欧州関連

発展し続けるトルコ防衛産業、UAV「バイラクタルTB3」を開発中

バイラクタルTB2を製造するバイカル社の最高技術責任者(CTO)セルチュク・バイラクタル氏は先月30日、新型の双発無人航空機「バイラクタルAkınci」と開発中の「バイラクタルTB3」に搭載する国産エンジンが完成していることをTwitter上で明かし注目を集めている。

参考:Local engines to power Turkey’s cutting-edge combat drones

バイカル社の最高技術責任者がバイラクタルTB2の後継機開発を公式に言及

トルコは無人航空機「バイラクタルTB2」などの製造に不可欠なEO/IRセンサーやエンジンをカナダからの輸入に頼っていたのだが、ナゴルノ・カラバフ紛争へのトルコ関与(正確にいうとカナダ製軍需品が使用されたトルコ製UAVが不正にアゼルバイジャン軍へ輸出されていた点)を問題視したカナダ政府が輸出を停止してしまったため、トルコのUAV製造に支障が生じるのではないかと懸念されていた。

しかしバイカル社の最高技術責任者(CTO)セルチュク・バイラクタル氏は先月30日、Twitter上で「トルコ企業のTEI(トルコ航空宇宙産業の子会社)が開発したエンジンは同クラスの中で世界最高のパフォーマンスを発揮する」と明かしてテストを受ける様子を収めた動画もアップしている。

バイラクタル氏の説明によればTEI製の新型エンジンはプロトタイプではなく「量産品」でアップしたテスト風景も1ヶ月前のものらしく、要するに「ロータックス(ボンバルディアの子会社)製のエンジン「Rotax 912」が入手できなくなっても問題ない」と言いたいのだろう。

補足:因みに入手できなくなったL3Harris Wescam製のEO/IRセンサーについては、トルコ企業「アセルサン」が開発した国産EO/IRセンサー採用で乗り切っているらしい。

ただ管理人的に一番注目したいのはバイカル社のCTOが公式に「バイラクタルTB3」の存在に言及した点だ。

バイカル社が開発した中高度無人航空機「バイラクタルTB2」はシリア内戦やリビア内戦で活躍、現在南コーカサスで勃発したナゴルノ・カラバフ紛争でも決定的な活躍でアゼルバイジャン軍のナゴルノ・カラバフ奪回に貢献しており、正確な数は不明だが輸出も含めた総生産数は130機(機体単価約500万ドルなので少なくとも6.5億ドル以上の売上げ)を超える人気の高いUAVで、ウクライナは同機を48機追加導入すると言われている。

出典:CeeGee / CC BY-SA 4.0 バイラクタルTB2

同機の後継機や発展型については飽くまで噂レベルに過ぎなかったのだが、今回バイカル社のCTOが公式に「バイラクタルTB3」の存在に言及したためトルコメディアも注目しており、バイラクタルTB3の性能はバイラクタルTB2とバイラクタルAkınciの中間程度になるのではないかと予想している。

基本的にバイラクタルTB2は戦場の偵察・監視をEO/IRセンサーに頼っており、国産のレーザー誘導爆弾「MAM-C(最大到達範囲8km)」やGPSを追加してより遠距離から攻撃可能な「MAM-L(最大到達範囲14km)」を駆使して地上の目標を攻撃することしか出来ない。

出典:バイカル バイラクタルAkınci

しかし新型の双発無人航空機「バイラクタルAkınci(コスト不明)」はEO/IRセンサーに加え国産AESAレーダーを搭載、さらに電子戦ポッドも携行することができる。さらに双発化によって携行できる兵器も多用化しており、国産の中距離空対空ミサイル「Gökdoğan(AIM-120D相当)」や国産対戦車ミサイル「UMTAS」を搭載することができJDAMも運用も可能だ。

極めつけは空中発射型の国産巡航ミサイル「SOM」が統合されているため200km先の陸上および海上目標を破壊することが可能で、バイラクタルAkınciは戦闘機や攻撃機が担当するミッションの一部を代行することができる高性能な大型無人航空機といえる。

出典:Noblemouse / CC BY-SA 4.0 巡航ミサイル「SOM」

要するに「バイラクタルTB3」はバイラクタルTB2とバイラクタルAkınciの中間グレードとして完成すれば、バイラクタルTB2以上に凶悪な存在になるだろう。

ただ高性能化すればするほど機体コストが上昇するので、撃墜されても問題ないという低コストUAVの特徴がバイラクタルTB3から失われれば存在価値に響く可能性もあるため、バイカル社がバイラクタルTB3をどのようにまとめて来るのか注目される。

 

※アイキャッチ画像の出典:Savunma Sanayii Başkanlığı トルコの無人航空機「バイラクタルTB2」

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    戦闘機が失った「変態機、珍品機、迷品機」という属性を今のUAVに感じて、わくわくしている。

    14
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      アンタも好きねえ(笑)
      オレもだけど

      9
      • 匿名
      • 2020年 11月 03日

      黎明期は試行錯誤するので様々な試みがあって興味深いですね。
      あと10年もすれば洗練されてきて定型に収斂するのでしょうが。

      4
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    カラバフ紛争で派手に空爆してんのがバイラクタルだから過大評価されてるけど
    こいつがやってんのは要するにCOIN機がやるような軽攻撃だからあんま大したこと無いんだよね
    真にヤバいのは今まで最新鋭の戦闘攻撃機でしか出来なかったSEADを実施してるハロップだと思う

    12
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      日本は大したことがないレベルの無人機を作る事もできないのに何いってんの?確かに小型で低コストのUAVが戦争の全てをひっくり返す訳じゃないけど、そうやって舐めてたら痛い目に合うよ。

      8
        • 匿名
        • 2020年 11月 02日

        この人は別に無人機を舐めてるわけじゃなく、一見地味だしスルーされてるけど、本来支援機侍らせてガチガチで挑まないといけなかった敵防空網制圧が、最悪相打ち覚悟でSAM狩りできちゃうから、航空機と防空兵器との今までの関係を無人機は根底から覆すんじゃないかと言ってるんだと思う
        要は無人機やべー(小並感)

        22
        • 匿名
        • 2020年 11月 02日

        その人別に舐めてはないよね・・・自爆型ドローンの方がやべぇって話してるだけで
        確かにあの低コストでSEAD出来るのは面倒極まりないし

        そして実際バイラクタルTB2は制空権取りにくい環境だとちょい厳しいと思うし、まぁ今回はまさにうってつけの相手だったのが大きいかと(だからこそより高性能化と長射程化したTB3の話も出てるのでしょうから)

        12
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      ハロップでSEAD→バイラクタルで蹂躙というシステムを作り上げて、実戦で証明したことがすごいんだよ。
      それこそ今まで先進国が金かけないと実施できなかった航空作戦が、遥かに低コストになり中堅国家でもできるようになったのは脅威。
      しかも無人機だから撃墜されたって誰も死なないというのは、国内世論が萎縮しないという面でも有効。

      18
        • 匿名
        • 2020年 11月 02日

        ただし相手が制空権を持っていなかったらという前提。

        10
    • 得みえい子
    • 2020年 11月 02日

    尚経済は右肩下がり之模様替え

    5
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      経済も内政も右肩下がりだからこそ外向けにイキり続けるしかないんだぞ。歴史上ほぼ例外無く破滅するまで止められない。

      7
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      下落が止まる気配のないトルコリラ先輩

      1
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    日本で今運用しているのは、シーガーディアンしかないのか。

      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      スキャンイーグル「えっ」

      6
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    兵器ドローンの登場で一度放棄された技術が採用されたり、見直されたり、見ている分委は楽しい。

    8
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    内製率上げてきたね。
    他国の顔色伺わなくて良いというのは強みだけど、ますますトルコが強硬姿勢に出ないか心配。

    5
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      トルコは親日どうたらと妙な親近感持ってる奴を結構見かけるが、だからこそ、ここ数年の狂犬国家ぶりにドン引きしてる奴も多い思うの。

      5
        • 匿名
        • 2020年 11月 02日

        半島以外で発行世界地図に東海って載せてる唯一の国ですよ
        親日なんて話半分程度で

        16
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    極端な話、V-1みたいな町工場でも作れるような低コスト機を囮として大量に一緒に飛ばして敵の対空兵器の弾薬を無駄撃ちさせるという戦法もアリなんだよね

    7
      • 匿名
      • 2020年 11月 03日

      中華が使う可能性高い
      沖縄まで渡洋できるドローンを多数揃えて嘉手納を無力化するとか企んでてもおかしくない

      5
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    バイラクタルってCEOのお名前からとってたんですねw

    4
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      wikipediaに『バイラクタルとはトルコ語で「軍旗」や「旗手」を意味』とあったんでソレ由来と思っていたが、そいやCEOの名ですね。日本なら苗字「はた」さんの感覚かw。トルコの看板工業製品となりそうなんで、個人名と旗印的存在の、ダブルミーニングありそうw

      7
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      エルドアンの娘婿の持ち会社なんだってな

      6
      • 匿名
      • 2020年 11月 02日

      俺もそこが一番引っかかった
      普通社名に社長の名前つけても製品にはそうそうつけるもんじゃないよな
      まして他所の国の人間バカスカ殺してる兵器に自分の名前つけるとか…
      まじかよ!?って思ったよ

      3
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      バイラクタルお前、人間だったのか

    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    > TB2は戦場の偵察・監視をEO/IRセンサーに頼って
    索敵や攻撃目標決定を、IFFとかの敵味方自動判定じゃなく、要は映像を元に目検で・人の判断で下していると思うんだが、有人機空爆じゃ付き物の味方誤爆は、UAVで頻度どれ位なんだろ?

    ナゴルノ・カラバフ紛争の前線は複雑と思うんだが、彼我の配置の把握も複雑な筈。昨今のGPSと通信器の充実でアゼルバイジャン軍の味方部隊の位置把握は完璧に近い、を実現出来てる、とか。

    後、有人機は、飛行しながら狭い操縦空間で1-2人+通信機器の情報で現場判断と考え事に向かない環境で、無人機を遠隔で管理するオフィスの様な席だと、撃っちゃアカンのを撃つ判断ミスが減るんでは。コーヒー片手にリラックスした近接航空支援で正確な仕事を、そうUAVならね。これもUAVのメリットと思えて来たw。

    実際は誤爆が頻発って可能性も在るんだろうが、紛争真っ最中じゃプロパガンダで表沙汰にならんだろうな。両軍ソ連ロシア系列の戦車とか、区別が難しいだろうに。

    1
      • 匿名
      • 2020年 11月 03日

      >コーヒー片手にリラックスした近接航空支援で正確な仕事を
      アメリカではリーパーの操縦士が爆殺した死体の映像見せつけられてPTSDになる事例があったけど
      そんな綺麗な仕事場じゃないだろ

      3
        • 匿名
        • 2020年 11月 03日

        TB2は衛星で操作するタイプではないらしいからね。

    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    エーゲ海の地震って震源地はギリシャ領の島だけど被害は殆どがトルコ側なんだっけ。トルコリラも更に下落したし、昨今の狂犬ぶりとコロナ第2波で周辺国からも実質ざまぁw扱いだし、エルドアンも更に外向けにイケイケドンドン()しないと後が無いもんな。

    1
    • 匿名
    • 2020年 11月 02日

    軍用の飛行船が消え、戦艦が消え、軍馬も消え、戦車も最近は危うい(笑)
    プロペラ機も消えそうで消えないのがテクノロジーのおかげなのが楽しい
    フルシチョフのミサイル万能論は早すぎたが、今ならこれも間違いとまでは言い切れない
    問題は、過去にとらわれて前に進めない人間の意識のほうだよ

    1
    • 匿名
    • 2020年 11月 03日

    機体単価5億円は使い捨てにするには高すぎる。中距離対空ミサイルを下回って初めて脅威となりうるのに。

    1
      • 匿名
      • 2020年 11月 03日

      ミサイルと違って何回も再使用できるから高くはないだろ

      2
      • 匿名
      • 2020年 11月 03日

      こいつは特攻しないドローンだ。使い捨てじゃない。
      その上でF-35が116億円、川崎C-2輸送機216億円、富士T-5が2億2千7百万円。
      航空機の中ではまだ安い方だろう

      4
      • 匿名
      • 2020年 11月 03日

      東アジアでは使えないだろうけど状況によるよね。

      1
    • 匿名
    • 2020年 11月 03日

    確かに高性能・高価格化によるUAVの価値減退ってのは大きいだろうね。
    他にもいくつかの超えるべきハードルは多くて、ベストの戦場環境で使われている今のうちに、実績作りたいと思ってるだろう。
    何よりも大きくなりすぎているので、レーダーと対空兵装で普通に対ヘリ、対COINレベルの作戦の範疇に入って来ていて、メリットが減ってる。その割にはペイロードは小さいので効率は良くない。
    衛星や中継器を長距離作戦では必要とするので、UAVの長所である簡便性も少なくなってきている。

    となると、テロリスト御用達の兵器として生き残る方向になりそうな気がする。もしくは局地戦限定の兵装かな。

    1
    • 匿名
    • 2021年 3月 13日

    制空権がないと無人機が役に立たないってのはシリア内戦が証明してるね。
    あの内戦ではアメリカの無人機は大した働きはできなかった。

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