フランスのルコルニュ国防相は「MBDAにAsterの納期を半分にするよう要請した」と述べたが、Asterは各製造段階毎にアルプス山脈を越えて何度もフランスとイタリアの間を行き来しなければならず、MBDAで働く人物は「パズルのように細分化された製造分割は工業的に悪夢だ」と述べた。
参考:Missile maker MBDA hits snags in effort to re-arm Europe
国境を越えた防衛産業の再編や国際開発は必ず雇用の問題に直面する
フランスのマクロン大統領は2022年6月「戦時経済への移行」を産業界に要請、NexterはCaesarの納期短縮と増産に取り組んで生産量を月8輌に増やし、MBDAもミストラルの生産ペースを倍増させ、ThalesもGM200の納期短縮に成功したが、MBDAが製造する迎撃弾=Asterの増産は難航している。
ルコルニュ国防相は2024年1月、Le Parisien紙とのインタビューの中で「私にとってAster-15とAster-30が最優先事項だ」「Asterの生産には時間がかかり過ぎている」「MBDAに納期を半分にするよう要請した」と言及、これは「2023年1月に受注した9億ユーロ相当(約200発分)のAsterを2026年ではなく2024年後半に納品しろ」という意味で、さらにルコルニュ国防相は増産は難航している原因について以下のように述べた。
“生産スピードに改善が見られない原因はジャスト・イン・タイムで仕事を進めたい誘惑に惑わされているためだ。企業は十分な原材料や部品の在庫を持たないことで固定化された財務リスクを負いたくないのだろう。しかし、ウクライナでの戦いを目の当たりにした後で改革を継続しないという選択肢はあり得ない。産業界の生産効率に改善が見られなければ権限を行使して元請け企業や下請け企業から人員、在庫、生産設備を徴発し、商業ニーズよりも防衛ニーズの契約を優先するよう強制する。MBDAの下請け企業に防衛ニーズを優先させるという考えは至極当然な話だ”

出典:MBDA
MBDAの広報担当者も「ルコルニュの主張を好意的に受け止めている」と述べ、産業界全体で商業ニーズよりも防衛ニーズを優先する方針を支持したが、産業界の関係者は「元請け企業は別にしても下請け企業まで『防衛ニーズの優先』を浸透させるのは難しい。下請け企業の生産量に占める防衛ニーズが仮に1%に過ぎなかった場合、99%の商業ニーズよりも1%の防衛ニーズを優先させるなら追加コストが発生するだろう」と指摘していた。
この問題についてFinancial Timesも14日「Aster増産の困難さは平時に問題にならなかった非効率性を浮彫りにしている」「各製造段階毎にミサイルはアルプス山脈を越えて何度もフランスとイタリアの間を行き来する」「MBDAは出資者=BAE、Airbus、Leonardoの利益を調整しなければならないため、産業的利益が殆どなく時間を浪費するだけのやり方を簡単に改める事ができない」「MBDAは製造拠点の簡素化を提案したがフランスはグループ内での主導権が脅かされるとして拒否、英国も協力的でなく、イタリアのみ簡素化が自国に有利だと判断した」と指摘。
MBDAで働く匿名の人物も「Asterは大量生産を必要としない時代に設計されため複雑さのデメリットは考慮されてない。製造行程は関与する国を満足させるためパズルのように細分化されており、Asterは戦場で有効性を証明した優秀なシステムでも工業的には悪夢だ」と述べ、何度もフランスとイタリアの間を行き来する製造行程の見直し=製造の集約化も「新たな生産ラインの再認証」というリスクが潜んでおり、長期的に有効でも短期的には生産量が品質が低下する恐れがある。
つまりMBDAは出資国(英国、フランス、イタリア)に分配されたワークシェアを通じて産業能力や雇用を維持しなければならず、これを無視した効率優先の集約化は不可能で、システムの設計や製造にも「国際協力のDNA」が深く刻まれているため、特に1万点もの部品で構成されたAsterは大規模生産に向いていなのだ。
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※アイキャッチ画像の出典:MBDA
政府の積極的かつ大規模な助け無しに極一部の業界にのみ適用される戦時経済とやらがどれだけ本来の意味に近付けるのかのテストか何かでしょうか。
欧州防衛・安全保障会議で防衛産業の資金自己調達に関する制限を緩めることを大きな成果のように発表していたことなどを考慮すれば、ある意味では当然なのかもしれませんが。
元々永遠にインフレと好景気が続くことを前提にシステム組んだせいでリーマンショックやパリバショックでデッドロックしかけた程度に経済的にもアレなEUに戦時経済に対応できるシステムがあるというのが幻想なのでしょう
GCAPもいずれはこうなるのか…🙄
GCAPの機体及びエンジンの最終組立ラインは日英それぞれに設置されるでしょう。
Asterのように製造段階ごとに日英間を行き来したりしないかと。
どうだろうね、最終組立は各国出来たとしても日本で作るエンジンにはイギリス製の計器Aが必要でその部品Bはイタリアで作ってるけど素子Cは日本から輸入してる、みたいなこと普通にありそうだけど
まあ陸戦兵器と違って製造に時間のかかる航空機は最初から戦争中の補充を当てにするべきじゃないような気もするけど
部品単位では有り得るでしょうねえ。
その部品が完成した状態で最終組立ラインに期日まで届けば問題は無いんですが、そこはGIGOが責任を持って段取り調整するわけで。
記事で問題になってるのはAster独特の製造工程なんですよ。段階ごとに国境を行き来して別の工場へ運び組立を行うという、普通有り得ない工程なんで増産の要求に対応するのが困難という話です。
資本主義社会において、経済合理性を無視して在庫を持てと言われても
いざ需要が無くなった時に在庫の買い取りを約束してくれるとか、投資した製造ラインの何割かを負担してくれるなら話はともかく、契約ベースなのにリスクを背負えってどうなのよ
安全保障の面から、本当に脆弱ですね。
外交優先政治優先(雇用)になると、有事に使いものにならないでしょうね。
一国でも反対されれば、軍事支援に使えないでしょうし。
米軍などに倣って。
一定数を集中調達して、各国政府が相当数の製品在庫を持つことになるのかな。
ひとたび各国に納められた製品の活用は、各国政府の責任で。
ちょうど、今問題の155mm砲弾のように、在庫が必要では。
でも、そんなことができるのは、米国くらいかな、と思ったり。
軍隊が国営であるように軍隊が使用する兵器も国営企業が生産、ていうか軍が造るのでは駄目なんでしょうか?駄目だから今民間が造ってるのでしょうかね?多国間、元は戦ってた国同士で分担して兵器造るってのがそもそも問題な気はしますが。
自衛隊の調達方式が正解だった可能性が…
いやないな(笑
もともとアスターの需要は今まで欧州水上艦が主で、そこまで多くの需要はなく需要は多くないけど欧州内でのワークシェアリングの為に無理やり複数国で分散してたのが完全に裏目に出てますね。
反米で水上艦用の長距離対空ミサイルは多くないので、せっかくスタンダードミサイルの代わりに売れ始める可能性が出てきたのにそもそも供給出来なければ売れない。
やっぱり西欧のここ30年は戦争の可能性を限りなく少なく見積もってたんですね。
とは言ってもウクライナ戦争が始まって3年以上経つのに未だ改善されないってのは、大口を叩く割に進展が遅いのでは?
実際のところ、ロシアがNATOに直接武力行使するとは欠片も思ってないんでしょうね…
行動は口先寄り正直です
英仏伊の軍艦増強もなく、SAMP/Tも普及しているとは言えない環境で弾だけ増やせと言われても産業界は当然出し渋ると思う。既に傑作兵器としてEU域内外に売れる可能性を残しているカエサルとは全然違う。フランス政府が全品買い付けるだけの本気(建艦競争)見せないと
ロシア、中国、イラン、北朝鮮なんて国際分業してなくても、国内で相当数調達してるのだから、西側も頑張れば良いのでは?
それらの国は大量に武器を作ること自体が一種の目的になっているからバンバン作れるけど、西側は資本主義な上武器生産は儲からないのでね。頑張るといってもサプライチェーンを強化できるほどの大量発注を納税者が許すかどうか。
国会議員というジョブそのものが既得権益になっている
老人向けに甘い言葉を吐いて当選した政治家は防衛予算の増額など言い出せないわけだ
かなりラディカルなアイディアだが国会の議席の何パーセントかは有権者からの抽選で選ぶくらいでいいと思う
特に現役の高校生や大学生に1パーセントずつ議席を割り当てるくらいしても良い
そんな事しても、日本が沈むだけだよ。昨今、一部の経済学者や影響力のある人物が、政治家や官僚を批判しているけど,確かにその姿は既得権益に挑む勇者のように見えるかもしれない。実際は、何の責任もないからノーリスクで、その部分だけを見た理想論を唱えているに過ぎない。例え、政治家を追い出しても官僚が言う事を聞かなければ、この国は更に沈む。若い人を貶す訳ではないけど、やっぱりイデオロギーに振り回されている人が多い。国の仕事はイデオロギーだけのものでは無いから。流石に無理がある。
選挙制と抽選制の組み合わせは真面目に考えられてるんですね
勉強になりました
(「くじ引き」民主主義について~選挙制と抽選制)
>このような現況において、1冊の本が注目を集めている。日本においては、2019(平成31)年4月に翻訳・初版された、ダーヴイット・ヴァン・レイブルック(以下、レイブルックという)の「選挙制を疑う」(法政大学出版局)という本である。レイブルックは、ヨーロッパを代表する知識人の一人とされていり、現在、特定の研究機関には所属せず、ベルギーのブリュッセルを拠点に活躍している作家であるが、レイブルックの診断によると、民主主義疲れ症候群の原因は、現在の議会制民主主義それ自体にあるわけではなく、政治家のポピュリズムや専門家集団(テクノクラシー)の専横にあるのでもなく、代表を選挙で選出する選挙制にあるとし、対案として、代表をくじ引きで選出する抽選制の議会制民主主義、より正確にいえば、選挙制と抽選制の並立形態である二重代表制を模索している。
製造的な効率より利権的な取り分を優先した結果なんでしょうね
まあ限られた資金で、安価に生産しようと思うと、トヨタ流看板方式が最適になっちゃいますね。
あと国にしても同じ金を出すにも、自国内に払うのは、国外に払うのに比べて実質的な国の負担は半分以下ですから。
それはもう切実ですよ。
ワークシェアより開発費割合の方が良いと思うんですよねえ。国際共同開発を見ると