ウクライナ戦況

ロシア軍は再びキーウ方面の過ちを東部戦線で繰り返そうとしている

ドンパスの戦いでウクライナ軍が苦戦する中、米国の国防当局者や軍事アナリストは「キーウ方面で犯した過ちをロシア軍は再び東部戦線で繰り返そうとしている」と指摘している。

参考:Russian Military Is Repeating Mistakes in Eastern Ukraine, U.S. Says

ドンパスの戦いはウクライナ軍にとって厳しものだが他の地域の戦いはロシア軍にとって微妙なものなのかもしれない

プーチン大統領は「ウクライナ全体を占領する」という試みが失敗したことを受けて作戦規模を縮小、これまで不在だった総司令官にアレクサンドル・ドボルニコフ上級大将(シリアの虐殺者)を指名してドネツィク州とルハーンシク州を合わせてたドンパス地域の解放に総力を傾けており、セベロドネツク方面やスラビャンスク方面のウクライナ軍は苦戦を強いられている。

出典:mil.ru / CC BY 4.0 アレクサンドル・ドボルニコフ上級大将

ただ米政府、国防関係者、軍事アナリストはウクライナとロシアの戦いについて悲観的な見方をしていない。

米政府の関係者は「2週間ほどドボルニコフ上級大将は姿を見せておらず、現在も彼が総司令官の地位にあるのか分からない」と明かしており、国防当局者は「バラバラだった航空戦力と地上戦力の意思疎通を図り、各方面の作戦に協調性をもたらそうとドボルニコフ上級大将は取り組んだが、クレムリンは作戦の進捗を急かして再編途中だった部隊の投入を指示、空軍はウクライナ空域に侵入するのを拒否して国境付近でミサイルを発射して直ぐに帰投する」と指摘。

出典:GoogleMap 大まかなハルキウ周辺の状況/管理人加工

軍事アナリストも「ロシア軍の指揮体系には根深い欠陥(下士官に作戦の欠陥を指摘したり作戦を調整を行う権限ない)が存在し、ドボルニコフ上級大将をもってしても2週間程度でこの欠陥を修正するのは無理だ」と述べ、欧州連合軍最高司令官を務めたブリードラブ元大将は「ウクライナ軍がハルキウ州東部でロシア軍の補給路遮断に成功すればイジューム方面のロシア軍はキーウ方面の戦いと同じ状況に陥るだろう」と指摘しているのが興味深い。

つまりイジューム方面のロシア軍はベルゴロド~ボルチャンスク~T2014~Prykolotne~T2114~クピャンスク~P79~イジュームという最短ルートの補給路に依存しており、ドネツ川沿いまで前進したハルキウ州のウクライナ軍がボルチャンスク方面に前進して補給ルートを遮断できればロストフ州経由の補給ルートに頼らざるを得なくなって「戦闘がおぼつかなくなる」という意味だ。

出典:GoogleMap 大まかな南部戦線の状況/管理人加工

ウクライナ軍は南部戦線でも4方向からの反攻作戦を進めている最中で、ドンパスの戦いはウクライナ軍にとって厳しものだが他の地域の戦いはロシア軍にとって微妙なものなのかもしれない。

関連記事:ロシア軍がセベロドネツクの殆どを支配、ウクライナ軍はリシチャンシクに後退
関連記事:米国がHIMARS提供を正式発表、ドイツに続き英国もMLRS提供を表明

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • たかさん
    • 2022年 6月 02日

    ベルジャンシク港で大規模な爆発があったようです。現地の画像も上がってます。何があったんですかね?

    5
      • や、やめろー
      • 2022年 6月 03日

      港湾施設になんらかの被害が出てるようですね。

      2
      • くらうん
      • 2022年 6月 03日

      パルチザンによる攻撃の他に、ロシア軍が港の地雷を除去しているという情報もありますね。

    • 新・にわかミリオタ
    • 2022年 6月 03日

    >空軍はウクライナ空域に侵入するのを拒否して国境付近でミサイルを発射して直ぐに帰投する

    これは軍として機能してないのでは、、、

    21
      • STIH
      • 2022年 6月 03日

      普通こういうのってパイロットが拒否したら軍法会議もんというイメージがあるのですが、空軍の上層部(指揮側)が拒否してるということなんですかね。
      総指揮官とはいったい・・・。

      15
        • 新・にわかミリオタ
        • 2022年 6月 03日

        ロシア空軍は意外と緩かったりするんですかね?
        陸軍は督戦隊もいるのに、、、

        8
          • 名無しさん
          • 2022年 6月 03日

          陸の兵士は畑からいくらでも取れますが、空軍パイロットとなると、地方の貧困層から簡単に採ってくるわけにはいかないのでしょう。

          あと、元々ロシアは5つの軍管区司令官がおり、ドボルニコフ上級大将は本来その中の一つのトップにすぎなかったのです。
          急にその上位の司令官として抜擢されても、元々別の管区に属していた軍人に対しては統制が効きづらい可能性があります。

          33
            • 新・にわかミリオタ
            • 2022年 6月 03日

            >急にその上位の司令官として抜擢されても、元々別の管区に属していた軍人に対しては統制が効きづらい可能性があります

            なるほど。
            勉強になります。

            9
            • ネコ歩き
            • 2022年 6月 03日

            軍管区云々が事実ならですが、
            ロシア軍は、軍制上の命令系統や指揮官の能力ではなく、指揮下部隊に対する指揮官個人の影響力が統制力を左右する、てことになりますね。当然、短期間では影響力を醸成できない。
            独裁的長期政権の下で硬直化してるのでは、と強く疑われるロシア軍ならば十分に有り得そうです。

            1
            • WSO
            • 2022年 6月 03日

            ドボルニコフを据えたプーチン自体の影響力・威光低下云々の話にもなりそうですが…その辺どうなのか気にはなりますね

            1
            • 鳥刺
            • 2022年 6月 03日

            「ロシア空軍には充分なSEAD能力が無い」という事実は、プーチン的には隠しておきたかったでしょうね。

            2
      • ななし
      • 2022年 6月 03日

      防空網がある所に空軍を強要しても無駄ばかりになる。地対空ミサイルが一般化した国同士の戦争では有りがちな事ですよ。

      10
    • 浅見真規
    • 2022年 6月 03日

    ロシア軍にとっては道路より鉄道の方が補給路として重要で、そのため、ロシア軍はあまり鉄道を攻撃せず、攻撃する場合も鉄路本体より変電所を攻撃する場合が多いようです。
    現在はイジュームの補給路は道路での自動車輸送にたよっているとしても、近いうちにイジュームとリマンの間にあるSosnoveの鉄道分岐点を占領すれば鉄道輸送が可能になるので、道路を押さえても補給路遮断できないと思います。

    8
      • 浅見真規
      • 2022年 6月 04日

      ウクライナ軍はSosnove (Соснове ) とSvyatogorsk駅から撤収したみたいで、ロシア軍が占領したみたいです。
      リンク

    • minerva
    • 2022年 6月 03日

    ハルキウ方面でロシア軍がVesele東方から急速に南下しTernovaのウクライナ軍が半包囲状態に陥ってるとのこと
    ウクライナ軍のボルチャンスク攻撃がほぼ不可能になった

    3
      • 2022年 6月 03日

      ただ調べるとそれらの情報はロシア系のアカウントから発信されたものでウクライナ側ではそういった情報が入ってないしどうも情報が錯乱してる状態っぽい

      2
        • minerva
        • 2022年 6月 03日

        ISWの6月2日戦況分析図でも管理人の図よりTernova西のロシア軍が南下してることが確認できるんだが

    • ななし
    • 2022年 6月 03日

    たまになんだけどね。宇軍が勝つにはケルチ海峡がーとか東部に重砲回せーとか書いたりするけど。そういう書き込みの間にも宇露の人らが何人か死んでる。我々が野球やサッカーの様に戦争を語ってる裏でね、死んでるの。
    そう思うと戦争を野球やサッカーの様に見てる我々がうすら寒く思えたりする。
    誰かを批判とかする訳ではないけど。単なる忘備録です。自分自身への戒めみたいな。

    17
      • 匿名
      • 2022年 6月 03日

      Armchair general なんて言葉がある(…どころか、戦史を主力に取り扱う雑誌の誌名ですらあった)位だから…
      どの時代でも、どの国にもいっちょ噛みするマニアは存在するって事で

      • WSO
      • 2022年 6月 03日

      ウクライナ軍(あるいはロシア軍でもいいんですが)に部外者が軍師様気取りで横からアレやればコレやればとネットで“アドバイス”するのはそもそも理解不能ですが…ただ、何か罪悪感に苛まれたのなら多少なりとも実際に募金なり多少でも自分の痛みを伴う具体的な支援などを実行するのも悪い事ではないかもしれません。ネットで騒いでネットで懺悔なんてイージー過ぎ楽過ぎかと。

      19
      • えぞ
      • 2022年 6月 03日

      ここは自分自身への戒めや備忘録を記録するのに適した場所とは思えませんが……?

      31
    • zerotester
    • 2022年 6月 03日

    ウクライナの反攻が近いうちに劇的な進捗をするとは思いませんが、ロシアは今後も領土を取るには戦力をそこに集中して力押しでジワジワ攻めるしかなく、そのために他の戦線がますます手薄になるという傾向は明らかになっています。これを続けているとバランスがウクライナ有利になる時点があるでしょう。
    ロシアとしては早く東部と南部の支配地域を安定させ、戦費がかさみ犠牲者もうなぎ上りのこんな戦争は早く終わらせたいのですが望み薄です。

    4
      • 鳥刺
      • 2022年 6月 03日

      現進出線を奪取して海運の妨害によるウクライナの経済的扼殺・次回侵略を狙う意図があからさまですが、そんな話に相手が乗ってくれるわけもないですしね。
      ただ、軍事的な均衡線は交渉の土台になりやすいので、初夏のウクライナ側の反攻の実施と結果は非常に重要になります。

      3
        • zerotester
        • 2022年 6月 03日

        どちらかに傾かないと停戦交渉は始まらないでしょうし、どちらに傾くかは重要ではありますね。
        交渉はまとまらずに長期化する可能性は高いと思いますが。1年やそこらは欧米も折り込み済みでしょう。

    • 鳥刺
    • 2022年 6月 03日

    大局的に、ロシア軍の組織上の硬直性~上層部の統制から末端の小単位の戦闘に至るまで~のせいで、その能力には限界がある、戦力を総て有効に活用出来ていない、隙を衝かれれば現戦線の範囲はその能力を越えているかもしれない、という見積もりですね。
    実際、攻勢を維持している地点の数はもう2~3箇所ですし、ロシアの派遣軍全体で交代のローテーションが一巡してしまったようで、これ以後の増兵は隠れ動員と他方面からの更なる引き抜きに依らざるおえませんし、まあ、非効率でも現場に戦力を投げ込み続けて優勢を維持できるならば前進は可能なのですが何事も無限ではないので、ロシア側にも、そう遠くない時期に限界があるようには思われます。

    ハルキウ~イジュームの部隊とドンバスとは補給系統が違うようで、仮にイジューム東方に地図上の回廊を通しても、じゃあすぐドンバス系統の兵站線に軍規模の補給を流せるかと言うと… 業務的には悪夢ですね。

    >空軍はウクライナ空域に侵入するのを拒否して
    >国境付近でミサイルを発射して直ぐに帰投する
    かなり異常な消極性です。
    損害を出したら再生産で埋める見込みが全く立たないんですかね?

    >ハルキウ戦線
    一旦一段落した状況でしょう。ロシア側はハルキウ前面にはドンバス民兵部隊、ボルチャンスク前面には正規軍の増援を入れてウクライナの前進を阻止しましたし、ウクライナ軍が押す意図があるなら増強しなければなりません。Ternova周辺は… あれ、SNSに上げられた「国境で記念撮影」が問題だったのでは(笑)? 国境線は別に防御に適した線でも何でもありませんし。ロシア側が回復攻撃に拘泥するなら大局的にはウクライナの利益とも言えます。

    ウクライナのドンバス前線も、薄い兵力での3ヶ月の塹壕戦で消耗が厳しくなっている状況が垣間見えます。今の所危険な箇所への火消し部隊の投入が間に合っているようですが。

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