欧州関連

英陸軍の新型自走砲、RCH-155を72両調達するため約2,100億円を投資

ドイツと英国は2026年に200両以上のRCH-155を発注すると予想されていたが、英国防省は13日「RCH-155を72両調達する予定で陸軍の砲兵能力は飛躍的に向上するだろう」と発表し、ラインメタルとKNDSの合弁会社と約10億ポンド=約2,100億円の契約を締結した。

参考:Next-generation remote controlled artillery systems to transform British Army
参考:Großbritannien beschafft 72 deutsche Radhaubitzen des Typs RCH 155

英国は国防予算が不足している中でも「短期的な防衛力強化」には次々と資金投入を行っている

英陸軍のAS90は39口径155mm榴弾砲を採用しているため、52口径を採用する西側諸国の自走砲=PzH.2000、K9、Archer、Caesarやロシアの自走砲=Msta-S、Koalitsiya-SV、А-222と比べて通常弾の射程距離が劣り、52口径155mm榴弾砲への換装計画=Braveheartも被弾した際の誘爆を防ぐ要求要件が満たせず、防衛計画の見直しでAS90退役と次期自走砲計画を発表。

この次期自走砲計画は「Archer、Caesar、RCH-155、K9A2による競争入札になるだろう」と予想されていたが、ウクライナ侵攻が勃発したことで安全保障政策や防衛産業協力の方針が大幅に変更され、2024年4月にベルリンを訪問したスナク首相は「英国とドイツは155mm砲を搭載するボクサーシステム(RCH-155のこと)を共同開発する」と、英国防省も「この砲兵システムは英国とドイツで生産され新たな雇用(数百人分)を生み出す」と発表して次期自走砲の競争入札をスキップした。

ドイツ連邦議会も2025年12月の予算委員会でRCH-155(500両)調達契約を承認、この500両という数字は本枠組みの最大値で、ひとまず「プロトタイプ4両」と「量産車両80両」の計84両を12億ユーロで即時発注し、英国防省も「ドイツと5,200万ポンドの契約を締結してRCH-155のプロトタイプを受け取ることになった」「走行間射撃が可能なRCH-155は長距離火力の長期的な解決策だ」「ウクライナに提供したAS90のギャップを埋めるArcherは長距離火力の短期的な解決策に過ぎない」「ウクライナとロシアの戦争は迅速な移動と射撃能力の重要性を示して我々の調達方針に大きな影響を及ぼした」と発表。

出典:UK Ministry of Defence

ドイツは2026年にRCH-155を149両、英国はRCH-155を70両発注と予想されていたが、英国防省は13日「RCH-155を72両調達する予定で陸軍の砲兵能力は飛躍的に向上するだろう」「この契約には初期訓練と運用支援も含まれ、ラインメタルのテルフォード工場やKNDSのストックポート工場を含む生産施設で500人以上の英国人雇用を支える」「ラインメタルは英国産の鉄鋼を使用する予定で英国の防衛産業基盤が強化される」「RCH-155の初納入は2028年を予定している」「暫定的な砲兵システムとして使用しているArcherはRCH-155配備まで引き続き使用する」と発表。

英国防省はRCH-155の能力について「最大70km離れた目標に対して毎分8発の発射が可能」と言及、ドイツのディフェンスメディア=hartpunktも「最大70kmという射程はロケットアシストとベースブリード技術を組み合わせたM2005 V-LAP弾薬を使用した場合の話で、RCH-155と同じ52口径155mm榴弾砲を使用して67kmの射程距離を達成できると実証済みだ」と報じ、英国は国防予算が不足している中でも「短期的な防衛力強化」には次々と資金投入を行っている。

欧州では体感的に「限られた資金を短期的に入手可能なシステム強化に投資すべきだ」という考え方が急速に増えており、ポーランドのディフェンスメディア=Defence24も「限られた資金を将来登場するかもしれないシステムに投じるべきではない」「ポーランドと同様の安全保障脅威に直面する他国でも『既存システムへの投資』に資金を集中させている」「短期的な防衛力強化と並行して数十億ユーロ規模の長期プログラムに資金を割けるのは一部の超富裕国だけだ」「これは冷徹な現実である」と指摘。

これは「将来を見越した長期プログラムを中止する」という意味ではなく「長期プログラムの優先順位を引き下げて資金供給を遅らせ、ここで捻出した資金を短期的な防衛力強化につながる分野に投資する」という意味になり、限られた資金の投資先として不適格の代表例に挙げられるには「10年先にしか手に入らない次世代戦闘機への投資」だ。

出典:GlobalCombatAir

もちろん「無限の資金」や「無限の産業力」があるのなら「短期的な防衛力強化」と「将来を見越した長期プログラム」を並行して進めるのが正しく、無限のリソースがなくても長期的な安全保障上のリスクが低レベルならジャムをトーストに薄く伸ばすような対応も選択肢の1つで、誰も「将来を見越した長期プログラムへの投資は不要だ」とは思っていない。

ただ、無限のリソースがない国は現在の安全保障環境に照らして現実的な選択を迫られており、直面する安全保障環境のリスクも国や地域によって異なるため現実的な選択も1つではなく、日本人にとって一番わかり易いのは「GCAP開発遅延に対する欧州と日本の温度差」だろう。

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※アイキャッチ画像の出典:UK Ministry of Defence

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コメント

  • コメント (11)

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    • 無印
    • 2026年 5月 15日

    「GCAPの温度差」
    中国の続々と量産される新型機と、ロシアのSu-57に囲まれればこうもなろう
    「焦るな」と言うのが無理

    11
    • ブルーピーコック
    • 2026年 5月 15日

    自走砲が無駄だとは欠片も思わんが、島国が航空機より砲戦力を優先するのもなんだかなあとは思う。まあこっちはほぼ確実に雇用と現物が手に入るというのもあるんだろうけど。

    18
      • あばばばば
      • 2026年 5月 15日

      そうは言っても北アイルランドという油断できない場所もあるし
      もしもフランス・ベルギーが敵国に落ちたら海峡挟んで撃ちあいなるかもしれないからな
      陸軍を前線に派遣する事を優先するかもだが

      6割冗談だけど

      1
    • まめ
    • 2026年 5月 15日

    戦闘機の製造能力、どうするなんだろう?イギリス分のタイフーン受注って少なかったと思うんだけど。
    GCAPの開発資金を投入しないと、期間が空き過ぎて技能者がいなくなると思うんだけど?

    8
    • 58式素人
    • 2026年 5月 15日

    どうなのでしょう。
    ロケット/ラムジェット推進砲弾をもう少し研究出来ないのかな?、などと思います。
    あるいは、エクスカリバーのような滑空形式で。
    常に70km超えの最大射程で射撃をするわけではないと想像します。
    砲身長を伸ばせば、それに対応した装薬/砲弾も必要だろうし。
    装備全体の重量/嵩も増えるし。施条だけで射撃精度を出すのも難しいだろうし。
    などと勝手に思います。
    ドローンの有効射程延長に対応するには、高額すぎるような気もします。
    やり過ぎると、安価なドローンを高価なMANPADSで撃墜する悪例に倣うのでは?

    • YF
    • 2026年 5月 15日

    イギリス一国の安全保障を考えた場合、短期、中期、長期において必要な兵器に対するグラデーションが出るのは当然で、まして対ロシアを考えた場合、第6世代戦闘機の早期取得の必要性は低い思います。

    ただこれはイギリスだけの事を考えた場合で、GCAPは3ヵ国の共同開発計画です。イギリスの都合だけでこの計画を遅延・頓挫させた場合間違いなく外交問題になります。
    海外メディアが日本がイギリスのテンペスト計画に参加する程度の扱いだとしても、GIGOの設立にあっては3ヵ国は対等の立場です。
    スターマー政権が苦しい台所事情の中、繋ぎ融資を出してきたのもその表れだと思います。
    GCAPに関しては安全保障上の温度差だけでなく、外交面含めた考えが必要なのではと思います。

    高市総理はG7参加にあたってイタリアとイギリスを訪問予定です。間違いなくGCAPの話題も出ると思いますので、その時のイギリス側の対応に注目です。

    6
    • たむごん
    • 2026年 5月 15日

    『政権が弱い』イギリス政治の問題ですから、何も期待するべきではないのでしょうね。

    日本目線で見れば、GCAPはイギリスが足を引っ張る前提で、いろいろ考えていく必要があるだろうなと。

    対米で何か力を発揮できるわけでもなく(国王夫妻派遣でスコッチの関税減免くらい)、対EUでも離脱後に何もできていませんから、イギリスへの外交資源を他に割いた方が現実的なのかなあと…。

    2
      • ブルーピーコック
      • 2026年 5月 15日

      良くも悪くも『我慢できる国民性』の日本による札束ビンタ(円借家)とか、やり方はありますからね。英国のプライドはズタズタになりますけど。
      最大の問題は英国ではなく、英国のメーカーが協力してくれるかどうかですが。懐が痛まなければやってくれるかな?

      4
        • たむごん
        • 2026年 5月 15日

        『海外拠出の御旗』日本のように、国連分担金・ウクライナ支援・国際団体への拠出など、国際協力の美名だけですんなり決まるのが異例というのを聞いた事があります。

        英国企業の協力が、技術面で仰るように必要となれば英国政府の許認可も必要でしょうし、今後どうなるのか見守りたいと思います。

        早く進んで欲しいんですけどね…。

        2
    • 特盛
    • 2026年 5月 16日

    イギリスの自走砲需要がそこまで必要か?と考えると、より安価なArcherの方がよかったのでは,…
    限られたリソースの配分を短期的に入手可能なシステム強化に割り振るのは仕方ないにしても、高価な自走砲を買って国際共同開発のGCAPを後回しというのは正直印象が良くない

    • やうやう蒼くなりゆく瀬戸際
    • 2026年 5月 17日

    英陸軍は2023年にArcher14両の導入契約を発表しNATOエストニア戦闘群の英陸軍砲兵部隊でArcherを運用しています。
    Archerについては部隊運用で能力をよく理解したうえで今回RCH-155の方を選択したのだと思います。

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