スペインのディフェンスメディア=Infodefensaは26日「今回のNATO首脳会談は我々にとってほろ苦いものになった」「スペインは5%を拒否した唯一の国として批判の嵐に晒された」と吐露し、スペインの行動は加盟国の配慮を逆手にとった「時間稼ぎの試み」に過ぎないと指摘した。
参考:Sánchez, el cisma del 5% y el cabreo de Trump con España, las claves de una cumbre histórica para la OTAN
参考:Trump fumes as Spain goes rogue on NATO defence spending
スペインのサンチェス首相はNATO首脳会議における悪役をカナダから奪った格好
オランダで開催されたNATO首脳会談で32ヶ国の首脳らは「2035年までに毎年GDPの5%を防衛分野と防衛・安全保障関連に投資することを約束する」と正式に発表、この5%は「直接的な軍事力に結びつく防衛分野への投資3.5%」と「重要インフラの保護、ネットワークの防衛、民間防衛や回復力の確保、イノベーションの促進、防衛産業基盤への投資1.5%」で構成され、後者の投資については「支出を決定する同盟国の柔軟性」を容認している。
España está firmemente comprometida con los objetivos de capacidad y los cumplirá en tiempo y forma.
Hoy, alcanzamos un acuerdo satisfactorio para todos y que defiende el multilateralismo.
Nuestro país seguirá siendo una pieza clave de la arquitectura de la seguridad europea. pic.twitter.com/gMChPm32XO
— Pedro Sánchez (@sanchezcastejon) June 25, 2025
この合意において最大の焦点は「我々は5%という目標にコミットしない」と公言し、ルッテ事務総長から「5%免除」を勝ち取ったと主張するスペインで、サンチェス首相は首脳会談後の記者会見で「スペインは合意された能力要件を2.1%の国防支出で達成し、それ以上の資金を費やすつもりはない」「今回の首脳会談はスペイン、NATO、全ての人々の安全、そして福祉国家にとって成功だった」「スペインの主権を尊重してくれた加盟国全てに感謝する」と述べたが、他の加盟国はスペインの立場に同情や共感を全く示していない。
ルッテ事務総長はスペインの主張と異なり「5%合意に例外条項は含まれていない」「この合意に参加した加盟国は例外なく国防支出の引き上げに尽力することになる」「この中には間違いなくスペインも含まれる」と説明し、トランプ大統領も「スペインは素晴らしい国だが加盟国の中で支払いを拒否した唯一の国だ」「そんな不公平は絶対に許さない」「私はスペインとの貿易交渉を自ら行って彼らに倍額を支払わせるつもりだ」とのべ、5%拒絶のペナルティーとしてスペインに高い関税を課すと警告した。

出典:NATO
スペインメディアのEFEも「トランプ大統領は首脳会議で挨拶や会話を交わす機会すらサンチェス首相に与えなかった」「このことについて首相は『偶然だ』と言い張っている」と報じ、スペインのディフェンスメディア=Infodefensaも「今回のNATO首脳会談は加盟国にとって質的にも量的にも大きな飛躍となったが、スペインにとってはほろ苦いものになった。我が国は5%の投資を拒否した唯一の国として批判の嵐の中心に立たされた」と述べ、首脳会談の取材中に感じた疎外感や自国の態度について以下のように書いている。
“世界中からNATO首脳会談が開催されたハーグに数千人のジャーナリストが集まり、2日間という濃密で慌ただしい時間を共有した。我々もプレスセンターでドイツ人ジャーナリストと同じテーブルに座ることになり、交わした言葉は少なかったものの同じ業界で働くもの同士として親近感が生まれた。全ての取材が終わってドイツ人ジャーナリストと形式的な別れの挨拶を交わし、テーブルから立ち去ろうとする間際、彼らは皮肉めいた表情で「スペインの幸運を祈る」と言った”

出典:NATO
“この言葉は今回の首脳会談がスペイン人に何をもたらしたのか最も的確に要約しているかもしれない。NATO加盟国にとって会談結果は質的にも量的にも大きな飛躍となったが、スペインにとってはほろ苦いものになった。我が国は5%の投資を拒否した唯一の国として批判の嵐の中心に立たされた。スペインを含む全加盟国が最終宣言に署名したにも関わらず、サンチェス首相は署名から数分後に「我々は合意内容に従うつもりはない」と世界に宣言したのだから”
“スペインはサンチェス首相の発言にも関わらず他の加盟国と同じ内容の文書に署名したことを知っている。彼が合意内容の履行を拒否したことも、この発言がトランプ大統領の怒りを買ったことも知っている。トランプ大統領はスペインに対して激しい言葉を浴びせ、もし合意を履行しないなら関税を引き上げると脅している。さらにトランプ大統領や欧州諸国の首脳が気に入らなかったのは「サンチェス首相が明かした5%の国防支出が必要ない理由」だった”

出典:Sgt Marc-André Gaudreault, JFC Brunssum Imagery
“サンチェス首相は「合意された能力要件を2.1%以下の国防支出で達成できる理由」について「この支出割合はスペイン軍が算出して達成を保証した」と全ての責任を軍に押し付けて政治的責任を回避した。さらにサンチェス首相は他の首脳と会談することも殆どなく、トランプ大統領とは挨拶すら交わすこともなく、他の加盟国から暗黙的な批判に晒された。要するに2.1%以下の国防支出で「合意された能力要件」の義務を果たせるのか疑問視しているのだ”
“何れにせよ、ルッテ事務総長はスペインの主張と異なり「5%合意に例外条項は含まれていない」「この合意に参加した加盟国は例外なく国防支出の引き上げに尽力することになる」「この中には間違いなくスペインも含まれる」と主張しており、サンチェス首相の行動は時間稼ぎの試みに過ぎない。彼の発言や行動は国内の政治的問題や立場を反映したものと解釈されるべきで、これはNATOの首脳ではなく連立政権のパートナーに向けられたものだ”

出典:German Navy/CC BY-SA 2.0
“サンチェス首相の狙いは国防支出増額に反対するスマルの支持を繋ぎ止め、その間に不安定な議会の支持基盤を固めることだろう。これを実現したのちに国防支出の問題を慎重かつ、左派の反発を招かない形で解決し、2029年に設定された合意内容の見直し時期(これは5%の見直しではなく、NATO首脳会談で合意された各加盟国に課せられる能力要件が『4年後の環境』においても適切かどうかの見直し)の際、2.1%以下の国防支出で能力要件を達成できていなければ「5%への引き上げを模索する」というシナリオだ”
“もう一つの可能性は能力要件の達成を後任者に委ねることであり、その後任政権が社会労働党か国民党の何れであっても、このシナリオにおいてサンチェス首相は権力を維持していないだろう。兎に角、今は外交努力によってトランプ大統領の怒りを鎮め関税引き上げを回避し、NATOとの関係が口先だけでなく行動によって修復されることを願うしかないが、これが可能かどうかは不透明な状況だ。それでも今回の首脳会談全体が「トランプ大統領を喜ばせるためだけに計画されたこと」を忘れてはならない”

出典:NATO
“今回の最終宣言は去年と比較して非常に簡潔で、合意された内容も5%、資金の配分内容、防衛産業、ウクライナ情勢など5項目しかない。去年の最終宣言で言及された中国、北朝鮮、イランがもたらす課題については一切触れられておらず、気候変動対策やジェンダーに関する取り組みも含まれていない。首脳会談におけるゼレンスキー大統領の役割も大幅に縮小され、ルッテ事務総長もあらゆる機会にトランプ大統領を称賛し、首脳会談前夜にはハーグの王宮に宿泊するほどだった。さらに予想を上回ったのはトランプ大統領をパパと呼んだのがルッテ事務総長自身だったことだろう”
要するにスペインを除く欧州諸国とカナダは「6月末の首脳会談で5%を受け入れるための政治的環境」を整えたが、スペインだけは連立政権のパートナー=スマルの説得に失敗して政治的環境が整わず、土壇場で「我々は5%という目標にコミットしない」と言い出したため、他の加盟国は最終宣言文の文言を「我々が約束する」から「同盟国が約束する」に調整することでスペインに配慮したにも関わらず、サンチェス首相は「5%免除だ」「我々の計算では2.1%以下の国防支出で合意された能力要件を達成できる」「スペインは防衛と福祉の両立に成功した」と再三主張するため他の加盟国から反感を買ったのだろう。

出典:NATO
リトアニアの元外交官は「もしスペインが5%免除を獲得すれば、他の首脳らは自国に帰国して5%の必要性をどのように説明すればいいのか」と指摘していたが、欧州諸国とカナダの首脳らにしてみれば今回の合意内容を自国に持ち帰れば「どういう理由でスペインのみ5%が免除されたのか」「スペインが2.1%以下で能力要件を達成できるなら5%の必要性はどこにあるのか」と言われるのは必至で、サンチェス首相の勝利宣言にも等しい発言は欧州諸国とカナダの配慮を踏みにじっており、今回の件に関してはNATOも「スペインに高い関税を課す」と警告したトランプ大統領を支持しているかもしれない。
Infodefensaも「サンチェス首相の行動は時間稼ぎの試みに過ぎない」「彼の発言や行動は国内の政治的問題や立場を反映したもので連立政権のパートナーに向けられたもの」と述べているため、サンチェス首相は賢く振る舞ったのではなく「逃げることが出来ない安全保障への新たな投資を拒否すると国際舞台でどうかなるか」を徹底的に演じた見せた可能性もあり、今回の件を受けてスペイン世論がどう反応するのか注目される。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Zachary Rufus
因みにInfodefensaは「米国の批判は『NATO全体の国防支出のうち62%を米国が負担している』という客観的事実に基づいている」「だからこそトランプ大統領は第二次大戦以降、欧州に提供してきた安全保障の傘を大幅に縮小すると警告しているのだ」とも指摘しているため、今回の首脳会談全体が「トランプ大統領を喜ばせるもの」になってしまったのは「安全保障への投資」を軽視し続けた結果なのかもしれない。
結果的にスペインのサンチェス首相はNATO首脳会議における悪役をカナダから奪った格好で、スペインに同調する素振りを見せたスロバキアとベルギーも土壇場で態度を変えたため、全ての批判をスペインのみで引き受けるしかないのが現実だ。
追記:ベルギーのデウェーフェル首相は「能力要件を計算したNATOの専門家は愚かではない」「3.5%で計算されたものを2.1%で実現できるなら本当に素晴らしいことだ」「これが出来るならサンチェス首相は天才だ」とスペインの態度を皮肉り、ドイツのメルツ首相は2029年に設定された合意内容の見直しについて「スペインが2.1%の支出で能力要件を達成できているかを見極めるもの」と述べた。
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※アイキャッチ画像の出典:NATO
10年先なんて世の中どうなってるか判らないしどうせ4年後に見直すのが既定路線なんだけど……。
政治が持たないから下手に同意もできないんだろうな。
なんか日本みたいだなぁ
今回の会議ではわき役なのに空気を読まないスペインに、主役のトランプがブチ切れ
(1)トランプ1次政権がNATO防衛費増額・ロシア産ガス依存脱却の要求、ヨーロッパは無視。
(2)NATO欧州諸国はウクライナ戦争により、ロシアの軍事侵攻による危険性を国内外に発信。
(3)トランプ2次政権がNATO防衛費増額を再び槍玉に上げて、(それ以前からの流れもあり)各国が防衛費増額について前向き。
簡単に見れば上記の流れなわけですから、他国目線で見れば『NATOあれだけ騒いでて何それ』って感じなわけで…
スペインも本音で言えば、欧州西端のためロシアの脅威から程遠く、内政に余裕がないということなのでしょうかね。
アメリカの負担軽減をさせて頂きます、私達軍備はもう必要性感じておりませんでしたが勘違いでしたので再軍備に入ります今後も欧州の防衛を引き続き宜しくお願いします、という感じでトランプいなくなるかロシアウクライナの状況見て負担の見直しも将来的に考えていそう感じでしょうか。
スペインは国内事情理解出来るけど立ち回りは上手くは無いとは思う、宣言せず調印して頑張っているのですが中々予算や反発が、、で様子見ればよかったのかな。
そりゃぁ、スペインが他の国からぼろくそに言われるのは当然ではある…
今のうちに予言しておく、2035年に5%の支出を達成しているのはポーランド以外存在しない
10年後にまた確認しに来よう
まぁそこはスペイン本国の産業に利益誘導する形に(スペイン軍需弱くないし)すれば良いのにと思うが、そこは融通が利かないのが信頼と安心のリベラル政権だな。同じ地中海で全然脅威に晒されてないが、現金にも金儲けに走るイタリア右派政権を少しは見倣って貰っても…
スペインがこれで無事にやってけたら他の国の政権は危機官物だろうし、トランプの懲罰関税は望んでるだろうな
日本としても分かり易い外圧が無いと動けないし、しばかれるスペインには同情するが、ここはコラテラルダメージということで
同じ地中海なのに
スペイン(左派)「断じて5%には上げない!」
イタリア(右派)「特需や!サウジにトルコに兵器売りまくれ」
この態度の違いよ。スペインも軍需弱くないだろうに政権の違いなのか