欧州関連

英国が発表した国防投資計画、GCAPに86億ポンドを投資すると明記

英国が発表した国防投資計画は「今後10年間の国防投資に関する資金的裏付け」ではなく「2026年~2029年までの4年間のみ」「詳細な財源は不明」「国防費増額分の1/3は財源が確保されていない」など問題が山積みだが、86億ポンドをGCAPに投資すると明記されている。

参考:Policy paper The Defence Investment Plan
参考:Starmer trims budgets to fund extra £15bn for defence
参考:Why Starmer’s defence plan leaves next PM with £4.7bn headache
参考:Politics latest: Details of UK’s defence investment plan revealed
参考:Starmer leaves Burnham with £5bn defence black hole
参考:The creative accounting behind Starmer’s defence plan

スターマー政権がどれだけ苦労してまとめ上げたかが滲み出ている国防投資計画、色々問題があったとしても政治的遺産を残すことに成功

スターマー首相は30日「国防費150億ポンドの増額」と「今後4年間の主な投資先」を発表、英国は2026年~2029年の国防費として計2,980億ポンド=約64兆円を支出し、1年あたりの国防費も2029年までに年約800億ポンド=17.1兆円まで引き上げられ、GDP比に占める2029年の国防費は2.7%に達する見込みで、軍事インフラとしても活用できる分野(重要インフラの保護、ネットワークの防衛、民間防衛や回復力の確保、イノベーションの促進、防衛産業基盤など)への投資=1.5%を合わせると国防関連支出は4.2%になる。

今後4年間の主な投資先については「核抑止力強化のためドレッドノート級弾道ミサイル原潜、AUKUS級攻撃型原潜、新型核弾頭、F-35A×12機調達に630億ポンド」「GCAPに86億ポンド」「自律型無人システムに50億ポンド以上」「長距離攻撃兵器、低コスト巡航ミサイル、自爆型攻撃兵器、これを調達するための生産能力などに110億ポンド」などを挙げたが、まだ完全な国防投資計画は公表されていないので2,980億ポンドの詳細な投資先や金額は不明だ。

スターマー首相は国防費増額の財源として借入を拒否し「国防債は名前を変えただけの借金に過ぎない」「我々は国家財政を管理下に置くために懸命に取り組んできたため、それを今になって犠牲にすべきではない」「健全な財政は国力の不可欠な要素であり、その制御を失えば国家はより貧しくなり安全保障上の危機を招く」「国防優先で公共サービスへの予算を削減すれば国家として根本的に弱体化する」と述べ、国防費増額の財源を捻出する手段については「差し迫った必要性がない一部の道路建設やエネルギー関連プロジェクトを中止する」と説明したが、今回の発表に関する総評と問題点が明確になってきた。

出典:BAE Systems

国防投資計画は今後10年間にどこの分野にどれだけの資金を投資するのかを具体的に示す政策文書や戦略的計画文書だと言われてきたが、今回発表された国防投資計画の中で「計画全体への資金供給に関する説明は2026年~2029年までの4年間のみ」「国防投資計画の中で言及した投資先や資金供給量も2029年までの4年間のみ」「今後4年間の国防費増額分=150億ポンドのうち財源が確保されているのは103億ポンド」「残り47億ポンドの財源確保は後任政権に先送り」「捻出した103億ポンドですら巧妙かつ創造的な会計操作による捻出」となる。

さらに資金供給が核抑止、GCAP、AUKUS級原潜、自律型無人システムに50%以上も集中しているため、現在判明しているだけでも83型駆逐艦や32型フリゲート艦の取得断念、次世代軍事通信衛星のスカイネット6構想撤回、 AW159やストームシャドウといった一部装備の調達中止や早期退役、ミーティア能力向上計画の中止、軍人住宅の改善に向けた90億ポンド規模の投資が先送りされ、野党、軍人、アナリスト、メディアからの評判は非常に良くない。

出典:BAE Systems

大きな問題点は「聖域の核抑止や条約・協定で固定化されつつあるGCAPやAUKUS級原潜への偏った資金配分」「従来型で実績のある有人システムへの投資を削減して未検証の自律型無人システムに偏った資金配分」「有人システムと無人システムは補完関係にあるのに自律型無人システムを資金不足を解決する手段として過剰に期待している方針」「今後10年間の見通しや3.0%/3.5%への具体的な道筋ではなく今後4年間に限定した期待外れの内容」で、国防投資計画の中で言及された86億ポンドをGCAPに投資するという話も冷静に考えると疑問がある。

イタリアのクロゼット国防相は2026年1月「我々がGCAP開発に支出する金額が3倍に増加した」と議会に報告し、上院の国防委員会に提出された文書の中で「イタリアはGCAPの研究・開発フェーズ1~2(概念評価、予備設計、本格開発)の費用として60億ユーロを負担する予定だったが、現在は技術の成熟化、試験、開発、設計にかかる費用増を考慮して負担額を186億ユーロと見積もっている」「既にフェーズ1の一部をカバーする20億ユーロの資金は確保されている」「フェーズ1~2を完了ためにはあと166億ユーロの確保が必要だ」と説明。

出典:GOV UK

英国はGCAPに24億ポンドを投資済みで、今回の86億ポンドは2026年~2029年までの資金供給をカバーするものになり、この2つの資金を合わせると110億ポンド=127億ユーロとなるため、GCAPの研究・開発フェーズ1~2全体をカバーするの英国が拠出しなければならない資金が186億ユーロだった場合「まだ59億ユーロ=約50億ポンドほど足りない」となる。

大前提として国防投資計画は法的拘束力が伴う法律ではなく政策文書や戦略的計画文書という位置づけで、実際の資金供給は議会で毎年審議される歳出法案に依存しており、議会では「政治的にレームダック化したスターマー首相発表の国防投資計画は紙切れ同然だ」という見方も一定数存在し、この計画を引き継ぐことになる可能性が高いアンディ・バーナム(次期労働党党首候補)は「発表前に国防投資計画の内容について説明を受けたが、国防費増額分=150億ポンドの資金が確保できないとは知らされていなかった」と報じられており、お世辞にも「政策文書の内容を実行していく政治的支持が確保できている」とは言い難い。

出典:GlobalCombatAir

逆にイタリア議会は「2037年までの負担費用として88億ユーロの支出を認める」と承認したため、法的に148億ユーロまでの拠出環境が整っている。要するに「国防投資計画の中で86億ポンドをGCAPに投資すると言及したからといって資金拠出が確定したわけでない」という意味で、特に英国の政治環境は非常に不安定な上「2026年~2029年までをカバーする国防支出の詳細な財源」も提示されていないため、NATO首脳会談後に再び国防投資計画が問題化する恐れがある。

まぁ、正式発表はないものの「86億ポンドをGCAPに投資する」と言及した国防投資計画に基づき、GCAP本格開発のため近日中に複数年契約を締結(18ヶ月分だと予想されている)するだろうと思うが、これでGCAP開発には何の問題もなくなったと安心しない方がいい。

出典:GOV UK

ちなみに、PDFで公開された国防投資計画(全81ページ)を読んだ感想は「入念な事前準備がされたもの」ではなく「発表直前まで調整が続いたせいでグラフィックが一切ない書き殴りレベル」で、これをまとめるのにスターマー政権がどれだけ苦労したかが滲み出ており、色々問題があったとしても「NATO首脳会談前に懸案の国防投資計画を発表した」という政治的遺産を残すことに成功した。

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※アイキャッチ画像の出典:GlobalCombatAir

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コメント

  • コメント (8)

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    • Authentic
    • 2026年 7月 01日

    高市政権の国債の増発はせずに~云々と同じレベルにしか見えない
    厄介な問題は先送りして格好つけただけでしょ

    21
    • ソロブロマイド
    • 2026年 7月 01日

    前記事にも書いたけど、日本や韓国基準なら、これだけの予算があれば軍艦から戦闘機まで好き放題に作れそうなのに、イギリスはこれだけあってもフリゲート1隻作れないのか?一体どれだけ造船業が高コスト体質なんだ。あるいはそもそも建造ドックが足りない?

    20
      • たむごん
      • 2026年 7月 01日

      日本の海運クラスターを細かく分解しますと。

      大手製鉄~造船関連業界(船舶エンジン・ボイラー・スクリューなど)~造船会社~海運会社~船オーナーが一通り揃っていて。
      民間が不況期に、歯をくしばって投資を続けてきたため、それぞれ国際競争があったり今があるんですよね。

      イギリスの姿は民間が力尽きた結果の1つとも言えるわけで、日本政府なんの役にも立ってこなかったのを考えれば、日本も紙一重だったのかなと感じる面はあります…。

      11
        • SB
        • 2026年 7月 01日

        日本政府が役に立たなかったってあんたJBICやNEXIにJRTTが散々融資しとるうえに、政府も助成金補助金をだしてるやないが
        そもそも欧米と違って日本の造船が壊滅しなかった大きな理由の1つが、2000年代の人材育成支援で人が消えなかったからなんだけど

        32
          • たむごん
          • 2026年 7月 02日

          中韓と比較して、経済政策含めて本当に充分だったと思ってるの?

          円高も足引っ張ったけど、大して対策を打たなかったから、リーマンショック後に一時75円台までいったのもあるわけよ。

          失敗した反省があるから、高市政権が『造船業を経済安全保障・防衛に関わる戦略分野』に、わざわざ位置付けて金入れるんでしょ。

          1
    • あうあうあー
    • 2026年 7月 01日

    今回のDIPは、あまりにも非難轟々ですので、次期首相によって再度の見直しが入ることを想定せざるをえないと思います。
    英海軍の水上戦力の立て直しを犠牲にしてまでGCAPに予算配分されているのは、日英首脳会談での180億ポンド投資計画(日本から英国への投資は90億ポンド以上?)と引き換えに高市政権が勝ち取った成果とも言えそうですが、純然たる防衛計画としてはかなり不自然な予算配分であるため、「日本目線では安心」と言える状況ではないようにミエます。

    英政府のGCAP予算削減=日本からの英国への投資も削減となる可能性が高いため、そう簡単には削れないでしょうが、どうしてもどうしても防衛予算のさらなる増額のための財源を確保できないとなれば、英海軍の水上戦力の立て直しの方をGCAP開発よりも優先せざるを得なくなるのではないでしょうか。

    12
    • リンゴ
    • 2026年 7月 01日

    >国防投資計画の中で言及された86億ポンドをGCAPに投資するという話も冷静に考えると疑問がある。
    金を出すだけ最早朗報に思えた

    2
    • 無責任発言
    • 2026年 7月 01日

    開発費負担を日本への何かの技術移転で軽減出来れば良いのですけれど・・

    2

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