欧州関連

F-16V導入失敗に備えるトルコ、ラファールへの関心をフランスに伝達か

トルコは米議会にF-16V売却を阻止される可能性に備えトルコは「ラファールへの関心」をフランスに伝達したと報じられており、仏防衛産業界にとって長年の目標であった「トルコへの戦闘機輸出」に可能性が開かれるかもしれない。

参考:Turkey ‘Shortlists’ Rafale Fighters For Its Air Force As US Congress Unlikely To Clear F-16 Sales – Top Commander
参考:Emekli Korgeneral Dr. Erdoğan Karakuş’tan çarpıcı iddia: F-16 krizi sonrası Türkiye Fransa’dan Rafale alabilir.

議会の反対で当該地域のリバランスを行うことが出来ない米国に成り代わり、フランスは東地中海の安定化に寄与できるかもしれない

トルコは旧式化したF-16C/Dをアップグレードするため米国にF-16V売却(新規にF-16Vを40機+既存機のV仕様アップグレード80機分)を要求中で、この売却話は「F-35プログラムからの追放に対する補償」のためバイデン政権から持ちかけたものと言われているが、S-400導入を問題視する米議会はトルコへのF-16V売却を認めず暗礁に乗り上げていた。

出典:vitaly kuzmin / CC BY-SA 4.0

しかしトルコがフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を支持したことでバイデン大統領や国防総省が「トルコの戦闘機近代化を支持する、これはNATOの安全保障ひいては米国の安全保障に貢献する」と表明、米下院外交委員会も「もしトルコがフィンランドやスウェーデンのNATO加盟をブロックすればF-16V売却を認めない」と発言したことを合わせ「トルコへのF-16V売却は高い確率で実行に移される」と見られていたが、今月14日に可決したNDAAにはトルコへのF-16売却をブロックする条項が含まれている。

実際には「米国製の戦闘機を売却・譲渡するには『その国が米国の安全保障にとって重要である』と政権が議会に証明する必要がある」という条項を追加するというもので、ロシアからS-400を購入してギリシャと東地中海で対立し、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を妨害したトルコに下院の議員は怒っているため「トルコが米国の安全保障にとって重要である」と政権の主張には同意しない可能性が高く、事実上トルコへのF-16売却をブロックするための条項らしい。

出典:NATO

ただ上院はNDAA(上院版のNDAAに上記の内容が含まれるのか不明)をまだ可決しておらず、最終的バージョンのNDAAに「トルコへのF-16V売却をブロックする条項」が含まれるかは謎で、トルコ当局も「困難な状況にも関わらず米国政府とのF-16V売却交渉は順調に進んでいる」と述べているが、トルコは米議会にF-16V売却を阻止される可能性に備え「フランスにラファール売却を打診した」と報じられている。

トルコのエルドアン大統領とフランスのマクロン大統領は今月16日、フランスとイタリアが共同開発した防空システム「SAMP/T」プログラムへの参加問題やウクライナの穀物輸出に関するプロセスを協議するため会談を行い、この中でエルドアン大統領は「ラファールへの関心」を言及したとトルコメディアが報じており、この可能性はフランス防衛産業界にとって長年の目標であったトルコへの戦闘機輸出に道を開くかもしれない。

出典:Public domain カタール空軍のラファール

以前の記事「奇妙にも一致した3ヶ国の利害、カタール空軍がトルコにラファールを配備したい理由」でも触れたが、フランス防衛産業界は「カタール空軍の戦闘機がトルコに配備されれば長年の目標だったトルコ市場への参入に繋がる」と見ており、トルコとNATO加盟国との関係は2020年に悪化したがフランスとの関係は水面下で改善に向かっているらしい。

問題は「東地中海の排他的経済水域問題でトルコと対立するギリシャがラファールを購入したばかりなので慎重に行動しなければならない=トルコへのラファール売却にはギリシャに配慮する必要がある」とフランス防衛産業界が指摘している点だが、東地中海の軍事バランスが一方的にギリシャに傾けば地域の安定するのではなく不安定になるためバランスとる必要があり、バイデン政権は議会の反対で当該地域のリバランスを行うことが出来ないため、トルコにラファールを供給できれば地域安全保障の安定化にフランスは寄与できる。

出典:Public domain

勿論、ギリシャから見れば同じ戦闘機をトルコにも提供する=ギリシャの優越を損なうと怒るかもしれないが、武器を供給する超大国や地域大国の指導者は「不用意な衝突を防ぐ軍事的バランス」を最も重視するためトルコにラファールを売却しても驚きはないものの、今回の話はオフィシャルなものではなく「噂」に過ぎない。

ただ急速に関係を強化する英国経由でトルコはタイフーン調達も検討しているという噂があり、何が本命なのかは不明だが「米議会にF-16V売却を阻止される可能性」に備えて動いているのは事実なのだろう。

関連記事:米下院がトルコへのF-16売却阻止、インドへの制裁回避を含む法案を可決
関連記事:奇妙にも一致した3ヶ国の利害、カタール空軍がトルコにラファールを配備したい理由

 

※アイキャッチ画像の出典:Public domain

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コメント

    • 名無し
    • 2022年 7月 31日

    つくづく思うがF-35プログラムから追い出されてまでS-400導入する意味はあったのかね。
    第5世代機捨ててF-16だのラファールだのじゃ割に合わんだろうに。

    17
      • samo
      • 2022年 7月 31日

      S-400は、米国がトルコへのパトリオット最新型を売却しなかったことが引き金らしい。
      その後の交渉でも、S-400の代替としても輸出を認めなかったから、S-400を導入するしかなかったというのがトルコの立場。

      そもそも、S-400、トルコに限らず、ロシア製兵器の海外への納入状況は今どうなっているのだろう?

      9
      • あばばばば
      • 2022年 7月 31日

      S-400決定の直前に起きたシリアでのロシア軍機撃墜事件や、クルド人問題やクーデター未遂での米国との対立が影響しているのではと考えることはありますが、全ての真相を知るのはトルコ政府の高官の中でも一部だけでしょう。
      今はもう昔の話ですが、一時期のロシアとの親密関係を考えるに、本気でSu-57の導入を考えていたのかもしれません。

      8
    • もり
    • 2022年 7月 31日

    ここに来てKF-21と言う大穴も参戦して欲しい
    流石にアメリカもそこまで締め付けたりしねーだろ

    1
      • 幽霊
      • 2022年 7月 31日

      流石にKF-21は無理でしょう
      最近初飛行したばっかりで開発終了予定は2026年ですから候補にも上がらないと思いますよ。

      19
      • 2022年 7月 31日

      トルコはむしろ一時期KF-Xと協議したものの割れてTF-Xに進んだ側だからその選択肢はないんじゃないかな

      11
      • 匿名希望
      • 2022年 7月 31日

      ここは一つ、ロシアの技術を導入した韓国の天弓っていう防空ミサイルシステムを導入してですね、、、

      1
      • 訪問者
      • 2022年 8月 01日

      韓国はやめとけ

    • 無印
    • 2022年 7月 31日

    アメリカがS-400に代わるシステムを持ってないのがアカンのや
    「S-400を買うな、しかし代わりの物は用意できない」
    じゃこじれるのは当たり前

    18
      • ブルーピーコック
      • 2022年 7月 31日

      冷戦終結の後、MD構想を進めつつ格下とテロリストばかり相手にしてきたので、探知距離と迎撃距離にギャップが有っても困らなかったのが幸だったのか不幸だったのか分かりませんな。
      それがまさか今になって響くとは。見抜けなかった。このリハクの(ry

      3
    • ナニガシ(ラファール信者)
    • 2022年 7月 31日

    なんか当て馬っぽいんだが。
    F16に較べれば、ラファールのほうがカッコイイ。
    だからラファールにもワンチャン!?

    1
      • 匿名
      • 2022年 8月 01日

      今度は実現するといいね…😢

    • ブルーピーコック
    • 2022年 7月 31日

    NATO加盟の見返りに、まさかまさかのグリペンE/F導入・・・は内科

      • 戦略眼
      • 2022年 7月 31日

      タダでくれるなら、もらうかも。

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