欧州関連

英海軍が進める空母への無人機統合、有人AEW機が2029年に退役予定

英海軍はクイーン・エリザベス級建造に合わせて新しいAEW機を開発、完全運用能力の獲得が2026年に見込まれているにも関わらず2029年に退役予定で、AEW能力は空母運用が可能な無人機=Vixenに引き継がれる可能性が高く、ASW任務向けの無人回転翼機=Proteusの開発も進んでいる。

参考:New Govt keeps plan to scrap Crowsnest after four years

英海軍は空母で運用する航空戦力の大部分を無人機に移行、2030年初頭に登場する可能性

英海軍は後継機を取得することなく1978年にGannet AEW.3を退役させたため、空中早期警戒(AEW)能力が欠如した状態で1982年のフォークランド紛争を迎え、水上艦による早期警戒網を敷いたもののアルゼンチン海軍の航空攻撃でレーダーピケット艦を務めていた駆逐艦を失い、急遽開発されたのが吊り下げ式のレーダーと早期警戒管制システムを搭載したSeaKing AEWだ。

出典:Nilfanion/CC BY-SA 3.0

この機体は何度もアップグレードを受けて運用が続けられていたが、クイーン・エリザベス級建造に合わせてMerlin Mk2とLockheed Martinが開発を請け負った早期警戒管制システム=Crowsnest(ThalesとLeonardoも開発に関与)を組み合わせた新型AEWを開発することになり、約2年ほど開発遅延が生じたものの2021年の極東派遣にギリギリ間に合い、2026年には完全運用能力の獲得が見込まれているにも関わらず2029年に退役予定だ。

ジョンソン首相が実施した国防政策の見直しはCrowsnestシステムの維持・拡張に資金を供給しなかったため耐用年数が延長されず、スナク政権下でCrowsnestシステムの2029年退役が確認され注目を集めたが、スターマー政権下でも退役スケジュールに変更はなく、このギャップをどう埋めるのかについても詳細は提供されていない。

出典:UK Ministry of Defence/OGL v1.0

但し、英海軍が後継のAEW能力にノープランというわけではなく、将来の海上航空部隊に関するプレゼンテーション資料内で「空母運用が可能な無人機=Vixen」の開発が予告されており、このVixenは「F-35Bと協調して攻撃任務を実行するバージョン」と「AEW任務を実行するバージョン」に別れ、さらにProteusと呼ばれる無人回転翼機でASW任務を実行することも描かれているため、Crowsnestシステムが提供するAEW能力はVixenに引き継がれるのだろう。

因みに英国防省は2022年「対潜戦に投入されているMerlin Mk2に代わる革新的な無人哨戒ヘリを開発するため、今後4年間で6,000万ポンドを投資し、2025年に無人哨戒ヘリのデモンストレーターが初飛行を行う」と発表、Leonardo UKに発注されたデモンストレーターはMerlin Mk2の1/5サイズで「自律的な運用下でのソノブイ投下能力」と「潜水艦発見時に周辺の航空機や艦艇に支援を要請する能力」が検証され、英国防省は「これが実用化されると有人機は潜水艦捜索任務から解放され、必要ならMerlin Mk2を投入して対潜戦能力を強化することもできる」と説明している。

Leonardo UKは受注したデモンストレーターをProteusと呼んでいるため、プレゼンテーション資料に登場したProteusと名称も能力も一致し、2025年の初飛行に向けて開発が順調に進んでいる。

関連記事:英国が対潜戦向け無人哨戒ヘリ開発を発表、2025年に初飛行を予定
関連記事:英空母打撃群の極東派遣に間に合ったクロウズネスト・マーリン
関連記事:空母への無人機統合に動く英海軍、無人早期警戒機に関するアイデアを募集
関連記事:英海軍、2030年まで無人航空機「Vixen」をクイーン・エリザベス級空母に統合か
関連記事:英海軍、空母で無人航空機を運用するため電磁式カタパルト採用を検討か

 

※アイキャッチ画像の出典:Royal Navy / OGL v1.0

艦艇でUCAVを活用する動き、スペイン海軍もSirtapを強襲揚陸艦に統合前のページ

トルコのタイフーン導入、ギリシャはフランス経由でミーティア売却を妨害次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    フランス、空母「シャルル・ド・ゴール」後継艦を2038年までに就役させると発表

    フランスのフロランス・パルリ国防大臣は18日、サンナゼールにある造船所…

  2. 欧州関連

    EUがウクライナ向け砲弾の共同購入で合意、払い戻し対象は欧州製砲弾のみ

    EUは3日「ウクライナ向け155mm砲弾の共同購入について合意した」と…

  3. 欧州関連

    速報|トルコ、ロシア製防空システム「S-400」追加導入の契約に署名

    トルコはロシア製防空システム「S-400」の追加導入に関する契約に署名…

  4. 欧州関連

    ナゴルノ・カラバフで軍事衝突、アルツァフ共和国側は軍事動員を宣言

    アゼルバイジャン軍がグレネードランチャーや無人航空機を使用してアルツァ…

  5. 欧州関連

    多くの命を救った英雄? アフガニスタンを離れる最終便に駆け込んだスロバキア軍兵士

    アフガニスタンからの撤退期限を迎えた先月31日、スロバキア軍特殊部隊の…

  6. 欧州関連

    スウェーデンがLeopard2A8調達を発表、A5もA8にアップグレード

    リトアニアは陸軍再編に伴う戦車大隊創設のためLeopard2A8の調達…

コメント

    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 1月 30日

    どんどんSFの世界に近づいていきますね。もうなんでもかんでも無人化
    そのうち軍隊も主たる仕事は機械のメンテナンスになっていくのかもしれません(言い過ぎ)

    11
      • 他人事では無い
      • 2025年 1月 30日

      言い過ぎではないです。
      海空軍は装置産業なので、機能を維持管理出来るなら、ドンドン無人化していくと思います。

      13
    • kitty
    • 2025年 1月 30日

    まあ、いろいろと無人機に切り替わるのは時代の趨勢と思うからしょうがないと思うけどさあ。
    せめてそれが完全に運用可能になってから既存の装備を廃止しろよと。

    32
    • マンゴー
    • 2025年 1月 30日

    地対空ミサイルを放ってくるような潜水艦もこれから出ないとも限らないから、対潜ヘリの無人化は自然な流れ
    ただ、信頼性を獲得出来ないまま実戦投入されそうな予感もする

    10
      • kitty
      • 2025年 1月 30日

      「地」対空ミサイルではないですけど、ドイツが開発の潜水艦発射型対空ミサイルIDASは、既に完成予定だったのがウクライナ戦争支援に予算が取られて、未だに開発中です。

      10
    • ブルーピーコック
    • 2025年 1月 30日

    IDASみたいな兵器も増えてくるかもしれないから早期退役は仕方ないのかもしれない。でも間に合うのかコレ。
    vixen(雌狐)の名前通りに化かされやしないか。

    7
      • T.T
      • 2025年 1月 30日

      よし、AEW型Sea Vixenを作って間に合わせよう。名前が同じなら問題無いじゃろ。

      6
    • AISP
    • 2025年 1月 30日

    中国のAEWドローンは陸上用だったし、ついに艦載AEWドローン登場なるか。
    AEWオスプレイは与圧できないから結局ヘリAEWと大差なくて企画倒れになったけど、無人のドローンなら高度も滞空時間もクリアできるし。

    7
    • 黒丸
    • 2025年 1月 30日

    日本にはひゅうが型でも運用できる艦載AEWドローンが欲しいな。

    10
      • 他人事では無い
      • 2025年 1月 30日

      当面、SH-60Lで代用できないかな。

      1
      • 黒丸
      • 2025年 2月 01日

      無人回転翼機搭載レーダによる見通し外探知システムの研究
      リンク
      小型無人回転翼機に搭載可能な小型レーダーで、海面からの不要反射波を抑圧し、
      海面上を低空で飛翔する目標を検出する技術を確立する。

      日本はヘリドローンでAEWをするみたいですね。

    • 他人事では無い
    • 2025年 1月 30日

    Crowsnestシステムの維持管理で、Lockheed Martinに吹っ掛けられたのかな。

    2
      • 他人事では無い
      • 2025年 1月 30日

      以前の記事を見るとタレス社がしくじっているなあ。コレが原因かな。

      3
        • 他人事では無い
        • 2025年 1月 31日

        防衛省がいずも型護衛艦で使うAEWの検討に関する一般公募入札を出したらしい。
        自衛隊で引き取るのか?

        2
    • 無印
    • 2025年 1月 30日

    プロテウスって、導入できなかったファイアスカウトの代わりにいかが?
    と言われてる機体ですね

    日本もFCネットワーク用に無人AEWを開発する構想がありましたけど、競争するんですかね?

    • あくまで軽いもの載せた上で
    • 2025年 2月 01日

    確かに滞空性も高高度性能もUCAVは得意分野だが、かなりの重量とレーダー出力を要求されるレドームを引っ提げて飛ばせるのか?エンジン出力がまだまだ追い付いてないと思うが。
    小さくレーダー出力も弱いレドームを載せて、数で勝負するのもアリだが、空母艦載となると物量にも限界がある。

      • バーナーキング
      • 2025年 2月 02日

      バランスビーム型ならエリアイレーダーが8m900kgなのでMQ-9クラスなら搭載は不可能ではないでしょう。
      実際に艦載で運用するにはもう少し軽く小さく(あるいは外す、折り畳む等で格納スペースの圧縮)したいとこかもしれませんが、技術的にそこまで飛躍したレベルが要求される感じはしないかと。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  2. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  3. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  4. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  5. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
PAGE TOP