欧州関連

ナゴルノ・カラバフ紛争、トルコがアゼルバイジャンへの正規軍派遣を示唆

トルコのフアット・オクタイ副大統領は21日、要請さえあればアゼルバイジャンにトルコ軍を派遣する用意があると語り注目を集めている。

参考:Turkey won’t hesitate to send soldiers for Azerbaijan amid Nagorno-Karabakh clashes, VP Oktay says

ナゴルノ・カラバフ紛争に正規軍派遣をチラつかせはじめたトルコ

トルコのフアット・オクタイ副大統領は「CNN」の取材に対して「ミンスクグループは問題解決のため積極的に動いておらず政治的にも軍事的にもアルメニアを支援している」と批判、アルメニアが違法に占領し続けるアゼルバイジャン領(=ナゴルノ・カラバフ地域のこと)を奪還するためにトルコとアゼルバイジャンは完全な共闘を約束しており、要請があればトルコ軍を派遣してアゼルバイジャンを軍事的に支援することに「何の躊躇もない」と語り大きな注目を集めている。

ミンスクグループとは欧州安保協力機構(OSCE)がナゴルノ・カラバフ紛争のために設置した調停機関で米仏露が共同議長を務めているのだが、アルメニアによるアゼルバイジャン領占領を解決することに動いていない=容認してきたとアゼルバイジャンやトルコが批判しており、アゼルバイジャンは人道的停戦を受け入れる条件として「ミンスクグループへのトルコ参加(アゼルバイジャン側の代弁者)」を要請したがロシアの反対によって阻止されてしまう。

出典:Seattle Aviator / CC BY-SA 3.0 トルコ空軍の737AEW&C

結局、ミンスクグループ主導(実質的にはロシア主導)の人道的停戦が機能しないのは、アルメニア寄りのミンスクグループに紛争解決の主導権を握らせたくないトルコとアゼルバイジャンの思惑が絡んでいるためだと言われており、ここに来てトルコ側が「正規軍派遣」に言及したのもミンスクグループに対して圧力をかけているのだろう。

因みにトルコが言及した「正規軍派遣」はハッタリではなく法的な枠組に沿ったものなので侮れない。

トルコとアゼルバイジャンは2010年に相互支援を約束した軍事協定を締結済みで、この協定の法的枠組みに従えばトルコはアゼルバイジャンが攻撃または侵略を受けると「あらゆる支援」を行うことが可能になる。そしてミンスクグループが長年放置=容認してきたアルメニアによるナゴルノ・カラバフ地域の占領状態はアゼルバイジャン領への侵略に該当するため、要請さえあればトルコは堂々と軍を動かすことが出来てしまうのだ。

出典:wiltshirespotter / CC BY-SA 2.0 攻撃ヘリT-129 ATAK

この論理が通用するのは国際社会がアルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ地域が独立したと主張して名乗っている国名)を承認していない=ナゴルノ・カラバフ地域はアゼルバイジャンに帰属する地域だと認めているためで、国際社会がアゼルバイジャンの軍事力行使やトルコ軍の介入を大きく非難できない理由と一因となっている。

そのためアルメニアは主要国に対して「今回の紛争を終わらせるためにはアルツァフ共和国の独立承認が必要」と訴えており、米国ではイスラエルロビーに次いで影響力が大きいと言われるアルメニア系米国人コミニュティーを動かして議会にアルツァフ共和国の独立承認を求める文書を提出するなど必死のロビー活動を展開中だが、アルメニアの軍事的な支援によって成り立っているアルツァフ共和国を独立国だと承認すれば困ったことになるため、恐らくアルツァフ共和国を承認する国は現れないだろう。

結局、この矛盾を突いて状況を有利に進めているのがトルコでアゼルバイジャンで、ナゴルノ・カラバフ紛争調停のためミンスクグループにトルコを参加させないのなら「トルコ軍を派遣して武力で決着をつけるぞ」と脅しているのだ。

ただオクタイ副大統領はCNNの取材に対して「現時点でアゼルバイジャからのトルコ軍派遣要請は来ていない」と付け加えており、まだトルコ軍派遣までには時間的猶予があることを示している。果たしてアルメニアやミンスクグループはトルコの要求を受け入れるのか、それともトルコ軍参戦を招いて武力によるナゴルノ・カラバフ地域奪還を黙認するのか注目される。

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by SAC Helen Farrer RAF Mobile News Team/MOD / OGL v1.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    やっぱりアゼルバイジャン軍&シリア人傭兵だけじゃ頼りないのか?快進撃してるように見えるが。

    8
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    まずはロシアに対する牽制ですね、出てくるなよと

    8
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      その通りですね。でも、その強気が藪ヘビにならないといいんですが。
      たとえば、先にロシアがアルメニア本国に正規軍を送れば、トルコはアゼルへ正規軍を派遣するのを躊躇うでしょう。

      1
        • 匿名
        • 2020年 10月 22日

        ロシアも本当は出たくないんだから
        ロシアとトルコで秘密会議してなぁなぁで決着できないのかな

    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    長年占領されている領土を奪還するのは侵略に対する自衛…成る程興味深いお話ですね。

    10
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      理論上は今の日本でも竹島奪還の根拠になりうるとは前から言われてましたし、尖閣で今中国が色々宣伝しているのも結局はこういった建前で進出するための土台作りですね
      ナゴルノ紛争がどういう経過を辿るのか今後も興味深いです

      15
        • 匿名
        • 2020年 10月 22日

        追記
        まあ日本に関しては実際には憲法条文の縛りと国民の理解、実際に動いたとして対馬を守り切れるかが課題になるとどこかで読んだ記憶がありますが
        ナゴルノ紛争について興味深いものの早く停戦して犠牲者が増えないのが一番…

        3
          • 匿名
          • 2020年 10月 22日

          アゼルバイジャン憲法にも武力による解決の放棄があるからほぼそのまんま日本に適用できる

          11
        • 匿名
        • 2020年 10月 22日

        我々日本もロビー活動で係争領土の日本帰属の正当性を主張しなければ(使命感)

        13
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    イケイケトルコくん外交の天才説はどうやら正しかったらしい
    ギリシャも交渉のテーブルに引っ張り出したし、勢いが止まらないな

    4
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      実はエルドアン君がS400導入した真の目的は将来ぶつかるであろうロシアの対空兵器をばらして検証するためでしたー、とか言われても今なら正直信じちゃう…この路線で突っ走ったらエルドアンは世界史の教科書載るんじゃね?

      3
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      その「勢い」もいつまでも続くとは限らないけどな。皮肉も煽りも抜きに。

      10
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      天才かは分からんが、文ナントカより格上なのは確か

      9
        • 匿名
        • 2020年 10月 22日

        あの外交の天災、韓国の鳩山由紀夫より無能な奴はそういない。

        10
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    そもそも最初から参戦してるだろ
    エルドアンがアゼルバイジャンにトルコのF-16が居るが戦闘には一切関与していないとかいう与太話信じてるやついねえだろ

    6
      • 匿名
      • 2020年 10月 23日

      「堂々と」参戦する

      1
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    世界各国に対して武力行使を止めるよう呼び掛けておきながら、キリスト教徒のアルメニア人の侵略だけは御目こぼししてきた欧米(+露)諸国の矛盾がそもそもの原因だからなぁ

    別にトルコやエルドアンを支持する訳ではないけど、「キリスト教徒でロビー活動してれば侵略も許された」なんて変な例を作られたら非キリスト諸国はたまったもんじゃない
    日本も近くにキリスト教?国家が存在する訳で全く他人ごとではない

    20年近く過ぎても正統な国家から全く承認されなかった以上、アルメニア側の外交的敗北でこの戦争を終わらせる他ないのでは

    8
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      これだから一神教()の連中は

      1
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      現状で他国が介入しなければ、ナゴルノ地域をアゼルバイジャンが占領下して終了でしょう。
      その勢いでアゼル軍がアルメニア本国まで侵攻すれば話は別ですが。

      1
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    と、トルコリラが下がれば下がるほどエルドアンは覚醒するから(震え声)

    1
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    アメリカの大統領は何もコメントしないのかな?
    アメリカは自由主義陣営のリーダーじゃなかったっけ?
    個人的な都合よりも、アメリカ合衆国の使命を優先すべきだと思いまするが?

      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      今は史上最悪の泥仕合極まってる大統領選でそれどころじゃないから(遠い目)

      8
        • 匿名
        • 2020年 10月 22日

        どっちが勝っても訴訟合戦と大暴動が予想される。1月20日まで決まらなかったら下院議長が…

        6
      • 匿名
      • 2020年 10月 23日

      イスラエル関係でアゼルの方がアメリカに近いんじゃね。
      というか、人道支援でオバマがシリア内戦に参戦して、トランプがアサド支持、米軍撤退と言いつつ、シリアの1/3以上を米軍が支配して、シリア政府支配域より広いとか、クルド人問題があるとは、実際の国境が変わらなきゃなんでもありか。

    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    理屈と膏薬は何処へでも付くものだ。
    国際社会とやらは「武力による現状変更」すら非難できていないのだから。現状やった者勝ちだわ。
    ロシアによるクリミアの併合以降も、この傾向は世界的にも加速していくのだろうね。

    「やはり軍事力・・・・‼軍事力は全てを解決する・・・・‼」

    8
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      まあ、出来れば戦争なんてしないに越した事は無いが、それでも降りかかる火の粉は払わないとな(ため息)

      8
        • 匿名
        • 2020年 10月 22日

        火の粉どころか、燃料ぶちまけられてるようなもんだがな。
        人間どころか、生物は戦いでしか生き残れないことを自覚しないと、まじで日本は消えるよ。

        2
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    確か、佐藤優氏がアゼル、トルコ、イスラエル、アメリカVSアルメニア、ロシア、イランと言っていた。フランスは両方に顔が利くらしい。まあ、歴史的背景は、さっぱり分かりませんが。

    3
    • 匿名
    • 2020年 10月 22日

    エルドアンはいかんな…これは行く所まで行ってしまうな

    2
      • 匿名
      • 2020年 10月 22日

      ナポレオン「」
      ヒトラー「」
      フセイン「」
      カダフィ「」

      そして70年前に序盤の快進撃と終盤の総崩れを経験してる我が国としてもね。。。

      ムスタファ・ケマルも嘆きそう。

      2
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