欧州関連

3度目の遅延、英国が要求したMeteorのF-35統合は2030年代初頭

英国はF-35へのMeteor統合を要求しているものの、初期作戦能力の獲得時期はBlock4開発遅延とリンクして2020年代半ば→2027年頃→2020年代末へと変更され、イーグル防衛装備担当閣外大臣は「Meteorの統合時期は2030年代初頭になる」と報告して3度目の遅延を認めた。

参考:Meteor integration on F-35B delayed from 2027 to early 2030s
参考:Tyskland vil kjøpe JSM-missiler fra Norge
参考:Delivery of first JSM missiles marks major milestone for Norway’s F-35A fighter fleet

英国は実現可能な選択肢とされてきた2027年までのMeteor統合を事実上放棄

英国は米国に次ぐF-35プログラムの出資国(25億ドル)で、この立場を活かしてMBDA製の空対空ミサイル=Meteor、Brimstoneから派生した空対地ミサイルのSPEAR-3統合を要求し、初期作戦能力の獲得時期は当初「2020年代半ば」と報告していたが、2022年2月には「早くても2027年頃になる」と、2024年1月には「2020年代末」と遅延を繰り返し、国防省は両ミサイルの統合遅延について「Block4の開発遅延に関連している」と説明。

出典:NATO Allied Air Command

Block4を完成させるにはBlock4のソフトウェア、システムインフラストラクチャーを刷新するTechnology Refresh3、F135の能力を強化するEngine Core Upgrade、電力・冷却システムを改良するPower and Thermal Management Systemの4要素、さらにAN/APG-85への換装、AN/ASQ-239、EOTS、DASの強化、ウェポンベイへのサイドキック搭載なども必要で、現時点で完成しているのはAN/ASQ-239のアップグレードとサイドキックぐらいしかなく、TR3はLot15から量産機への組み込みが始まっているもののソフトウェアが未完成だ。

一時は「完全なBlock4が2029年以降に登場する」という見通しもあったのだが、米空軍のシュミット中将は2024年4月「Block4で予定されている多くの能力は2030年代まで実現しない」「そのためBlock4自体を再構築することになった」と、英国のイーグル防衛装備担当閣外大臣も最近「Block4へのSPEAR-3統合は2030年代初頭と見込まれている」と明かし、SPEAR-3統合時期は2020年代末から2030年代初頭へ再び遅延した格好で、これはシュミット中将の発言にリンクしていると解釈できる。

出典:Royal Air Force PavewayIVの投下テスト

この件について英メディア=Telegraphも「戦車、基地、掩体壕などを遠距離から破壊できるSPEAR-3のF-35B統合は2025年から2028年に延期されていたが、イーグル閣外大臣が2030年代初頭まで延期されると明かした」「そのため専門家はF-35Bが地上目標を攻撃するのに第二次世界大戦時と同じ方法、つまりランカスターの乗組員が遂行したリスクの高い任務になると指摘した」「SPEAR-3の統合延期は英国のF-35Bにとって災難を意味し、Tranche1の後継機にTranche4ではなくF-35を追加発注する動きに大きな打撃を与えるだろう」と報じたが、どうやらMeteorも同じ状況らしい。

イーグル閣外大臣は議員からの質問に応える形で「F-35BへのMeteor統合はF-35ジョイント・プログラム・オフィスによって推進されており、現時点での運用開始時期は2030年代初頭と見込まれている」と述べ、英国のディフェンスメディア=UK Defence Journalも「政府が2020年代末までのMeteor統合が実現しないと認めたのは今回が初めてだ」「これまで実現可能な選択肢とされてきた2027年までのMeteor統合を事実上放棄した形だ」「これでMeteorとSPEAR-3のF-35B導入が2030年代初頭までずれ込むことになった」と報じている。

出典:Forsvaret

因みにドイツは6日「導入予定のF-35A向けにJoint Strike Missile=JSMを調達する」と、ノルウェー国防省も「ドイツがJSM調達計画を発表した」「この計画は議会での審議を経て年内に契約を締結する予定だ」「契約額は約65億ノルウェー・クローネ=約6.4億ドルになるだろう」と発表し、これでJSMを取得する国はノルウェー、日本、オーストラリア、米国、ドイツの5ヶ国に広がったが、いつF-35でJSMが運用できるようになるのかは明かされていない。

F-35への統合作業は2020年に開始され、F-35AのウェポンベイからJSMを安全に切り離すため模擬投下テストを地上で行い必要なデータを収集、2021年にF-35Aベースの特殊試験機=AF-01を使用して飛行中の機体からJSMの投下(切り離し)に成功したのだが、JSMの運用能力は「開発中のBlock4に関連している」と言われており、今のところF-35AがJSMの初期運用能力=IOCを獲得したという公式のアナウンスはなく、具体的なIOC獲得時期も不明だ。

出典:Forsvaret

ノルウェー政府は4月「計画されたF-35A(52機)の全てを引き渡された初めて国となった」「さらにKongsberg Defence&Aerospaceからも初めてJSMが納品された」「オーランド空軍基地でJSMの備蓄作業が開始される」と発表しただけ、ノルウェー国防省の高官も「JSMの納品によって必要なソフトウェアが供給されるまでの間、備蓄を積み上げる機会が得られ、迅速な運用の基盤が築かれる」と述べているため、まだF-35AはJSMの運用能力を獲得できていないと解釈するのが妥当だろう。

ノルウェー国防省の高官が言う「必要なソフトウェア」はTR3のソフトウェアを指しているのか、Block4全体のソフトウェアを指しているのかは不明だが、MeteorとSPEAR-3の状況を鑑みるとポジティブな状況にないことだけは伝わってくる。

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※アイキャッチ画像の出典:Royal Air Force. UK Crown Copyright

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コメント

  • コメント (26)

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    • 戦車
    • 2025年 6月 10日

    何かに理由を付けて色んな兵器の統合が遅れてますけど、対抗馬の他国の第六世代機が出るまでこの様な感じなんじゃ・・。

    21
      • 匿名希望係
      • 2025年 6月 10日

      下手すると出てもこれだな

      13
      • 匿名
      • 2025年 6月 10日

      部品も来ずメンテできない
      アップデート(&バグフィックス)も遅い
      「じゃあうちでやるよ」もできない

      米国製戦闘機ぇ…

      5
      • ドゥ素人
      • 2025年 6月 10日

      実はもう諦めていて、第六世代で仕切り直そうとしてるんじゃないかな?と思ってます…。

      6
    • 新宿
    • 2025年 6月 10日

    イギリスの権限を持ってしてもミーティア組み込めないってなると恐らくJNAAMが量産できていても統合できたか怪しいし、ましてや技術的に可能(とされる)AAM-4の統合なんて無理ですわ。それが実現できるころにはおそらく次期国産中距離AAMが完成してる。

    25
    • 名無し
    • 2025年 6月 10日

    AIM-260が完成したとしても統合完了するのは2040年代とかになるんだろうな

    15
    • L
    • 2025年 6月 10日

    民間では開発遅延は契約に則って返金とか求められると思うど、この手の軍事的な契約はどういう扱いなんだ?
    いくらでも遅延してお咎めなしなんて契約があるわけ無いと信じたいが
    詳しい人教えてくれ

    8
      • SB
      • 2025年 6月 10日

      損害遅延金(要は借金の利息みたいなもの)はあるけど普通返金とかないぞ

      5
    • たむごん
    • 2025年 6月 10日

    いつかできる!くらいのものになりましたね。

    暴落!暴落!暴落くるまで言い続けるのと変わらないレベル感で見てます。

    8
    • トーリスガーリン
    • 2025年 6月 10日

    ユーロファイターのTR3/4いつになったら適用されるんだよと呑気に眺めていられた時代が懐かしいや

    17
      • kitty
      • 2025年 6月 10日

      タイフーンはTrancheで表されますし、3/4は基本的にバリエーションで概ね同世代だし、未定なのはTranche5なので、いろいろ混ざっているような。「フェーズ」という小改修でも登載兵器の種類を増やしていたりもするので、メジャーバージョンアップしないと、兵装の種類が増やせないF-35は兵器開発史に残る失敗と記憶されるだろうなあ。

      しかし、下手するとF-35で欧州製ミサイルが使えるようになるより、GCAPで使える様になる方が早かったりして…。

      10
        • Whiskey Dick
        • 2025年 6月 10日

        今年生産が始まる(かもしれない?)Su57の改良型は機内に格納できる巡航ミサイルや対レーダーミサイルが運用可能とのこと。中国が作っているJ35(F35のパチモン)の方が早期に多用途化できるかもしれない。
        ずっと思っているのだが、ステルス機に兵装を運用させるのなら、対象の兵装が弾倉に対応しているだけではダメなのでしょうか。確かにそれ専用のセンサーなどは追加で必要になるかと思われますが、兵装そのものの開発以上にプログラム追加に時間が掛かるというのは奇妙に思える。

        3
          • AH-X
          • 2025年 6月 10日

          現状で全く運用できないわけではないでしょうがミサイルの能力を100%発揮出来ないって意味だと思います。どのモードが使用できないとかじゃないですかね?
          対艦ミサイルとかは比較的自立性が高いんで発射そのものは簡単にできるはずですよ。

          4
          • 神田明(仮名)
          • 2025年 6月 10日

          >ステルス機に兵装を運用させるのなら、対象の兵装が弾倉に対応しているだけではダメなのでしょうか。

          ミサイルを誘導するための制御プログラムが戦闘機側に必要です。

          2
          • 神田明(仮名)
          • 2025年 6月 11日

          >兵装そのものの開発以上にプログラム追加に時間が掛かるというのは奇妙に思える。

          戦闘機に搭載するミサイルの場合には、発射時の母機との空力の干渉対策等、戦闘機の機種毎の作業が考えられますね。
          プログラム開発も決して簡単では無いと思います。

    • YF
    • 2025年 6月 10日

    完全なBlock4よりGCAPの方が早かったら笑える…いや笑えない…
    まぁGCAPも当然遅れるんだろうけど

    10
    • YF
    • 2025年 6月 10日

    完全なBlock4よりGCAPの方が早かったら笑える…いや笑えない…
    まぁGCAPも当然遅れるんだろうけど

    2
    • PAC3
    • 2025年 6月 10日

    イスラエルに外注すればBlock3ベースでもアメリカよりは早く対応できるんじゃないかと思える展開

    13
      • NHG
      • 2025年 6月 10日

      F-35は各国が共通して整備するプラットフォームと割り切って、自国兵器の搭載とかは各国に任せるとかしたほうがいいかもしれない
      もう完全に手に余ってるでしょ、これ

      4
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 6月 10日

    もう統合諦めれば?って言いたくなりますけど資金を出した国からすれば要望が組み込まれないなら無駄金になりますわな

    3
      • 3M774A6
      • 2025年 6月 10日

      困難は色々あるのだろうけど、いくら空のほど難しくないといってもフランケンSAMやら運用されてるのを見る限り、統合への本気度が問題に思えちゃう。
      実際に有事になったら、まず統合済みの弾薬を撃ち尽くして、弾薬不足によって大きな損害発生、それから本腰入れて統合作業始めて2ヶ月ほどで制限有りで何とか実戦投入可能な状況へ進み、実戦しながら運用制限を外せるよう修正継続。緊急採用の弾薬が効果を発揮するまでに被った損害は回復不能で後まで作戦の制約になる。こんなことありそう。
      平時にとりあえずできたものでテストして不具合出すのはマイナスに捉えられ、テストするのは完成品の実証目的に過ぎない。実物でテストするのは費用が掛かるとはいえ、そのテストを極力行わない開発を進めることを狙って費用と時間が過大に掛かってるような。
      F-35で試射して不具合あったとかじゃないですもの。

      2
    • DEEPBLUE
    • 2025年 6月 10日

    やっぱりこれの工場建てたの失敗だったんじゃない?

    1
      • kitty
      • 2025年 6月 10日

      日本のMRO&Uのこと言ってます?
      それなら的外れだと思いますけど。

      10
      • ネコ歩き
      • 2025年 6月 10日

      MHI小牧南工場に設置されたFACOで最終組立・検査が実施されるのは元より空自調達分のA型だけです。
      同FACOは東アジアにおけるF-35の国際重整備・アップグレード改修拠点(MRO&U)としても運営されますが、防衛省は国内で重整備やアップグレードを行えることをより重視していましたので思惑通りです。

      10
    • 朴秀
    • 2025年 6月 10日

    載せるだけでも大変なんですね

    中身詰まってそうですし機器の追加とかあったら大変そうではあります

    1
      • 名無し
      • 2025年 6月 12日

      多機能レーダーというのは聞こえはいいけどあらゆるハードを協調動作させる以上開発コードがどんどん複雑になって、簡単には積めないって現象を招くからな
      SPEARにしてもJDAMのように中間アップリンクするのならその通信ハードをつけるか、ハードの機能をF-35のなにかに詰め込まないとならないし

      船舶なんかでは多機能レーダーと言っているもののECM、ESM、通信アンテナは別な機器として脇に置いたりなんてのもできるが…

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