欧州関連

スイスがウクライナへの武器供与にゴーサイン? 法案成立は数年先の話

ウクライナの与党は「スイスがウクライナへの武器供与にゴーサインを出した」という報道について「メディアが誤った解釈をしている」と指摘、仮にスイスの武器移転に関する法案が成立したとしても「数年先」の話だ。

参考:Schweiz gibt grünes Licht für Waffenlieferungen an Ukraine
参考:В Раде объяснили решение Швейцарии по оружию: это еще не разрешение реэкспорта
参考:Wiederausfuhr von Waffen soll unter Bedingungen möglich sein

個人的には「この戦争にスイスの法改正は間に合わない可能性が高い」と思っている

Euronewsなど複数の欧州メディアは「スイス議会が戦争物資法の改正に賛成したためウクライナへの武器供与にゴーサインを出した」と報じているが、ウクライナの与党は「メディアが誤った解釈をしている」と指摘しており、正しくは「スイス議会の安全保障委員会が戦争物資法18条の改正を支持、これにより戦争物資法の改正に関する草案を作成できるようになった」というだけで、安全保障委員会のザルツマン委員長は「草案の審議は早くても来年、改正に国民投票が必要になるかもしれないため成立はもっと後になる」と述べている。

出典:Outisnn / CC BY-SA 3.0 スペイン軍のピラーニャIIIC

安全保障委員会は今年1月に「自国製兵器の再輸出禁止宣言の無効化」と「戦争物資法18条の改正」を発議したものの、議会が後者のみを支持して「宣言の無効化」を拒否したためウクライナへの武器供与は失敗に終わっており、そのロジックはこうだ。

今年1月に発議された内容は「国際法上の武力行使に違反した場合、特にロシアのウクライナ侵攻に関して再輸出禁止宣言を無効化するべきだ」「安保理が国際法上の武力行使禁止に違反すると宣言した場合、スイス製兵器の購入国が当該物資を交戦国に再移転するのを容認するため戦争物資法18条の改正を要求する」というものなのだが、宣言の無効化を拒否されたため戦争物資法だけを改正しても無意味=拒否権をもつロシアが同意するはずがなく不発に終わった。

出典:Derwatz / CC BY-SA 3.0

そのため今回は自国製兵器の再輸出禁止宣言の無効化に「条件付き緩和」を、戦争物資法18条の改正に「国連総会で2/3の国が国際法上の武力行使禁止に違反すると認めた場合も交戦国への再移転を認める」という内容を盛り込んでいるが、今のところ議会は提案に対する支持に消極的らしい。

今後の審議過程でどのような結果に落ち着くは不明だが、仮に国民投票の実施が必要になると「宣言の無効化」と「戦争物資法の改正」が発効するまでに数年かかる見込みで、恐らく2025年中に国民投票が実施できれば早い方といった感じだ。

個人的には「この戦争にスイスの法改正は間に合わないだろう」と思っている。

関連記事:スイス議会が自国製兵器の再輸出禁止宣言の無効化を拒否、ウクライナ移転は不発
関連記事:ウクライナ支援の転換点、スイスが交戦国への武器移転を容認する方針

 

※アイキャッチ画像の出典:Rainer Lippert /CC BY-SA 4.0

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コメント

    • 2023年 5月 14日

    数年先か
    日本と良い勝負しそうだな

    6
      • 名無しさん
      • 2023年 5月 14日

      日本の武器輸出三原則は法律ではなく、政令運用基準なので、その改正には議会の承認もましてや国民投票など不要なルールなんですよね。
      実際に第二次安倍政権によって緩和されていますし、「その気になれば」割と変更は容易い代物だと思います。

      40
        • 戦略眼
        • 2023年 5月 14日

        閣議決定だからね。
        やる気があれば昼飯前。

        8
      • nachteule
      • 2023年 5月 15日

       防弾チョッキとか特例的に「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定した前例があるから出来ない事はない。ただ明らかにまともな事前説明みたいな根回し無しに、人殺しの兵器を輸出する流れになるなら内閣倒れても不思議じゃないと思うわ。

      2
    • MAX
    • 2023年 5月 14日

    これスイスにとっても問題なんじゃないの?
    有事になったら自動的に弾薬やパーツの供給がストップする兵器なんて誰も買わないだろ

    20
      • 匿名
      • 2023年 5月 14日

      スイス国民が決めた事を、他国の人間が外野からあーだこーだ言ってもねぇ…😔
      結果、スイスの兵器産業がどうなろうと自国民が決めた事だし文句もあるまいて

      38
        • またきん
        • 2023年 5月 14日

        それはその通りなんだけど、そこで話終わっちゃったら広がらないし…
        三原則の話する?

        10
        • れんちゃ
        • 2023年 5月 14日

        スイス国民はさっさと国民投票せーやって感じだろうけど、議会がグダグダやっててその国民投票をするかどうかすらも結論出ない流れなのでは…

        4
          • バーナーキング
          • 2023年 5月 14日

          ほんそれ。
          責任を国民に投げるなら早くせーや、と。
          さんざん引っ張って手遅れになってから国民投票されてもどーしろと。

          4
        • 名無し
        • 2023年 5月 14日

        >>スイス国民が決めた事を、他国の人間が外野からあーだこーだ言ってもねぇ…😔
        >>結果、スイスの兵器産業がどうなろうと自国民が決めた事だし文句もあるまいて

        スイスでも問題視されてて、方針転換に賛成してる人たちの意見でもある

        ヨーロッパのスイス以外の軍事的な中立国はオーストリア、一応アイルランドもそうだけど
        軍事的な中立は普段から他国(NATO)と緊密な訓練を重ねることが出来ず、有事に対応しきれずデメリットしかない
        みたいな研究や報告書がロシアの侵略後に相次いで出てる

        10
      • ミリオタの猫
      • 2023年 5月 14日

      その通りですね
      実際、陸自が最近まで使っていたエリコンL90・35㎜対空機関砲は後継無しで引退したし、共通装輪装甲車の歩兵戦闘車仕様が装備する30㎜機関砲はエリコン製では無くブッシュマスター製の30㎜チェーンガン、そして海上保安庁も一時期巡視船用の標準機関砲だったエリコン35㎜の調達を止めてボフォース40㎜や30㎜チェーンガンへ切り替わっていますから、日本も今回のウクライナの件が明らかになる以前から問題視していたのかも知れません

      22
        • nachteule
        • 2023年 5月 15日

         適当な事言わないで、一部自分の私見も入るけど。

         L90は単独での運用せずに支援車両とか必要で構成が大げさになるし新しい脅威に対して性能アップデートもしなかなったから陳腐化して近SAMが後継になった。これは空自のVADSも同じ感じだと思う。オマケで言うなら退役したのは10年も前だと思うし、それが最近になるだろうか?
         日本でもテレスコープへの期待なり大口径機関砲ならエアバースト弾があるから機関砲での滞空防御がその内復活する可能性はあるけど、今回の問題を見るにエリコン35mmを使うスカイガードシステムが優秀だろうが採用は低いんじゃないだろうか。

         エリコン30mmは車両搭載の実績なんてあるのかって感じで、車両搭載に関して言うなら実績やアップデート含めて採用が多いブッシュマスターに軍配が上がる。

         海保は北朝鮮不審船の装備を受けて確実なアウトレンジをするために40mmを選択したし、30mmに関しては重量減やコスト削減が主でそれに見合う性能があるから採用している。

         少なくとも大分前から日本でエリコンが採用されないのは、今回問題になっている法案以外の問題でしかないと思うし、悪い意味で平和ぼけしている日本が法案を問題視して使用を辞めるなんてとてもじゃないがあり得ない話だと思う。

         

    • 通りすがりのシロウト
    • 2023年 5月 14日

    ウクライナ支援国
     武器供与 実施中 NATO諸国
     武器供与 可能性 スイス など
     経済支援 実施中 日本 など
    スイスが中立国からウクライナ支援国になった政治的意味合いは大きいと思う

    3
      • 戦略眼
      • 2023年 5月 14日

      各国は戦争終結後のビジョンを描いているのだろうか?

      1
      • (^^
      • 2023年 5月 14日

      政治的意味合いという点に於いては、EUの対露制裁パッケージを2022年3月にスイス政府が受け入れた時ほどはないでしょう。
      これの影響でクレディスイスとUBSだけでロシアの在スイス資産の1/3のほど、だいたい2.5兆円を凍結しました。(アメリカはこの二行を信用せず調査し始めたようですが)
      武器供与云々については、権威主義諸国との戦いが熱戦、つまり大戦となった場合への備え、ではないかと思います。

      3
    • 匿名
    • 2023年 5月 14日

    こいつらまだこの問題の決着引っ張ってんのか…

    2
    • 横田
    • 2023年 5月 14日

    これスイスが今後兵器産業をどうするのかってことと同義だと思うんですが
    スイス製導入してたら手持ちの在庫だけで戦争戦わなきゃいけないってことになるけど
    何を好き好んでそんなリスクある兵器を使わなければいけないのか

    6
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