ウクライナ戦況

ウクライナ危機、ドネツクとルガンスクの国境をどこに設定してくるのか?

ウクライナ危機が今後収束に向かうのか、更に危機的なものになるかは独立したと主張するドネツクとルガンスクの国境を「どこに設定するのか?」に懸かっている。

参考:The world holds its breath for Putin’s next move

限定された侵攻で終わることがベストだが、ドネツクとルガンスクの国境を現在の接触線よりも外側に拡張してくると、、、

プーチン大統領はウクライナからの分離・独立を主張するドネツクとルガンスクの独立を承認、署名した法令には「各種の支援を約束した協定(防衛協力が含まれている)が成立するまで、ロシア軍が当該国の領域で平和維持にあたる」という文言が含まれており、これを根拠にロシア国防省はドネツクとルガンスクへ部隊(平和維持軍を自称)を派遣中で既に戦車、装甲車輌、榴弾砲、各種軍用車輌といった装備が現地入り、今後はドネツクとルガンスクの部隊と共同で国境の警備にあたるらしい。

出典:Минобороны России

ウクライナ危機が今後収束に向かうのか、更に危機的なものになるかは独立したと主張するドネツクとルガンスクの国境を「どこに設定するのか?」に懸かっており、ウクライナ支配地域と親ロシア人勢力の支配地域が接触するコンタクト・ライン=接触線を国境に置き換えてくるのか、それともドンバス地方の行政区分を国境と主張してくるのか?ドニエプル川あたりまで国境拡張を主張してくるのか?で話が変わってくる。

米メディアは事態の深刻化を防ぐ上で「プーチン大統領がドネツクとルガンスクを手に入れて立ち止まる=限定された侵攻で終わることがベスト」と希望的観測を述べているが、ウクライナ周辺に19万人近いロシア軍を待機させているプーチン大統領が「ドネツクとルガンスクだけで満足するはずがない」とも見ており、仮にドネツクとルガンスクの国境を現在の接触線よりも外側に拡張してくるとロシア軍とウクライナ軍の衝突は避けられないものになるだろう。

出典:RadomirZinovyev / CC BY-SA 4.0 黒がドネツク人民共和国/ 黒斜線がドネツィク州の行政区分、青がルガンスク人民共和国/青斜線がルハーンシク州の行政区分

逆にロシアが経済制裁のダメージを最小化するため限定された侵攻=接触線を国境に置き換えるだけで手を打てば、ウクライナもドネツクとルガンスクに駐留するロシア軍排除=両国の軍事衝突を避けるため状況維持に応じるかもしれない(建前上口にしないと思うが)。

因みに米国やEUが主導する対ロシア制裁について「ロシアから輸入するエネルギー資源については除外すべき」との声が挙がっているが、それを見透かしたようにプーチン大統領は「旧ソ連時代に建設されたウクライナ経由のパイプランは施設の老朽化が懸念される」と21日の演説の中で言及しており、ロシアは米国やEUが経済制裁を発動すると「施設の老朽化」を理由にウクライナ経由で欧州に供給している天然ガスを止める可能性が出てきた。

つまり経済への悪影響を避けるため対ロシア制裁からエネルギー資源の輸入を除外してもしなくてもロシアが「ウクライナ経由のパイプラン」を止めると欧州向けの天然ガス供給量は減少するため、プーチン大統領は「エネルギー資源の輸入だけロシア制裁から除外」という逃げ道は成立させないと牽制しているのだろう。

関連記事:事実上ウクライナへの侵攻、法令を根拠にドネツクとルガンスクへロシア軍派遣か
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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • 名無し
    • 2022年 2月 22日

    ロシア軍に包囲されてるウクライナ軍が東部に戦力を注力できるとは思えんからなあ。
    「平和維持軍」に強力に支援されたドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国軍がウクライナ軍を今のラインより追いやるのは十分に考えられるところですね。

    7
      • samo
      • 2022年 2月 22日

      その「平和維持軍」が、いつ「解放軍」に名を変えるのかって話だものね…
      ロシアが承認した自称共和国は、南はドニエプル川沿岸から、北はハリコフまでの領有を主張、ウクライナ政府に不当に奪われてるって言ってるわけだし。
      ロシア軍が解放軍と称して、その自称共和国が奪われたと寝言ほざいてる地域を、ロシア式解放として占領しに来ることがいよいよ現実になろうとしてる

      15
    • K(大文字)
    • 2022年 2月 22日

    もう領土の切り取りは既定路線なのね…残念なことだ。
    しかし散々言われていることだが、こんなバクチを打ってロシアに長期的利益があるとは思えない。
    ウクライナ内の“親露派”はともかくとして、それ以外のウクライナ人はロシアに相当な遺恨を抱くだろう。
    今回はEUもヘタレたからウクライナが今さらEUに頼るようになるとは思わないが、そのEUにしてもここまでされてエネルギーのロシア依存を続けはしないだろう。
    ウクライナとの断絶が決定的になり、資源ビジネスの上得意も失い、得るものはおんぶに抱っこの傀儡国×2。
    その上NATOから意味のある縦深が確保できる訳でもない。
    ただただヘタクソとしか。プー帝も耄碌したのかね。

    16
      • けい
      • 2022年 2月 22日

      プーチンの個人的利益にはなるので
      ・死ぬまで独裁政権維持(10-20年)
      ・ロシアの富を独占して手下に利益を吸わせる
      ・軍だけは優遇してクーデター防止
      これが戦略目標なら、行動と完全一致してる

      プーチンにとってはロシア国家も国民も自分の所有物だから、
      未来が終わってしまってもどうでも良いことだし

      プーチンを、切れ者・頭が良い・戦略家・天才なんて前提にしてると違和感だらけだけど、
      元KGBの短絡的・自己中心的・暴力的解決法しか知らない人間って考えれば
      解釈一致する

      22
        • きっど
        • 2022年 2月 22日

        独裁者は、自分の老後が保証されない限りは引退できませんからね
        プーチンはエリツィンの老後を看取ったが、プーチンにソレをしてくれる存在は居ないだろうからなぁ。生涯現役確定でしょう

        14
    • samo
    • 2022年 2月 22日

    yahooニュースに、今回ロシアが承認したドネツク自称共和国が領有を主張する範囲が取り上げられています。
    戦争の名目がこの承認した自称共和国の支援となる可能性が極めて高いため、
    占領するにしても、この主張する地域をベースとして侵攻を行うと考えるのが自然かと
    今のところ、これを超える開戦事由をロシアが出せる環境にもないですし

    リンク

    2
      • きっど
      • 2022年 2月 22日

      第一段階 親露派の実効支配地域に進駐
      第二段階 ルガンスク/ドネツク州境界線まで侵攻
      第三段階 ドネツク人民共和国が領有を主張する範囲まで侵攻して、クリミア半島と接続
      第四段階 オデッサまで侵攻して、沿ドニエストル共和国と接続、ウクライナを内陸国に

      上記と並行して、チェルノブイリ方面から首都キエフへの牽制or侵攻の可能性も有り
      こんな感じでしょうかね?

      3
    • samo
    • 2022年 2月 22日

    そもそも、日本国内メディアは、これが沖縄に応用されるっていうことを報道をまったくしないのもどうなってんだと。
    台湾については言及しても、台湾だけにしか同じことされないとでも思ってるのか、まるで他人事

    危機感がないのか、それとも…?

    20
      • K(大文字)
      • 2022年 2月 22日

      ロシアが仕掛けているゲームって煎じ詰めれば「親露派(=ウクライナ中央政府との一体性を拒否する)勢力を援助して、中央政府が認識する領土を切り取る行為」な訳で、沖縄はともかくとしてこの理屈を台湾に適用されたら中共にとってはかなり面白くない事になりそうなんですよね。
      「力による現状変更」にフォーカスすれば台湾への波及が心配になりますが、その理屈を考えると一概に中共を利する事態とは言えないのかも知れません。

      8
        • FF-X7
        • 2022年 2月 22日

        ええとつまり、台湾に置き換えると…
        「独立派(=中国共産党政府との一体性を拒否する)勢力を援助して、中央政府が認識する領土を切り取る行為」となるワケですね。確かにこれは(共産党にとって)非常に面白くない。

        もっとも、アメリカを筆頭とした西側諸国がロシアよろしく既成事実を積み重ね続けることができるかというと…これはなかなか難しいような。

        4
          • 幽霊
          • 2022年 2月 22日

          そもそもかなりの国が台湾を国家として認めてないのに、今回のロジックを西側諸国は使えるの?

          2
    • 戦略眼
    • 2022年 2月 22日

    そろそろ北京条約を破棄するタイミングだぞ、習近平!

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