欧州関連

戦力拡張へと舵を切った英海軍、次世代のフリゲートや駆逐艦など建造ラッシュ

英海軍はジョンソン首相が約束した国防予算の増額を受けて野心的な取り組みを加速させており、縮小しきった戦力規模は再び拡大に向けて大きく動き出している。

参考:A brief look at the Royal Navy’s big projects

水上戦闘艦の定数拡張や沿岸海域での作戦と水陸両用作戦をサポートする新型艦の導入など多くのプログラムを推進している英海軍

英国は冷戦が集結したことを受けて国防予算の削減や軍の規模縮小を続けてきたがジョンソン首相は「後退の時代を終わらせる」と主張して冷戦後最大の国防予算引き上げ案=今後4年間で165億ポンドを追加投資(約2.3兆円)することを発表した。

出典:Ministry of Defence / OGL v1.0 建造が進む26型フリゲート1番艦

これを受けて英国の国防予算は420億ポンド/2020年→506億ポンド/2021年へと大幅増額(約12%増)を果たしているのだが、この資金の一部は海軍の近代化と戦力拡張にも影響を及ぼしており、艦隊防空を担当する45型駆逐艦の後継艦「83型駆逐艦」のコンセプト開発、23型フリゲートの後継艦として建造が進む26型フリゲート/Batch2(4番艦~8番艦)建造、31型フリゲートFullBatch(1番艦~5番艦)建造への資金供給が始まっている。

さらにジョンソン首相が「後退の時代を終わらせる」と主張したことを受けて海軍は水上戦闘艦の定数を19隻→24隻に拡張するため32型フリゲートの検討を開始、2030年代までに沿岸海域での作戦と水陸両用作戦をサポートする6隻のMulti-Role Support Ship/MRSSを建造する計画への資金供給、サンダウン級機雷掃討艇と連携して作動する無人掃海システム(無人掃海艇や機雷捜索用の水中無人機を含む)を2030年までに9セット調達、2024年までに対地攻撃に対応したハープーンを更新する新たな艦対地ミサイルの取得、2028年までにスティングレイ短魚雷を更新する新型短魚雷の開発など多くのプログラムを推進中だ。

補足:英海軍の水上戦闘艦は45型駆逐艦×6隻と23型フリゲート×12隻の計18隻しかないが、244年間も現役艦(2012年からは第一海軍卿の旗艦に指定)として就役し続けている戦列艦のヴィクトリーも水上戦闘艦としてカウントされているため18隻ではなく19隻とカウントされている。

特に興味深いのは英国が調達を予定している無人掃海システム(英仏共同開発)で既に3セット(プロトタイプ)調達してサンダウン級機雷掃討艇との連携が始まっており、分かりやすく言えば海自のもがみ型護衛艦に搭載するため開発中の無人機雷排除システム用水上無人機(USV)と機雷捜索用無人機(UUV=OZZ-5)に相当する無人掃海システムの運用が始まっているという意味で、米海軍ではアヴェンジャー級掃海艦と機雷掃海仕様のMH-53Eを置き換える新しい無人掃海システム(Unmanned Influence Sweep System/UISS)が実用化に近づいている。

出典:国防総省がリリースしたUISSのファクトシートに掲載された無人掃海挺

UISSの技術成熟度は2020年1月に大規模量産の準備段階に相当するマイルストーンCに到達して低率量産が始まっており、米海軍は「UISSを構成する無人掃海挺が水中衝撃試験をクリアして艦隊に無人掃海システムを提供することにまた1歩近づいた」と今月4日に発表するなど実用化が目前に迫っている。

参考:Navy’s unmanned minesweeper clears underwater shock trials

さらに付け加えれば米海軍は機雷を捜索するUUV(コングスベルグが2008年に実用化したREMUSの米海軍仕様Mk.18)を2012年から導入、これを受けて同社のUUVを英海軍、フィンランド海軍、オランダ海軍、カナダ海軍、クロアチア海軍などが導入して運用しているため機雷捜索用無人機の技術や運用はある程度確立されている状態なので無人掃海システムの実用化は「新規に開発した無人掃海挺とUUVの連携」に重点が置かれていると言って過言ではない。

出典:Public Domain 米海軍のMk.18 Mod 2

少々話が脱線したが英海軍はジョンソン首相が約束した国防予算の増額を受けて野心的な取り組みを加速させており、この他にも2030年までにクイーン・エリザベス級空母で運用可能な無人戦闘機「Vixen」や早期警戒機や空中給油機として使用できる無人機(Vixenベース)の開発計画も進めているのでミリオタとしては楽しみな存在だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:Royal navy / OGL v1.0 26型フリゲート

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コメント

    • 無無
    • 2022年 1月 07日

    お金かけないとまともな戦争にもなりません
    東京新聞によると、日本の防衛費は実質GNP1.2%を越えてると出てるが、
    それぽっちじゃぜんぜん足りませんがな

    47
    • F-774
    • 2022年 1月 07日

    本番に間に合うのか?
    やらないよりはマシだけど

    6
    • DEEPBLUE
    • 2022年 1月 07日

    空母以外向こう20年以上は今のラインナップの所よりはやる気あるね

    8
    • 名無し
    • 2022年 1月 07日

    海保と退役後年金とPKO予算を合算するのならば超えていた、という話ですものね。

    それは軍事費なのか?と言われると違和感がある。

    20
      •  
      • 2022年 1月 07日

      まあ気持ちはわかるけど
      NATO基準なんだからそれはいいんでない

      18
    • 戦略眼
    • 2022年 1月 07日

    陸軍は、ショボいままかな?

    2
      • DEEPBLUE
      • 2022年 1月 07日

      イギリスは文字通り海空全振りで良いんじゃないですかね?本土に敵陸軍が押し寄せるような局面になってる段階で負けでしょうし

      3
    • うみ
    • 2022年 1月 07日

    ブリテンが軍拡に動くのは本気できな臭い気配があるんだろうな。
    20年代後半に台湾有事が起きると予想されてるけど、仮に間に合わなくてもその後も荒れるだろうから拡充できるならしないとね。。

    16
      • G
      • 2022年 1月 07日

      イギリスは香港の件で国際的に面目を潰されましたからね
      プライドの高いあの国がそれで黙っていじけるだけとはても思えませんし

      8
    • 2022年 1月 07日

    ドイツ「イギリスがんばって☆」

    2
    • 黒丸
    • 2022年 1月 07日

    無人艦/機による機雷掃討技術が進むことは
    一面では日本の防衛には不利な要素が増えるということだな
    操作妨害等の対策の検討が急がれますね

    それとも掃海装置の接近を察知して自動的に移動するような機雷が出てくるかな

    6
    •  
    • 2022年 1月 07日

    英仏は、核・原潜・空母の3点セットに予算が引っ張られて、中堅の戦力が際立って薄い
    駆逐艦が10隻以下とかだ。予算が同水準の日本は40隻台

    そう考えて行くと、3点セットも無いドイツ軍のグダグダさの謎が更に深まるが・・

    21
      • 成層圏
      • 2022年 1月 07日

      謎ってフレーズいいよね。
      ここのブログっぽくて。

      5
      • イギリスカッコいい
      • 2022年 1月 07日

      フランスは原子力空母と核兵器を維持してる割には戦闘機・揚陸艦・戦車戦力はかなり頑張っていると思いますよ。逆にイギリスは空母と核の為に色々犠牲にしてる感が・・・。2隻も大型空母があるのに駆逐艦が6隻だけ、戦闘機や戦車なんかの陸上戦力も少ない。ドイツは・・・、そっとしておこう。

      8
    • 匿名希望
    • 2022年 1月 07日

    日本の造船業界もイギリスと絡めないのかねぇ

    9
      • 造船業no
      • 2022年 1月 07日

      まぁ、日本のコストが高いからムリなんでしょうねぇ。

      3
    • 船屋さん
    • 2022年 1月 07日

    イギリス海軍のタイド型給油艦(37,000t)を韓国の造船会社が作っているけれど、4隻を4億5,200万ポンド(677億円)で受注したそうだから、1隻あたり169億円になる。日本がこの価格で作れるのだろうか。

    1
      • 通りすがりのきょん
      • 2022年 1月 07日

      今から20年前に作られた海自の補給艦「ましゅう」の建造費は、430億円でした。

      こりゃ、高すぎでしょ。

      6
        • ミリオタの猫
        • 2022年 1月 07日

        むしろ韓国の受注額が安過ぎる。
        余程のダンピングをやったので無ければ、タイド級が就役後に問題を起こすのでは無いかと心配する位。
        (因みに「ましゅう」型は満載排水量25000tなので、幾ら4隻まとめて建造するとは言え同37000tのタイド級がどれだけ安過ぎるのかが分かると思う)

        12
        • 7C
        • 2022年 1月 07日

        タイド級(AO)とましゅう型(AOE)じゃ出来ること全然違うから単純比較してもしょうがないと思うぞ
        ましゅう型と比較するならタイド級ではなくほぼ同様の能力を持ってるフォート・ヴィクトリア級(AOR)の方がいいと思う

        20
      • イギリスカッコいい
      • 2022年 1月 07日

      排水量と値段だけで言えばアメリカ海軍の最新の補給艦が5万トンで6億ドル(20隻発注)だから、どちらかと言えば韓国が安すぎる。

      8
    • Mr.Takao
    • 2022年 1月 07日

    >244年間も現役艦(2012年からは第一海軍卿の旗艦に指定)として就役し続けている戦列艦のヴィクトリーも水上戦闘艦としてカウントされているため18隻ではなく19隻とカウントされている。

    そこは絶対に譲らねえんだな。さすが Royal Navy 惚れ直すぜ。

    6
    • 乾ドック保管で2011年にBAEシステムズと5年間契約(10年延長契約あり)して保守しつつ、海軍記念博物館の所有になってもカウントするのは「誉れ」ですよね。

      5
      • iseki
      • 2022年 1月 08日

      日本もそろそろヤリますか。

      戦艦1(三笠)
      航空巡洋艦4(日向型2、出雲型2)
      重巡洋艦8(金剛型4、愛宕型2,摩耶型2)
      etc

      3
    • ロジスティクス
    • 2022年 1月 07日

    日本も本腰いれんとな。
    電波妨害や長距離対艦ミサイル、対ゲリラ

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