欧州関連

アルメニア首相が批判、ロシア製電子戦装置はUAVに対して役に立たない

果たしてナゴルノ・カラバフ紛争で活躍したトルコ製やイスラエル製の無人航空機(UAV)に対して電子戦装置は効果を発揮したのかについて注目する発言が出てきた。

参考:Russia’s $42M EW System did not Work in Nagorno-Karabakh: Armenian PM Complains

ナゴルノ・カラバフ紛争ではアンチドローンシステムは役に立たなかったと発言したパシニャン首相

ナゴルノ・カラバフ紛争でアゼルバイジャンが勝利を収めた一因にトルコ製やイスラエル製の無人航空機(UAV)が挙げられているが、紛争の当事者であるアルメニアのパシニャン首相は「ロシアから4,200万ドル(約43億円)で購入した電子戦装置 (アンチドローンシステム)のRepellent-1はアゼルバイジャンが用いたUAVに対して全く役にたたなかった」と明かして注目を集めている。

アルメニアが2017年にロシアから購入したアンチドローンシステム「Repellent-1」は移動式と固定式の2つのバージョンがありUAVの検出と追跡、UAVと地上管制局間のデータ伝送と制御チャンネルに対する電子的妨害、UAVが搭載する衛星ナビゲーション受信機への妨害が可能だと言われておりロシア軍も導入している比較的新しいアンチドローンシステムなのだが、これがトルコ製「バイラクタルTB2」やイスラエル製「ヘルメス900」の比較的大きなUAVや比較的小型の自爆型UAV(徘徊型UAV)に対して全く抑制効果がなかったと明らかにした。

ただしロシア製の近距離防空システム「9K33 オサー」についてはナゴルノ・カラバフ紛争中、多くのUAVを撃墜するのに効果的だったと称賛している。

パシニャン首相の発言が正しいのなら現時点においてはアンチドローンシステムによるUAVへの妨害よりも、UAVに施された対アンチドローンシステム対策の方が上回っている可能性が高いが勿論、両者の抜きつ抜かれつの関係なので今後も同じ結果を約束するものではない。

出典:Savunma Sanayii Başkanlığı トルコの無人航空機「バイラクタルTB2」

さらにナゴルノ・カラバフ紛争中、トルコはアルメニア北西部の都市ギュムリ近郊にあるロシア軍基地(第102軍事基地)に対してバイラクタルTB2による挑発飛行を実施、これに対してロシア軍は基地に配備されていた地上ベースの電子戦装置「Krasukha(クラスハ)-4」を作動させバイラクタルTB2の制御を無力化、48時間で9機のバイラクタルTB2を墜落したと露メディア「Avia.pro」が報じて注目を集めたが他のメディアがバイラクタルTB2の墜落を確認したという報告もなく、当事者のアルメニアも墜落を確認していないため今のところ何も言及していない。

好意的に受け取ればアルメニアに駐屯するロシア軍が使用したKrasukha-4がバイラクタルTB2に有効だったため情報を伏せているとも受け取れるが、バイラクタルTB2を開発・製造しているトルコが運用していたバイラクタルTB2が撃墜されたのでKrasukha-4による妨害が有効なのはトルコ側も掴んでいるため果たして誰に対して情報を伏せているのか謎だ。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 3.0 地上ベースの電子戦システム「クラスハ-2」

一般的に考えればトルコ側にKrasukha-4による妨害が有効だと察知された段階で対策が始まるため、逆に「48時間で9機のバイラクタルTB2を墜落できた」と喧伝してロシア製アンチドローンシステムの優秀性をアピールしたりKrasukha-4の輸出に活用するのではないだろうか?

以上のような理由で海外メディアではロシア軍がKrasukha-4を使用してバイラクタルTB2を9機撃墜したというAvia.proの主張は眉唾だと見ており管理人も嘘くさいと思っている。

勿論、アンチドローンシステムが全く役にたたないとは思っていないが敵は電子情報を収集(出来たらの話)することで電子戦装置の性能を解析して、十分な対策が講じられた段階で仕掛けるタイミングを選べるため物理的な迎撃手法の併用=対UAV対策を多重化することがUAVによる攻撃を抑制するのに重要なのだろう。

因みにパシニャン首相が称賛したロシア製の近距離防空システム「9K33 オサー」はUAVによる攻撃で幾つも破壊されているのでUAVに対して絶対的強者だという意味ではないが、比較的古い近距離防空システムが最新の「9K330 トール(開発時期は古いが今でもアップグレードバージョンが継続開発されている)」よりも効果的だったというのは非常に興味深い。

 

※アイキャッチ画像の出典:baykarsavunma

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    こういうのは、しばらく時間をおいて観察してると判るよ
    フォークランド紛争のときに艦艇のアルミ使用が火災に弱いって問題視されても、英海軍も海自も問題ないって言い張ってたのが、その後の駆逐艦クラスにはアルミ使用を止めてるもんな
    言葉よりも行為こそが真実を表す

    33
    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    気持ちは分からんでもないけど批判の中身がお門違いでないかな。。。

    4
    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    大型のUAVに対して電子的妨害が効きにくいのは周知の事実だし、自爆型UAVは妨害電波をキャッチしたら特攻するUAVなので電子戦装置の天敵。
    アルメニアが購入したロシア製の電子戦装置が破壊されたのは、電子戦装置を守る防空兵器を別に用意していなかった(できなかった?)からだよ。

    22
      • 匿名
      • 2020年 12月 10日

      電子戦装置と近距離防空システムはセット運用にして弱点を補い合うのが基本になりそうだな

      21
    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    Krasukha-4のくだりはトルコがウクライナと組んでお互いの軍を補完強化しようとしていることへの牽制なのではないかと個人的には思っている(トルコからUAV技術を入手しても意味無いぞ、と言う意味)

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    9K33 オサーは発射機からレーダーまで一つの車両に積んで自己完結性が高い。高性能だけど複雑でレーダー車一つダメになったら使えなくなるS-300系よりも融通性があるのでしょうな。

    UAVといっても所詮ラジコン機に毛の生えた程度なので見つけさえすれば撃墜は容易。

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    いつもロシア製や中国製の電子機器はスペックどおりの性能を実戦で出せるのか疑問に思ってた
    これでひとつ疑問が解けた

    9
      • 匿名
      • 2020年 12月 11日

      ロシアの他の電子戦装置(ジーチェリなど)は、ウクライナやシリアで欧米のUAVを妨害することに成功しているから、ロシアの電子戦装置の技術レベルは低くないよ。
      むしろ、西側諸国の電子戦装置も防空兵器で重層的に護衛しないと、簡単に破壊されて役に立たないことが分かった。

      6
    • にわかミリオタ
    • 2020年 12月 10日

    それにしてもトルコやイスラエル製のUAVはナゴルノカラバフ紛争で大活躍だったな。

    7
    • 匿名
    • 2020年 12月 10日

    一部軍オタ連中の「無人機なんてジャミング攻撃でワンパン」説が否定されましたね

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 11日

      ロシアの装備は誇張されているのはわかってたしまだイスラエルやトルコの電子戦装備がわからないからなんとも
      レペレント1がトルコの電子戦兵器に逆ジャミングを受けていたという話もあるし

      2
      • 匿名
      • 2020年 12月 11日

      ジャミングも使い方だと思うけどな
      幅広いチャンネルに対して多層的に使用しないと意味がない

      2
    • 匿名
    • 2020年 12月 11日

    トールは最低射高1500m~だけどオサーは10m~だからUAV相手にオサーが有利なのは当たり前と言えば当たり前

    3
    • 匿名
    • 2020年 12月 11日

    山ばかりの地形がね…って言っているアルメニアの兵隊さんがいましたがどうなんでしょうね?

    • 匿名
    • 2020年 12月 11日

    >ただしロシア製の近距離防空システム「9K33 オサー」についてはナゴルノ・カラバフ紛争中、多くのUAVを撃墜するのに効果的だったと称賛している。

    第二次カラバフ戦争と防空網制圧ドローン戦術
    リンク
    >アゼルバイジャン軍は旧式の複葉輸送機アントノフAn-2を大量に用意し、これを無人で飛ばして敵陣に突っ込ませました。アルメニアの防空網に迎撃を行わせて地対空ミサイル(SAM)のレーダーを発信させて布陣された位置を露呈させる囮目的です。
    >当初はAn-2を無人機に改造してあると考えられていましたが、どの機体も旋回を行わず真っ直ぐ突っ込んで来ており、改造は行われておらずパイロットが操作して離陸し、進行方向を定めた後にパイロットはパラシュートで脱出するという使い捨て方式だったということが判明しています。

    多数の無人機を落としたと御自慢のようですが、その大半は改造もされていないAn-2だったのではと
    囮に反応したが最後、ハーピーシリーズの自爆突入や、バイラクタルのアウトレンジ爆撃で狩られていったのでしょう

    2
      • A
      • 2020年 12月 11日

      この記事読みました。
      An-2のパイロットは生きた心地しないだろうな。
      降りた所が敵の支配地だったら・・・・。

      • 匿名
      • 2020年 12月 11日

      この記事では、まずはおとりのAn-2で敵の位置を露呈させて、
      ハーピーシリーズで対空能力を壊滅させ制空権を奪い、
      バイラクタルで一方的にボコすと気合されてますね。
      それぞれ得意分野を生かして段階的に進めていったのでしょう。
      当たり前といえば当たり前なのですが正直そこまで頭が回りませんでした。

        • 匿名
        • 2020年 12月 11日

        以下記載ミスです。
        ごめんなさい。
        >気合されてますね。
        =記載されてますね。

    • 匿名
    • 2020年 12月 11日

    アルメニア世論は、現政権の親欧米政策が失敗とみなし改めて親ロシアを求めてて、ロシアはアゼルが旧ソ連から親トルコに傾くのを容認ということで、紛争の結果、大国には雨降って地固まるの構図だね
    トルコとロシアはこのまま大人の関係を継続させるようだし

    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    最後に「「9K330 トール(開発時期は古いが今でもアップグレードバージョンが継続開発されている)」よりも効果的だった」ってあるけど、大元の記事にはトールについての言及は無くないか?
    オサーが絶賛されていることとオサーがトールよりも効果的だった事は必ずしもイコールではないような気がする。

    トールを擁護するなら配備されたばかりで訓練が行き届いてなかった。
    数が少なく必要な戦場で活躍する事が難しかった。
    オサーの倍近い重量で山岳地帯での運用に難があった
    あたりがありそう・・・

    う〜ん、新しい兵器があっても訓練した兵士が十分な数を適切に運用しないといけない ってのはトールに限らず話題のRepellent-1やKrasukha-4にも言えそうだ

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