欧州関連

スイス議会が自国製兵器の再輸出禁止宣言の無効化を拒否、ウクライナ移転は不発

スイス国民議会の安全保障委員会が発議した「自国製兵器の再輸出禁止宣言の無効化」を議会が支持せず、ウクライナへのスイス製兵器(ゲパルト向け35mm弾薬やピラーニャIIICなど)移転の可能性は事実上閉ざされた格好だ。

参考:Парламент Швейцарии не поддержал реэкспорт боеприпасов в Украину

スイスのアラン・ベルセ大統領も最近「法的枠組みに例外を設けることはできない」と述べ、交戦国への武器移転に反対の立場を示す

スイスは政治的に中立を宣言しているため交戦国への武器輸出を禁じており、これは輸出されたスイス製兵器の再移転承認にも関係してくるためドイツが要請したゲパルト自走対空砲向けの35mm弾薬、デンマークが要請したピラーニャIIIC、スペインが要請した20mm対空砲のウクライナ移転を拒否しているが、スイス国民議会の安全保障委員会は1月に「自国製兵器の再輸出禁止宣言の無効化と戦争物資法18条の改正を要求する発議を可決(14対11)した」と発表した。

出典:Outisnn / CC BY-SA 3.0 スペイン軍のピラーニャIIIC

この発議の内容を簡単に説明すると「国際法上の武力行使に違反した場合、特にロシアのウクライナ侵攻に関して再輸出禁止宣言を無効化するべきだ」「安保理が国際法上の武力行使の禁止に違反すると宣言した場合、スイス製兵器の購入国が当該物資を交戦国に再移転するのを容認するため戦争物資法18条の改正を要求する」というものなのだが、議会は「再輸出禁止宣言の無効化」を拒否して「戦争物資法18条の改正」のみを支持。

つまり議会が再輸出禁止宣言の無効化を拒否したため「輸出されたスイス製兵器の交戦国移転は今後も認めない」という意味で、戦争物資法18条の改正は成立する見込みだが「安保理が国際法上の武力行使の禁止に違反すると宣言した場合」という前提条件があるため、拒否権をもつロシアが「ウクライナ侵攻は国際法上の武力行使の禁止に違反する」という安保理の宣言する同意する訳がなく、戦争物資法18条の改正だけでは「スイスの状況は何も変わらない」と報じられている。

出典:Derwatz / CC BY-SA 3.0

因みにスイスのアラン・ベルセ大統領も最近「法的枠組みに例外を設けることはできない」と述べて交戦国への武器移転に反対の立場を示し、スイス製兵器のウクライナ移転の可能性は事実上閉ざされた格好だ。

関連記事:ウクライナ支援の転換点、スイスが交戦国への武器移転を容認する方針

 

※アイキャッチ画像の出典:Hans-Hermann Bühling / CC BY-SA 3.0

豪州は2030年前半にバージニア級を最大5隻購入、後半に新型原潜を建造前のページ

ロシア軍がインフラ攻撃を実施、ウクライナ軍は発射された81発中34発を撃墜次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    仏Nexter、前線付近の榴弾砲にとって重要なのは射程距離ではなく機動性

    米陸軍のジェームズ・レイニー大将は「牽引砲(M777)の有効性は終焉を…

  2. 欧州関連

    ウクライナにCaesar提供したデンマーク、納期が早いATMOS調達を決定

    ウクライナ国防省は13日「提供を約束したCaesarがデンマークから到…

  3. 欧州関連

    ウクライナ危機の中、親ロシア議員とジャーナリストが生番組で取っ組み合い

    ウクライナの生放送番組でジャーナリストが親ロシア政党の政治家を殴り、押…

  4. 欧州関連

    英国、北極圏で実施される極秘作戦に帰国したばかりの空母クイーン・エリザベスを派遣

    英国は北極圏で実施する極秘の護衛作戦のためタイフーンとA330MRTT…

  5. 欧州関連

    突然始まった武力衝突、アゼルバイジャン軍がアルメニア国境に向けて前進か

    13日深夜に突然始まったアゼルバイジャン軍とアルメニア軍の衝突は現在も…

コメント

    • ななし
    • 2023年 3月 09日

    日本・ドイツ・フィンランド・韓国の対空車両の機関砲はエリコンのを輸入かライセンス生産とかばっかりだから
    これどうしようもなくない?

    8
      • 58式素人
      • 2023年 3月 09日

      もうこれは、ボフォース砲に換装で良いのでは。
      或いは、古いけどアーデン砲/DEFA砲、新しいものではマウザー砲、
      あとは、米国のバルカン砲/チェインガンで。
      ロシア/中共に関する限りは、スイスは触らずに放っておけば。
      きっと同じことを繰り返すでしょう。
      WW2の時は、ドイツ/日本/フランス/英国/米国とどこにでもエリコン砲を売っていましたけど。
      何故でしょうか。やっぱり、石油とガスかな。

      14
    • XYZ
    • 2023年 3月 09日

    安保理の宣言が必須となると対ロシア戦はもちろん、対中国戦も拒否権がありますので事実上不可となります。
    日本有事の際は今回と同じようにスイス製兵器及び弾薬などの供給が受けられないことに・・・。

    しかし、エリコン社は兵器部門をラインメタル社に売却していたと思うのですが、知的所有権などは保持したまま??

    28
    • Natto
    • 2023年 3月 09日

    エリコンさんは昔、双方に武器を売ってたよねぇ。

    12
    • あさり
    • 2023年 3月 09日

    これはしょうがない
    スイスという国の地盤が揺るぎかねない抜け穴になる
    やるなら国民投票か議会解散して民意を問うてから

    18
    • けい2020
    • 2023年 3月 09日

    ここまで来てもこれなら、スイス企業の武器は買えないし今あるのすら入れ替えないと
    侵略受けても弾薬補給すら出来ない自体になることが確定してしまったな

    37
    • 横田
    • 2023年 3月 09日

    永世中立とはこういうことだしもうスイスをこれ以上攻めてもしょうがない
    スイス製が混ざっている兵器はいざという時使えないということ

    50
    • らら
    • 2023年 3月 10日

    しょうがないとは思うが、今後スイスの武器を買う国が減るだろうってことだけは確かだな
    スイス国内の商売として売りたい勢力と 国としての理念のせめぎあいだったんだろうけどこれで決着がついたと言う事か

    19
    • 太郎
    • 2023年 3月 10日

    え?ゲパルトはなんでOKなん?

    • さめ
    • 2023年 3月 10日

    禁止の無効化の拒否で不発

    否定×否定×否定→否定

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  2. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  4. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  5. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
PAGE TOP