欧州関連

シリア人傭兵も参戦、アゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突にトルコの影

ナゴルノ・カラバフ地域を巡るアゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突にトルコが積極的に関与している可能性が高まっている。

参考:Turkey-backed Syrian mercenaries arrive in Azerbaijan – SOHR

なぜトルコはアゼルバイジャンの背中を押して軍事衝突を「この時期に」発生させたのか?

トルコ政府は両国の軍事衝突が発生した直後に「アルメニア側が先に攻撃を仕掛けたためアゼルバイジャン側の反撃は正当で軍事支援を行う用意がある」という声明を発表、さらに未確認ながらトルコ空軍のF-16C/Dが空爆に参加しているという話もあり、ナゴルノ・カラバフ地域で戦うアルメニア側も「アゼルバイジャン軍だけでなくトルコ軍とも戦っている」と語っているらしい。

ロンドンに拠点を置く非政府組織「シリア人権監視団」は非常に信頼できる情報源に基づいて「トルコが支援するシリア人傭兵グループがアゼルバイジャンの首都バクーに到着した」と報告しており、これは先週ネットに公開された音声データ(トルコが支援する「自由シリア軍(FSA)」の兵士約1,000人が27日~30日までにアゼルバイジャン入りするという音声記録)の内容が正しかったことを示している。

さらにロシアメディア「スプートニク」の記者はアゼルバイジャの情報源から入手した映像をTwitter上にアップ、この映像は自由シリア軍の兵士がナゴルノ・カラバフ地域に向かっているものだと説明しており、ロシアメディアのインテルファクス通信はアルメニア国防省からの情報に基づき「ナゴルノ・カラバフ地域の戦いに海外からの傭兵やトルコ製兵器を含むトルコの介入が確認されている」と報じ、アルメニアのニコル・パシニャン首相は国際社会に対して「アゼルバイジャンとの紛争にトルコが干渉するのを防いで欲しい」と要請中だ。

以上のような経緯から、トルコが今回の紛争に積極的に関与しているのは間違いない。

では、なぜトルコはアゼルバイジャンの背中を押して軍事衝突を「この時期に」発生させたのか?だが、管理人的にはトルコに対する欧州の批判を分散もしくは牽制するためではないかと思っている。

EUは最近リビアへの武器禁輸措置に違反したとしてトルコ企業への制裁を決定、さらに東地中海問題に関連してキプロスとフランスがトルコに対する経済制裁を主張するなどトルコに対する関心が高まっているため、より緊急性の高い事象を作り出して、EUの関心を他に向けようとしてるのではないだろうか?

出典:Pechristener / CC BY-SA 2.0 アドリア海横断天然ガスパイプライン

さらに言えば同地域はアゼルバイジャンやカザフスタンの原油や天然ガスを欧州へ輸送するパイプライン(カザフスタン~カスピ海~アゼルバイジャン~ジョージア~トルコ~欧州)が通っているため、この地域で軍事衝突が発生すれば欧州へのエネルギー供給に支障をきたす恐れが出てくる。

要するにトルコはシリア難民やリビア難民と同じ様に、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争を利用して欧州を恫喝(トルコに対するEUの対応次第で紛争を拡大させることも収束させることも出来るという意味)する材料にするつもりなのかもしれない。

果たして欧州はアゼルバイジャンとアルメニアの紛争にどう対応するのか?この紛争を煽っているトルコに屈するのか毅然とした対応をとるのか注目される。

関連記事:東地中海問題でトルコを支持する国が登場、ギリシャはEUに経済制裁を要求

追記:ナゴルノ・カラバフ地域の戦闘に参加していたアゼルバイジャン軍のMayis Barkhudarov少将が負傷、アルメニア軍の捕虜になっと報じられている。因みに将官クラスが捕虜になるのは非常に珍しく、アルメニア側は国民の戦意高揚に利用してくるはずだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:president.az / CC BY 4.0 トルコのエルドアン大統領とアゼルバイジャンのアリエフ大統領

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    もしもアルメニアに駐留するロシア軍が参戦し、トルコ軍と交戦する事態になったら、NATOはどう対処するだろうかが気になる。

    5
      • 匿名
      • 2020年 9月 28日

      どうっていっても、軍事的にはできること自体何もないのでは?

      6
        • 元コメ著者
        • 2020年 9月 28日

        まあロシアがトルコ領土を攻撃でもしない限りは、やっぱり遺憾砲かな?

        4
      • 匿名
      • 2020年 9月 28日

      そもそもアルメニア駐留のロシア軍って陸軍1個師団だけだし、アルメニアとロシアとの間にあるジョージアは反露政権だから補給線も切れてる
      仮に駐留ロシア軍が動いたところで大したことは出来ない、まあトルコはその辺りわかってて動いてるんだろう

      9
        • 元コメ著者
        • 2020年 9月 28日

        しかし「集団安全保障条約」がある以上何もしないわけにはいかないのでは?

        4
        • 匿名
        • 2020年 9月 29日

        ロシア軍一個師団ってのはそこそこ大きくない?
        兵装にもよるけれど。

        3
      • 匿名
      • 2020年 9月 28日

      すでにロシアとトルコの代理戦争と見れば、両国とも兵は出さないはず
      ロシアとトルコがぶつかると、もう世界大戦に進んじゃう

    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    これが原因で第三次は起きてほしくねぇな

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    あれ、アゼルバイジャンの方が押し気味なのに将官捕まっちまったんだ。陣頭指揮でもしてたのかな(目立ちたがり?)? 戦線がある訳じゃなくて村単位/山単位での攻防戦だろうから前に出すぎると攻勢側でも捕虜の危険はあるのかね。

    3
      • 匿名
      • 2020年 9月 28日

      攻め込まれた側には地の利があるから、そしてすでに決め手の欠ける混戦なのかも知れない

      2
    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    トルコはロシアが積極的に介入してこないと踏んでるのだろうね。

    ロシアにはアゼルバイジャンへ侵攻する位しか、アルメニアを救う手段がなく、仮にそれを行えばイスラム勢力だけでなくジョージアや欧州をも刺激することになるからね。

    仮にトルコの思惑に反してロシアが介入した場合には、トルコはギリシャとの紛争に関して、欧州と有利な交渉を行えると考えているかもしれない。
    欧州は足元を見られているね。

    キーポイントはロシアがこの地域の利害関係をどの程度重視しているか。

    5
      • 匿名
      • 2020年 9月 28日

      そうは言ってもアルメニアとロシアは集団安全保障の関係だから、もしそれを無視して見殺しにしたら他の加盟国が動揺するし、ロシアが大切にする面子が丸潰れだよ?
      集団安全保障条約なのに加盟国を守らないなんて何の意味もないからね。

      6
        • 匿名
        • 2020年 9月 29日

        それは微妙だね。
        アゼルバイジャンが侵攻しているのはアルメニア本国ではなくて、アゼルバイジャン国内のナゴルノカラバフ地域でしょ。
        ナゴルノカラバフを独立承認している国はごくわずかで、国際的にはアゼルバイジャンに属している地域。
        ロシアはこの地域の争いに介入しない可能性は十分にあるよ。

        1
      • 匿名
      • 2020年 9月 29日

      今回は集団軍事同盟国に侵攻したアゼルバイジャンへの攻撃って建前があって、
      アゼルバイジャンに侵攻してバクーからのトルコのバイプラインを制圧する利益もある

      というか軍事同盟国のアルメニアを何が何でも助けないと、ロシアの同盟国からすら離反されかねない
      エルドアンが短絡的に始めたことなんだろうけど、ロシアの立場をまったく考えてないんだろう
      対NATO、対EUを短絡で考えてやったんだろうな(中長期的にはそれすらデメリットしかないけど

      1
    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    ‥‥日帝かな?

      • 匿名
      • 2020年 9月 29日

      盧溝橋事件のようなことになっちゃう?

    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    トルコは自国の周囲で戦線を増やして、対EU、対露で交渉を有利に運ぶ意図か?

    5
    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    ロシアの同盟はジャイアンリサイタルなんですよぬ。みんな嫌だけど殴られるのは嫌だから一応集まってくる。この点が公共財的な米国の同盟とは大きく異なる
    らしいです。要するに対外戦争で守ってくれるわけではない?
    アメリカとの同盟=誰かに殴られたらアメリカが一緒に殴り返してくれる権利
    ロシアとの同盟=ロシアに殴られない権利+国内の反ロシア派をロシアが殴ってくれる権利

    8
    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    防空システムをロシアのS-400からフランスのSAMP/Tに変えるということはそれほど簡単な決断だったとは思えない
    ここ1週間でその切り返しの早さだから、この侵攻はアゼルバイジャンの独断専行だった可能性が高いんではないか

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 28日

      事前にアゼルバイジャンの動きを察知したトルコが、どうしてもロシアとは対立の立場になるのを見越してフランスにすり寄った、その可能性も高いね

      1
    • 匿名
    • 2020年 9月 28日

    アルメニアは「イスカンデル」使うとか使わないとか・・・大事になるな。
    エルドアン大王はどのようにお考えなんでしょうか??

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 29日

      イスカンデル使えるなら、戦場飛び越して直接アゼルバイジャン本土を狙うだろ、
      それをロシア軍基地から発射されたとアゼルバイジャンが騒いだら、さらに話が面倒になるね
      そこまでアルメニアを追い込むか

    • 匿名
    • 2020年 9月 29日

    ロシアが助ける云々の前に、アルメニアが困ってるロシアに忖度して救援を要請しない、ロシアもそこを汲んで表向きは参戦しない(支援しないとは言っていない)ような雰囲気を感じる

    2
      • 匿名
      • 2020年 9月 29日

      その代わりに南からイランが何かしてくるかも?

    • 匿名
    • 2020年 9月 29日

    ロシアさん、アルメニア救援の途中経路となるジョージアを侵略の巻

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 30日

    草、ついでにジョージア荒してきたら男塾直進行軍やな
    ロキトンネル通って南オセチアからわざわざティビリシを迂回してくるとか

      • 匿名
      • 2020年 9月 30日

      アルメニアまでひたすら一直線に進むロシア軍団いいね
      プーチン塾長の怒声がひびく

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