ウクライナ戦況

ドンバスの戦い左右する砲兵戦力、待望のM777が東部戦線で火を吹く

ドンバスを巡るウクライナ軍とロシア軍の戦いは「観測用のUAVと砲兵戦力をより効果的に使用した方が優位に立つ」とTimes紙は指摘している。

参考:Ukrainian troops shell Russians with American howitzers

ウクライナ軍には西側諸国が提供した武器の準備が整い待望のM777が東部戦線で火を吹き始めた

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は先月発表した報告書の中で「ウクライナ軍の優れた砲兵部隊がキーウ方面のロシア軍を打ち負かした。ロシア軍も大砲を沢山持ち込んだが、分散したウクライナ軍の陣地が何処にあるのかを把握できていなかった」と指摘、ウクライナ軍のザルジュニー総司令官も「対戦車ミサイルはロシア軍の動きを鈍らせたが、これを最終的に仕留めたのは砲兵部隊でロシア軍部隊を破壊したのは大砲だ」と主張している。

RUSIでアナリストを務めるサミュエル・クラニー・エバンズ氏も「NLAWやジャベリンといった高度な対戦車ミサイルの活躍に注目が集まりがちだが、最もロシア軍を破壊したウクライナ側の武器は大砲だ」と述べているのが興味深い。

侵攻当初のロシア軍はウクライナ軍の抵抗は大したものではなく短期間で勝負がつくと考えていたため、UAVを使用した情報収集・監視・偵察(ISR)ミッションを軽視して戦場の霧に包まれた中を闇雲に進み、逆にISRミッションを重視したウクライナ軍はUAVと砲兵戦力を組み合わせて効果的に戦ったため、両陣営の砲兵部隊は天と地ほどの差がついてしまったのだろう。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

ロシア軍も戦い方を変更してきた3月下旬以降、UAVを使用したISRミッションを重視するようになったが、西側諸国の供給した数千発のMANPADSとウクライナ軍兵士が肉眼で空を監視していたため、戦場の低空を飛行するオルランやエレロンといったUAVは次々とMANPADSの餌食になり、75日間の戦いでロシア軍は377機(画像確認できたものは55機)のUAVを失っている。

つまり東部戦線の戦いでもロシア軍は観測用のUAVと砲兵戦力を効果的に使用できていないという意味で、逆にウクライナ軍には西側諸国が提供した武器の準備が整い待望のM777が東部戦線で火を吹き始めた。

米国、カナダ、オーストラリアはNATO規格の155mm榴弾を使用できるM777×計100門、フランスはCaesar×12輌、ドイツとオランダはPzH2000×計12輌を提供、さらに通常砲弾よりも遠距離の目標に高い命中精度が期待できるエクスカリバー砲弾(GPS誘導の射程延長弾)も提供している可能性が高く、ロシア軍の戦場認識力を更に悪化させるため米国と英国は電子戦装置、GPS妨害装置、カウンタードローンシステムも提供しており、リトアニア製のEDM4Sまで供給されている。

EDM4Sはオルランやエレロンには対して効果が低いと言われているが商用ドローンの機能を停止させるには効果的で、NATO規格の155mm榴弾を使用できる榴弾砲や自走砲、射程と命中精度に優れるエクスカリバー砲弾、RQ-20やFlyEyeといった軍用規格のISR向けUAV、ロシア軍が使用するUAVを妨害する機材が上手く機能すれば両陣営の砲兵部隊の差が更に広がり、ロシア軍は損害に耐えられなくなるかもしれない。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Kristy Ordonez Maldonado

因みにウクライナ軍が使用する観測用UAVもロシア軍に撃ち落とされていると思うが、米国、英国、デンマーク、トルコ、ポーランド、デンマークが軍用規格のUAVをどんどん提供しており、商用ドローンの提供数まで含めれば損失分をカバー出来ている可能性が高く、ロシア陸軍もオルラン10を推定1,000機以上保有しているので両陣営とも観測用UAVが不足することはないはずだ。

問題は相手よりも効果的に戦場認識力を確保して砲兵部隊と連携できるかで、今のところウクライナ軍の方が「観測用のUAVと砲兵戦力の組み合わせ」において1枚上手なのだろう。

関連記事:各国がウクライナに提供している武器や装備のリスト

 

※アイキャッチ画像の出典:Jonathan Mallard / CC BY 2.0

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コメント

    • 2022年 5月 10日

    雨天、強風下での砲射撃も必要だから、人の目による前進観測班の役割もいっそう必要だろう。というかやること増えて大変だろうな

    15
    • 1.44スキー
    • 2022年 5月 10日

    観測用UAVと砲兵(大砲)の組み合わせか。
    大砲は今も昔も活躍するねぇ。
    UAVの偵察・情報収集・監視が地味ながらも強力だなと、改めて感じる。

    22
      • zerotester
      • 2022年 5月 10日

      少し前から、ウクライナの砲兵射撃がロシアの装甲車両を正確に仕留めるUAV映像が出回るようになり、これはM777とエクスカリバーではないかと言われていましたね
      エクスカリバーは翼で滑空するので40km以上の射程があるそうで、UAVに発見されたら最後、ロシアの野砲も届かない距離からスパスパ命中されるのだからチートもいいところです

      22
        • 1.44スキー
        • 2022年 5月 11日

        恐すぎ。届かない距離から正確に当ててくるとか…。
        お手上げじゃ\(^o^)/

        3
    • 無無
    • 2022年 5月 10日

    大砲を戦場の神様と呼んだのはロシア
    どうやら神に見放されたようだね
    しかし目視で空を警戒とは、兵士はたいへんだろうが効果的なんだね

    32
      • 匿名
      • 2022年 5月 10日

      ロシアが大砲の打ち合いで負けるのって、日露戦争以来かな?

      6
        • hiroさん
        • 2022年 5月 10日

        日露戦争で日本軍が撃ち勝ったのは、比較的初期の日本軍が数的優位を作れた会戦で、逆にロシア軍が数的優位となった局面では撃ち負けていますね。
        クロパトキンの謎の撤退が無ければどうなっていたことやら。

        6
      • ブルーピーコック
      • 2022年 5月 10日

      言った(らしい)鉄男はグルジア人だから・・・

      2
    • や、やめろー
    • 2022年 5月 10日

    やはりこれからの戦いはUAVを上手く使えた方の勝ちなのかな。ウクライナ軍は、その点ロシアの何倍も優っている。

    16
    • だいぶ溜まってんじゃん
    • 2022年 5月 10日

    どんなに戦争の形態が変化しても、ドローンが現れても、ミサイル技術や電子戦技術が進歩しても野砲は戦場の女神なんやなって

    やはり野砲…!野砲は戦場の全てを解決する…!

    西側には絶えず砲弾の供給できる堅固な体制を構築して、ウクライナへの砲弾供給を止めどなく送りつけてほしい

    そしてあわよくば強烈な砲撃によるウクライナ版バグラチオン作戦を実行してロシア軍を完膚なきまでに叩きのめして欲しい(妄想)

    28
    • ブルーピーコック
    • 2022年 5月 10日

    ●戦場の女神(推定年齢700才)は未だに健在。
    「どんどんどんどん撃ってよいよいよいよい(残響音含む)」と米帝もおっしゃっておられる

    若い人に通じなさそうなネタはさておき、米英リトアニアのカウンタードローンなどの各種妨害装置はロシアの無人機にどれだけ効果あるのか気になる。アルメニアのパシニャン首相がロシア製のRepellent-1が役に立たないとキレていたから尚更に。

    辞任前のパシニャン首相がキレてた記事。今はまた首相に返り咲いてるけど
    リンク

    8
      • 匿名
      • 2022年 5月 11日

      大砲が戦場の主役ということでウッドボール。

      1
    • 長い目で見てね
    • 2022年 5月 10日

    当邦の不評ながら開発中のレールガンにも活躍の目が… …ないか( _ _ )

      • K.O
      • 2022年 5月 10日

      この間発射実験の映像を見ました。
      問題は莫大な電力供給システムをいかに小型化、高効率化するかですからね。
      極超音速ミサイルを撃ち落とせるかどうかは別にしても艦砲だったり戦闘車両の砲塔だったり将来的な用途はそれなりに高そうですから開発を続ける事自体はそれなりの価値はあると思いますよ。
      例え失敗してもそれなりの収穫は得られるかもしれませんしアメリカがサジを投げたからと言って日本も追随する必要は今の所は無いでしょう。
      あくまで個人的な意見ですが。

      13
    • ザコ
    • 2022年 5月 10日

    古典的兵器の榴弾砲と最新のUAVの組み合わせの妙ですな。

    15
      • 1.44スキー
      • 2022年 5月 11日

      ハイローミックス…。
      新しき哉。

      1
    • トクメイキボウ=サン
    • 2022年 5月 10日

    自衛隊がかなり遅れてる分野ですね、スキャンイーグルは保有してますが精密誘導砲弾に関してはNJSS入札情報速報サービスにそれらしき情報があるだけだし

    ウクライナにFH70送らないかな〜

    16
    • 黒丸
    • 2022年 5月 10日

    日本の場合、海上自衛隊の軍艦が自艦のレーダー使わずにドローンからの観測データだけで
    敵水上艦や陸上目標を砲撃できるのかな?
    3自衛隊でドローンの操作法や送信データが全く違っていて互換性が無いとか、ないよね。

    10
      • 匿名
      • 2022年 5月 10日

      >日本の場合、海上自衛隊の軍艦が自艦のレーダー使わずにドローンからの観測データだけで敵水上艦や陸上目標を砲撃できるのかな?

      やること自体は間接射撃で、音声伝達でも行ってきた作業なので、観測データを手に入れる事が可能なら出来ると思います。

      3
    • 58式素人
    • 2022年 5月 10日

    現状で、UAV及びその使用法とバックアップの電子戦機器が戦闘の要であるのは判ります。
    他方、UAVの撃墜方法が電子戦を除けば、目視の監視とMANPADSによるとのこと。
    第二世代のMANPADSは、ほぼパッシブIRホーミングなので、
    UAVが電動ならば、おそらく見逃してしまうと思われます。
    また、単価が約400万円/発(スティンガーの場合)なので、撃墜に必要なコストが高いです。
    現在のウクライナのように各国の支援がなければ難しいことと思えます。
    現在の野戦防空システムに何か付加する必要があるように思えます。
    APS或いはCIWSに類した銃器系統の物のような気がします。
    最近の戦況図を見ると、変わらず、街道沿いの戦闘が続いているように思えます。
    現地の地面が十分に乾いてはいないみたいですね。
    6月の下旬になれば、大部隊が面で動けるようになると思われるので、
    それまでは、極力ロシア側の兵站線を叩いて、突進の衝撃力を減殺しておく必要があります。

    1
    • A29
    • 2022年 5月 10日

    これを読むと陸自のMPMS、中多、12式地対艦などの整備は彼らの嫌がる装備だとわかりますね。更に各種砲迫撃とMLRSと火力支援が厚い

    まぁ、削減させる勢力が強いから減る一方なのが問題だな(戦車含む)

    13
      • 匿名
      • 2022年 5月 10日

      期間限定だけど、旧ソ連やロシアとのガチの殴り合いを想定して整備していたのだっけ?
      減勢は色々なしわ寄せで、残念ですが。

      3
        • 名無し2
        • 2022年 5月 10日

        平和になればなるほど防衛関係の仕事が減って景気は悪化するわ技術も落ちるわ野党が政権取るわで
        全然良いことがないんですよね
        軍事的緊張状態なら先端科学技術研究に予算がつきますが
        平和で脅威がないと老人の寿命を延ばすためにひたすら社会保障費として垂れ流されます
        全部借金です

        7
          • hiroさん
          • 2022年 5月 11日

          日本の年齢構成では、年金·介護の費用が増加するのは当然だと思いますよ。
          子育て支援や学費無償化といった費用も増えていますし。
          何よりも自分達が子供の時に社会を支えた人達を蔑ろにする論調は不快です。
          防衛費の増加=社会保障費の削減なんて短絡的な発想はいかがなものか。

          8
    • タコ
    • 2022年 5月 10日

    プーチンもドンバス、ドンバスと繰り返んだもの、西側もドンバスッ、ドンバスッやってやれ。侵攻してきた侵略者に遠慮はいらないよ。

    2
    • NATTO
    • 2022年 5月 11日

    戦場の女神さまはワガママだけど律儀。
    きちんと準備と訓練をした側に大阪のオバチャンの如く微笑む。

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