欧州関連

ロシア人は餌に食いつかなかった、逆にポクロウシク方面の戦力を増強

Economistは22日「ウクライナはクルスク侵攻によってポクロウシク方面の圧力緩和を期待していたがロシア軍の前進スピードは寧ろ加速している」「ウクライナ人兵士らもロシア人は餌に食いつかなかったと不満を漏らしている」「ポクロウシクが粉砕されるのは時間の問題かもしれない」と報じた。

参考:The Kremlin is close to crushing Pokrovsk, a vital Ukrainian town

クルスク侵攻によってポクロウシク方面の圧力緩和が期待されたが、ロシア軍の前進スピードは寧ろ加速している

ロシア軍は8月上旬に始まったクルスク侵攻に対応するため占領地からも部隊を呼び戻し始め、Economistの取材に応じたウクライナ政府関係者も「ドンバスにおけるロシア軍の活動は8月16日から大幅に減少した」と述べたものの「1つだけ例外がある」と指摘しており、それがドネツク州西部方面における物流拠点=ポクロフスク地区に向う動きだ。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

ポクロウシク(人口約7万人)はドニプロペトロウシク州に隣接するポクロウシク地区(人口約38万人)の中心都市で、ロシアが目標に掲げているドネツク州制圧はスラビャンスク地区とポクロウシク地区の占領を意味し、アウディーイウカからポクロウシクまでは40kmほど距離があったのだが、ポクロウシク市のセルヒー・ドブリャク軍政長官は15日「敵が急速にポクロウシクへ近づいている」「ロシア軍は市郊外から約10kmの位置にいる」「状況が今よりも良くなることはないので住民は荷造りをして避難しろ」と呼びかけた。

19日のRadio Libertyの放送でも「我々はロシア軍の前進速度を加味して住民避難に1週間~2週間の猶予があると想定している」「ポクロウシク市内では全てのサービス(水道、電気、ガス、公共交通機関、店舗、市場、銀行、裁判所、病院、政府機関など)が機能しているが、来週から徐々に機能停止に向うと考えられている」と述べ、DEEP STATEは22日夜「ロシア軍がノヴォホロディフカ市内に侵入した」「ロシア軍がヴォフチャ川東岸の高台を南下して支配地域を広げた」と報告し、この方面だけはロシア軍がほぼ毎日前進している。

出典:Покровськ Online/Покровська МВА

Economistも22日「ロシア軍はドニプロやザポリージャに向うことを可能にするポクロウシク制圧を戦略的目標と見なしている」「ウクライナはクルスク侵攻によってポクロウシク方面の圧力が緩和されることを期待していたが、ロシア軍の前進スピードは寧ろ加速している」と報じた。

“ポクロウシクは戦いの新たな局面に備えている。市内から行政や警察が撤収し、スーパーマーケットといった商店も営業を中止し始めており、軍政長官の勧告に従って多くの住民が街を離れている。ウクライナ軍の指揮官らはロシア軍の前進について様々な理由(投射火力の格差、小規模編成による歩兵の突撃、滑空爆弾、新しい電子戦システムなど)を挙げているが、問題の核心は疲労と兵士不足にあるようだ”

出典:Командування Десантно-штурмових військ Збройних Сил України

“取材に応じたウクライナ軍のパブロ・フェドセンコ大佐は「人間は鋼鉄で出来ていない」「戦力は1対4でウクライナ軍が劣勢で兵士らは休息が取れていない」と、ポクロウシクの南東で戦う第59歩兵旅団の兵士らも「2ヶ月以上も戦場で戦い続けている兵士を知っている」「その内2人は脳卒中で倒れた」「この状況は馬鹿げた命令によって悪化するばかりだ」と言う。この馬鹿げた命令とはクルスク侵攻のことで複雑な感情を兵士らにもたらしている”

“このミニ侵攻作戦は士気を高めるのに役立ったものの長続きしなかった。ロシアがポクロウシク方面から戦力を移動させるかもしれないという期待は「戦力増強」という現実にとって代わられた。ウクライナの安全保障筋は「他の東部戦線からは戦力を移動させたもののポクロウシク方面だけは逆に戦力を強化した」と述べており、ポクロウシク方面で戦う兵士らも「ロシア人は状況を理解しているため餌に食いつてこない」と不満を漏らした”

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

“ポクロウシクを守るウクライナ軍部隊は「どれだけ持ちこたえられるのか」について口を閉ざしている。第110機械化旅団のある指揮官は「ディミトロフ、セリダブ、ウクライナスクのラインを突破するのに数週間から数ヶ月かかるかもしれないが、ロシア軍は常に脆弱な部分を突いて壊滅的な突破を図る」と警告しており、ポクロウシクがマリウポリ、バフムート、アウディーイウカのように粉砕されるのは時間の問題かもしれない”

“ポクロウシクを突破して西に少し進めばドネツク州の行政境界線に到達するため、これをもってプーチン大統領は政治的勝利を宣言して和平交渉を開始するかもしれないし、そうならないかもしれない。ポクロウシクを突破された後の展開は未知数だが、ウクライナが交渉の切り札と期待しているクルスクの占領地を維持できるかどうかも重要な要素だ”

出典:47 окрема механізована бригада

New York Timesは「ウクライナがクルスクの領土を維持してロシア軍を薄く引き伸ばすことができれば和平交渉の切り札を手に入れることが出来る」「逆にロシア軍がクルスクからウクライナ軍を追い出し、ドンバス方面で前進することに成功すれば『敵に成功の機会を与えただけ』と軍上層部は非難されるだろう」と、Economistも「両国の戦争が転換点を迎えているのは確かだ。ウクライナはクルスク戦線を維持し敵に混乱を与えて敗北主義的な物語を変えたいと考えている。逆にロシアはクルスク侵攻を鎮圧し、これによって生じるリソースの消耗に付け込んでドンバスでの攻勢を強化したいと考えている」と報じたことがある。

クルスク侵攻の原資は「東部戦線とは無関係の予備戦力」ではなく「東部戦線から引き抜いた部隊」と「余裕のない予備戦力から割いた部隊」で構成されているため、東部戦線の敵戦力をクルスク方面に誘引できなければ「東部戦線におけるウクライナ軍側の戦力密度が一方的に低下しただけ」という結果に終わり、ロシアがクルスクに戦力を移動させたかどうかは「ポクロウシク方面におけるロシア軍の前進速度」によって測ることができ、今のところ前進速度は鈍っているように見えない。

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※アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України

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