欧州関連

米国が技術移転を拒否、ポーランドのHIMARS大規模調達が行き詰まる

ポーランドとLockheed Martinは2023年9月「HIMARS×486両(Homar-A)調達に関する枠組み協定」を締結したが、米政府がGMLRS国産化に必要な技術移転に同意しないため、ポーランドメディアは17日「韓国製のHomar-K調達は順調なのに米国製のHomar-A調達は危機に瀕している」と報じた。

参考:Gra o rakiety. Dlaczego Polska nie dostaje zgody na amunicję do HIMARS?

このまま交渉が進展しないのならHomar-Aを中止してHomar-Kの調達を増やすかもしれない

欧州はウクライナとロシアの戦争を目の当たりにして「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識し、航空戦力に偏っていた火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、伝統的な榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムなどが再評価されている。

欧州諸国の多連装ロケットシステムの導入動向(枠組み合意の数字/ドイツのEuroPULSは調達予定数/スウェーデンは見込み)
種類数量
ポーランドHIMARS486両
Chunmoo290両
エストニアHIMARS6両
Chunmoo6両
ラトビアHIMARS6両
リトアニアHIMARS8両
イタリアHIMARS21両
ルーマニアHIMARS54両
スウェーデン
HIMARS?20両?
オランダPULS20両
ドイツPULS5両
 EuroPULS250両
デンマークPULS8両
スペインPULS16両
ノルウェーChunmoo16両

砲兵システムに関しては欧州独自の選択肢が存在するものの、多連装ロケットシステムについては独自のシステムがないため米国製のHIMARS、イスラエル製のPULS、韓国製のChunmooに人気が集中し、ポーランドとエストニアはHIMARSとChunmooを並行導入、ラトビア、リトアニア、イタリア、ルーマニアはHIMARS導入、オランダ、デンマーク、スペインはPULS導入、ノルウェーはChunmoo導入を決めた。

但し、スペインはガザ地区での軍事作戦を理由にPULS導入をキャンセル、ドイツはウクライナへのMLRS(MARS-2)提供分を穴埋めするためPULSの少数導入を決め、KNDS Deutschlandとエルビット・システムズが提案するPULSの技術を流用したEuroPULS(MARS-3=PULSの技術を流用した欧州生産バージョン)を250両発注する予定で、2026年下半期の契約締結を目指している。さらにスウェーデンも長距離攻撃能力を獲得する一環で多連装ロケットシステムの取得を検討中だ。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Asher Atkinson

非常に興味深いのは多連装ロケットシステムに関連した「米国の政治的判断」で、ノルウェーは多連装ロケットシステムを新規取得するため米国にHIMARS売却を打診したが、国務省が売却を許可したのはHIMARS本体、射程80kmのロケット弾=GMLRS、射程300kmの戦術弾道ミサイル=ATACMSのみで、ノルウェーが要求した500km先を攻撃可能な新型戦術弾道ミサイル=PrSMの売却を拒否した。

ポーランドも国産シャーシにHIMARSランチャーを統合したHomar-Aを486両、国産シャーシにChunmooランチャーを統合したHomar-Kを290両調達中だが、ポーランドのディフェンスメディア=Defence24は17日「韓国の技術移転によるHomar-K調達や使用弾薬の国産化は順調に進んでいるものの、米国はいまだにHomar-Aが使用するGMLRS国産化に必要な技術移転に同意しない。この交渉は2023年から現在まで突破口が見つからずにいる」と報じ、NATO・欧州軍最高司令官を務めたフィリップ・ブリードラブ元大将は以下のように指摘している。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

“真の問題は、一部の政治指導者がロシア領土の奥深くを攻撃可能な能力付与に非常に強い懸念を抱いている。これはウクライナでの戦争でも観測された問題だ。西側諸国の中でも米国は長距離攻撃能力の提供に慎重で、実現した場合でも使用できる目標に制限を課した。ポーランドへの技術移転に同意しないのは政治的理である可能性が高く、ウクライナに対して課せられた長距離兵器使用制限と同質のものだ。この状況は軍人として苛立たしい状況だ。このような懸念が他国への技術共有に影響を及ぼしていると考えている”

Homar-AとHomar-Kは国産シャーシ以外にもポーランド製の射撃管制システム(Topaz)が採用され、Homar-Kは既に150基以上のChunmooランチャーが納入されているにも関わらず、Homar-Aは2023年の枠組み協定締結から何の進展もなく、ポーランド陸軍は2019年の契約で調達した完成品のHIMARS×20両しか保有していない。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

そのためDefence24は「Homar-A計画全体が危機に瀕している」と報じ、Lockheed Martinと締結した2023年9月に締結した枠組みにはHIMARSランチャー調達だけでなく「ポーランドにおけるGMLRS製造および技術的サポート」が含まれ、2024年に枠組み協定に基づいた最初の契約交渉(100基前後)が開始されたものの、米国政府がGMLRS国産化に必要な技術移転に同意しないため「HIMARSランチャー調達のための正式契約に進めない」という意味だ。

ポーランドはHomar-Aの弾薬供給を米国に依存する気はないので、このまま交渉が進展しないのならHomar-Aを中止してHomar-Kの調達を増やすかもしれない。

因みに韓国との契約には「Chunmooランチャー、Homar-Kで使用するロケット弾の現地生産に関する技術移転」が含まれており、ポーランド国防省は2025年4月「二次契約までの合意で定められた内容は全て履行された」「二次契約に含まれる技術移転はChunmoo生産をポーランドに移転するための第一段措置だ」「第二段措置はChunmoo用のミサイル生産で3年以内に最初のミサイルが出荷される」と発表し、WBとHanwha Aerospaceがミサイル生産に関する協定(合弁会社の持ち株比率49%対51%)に署名した。

この合弁会社で生産するのはGMLRSに匹敵するCGR-080(GPS/INS誘導)で、さらにHanwha Aerospaceは「移転した技術やノウハウを活用して生産されるミサイルを『ポーランド軍の他のシステム』で使用してもよい」と認めているため、WBにとっては「独自のロケット弾事業」に進出できるチャンス、Hanwha AerospaceにとってはChunmooを欧州に売り込むための「協力実例」と「生産拠点」を確保した格好だ。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

Breaking Defenseも「WBとHanwha Aerospaceの合弁会社は独占禁止委員会の承認を得て操業を開始し、欧州の他の顧客へミサイルを販売する予定だ」と報じ、Breaking Defenseは「欧州の他の顧客」を明確に言及していないが、ノルウェー、ルーマニア、エストニアへの弾薬供給を指しているのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. William Chockey

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コメント

  • コメント (10)

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    • たむごん
    • 2026年 3月 22日

    対ロシア・ベラルーシ(首都ミンスクへの射程)、政治外交問題なんでしょうかね。
    アメリカ独占ならばゴリ押しできますが、韓国が食い込んでる中で、さすがにそれは厳しいだろうなあと…。

    弾薬の自由度に、ここまで格差があるのであれば、韓国企業ますますシェアを伸ばしていくことになりそうですね。
    購入国目線で見れば、弾薬の国産化を許可する企業の方が圧倒的に使いやすいですし、開発国の介入リスクも減らせるからです。

    32
    • せい
    • 2026年 3月 22日

    米国の言い分も分かるけどな
    技術移転をしちゃうと結局将来の競合相手を育てることになるし
    でもじゃあ米国の利益の為に欧州、特に直接的な脅威に対面してるポーランドが慮り続けるかというとそんなわけもなくて
    意固地に目に見える自国優先主義は、今得られる利益、将来得られる利益共に手放すような方針に思う

    23
      • まめ
      • 2026年 3月 23日

      イランへの攻撃の様に、武器供与していても支援も何も無い状態もあるので、米国に委ねるメリットが少なくなっているしで、アメリカ製武器の購入者が減りそうですね。

      4
    • YF
    • 2026年 3月 22日

    事が単純な技術移転の話ではなくて政治問題に近い話なので、アメリカ側の懸念もわかる気がします。
    韓国も戦車、自走砲、防空ミサイル等射程の短い兵器売る分には問題ないでしょうけど、戦術、戦略クラスの射程の兵器を売るとなると様々な圧力受けるようになるんじゃないでしょうか。それを売ったら北朝鮮に武器を売るぞなど。

    日本だって12式地対艦誘導弾(能力向上型)を台湾、フィリピン、ベトナムに売るってなったら高市総理の発言とは比較にならないぐらい大騒ぎになるでしょうからね。

    13
      • emp
      • 2026年 3月 22日

      ロシアは兵器や原油を北朝鮮に送ってるから今更
      韓国が遠慮する理由はない

      23
    • 名無し
    • 2026年 3月 22日

    韓国は「技術移転しても、結局、その国では作れない」という達観があるよね。
    技術移転受けた結果、自分のアタマで兵器設計して、海外まで売れるようになったのは、世界でも、韓国、トルコ、中国、イスラエルの4カ国しか無い。

    サウジとかエジプトとかインドとかインドネシアとか、したり顔で技術移転受けまくってるけど、サウジは何一つ作れない、エジプトは40年経ってもM1戦車ベースの自国製戦車作れてない、インドもブラックボックス系は一切作れない、インドネシアも何も作れない。

    結局、技術移転しろしろ言って、買うときには壮大な青写真描いてるんだけど、ほぼすべての国は結局は「宝の持ち腐れ」で、役に立たず、高い金額相当で移転した生産技術を、全部ゴミ箱に捨てている状況。

    産業基盤とか販売するための営業力とかそれを継続する忍耐力とか、そういうのを揃ってない国に「技術移転」するのは、実に効率がいい、ノーリスクの営業ツールだと、韓国は見切ってるフシがある。

    41
    • 通りすがり
    • 2026年 3月 22日

    この件に限らずポーランドに限らず、単に商品を売ってくれならともかく、技術までたかるの方がおかしい
    商品よりそれを生み出す技術やノウハウの方が遙かに高価値になって久しい。兵器以外では技術もおまけしろなんて阿呆なこと言わないだろうに、兵器分野だと平気でいう
    軍需産業が大儲け出来た時代なら、それでも我慢して売る価値もあったのかもしれないが、企業ランキングで上位に軍需産業なんかどこも入ってない時代に無理な話

    4
      • 幽霊
      • 2026年 3月 22日

      まあ技術移転はおかしいと言っても、じゃあ技術移転移転を拒否するならあなたの国の兵器は購入しませんと相手国が言ってくるだけですけどね
      どうしても導入したいと相手国が頭を下げてくるような最先端兵器なら技術移転しなくて済むかも知れませんが、逆にそんな兵器の輸出を認める国はまず無いでしょうね。

      22
      • 特盛
      • 2026年 3月 23日

      兵器の購入にはオフセットとして技術移転による自国内でのエコシステム確立が定番になっているのをご存知ない?
      消耗品の弾薬を海外の都合に依存するリスクも。
      これまでこのブログのどこを見てきたんですか。

      4
    • 2026年 3月 22日

    Chunmooとその弾薬が十分な性能を持っているならポーランドはHIMARS調達を中止してChunmooにリソースを集中させるだろうね。トランプから報復されたくないからそれを明確にするのは二年後以降だろう。
    その頃だとChunmooシステムの納品は予計画数もほぼ達成されて戦力化も進んでいる
    ポーランドのChunmoo工場のキャパが空いたを見計らってHIMARSキャンセル&Chunmoo追加発注のアナウンスという流れになると思う

    6

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