欧州関連

英国の国防費増額発表は先送りか、7月のNATO首脳会談までずれ込む可能性

英国メディアは15日「スターマー首相は180億ポンドの国防費増額を来週にも承認する」と、Financial Timesも18日「政府はGCAP向けの60億ポンド支出を準備している」と報じたが、未だに発表される気配はなく、7月のNATO首脳会談までずれ込むと予想されている。

参考:War losses making Russia reckless and dangerous, NATO is warned as UK signals defence spending boost

GCAP本格開発に対する資金供給の安定さをアピールできるのか、逆に資金供給の不安定さを露呈することになるのか

英国政府は2025年6月に国防戦略の見直し結果を発表し、スターマー首相は「この報告書が提案した62項目の勧告全てを受け入れて実行に移す」と表明、国防予算を2027年までにGDP比2.3%から2.5%、2035年までに3.0%まで引き上げる予定だったが、NATO加盟国は6月下旬に開催された首脳会談で国防支出を総額5.0%(国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%)にすることで合意、英国も総額5.0%を支持したものの「いつまでに達成するのか」「そのための財源をどうやって確保するのか」は決まっていない。

出典:UK Ministry of Defence

2027年までに2.5%達成は海外援助の大幅削減によって財政的裏付けが確定しているものの、国防戦略の見直し結果=62項目の勧告を実行に移すと「今後4年間で280億ポンドの不足が生じる」と指摘され、2035年までに3.0%を達成するには不足分を何とかする必要があり、スターマー首相は社会保障費の大幅削減を試みたものの「労働党の魂(労働者や社会的弱者の保護)を売るのか」と所属議員の約1/4が反発して頓挫、海外援助のさらなる削減も「こうした削減は労働党の価値観に反する」と反対の声が上がり、リーブス財務相は市場の支持を維持するため「借入ルールの変更」に強く反対しているため市場からの資金調達も困難だ。

英伊日は次世代戦闘機=GCAP本格開発に向けた複数年契約を2025年末までに締結する予定だったものの、Edgewingが2026年4月に発表した「初の国際共同契約の締結」は6月末までのつなぎ契約に過ぎず、6月末で供給が止まってしまう開発資金問題を何とかするには「財政的に裏付けのある国防費増額」と「この増額を背景にした今後10年間をカバーする国防投資計画」を発表する必要があり、英メディアは15日「スターマー首相は党首選に備えた政治的反撃の一環として180億ポンドの国防費増額を来週にも承認する」「この180億ポンドの財源は不明」「国防省が求める280億ポンドのニーズは満たせない」と報じた。

出典:UK Prime Minister

Financial Timesも「英国はGCAPに対して数十億ポンド規模の資金投入を準備している」「これはGCAPに対する長期的な資金提供がないことについて東京から強い圧力がかかっていることを受けてのものだ」「現在のつなぎ契約は6月末に期限切れを迎える」「約60億ポンドと見積もられる資金によってGCAP設計・開発を対象にした複数年契約を締結できる見込みだ」「ただし、これを発表できるかどうかは財務省の承認が必要だ」と指摘。

スターマー首相に対する党首選圧力は政治不安と認識され、さらに4月の借入額総額は前年4月と比較して49億ポンド増の243億ポンド、予算責任局の予想を34億ポンドも上回る結果となり、借入に対する4月の利払い額が過去最高額となる103億ポンドに達したため、国債の長期金利も30年物で5.8%超、10年物で5.1%超と短期間で高騰し、22日までに承認すると予想されていた180億ポンドの国防費増額は未だに発表されていない。

出典:Edgewing

現在は7月7日~8日にトルコで開催されるNATO首脳会談の先立ち、国防費増額と今後10年間をカバーする国防投資計画を同時に発表すると予想されているが、6月末までに発表しなければGCAP本格開発への資金供給が切れるため「非常にギリギリの政治的スケジュール」と言え、ここまで余裕のないスケジュールになるのは財務省の承認が得られていないため、ギリギリまで政権と財務省の間で調整が続いているためだろう。

果たして6月中に複数年契約を締結して「GCAP本格開発に対する資金供給の安定さ」をアピールできるのか、それとも財政的裏付けの確保を出来ずつなぎ契約でジャンプして「GCAP本格開発に対する資金供給の不安定さ」を露呈するのか、個人的な感覚では後者の可能性が高いと思っている。

関連記事:英国のGCAP資金解放は財務省次第、イタリアは国防費増額が止まる可能性
関連記事:イタリアが最優先事項を国防からエネルギーに変更、国防支出の増額基調に陰り
関連記事:英国が国防費増額を来週承認する見込み、ただし180億ポンドでは足りない
関連記事:英国の国防費増額決定の遅れ、ついに防衛スタートアップが破綻し始める
関連記事:英スターマー政権の選挙大敗、GCAP開発資金確保に影響を及ぼす可能性
関連記事:英国の国防費増額を巡る批判の応酬、国防分野の重鎮もいい加減にしろ
関連記事:次世代戦闘機の本格開発を阻む資金不足、英国は社会保障費の大幅削減が困難
関連記事:次世代戦闘機に対する欧州の温度感、脅威に直面する時間枠や資金に異なる考え
関連記事:GCAP資金問題、英伊日は6カ国の追加パートナーを招き入れる必要に迫られる
関連記事:英伊日の戦闘機開発が初契約を締結、開発作業を6月末まで継続するつなぎ契約
関連記事:GCAP開発契約の遅延原因、英国の国防投資計画公表は最低でも5月以降
関連記事:日本はGCAPに対する英国の決意に疑念、プロジェクトの停滞もひどい状況
関連記事:ポーランドのGCAP参加、目前の脅威に間に合わないので投資するな
関連記事:空自の武藤元空将、GCAP契約遅延が試作機製造に最大1年程度の影響を及ぼす
関連記事:イタリア国防相は狂気の沙汰と批判、英国が伊日にGCAPの技術共有を拒否
関連記事:日英伊が共同開発する次期戦闘機、英国の資金不足で契約締結に遅れ
関連記事:イタリア国防相がGCAP開発コストの高騰を報告、3ヶ国の負担総額は約10兆円か

 

※アイキャッチ画像の出典:GlobalCombatAir

ベルギーの新型フリゲート調達が7年も遅延、既存艦退役に間に合わない可能性前のページ

対イラン作戦で再評価されたMQ-9、米空軍が安価なISR向け無人機をテスト次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    ウクライナ外相、我々をロシアの付属物として見る3つの国が見解を改めればNATO加盟は実現する

    ウクライナのクレバ外相は「我々をロシアの付属物として見る3つのNATO…

  2. 欧州関連

    トルコとギリシャの緊張状態にフランスが介入、戦闘機ラファールを派遣

    トルコとギリシャの排他的経済水域(EEZ)を巡る対立は周辺国を巻き込み…

  3. 欧州関連

    トルコにとって100年越しの夢、国産戦車アルタイの量産風景を公開

    トルコ国営通信社は5日「初めてアルタイの生産拠点内部の撮影に成功した」…

  4. 欧州関連

    ギリシャはラファール18機導入で仏と合意、しかも内8機は無償譲渡

    複数のギリシャメディアが29日、ギリシャは戦闘機ラファールを18機導入…

  5. 欧州関連

    ポーランド軍、自国企業が生産する装備や弾薬は高価過ぎて購入できない

    ポーランドメディアのInteriaは29日「PGZが要求する欧州で最も…

  6. 欧州関連

    2つの第6世代戦闘機計画は欧州の統合失敗を象徴、ベルギーは統合を主張

    ドイツのメルツ首相とフランスのマクロン大統領は「米国への依存度と重複す…

コメント

  • コメント (16)

  • トラックバックは利用できません。

    • せい
    • 2026年 5月 25日

    なんというか、ほんと頼むよ
    せめてokかnoの表明はしてくれ
    只時間が過ぎるのが一番痛いんや

    35
      • バーナーキング
      • 2026年 5月 26日

      OKの表明はしてるんですよ。表明が信用に値しないだけで(ダメじゃん
      そして一本化できない個別契約でも3ヶ月のつなぎ契約でも現場は普通に動いてますし、
      日伊からの予算はまだ何ヶ月分かGIGOには入ってるでしょうから、それを前借りしてつなぎ契約も数字上は可能なはずです。
      問題は英国の体裁やプライドが木っ端微塵になることですが、それはまあ自業自得でしかないので…

      14
        • YF
        • 2026年 5月 26日

        せっかくGIGO設立したんだからその時に財布を一本化しておけば良かったんですけどね。
        日英伊で一旦そこに資金をプールしてEdgeWinにお金を流すようにすれば、3ヵ国のいずれかで資金が遅れるような事になってもそこまで大きな問題にならないと思います。

        現状、自国の企業にしかお金が流れないシステムがネックですよね。
        カナダ等参加国が増えれば一本化せざるを得ないんでしょうけど。

        7
    • たむごん
    • 2026年 5月 25日

    支持率10%台+選挙大敗北で、なあんにも決められなくなってるんでしょうかね。

    スターマー首相は、党内から辞任要求・閣内は閣僚辞任が相次いだり、党内閣内ボロボロでどうしようもないんだろうなあと…

    16
    • YF
    • 2026年 5月 26日

    6月に高市総理が訪英するのに7月まで伸ばしますかね?首脳会談後の共同記者会見でGCAPの事を必ず聞かれると思いますが、予算確保出来ませんでしたが、さらなるつなぎ融資をやりますになるんですか。
    いずれにしろGCAPに関しては首脳会談後になんらかの発表あると思うのでそこ注目ですね。

    15
    • 名無し
    • 2026年 5月 26日

    金の出どころなんて増税か他の事業の縮小か国債発行で、いずれにしても与党の支持率や今後の得票率をベットする行為なんだからそりゃそうだろって感じ
    財務省の承認って責任転嫁してるが、自分らは悪くないですよ〜ってポーズ取って少しでも右派層のダメージ抑える策略じゃねーのか?

    1
      • kitty
      • 2026年 5月 26日

      Claudeさんによると、国債発行くらいしか逃げ道はないけど、別に米国みたいに法律で国債発行に問題があるわけでもないのに、自分の労働党が掲げた公約で出せないという自縄自縛です(バカですね:言外)。
      なんだそうでw。

      7
        • のー
        • 2026年 5月 26日

        その公約を外すと、トラスショックの再来となってしまいます。
        トラス首相のせいで、英国は信用を無くしてしまいました故。
        仮に政権が変わっても国債増発はできないでしょう。
        世界中の投資家が次は日本がショックを起こすかもしれないとみているようで、
        気をつけねばんらんですよ。

        3
          • ななし
          • 2026年 5月 27日

          >世界中の投資家が次は日本がショックを起こすかもしれないとみているようで、
          そんな事実はないね

          5
          • 名無し
          • 2026年 5月 27日

          いまのところヤニカス増税で防衛費捻出してるから国際償還の問題とかは無いだろうが、高齢者や障碍者をいかに処分するか考えないと出費が減らないから…

          3
    • まさし
    • 2026年 5月 26日

    再びつなぎ予算契約で七月の発表をまつということですかね。
    もしできなければ英国のメンツ丸つぶれ、
    今までの予算がパー。
    本当にやらかすんでしょうか?

    • リンゴ
    • 2026年 5月 26日

    スターマー氏が労働党と纏めて退陣してくれるのが、日本の戦闘機開発、延いては国防にとって一番良い

    6
    • wyuki
    • 2026年 5月 26日

    何のかんの申しても。
    英国に御金~現金が無いのは日本以上なので、こうなるのを予測していた御仁は多々居た筈。
    予測して声高に喚いても、心配なさるなと英国が云ってきたツケが今頃に廻って来ている様に感じます。
    この際ですから金欠な英国は排除しましょう。
    っでもって。
    物別れなFCASからドイツ、スペインと歩調を合わせては如何?
    って、基本性能を一からやり直し、云々。
    ど~するのがBestなのか知らん

    3
      • ななし
      • 2026年 5月 27日

      あり得ない、ちゃぶ台返し繰り返す常習犯のドイツやイギリス以上に内政財政ガタガタのスペインと組むとか論外
      大体、ドイツ、スペインと組んでも日本が必要とするものは得られないでしょ

      5
    • あうあうあー
    • 2026年 5月 26日

    もし2回目の「つなぎ予算」になれば、さすがに問題がありますね。
    そもそもGCAPの開発費も10兆円はお高いですし(1000機生産しても1機あたり開発費だけで100億円)
    現行計画から低価格化させたプランへの移行を打診してもいいのではないでしょうか。
    F-3の能力向上型を地に足ついた範囲で手堅く開発するというような。

    2
      • バーナーキング
      • 2026年 5月 27日

      イタリアの「3兆円超」はシステムオブシステムズ込みの額でしょうから×3で10兆円、も有人戦闘機の機数で割るのも適切ではないと思いますよ。

      3

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  2. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  3. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  4. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  5. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
PAGE TOP