形状や素材によるステルスに頼らなくても敵の防空シールドを突破できる=迎撃から対象を保護できるという意味だ。
これに電子戦システムやステルスを併用すれば戦場での生存性が向上するためAUSA2024で注目を集めていたが、英国は2日「Tekever AR3にBriteStormを統合した新型無人機=StormShroudの運用を開始した」「これは最も熾烈な戦闘空域における英空軍の優位性に革命をもたらす自律型協調プラットフォーム=ACPファミリーの第1弾だ」「StormShroudは敵のレーダーを盲目にすることでF-35Bとタイフーンのパイロットを支援し、有人航空機の生存性と運用効率を向上させる」「StormShroudはウクライナで進行中の紛争を含む世界各地の作戦地域から得られた教訓を活かして開発された」と発表。
Introducing a new uncrewed aircraft into service: StormShroud.
The first of a new family of Autonomous Collaborative Platforms (ACPs), this will revolutionise the RAF’s advantage in the most contested battlespaces.
Full story: https://t.co/VWIpSQt8CN pic.twitter.com/M4xP6iXiZQ
— Royal Air Force (@RoyalAirForce) May 2, 2025
自律型協調プラットフォームとは2024年3月に発表したACP戦略のことで、この中で「ACPは2030年までに空軍の部隊構造にとって不可欠な部分になる」「戦闘に勝利する能力を提供するためACPは有人機と連携して日常的に活動する」と言及して2020年代中のACP実用化を再確認し、特に興味深いのは明確に「ウクライナ、ナゴルノ・カラバフ、レバントの戦いは無人機、非対称戦、接近阻止・領域拒否(A2/AD)の有効性を証明するきっかけとなった」「ACPに必要なAIテクノロジーも悪意のある活用者や無関心な活用者によって後押しされ、無人機と同様のスピードで普及・拡散する可能性がある」と指摘している点だろう。
ウクライナとロシアの戦いで「高度な防空システム」が「航空戦力の運用を大幅に制限できる」と実証された上、大量投入されたドローンの脅威に対する手段が欠如しているため「有人機が飛行する高度と地上の間に広がる空域」で「低空の戦い」が成立し、米空軍のアルヴィン参謀総長でさえ「以前のように航空戦力を強化して『何日も何週間も制空権を維持する』というのはコスト的に無理がある」「空の心配をすることなく『恒久的に軍事作戦を実施できる』という考え方から転換しなければならない」と言及している。

出典:UK Ministry of Defence
英国も戦略文書の中で「今後も空軍は敵防空能力の圧倒に重点を置くものの、ハイエンドの航空機による地上目標への攻撃は安価な無人機の普及で変化するだろう。このようなプラットホームは現在の作戦範囲よりも遥かに広い範囲で作動し、製造技術や自律性が向上し、ハイエンドシステム(次世代戦闘機のこと)が提供する能力にも影響を及ぼす」と指摘し、ACPについて「手頃な価格で再利用できるものでなければならない」と定義しているが、実際のACPは使い捨て前提のTier1、損耗を許容できるTier2、生存可能なTier3で構成されているため、恐らくStormShroudはTier1かTier2に該当するACPだ。
Defense NewsもStormShroudの発表について「Tekever AR3は16時間の滞空時間を誇る無人機でウクライナでも1万時間も飛行している」「これに統合されたBriteStormはコカ・コーラ缶6本分ほどの大きさしかないが、Leonardoのデジタル無線周波数メモリ(DRFM)技術を使用して敵のレーダー信号をデジタルキャプチャーする」「Leonardoは電子妨害装置を搭載した従来の大型有人機について『戦闘空間のさらに後方を飛行するため効果が低い』と指摘した」「StormShroudは使い捨て設計で損失は許容範囲内」「これは有人機と無人機の協調に向けた第1歩だ」と報じている。

出典:U.S. Air Force
Breaking Defenseも「英国のACP戦略は米国のCCA計画に類似しており、双方とも無人機による航空戦力の戦闘力を高めることが目的だ」「BriteStormは統合型防空システムを制圧するよう設計された2.5kgの電子戦システムだ」「TekeverはStormShroud向けのAR3について『最優先事項はStormShroudを運搬すること、複雑なスペクトラム環境下で指定された空域に到達し生き残ることを確実にすること』と述べた」と報じた。
StormShroudはF-35Bやタイフーンに随伴飛行できるようなものではないが、前線付近でStormShroudが活動し始めると敵の防空能力が阻害されるため、結果的にF-35Bやタイフーンを使用した任務の成功率や生存性が向上し、YFQ-42AやYFQ-44Aのような有人戦闘機に随伴できる無人戦闘機だけが有人・無人チーミングの可能性でないことを物語る一例なのだろう。
関連記事:英国が自律型協調プラットフォーム戦略を発表、チーミング可能な無人機構想
関連記事:AUSA2024が開幕、ゴースト編隊を作り出せるBriteStormが登場
関連記事:米空軍が開発を進める無人戦闘機の実機を公開、今年後半に初飛行を予定
※アイキャッチ画像の出典:UK Royal Air Force
相手のレーダーを混乱させる事が出来たら、機体形状はステルスしてる必要が低くなる、かな
「その手があったか」って感じ
「損耗許容性」って言葉、三菱の無人機開発でも使ってましたね
「破壊されるまでは何回でも使えるけど、破壊されてもかまわない」
こう言うのって予算のかけ方難しそう
使い捨てだと安く、ハイスペックなら高額、の間だから欲張ったらダメ、ケチってもダメみたいな
これ例によってアメリカが造ると凄く欲張って高くなる奴ですね
地上からだろうが空中からだろうがレーダーを無効化すればよいというならステルス性の分旋回性能や搭載量に振った設計の東側系列の有人機の方がステルス機に対して優位に立ちますね。なのでこの素晴らしいデコイはデコイであるが故に安価でなくてはならず、真似されない程度に複雑でなくてはならず、使用後回収されてリバースエンジニアリングされてはならないのでしょう。
一方ロシアは無誘導滑空爆弾を投下した。
所詮「目眩し」なので、本命の戦闘機がステルスかそうでないかで実効果が丸っ切り違うと思いますよ。
闇夜の黒子なら一度見つけても閃光弾1発で見失ったら再発見は難しいでしょうが、全身に反射材つけてたら簡単にまた見つかるでしょう。
デジタルステルスって要はECMじゃん。
何を今更
予め解析済みの脅威にしか対応できない従来のECMと、未知の脅威を機上で解析してDRFMを再セットできるECMを同一視してる時点で何も分かってない。
ADCやDACが直接扱えるのは未だ数GHzなので、軍用レーダーの周波数帯域相手だとMixerを用いた周波数変換は必須。
そしてMixerの振る舞いは基本的には(入力信号とLO信号の)三角関数の掛け算だけど、非線形増幅器でもあるので高調波成分が不可避。
このためMixerを介すると、『入力信号の周波数逓倍』や『LO信号の周波数逓倍』に該当するマトリクス状の組合せのイメージ信号(という名の妨害波)を拾い易くなり、
その弊害を避けるため、Mixer入力手前には狭帯域で比較的急峻なBPFも必須となっています。
それ故に個々のADCやDACは、広帯域を一度に信号処理する事は出来ず、バンド切り替えも必然となっちゃう。
言い換えると、用意した(ADCやDACなどの)信号処理系の数以上のバンド数は処理不可能。
そのため、色々な周波数帯の到来波があると処理仕切れずに、対応する周波数の取捨選択を強いられ、
選択外の周波数帯に対しては無防備になることが考えられます。
ステルスだとその混乱させる範囲が狭くできるというのがステルスの趣旨らしいよ
仮に第四世代が20km先から探知されるなら直径40kmの範囲を妨害する必要があるけど、半分の10kmなら20kmの妨害だけで済む
今はまだAIはそこまでの水準に達していませんが
将来的にはレーダー側が何度が欺瞞されたらオンザフライで学習して、現地で攻撃してくる部隊のデコイを高精度で看破してくるようになると予想します
例えば脳の神経構造を模倣したニューロモーフィックコンピューティングのようなアイディアがそれです
相手のSAMを空振りさせるのがBriteStormの本懐でしょうから、こうなってしまうと価値を失います
まあ、この類の技術はイタチごっこなのでBriteStormのアプローチに価値がないと主張するわけではありません
そしたら本命ミサイルの1割は弾頭3kg減らしてBriteStorm詰むんですわ。
> 今はまだAIはそこまでの水準に達していませんが
これはわかんないですよ、当然デコイにカウンターするためのAI技術も研究はされてるはずで、いちいち公表するもんではないですから。
一般論としてはデータが少ないと学習も難しいからオンザフライというのも大変で、だからこそ昔から情報収集機が飛び回ってます。データ分析が機械化されてもこの辺の原理がまるっきり変わってるわけではないはずです。
> 当然デコイにカウンターするためのAI技術も研究はされてるはずで、いちいち公表するもんではないですから
ニューロモーフィックコンピューティングは量子コンピューティングに似たアーキテクチャの根本的な変革なので、まだ起こってないと言えます
計算機の世界は歴史的に言ってオープンイノベーションの世界です
> 一般論としてはデータが少ないと学習も難しいからオンザフライというのも大変で
> この辺の原理がまるっきり変わってるわけではないはずです
巨大なデータセットを要求しない、消費電力が少ないからエッジでも学習できる
それがニューロモーフィックの核心部分ですね
魔法のような話ですが、人間の脳が既にやっていることです
人間の五感よりも遥かに優れたセンサー群と、人間の脳よりもずっと多くのニューロンを実装したチップがあったら、何ができるのでしょうね?
しかし特に後者は製造技術が追いついておらず、現実になるとしてもまだしばらく先の話です
>こう言うのって予算のかけ方難しそう
>使い捨てだと安く、ハイスペックなら高額、の間だから欲張ったらダメ、ケチってもダメみたいな
仕様策定の際にセンスが問われそうな話しですね。
このデコイそんなすごいならイランやロシアが使ってる安価な無人機に乗せるだけで良いのでは??新たな航空機要らないでしょ
何が正解かは実戦で成功するまでは分からないので。戦争はパクリ合いですが、息切れすると負けに近づきます(1敗)
ナゴルノ・カラバフでの無人機の活躍もさることながら、空母艦載機は本当に戦艦を沈められるのか、オールタンク・ドクトリンの失敗etcetc・・・
デコイ(囮)はデコイでしかないので、何やるにしても本命が必要でしょう。
もちろん本命は戦闘機とは限らず、固定目標への単純攻撃が目的なら仰る様な安価なUAVで先行してデコイを送り込んで後追いで巡航ミサイルや弾道ミサイル撃ち込めば、迎撃負荷を大幅に上げることができるでしょうが、戦闘機やこのデコイの用途はそれだけではない(というかそれは「戦闘機」の本来の仕事じゃない)ので…
デジタルステルス全てを草するわけでもないが、結局電波帯域を巡る争いに勝つ前提なのは危険があるというのが。ウクライナの戦争でもロシアが常に電子戦で優位な訳でもないし、優位がなくなったら、ただのトルネードでは危険では?それに発電量とか搭載出来る電子機器とかを考慮すれば、航空機が地上兵器に優位を取れるのかと。
やはり形状ステルスが前提にあって、デジタルステルスでカバーするのが王道では?
いやステルス機がわざわざ積極的にECMをぶっ放すのは「ここら辺の空域にあんたらに敵意剥き出しの敵性航空機がおりますよー」と吹いて回るのと同じなので
ステルス機は可能であればECMもレーダーも動かさん事が最も自分のステルス性を活かせるんですよ
随伴無人機に索敵から電子戦やらせようとしてるのはそういう事よ
動画見ると潜水艦の音響デコイの電波/空軍バージョンですね。
どれくらい上手く対空レーダー/対空ミサイルのシーカーを騙せるか。
有人機は結局安全圏からの無人機の管制にとどまりそうな気がしますので、これは巡航ミサイルに随伴させた無人機からばらまかせて「ミサイルの生存性」を上げる用途に使ったりして…とか思います。
もしくはデジタルステルスに欺瞞されてる航空機やミサイル群がありますよ〜のAルートと、そことは違うBルートから突入させるステルス機のアシストにも使えそうですね