ドイツメディアのシュピーゲルは26日「米国防長官の特使がブリュッセルでNATOに対する軍事貢献を大幅に削減すると通達した」「米国は戦略爆撃機、戦闘機、駆逐艦、潜水艦、偵察無人機、武装可能な無人機、空中給油機といった主要能力の提供も大幅削減する意向だ」と報じている。
参考:USA wollen militärische Beiträge für die Nato deutlich reduzieren
参考:US to cut strategic bombers and warships available to NATO in a crisis
欧州で起きていることはインド太平洋地域にとっても他人事ではない、米国が要求しているのは地域の安全保障に対する米国負担の軽減
米欧州軍司令官は欧州連合軍最高司令部(SHAPE)の司令官を兼任するため、事実上「米国の軍人がNATO最高司令官を務めている」となり、SHAPEはロシアのウクライナ侵攻を受けて欧州防衛のため能力要件を大幅に引き上げ、各加盟国には第5条発動時に提供しなければならない能力や戦力が割り振られ、NATO加盟国が2025年6月に開催された首脳会談で国防支出を総額5.0%(国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%)に引き上げることで合意したのも「新しい能力要件」を満たすためだ。

出典:NATO
新しい能力要件の具体的な内容や数値は機密事項なので公開されていないが、ルッテ事務総長はロシア抑止に必要な戦力規模について「ミサイルや防空システムは現在の5倍、戦車と装甲車輌は数千輌以上、砲弾は数百万発以上、兵站を含む支援能力は2倍以上が必要だ」と明かし、Bloombergの報道によればドイツは10年以内に最大7個戦闘旅団の提供を求められており、ロシア国境から遠く離れたスペインや英国が砲兵戦力に大金を投資するのも「自国単体の安全保障要件」ではなく「第5条発動時における安全保障要件」を満たすためで、NATO全体の戦力設計は加盟国が自国要件だけで整備した戦力の集合体ではない。
この能力要件には米国が提供する戦力も組み込まれているのだが、ドイツメディアのシュピーゲルは26日「米国防長官の特使がブリュッセルでNATOに対する軍事貢献を大幅に削減すると通達した」「米国は以前からNATO内の軍事負担(現行は能力要件の約半分を米国が負担)を他の加盟国に再配分するよう強く求めてきた」「国防総省のベレス・グリーン氏は軍事負担の再配分に関する具体的な数字をNATO加盟国へ提示した」「この再配分計画は欧州側の予想を遥かに超える抜本的なものだった」と報じて注目を集めている。

出典:U.S. Air Force
シュピーゲルが入手した情報によれば米国は戦略爆撃機の提供を大幅に削減し、戦闘機の提供も1/3削減、駆逐艦の提供も削減、潜水艦の提供もゼロになり、ISR(情報、監視、偵察)能力向けの無人機、武装可能な無人機、空中給油機といった主要能力の提供も大きく削減する意向で、カナダと欧州の加盟国は欧州大陸における通常戦力の防衛力を自力で賄うことが期待されており、問題は軍事負担の再配分で生じるギャップをどれだけの期間で欧州が埋められるかだ。
米国側も「明日から削減する」とは言っておらず、欧州への影響力を維持するため欧州防衛から完全に手を引くつもりもないが、能力要件に基づいて提供義務がある戦力は第5条発動から10日以内、30日以内、180日内に分かれた即応性を維持しなければならず、ドイツは約3万人の兵力、200機の戦闘機、艦艇などを第5条発動から30日以内に展開できるよう待機させており、米国は自国戦力をNATO能力要件から解放して運用上の柔軟性を高めたいと考えているのだ。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Sean Lynch/Released
シュピーゲルは「NATO加盟国は6月初旬までにギャップを埋めるため何ができるかを決定しなければならない」「ドイツ政府は既に対応策を検討している」と報じ、Defense Newsも「米国は戦略爆撃機の数を以前の半分に減らすことを目指している」「欧州は自前で偵察無人機を調達せざるを得なくなる」「米国は6月初旬に開催される戦力増強会議で、軍事負担の再配分に関するさらなる詳細を明らかにする」と報じた。
欧州は米国依存の安全保障体制から段階的に自立することを目指しているため、NATOの能力要件に占める米軍負担も段階的に引き下げられる見込みだが、米国が要求する軍事負担の再配分時期で問題の深刻さが変化し、その分だけ欧州諸国の再軍備に対する投資が前倒しされるだけだろう。

出典:The White House
ちなみに欧州で起きていることはインド太平洋地域にとっても他人事ではない。米国が欧州に要求しているのは地域の安全保障に対する軍事負担の再配分=米国負担の軽減であり、インド太平洋地域の同盟国やパートナー国に同じことを求めており、トランプ政権も2025年末に発表した国家安全保障戦略の中で「もう米国は世界秩序全体を支えることはない」「同盟国やパートナーはそれぞれの地域で(安全保障上の)主要な責任を負わなければならない」と言及。
インド太平洋地域についても「米国が繁栄を掴むためにはインド太平洋地域での競争に打ち勝つ必要がある」「その基盤となる同盟関係を構築してパートナーシップを強化する」「台湾紛争を阻止すること、理想的には軍事的優位性を維持することが最優先事項だ」「第一列島線全体の侵略を阻止する軍事力の構築は米軍単独で担うべきではない」「これは第一列島線に関連する同盟国やパートナーが多くを負担すべきで、米軍に対する港湾施設の開放、国防支出の増額、特に侵略阻止を目的にした能力への投資を強く求める」「特に日本と韓国に国防支出の増額を強く求めなければならない」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class David S. Calcote
ヘグセス国防長官は国家安全保障戦略の発表を受けて「理想主義的なユートピア思想を捨てて現実主義を受け入れろ」「トランプ政権は大国主導の勢力圏(西半球は米国、太平洋は中国)を容認する政策に移行している」「我々は中国との安定した和平、公正な貿易、相互尊重の関係を目指す」「中国の歴史的な軍備増強を尊重する」と、国防総省も1月に発表した国家防衛戦略(NDS)の中で「トランプ大統領が述べたように米軍の最優先事項は米国本土を守ることである。したがって国防総省は西半球全域における米国の利益を守ることを含め本土防衛を優先する」と言及。
自民党の安保3文書改定に向けた提言案要旨の中でも「第2次トランプ米政権は同盟国と同志国が共に防衛力を強化することを求めるとの立場を鮮明にしている。日本を守る一義的な責任は日本にあるとの基本を改めて強く認識する必要がある」「NATOは2035年までに中核的国防支出を国内総生産(GDP)比で3.5%とする目標に合意し、韓国は可能な限り早期に国防費をGDP比3.5%に、豪州も33年度までに国防費をGDP比で3%に引き上げる旨を表明した。自国を守る覚悟のない国を助ける国はない。日本としても自国防衛の国家意思を明確に示し、地域における平和と安全を守る旗手としての覚悟と決意を示すことが必要だ」と指摘。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist Seaman Apprentice Zamirah Connor
自民党の安保3文書改定に向けた提言案要旨は「第2次トランプ米政権は同盟国と同志国が共に防衛力を強化することを求めるとの立場を鮮明にしている」と表現をマイルドにしているが、トランプ大統領は2月に署名した大統領令=米国第一主義の武器移転戦略の中で「新たな世界基準まで国防支出(総額5.0%もしくは純粋な国防支出3.5%)の引き上げに応じた国には武器売却を優先する」と宣言しており、新たな世界基準に対して政治的コミットメントもしくは支出努力を行わなければ米国製装備(例えばAN/SPY-6、F-35、パトリオットなど)の購入で冷遇されるという意味だ。
日本では「米国が日本を見捨てるはずがない」「日本を失って中国に取り込まれることは米国にとっても損だ」という守ってもらえる感が強いが、米国は「日本人自らが自国防衛や地域の安全保障の先頭に立って血を流し、そのための経済的な負担を受け入れるならそれを支援する」という立場で、西半球全域以外の地域安全保障に責任を負うのは当該地域の同盟国やパートナーであり、そのための努力をしないなら支援もしない。

出典:首相官邸
そのための努力は「新たな世界基準まで国防支出を引き上げるかどうか」で判断され、日本が2.0%を達成したと主張する2025年度の防衛関連支出も、令和7年度の見通しGDPを用いたNATO基準で計算すると1.6%程度でしかなく西側主要国のなかでもダントツの低さで、自民党が「自国を守る覚悟のない国を助ける国はない」と言及しているのも「日本だけは米国に無条件で守ってもらえるという考えは通用しない」と自覚している証拠だ。
日本は安全保障分野において米国と手を切る必要はないし、今後も協力を継続して自衛隊と米軍の相互運用性を向上させていけばいいと思うが、米国人が日本防衛や日本周辺の地域安全保障において「日本人の代わりに血を流してくれる」ということに期待しない方がよく、日本の安全を確保するためには自ら代償を支払うと覚悟をした方がいい。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Courtesy by Kyle Larson





















『アメリカが先に血を流してくれるわけではない』日本では、この前提のない議論があれば、時間の無駄だなと感じています。
『共に血を流してくれるのかも分からない』米国の対外作戦に参加していないわけですから、これもどうなるのか分からない前提で、対米関係を上手にやっていく必要があるのかなと。
アメリカが欧州から手を引く中で、ドイツが国防分野でもリーダーシップをとっていけば経済・軍事両面での存在感が強まるわけですから、欧州域内でドイツ一強がさらに強まる(!)かもしれませんね。
米国製兵器の購入は米国の安全保障の傘の提供の期待あればこその選択だったわけで、うちの言う通りに防衛費を増やさないのであればうちの兵器は売らないと言われてもじゃあ買うのやめて自前で作ろうとしか
コンバットプルーフ無しの、机上の空論兵器がいっぱい増えるとか、アタマが痛くなるやつですぜ。。。
国産兵器は机上の空論ですか?
kytnじゃあるまいし…
じゃあ基地使うなやみたいなことが生じるのかな?
実際アメリカの戦力が期待できるから使わせてるのに、「じゃあ何しに来てて、なんで血税で維持してんの?」って言われたときにどう言い訳するのかと言うのはありそうな?
基地すらなくなったらいよいよ米軍の庇護は期待出来なくなるな
もう思いやり予算は全部削減でいいと思いますがね。
その分米製兵器買うって言ったらアメリカも納得するでしょう。
トランプさんは色々言ってますが、思いやり予算に関してアメリカはこれまでずっと日本の支出が多いという認識なので、まあ関係を維持する意味でも今のままで良いんじゃないでしょうか
欧州方面やアジア方面について、防衛の主体はその地域の国々であって、米軍はサポートがメインだよってなると、じゃあ規模縮小しますねって話しに絶対なると思うんだけど、米軍はそれで良いんかね?
規模を維持するために仕事を作る軍隊は最悪の部類だけど、米軍はそっち寄りの組織な気がするのだけど。
>「米国が日本を見捨てるはずがない」「日本を失って中国に取り込まれることは米国にとっても損だ」
こういう受動的考えを捨てて、政治・経済・軍事において日本をアメリカが切り捨てる事が出来ない国にするにはどうすれば良いかという能動的な考えに切り替えるべきだと思います。
最近中国では「日本はアジアのイスラエルか?」論があるようですが、正に目指すべきはこれではないでしょうか。
その国の存在自体がアメリカの政治・経済・軍事を拘束するという存在になれという事です。
(※周辺国に戦争吹っ掛ける国になれという意味ではないので念の為)
それには防衛費の増額、在日米軍基地の維持に協力、パトリオット、アムラーム・GPIに並ぶ日米共同開発を増やして行く事等やれる事は沢山あると思います。
対米関係の更なる深化は昨今の流れと逆行してるように見えますが、核の傘と安全保障におけるプランBが無い以上日本の安全保障はアメリカを中心に考えるしかないですよね。
アジアその物を切られても困るので、韓国、オーストラリア、東南アジアとの協力関係の強化も必須です。
イスラエルに似たポジションだと、
イスラエルはアメリカの頭脳の中心にユダヤ系を
入り込ませて、動かしていますが、
日本はそう言ったことはしていない為、
交渉のカードとするなら半導体や製造業が(これは台湾も同じ)
中国に取られればあっという間にGAFAMもガタガタになりかねないと訴えるところからでしょうか。
日本目線では中国がイスラエル相当か?と疑心暗鬼になってるという・・
マジで中国さえ動かなければ問題ない話なんだけど
米国が戦力提供を削減し始めた理由は米国の負担を減らすことの他にも、欧州諸国に対して脅威となるのがロシアぐらいしかないこともあるのではないかな?
ウクライナは財政支援と軍事支援をし続ければ現状維持には持ち込めそうだし、ポーランドは数年前からめきめき軍拡進めてるし、バルト三国が唯一弱点であるけど、それしかない。
その他は無くね
シリアは親西欧政権になったし、数日前にはNATOと合同軍事演習してた。北アフリカ諸国も脅威ではない。
米国にとって欧州の優先順位は低い
欧州には申し訳ないが、GCAPの財源確保の動機づけとしては追い風になるかもしれない。英伊の国民には頑張ってもらいましょうね…
「じゃあアメリカの覇権主義に付き合う必要もありませんね」って話と地続きってことに気付いてないのかね
そうするインセンティブがあったからアメリカ中心の秩序に日本も欧州も付き合ってやってたって言うのに