欧州関連

各国が別々に進めるタイフーン用レーダー開発、最終的な勝者はイタリアか

ドイツとスペインは共同でCaptor-E/MK.1を、英国は単独でCaptor-E/MK.2をタイフーン用のAESAレーダーとして開発を進めているのだが、イタリアのレオナルドは双方の開発プログラムに関与することに成功した。

参考:Deal with Hensoldt expands Leonardo’s stake in Eurofighter radar business

商売上手なレオナルドは開発費を1ユーロも負担しないでMK.1とMK.2から相当額の仕事を受注

英国、ドイツ、スペイン、イタリアの4ヶ国で共同開発したタイフーンはレオナルドが開発したAESAレーダーを採用する予定だったのだが、オリジナルのCaptor-E/MK.0は採用したのはクウェート空軍とカタール空軍の機体のみで、ドイツとスペインは自国産業に配慮するため独ヘンゾルト製の送受信​モジュール​(TRM)​をCaptor-E/MK.0組み込んだMK.1の開発してエアバス・スペインがシステム統合を担当する。

出典:Airwolfhound / CC BY-SA 2.0

英国はCaptor-E/MK.0に独自の改良を施したMK.2開発(Bright Adder Project)を進めていているのだが、レオナルドはMK.1とMK.2の開発に食い込み仕事を確保することに成功したらしい。

レオナルドはヘンゾルトの株式を25.1%取得、MK.1開発契約の6億600万ユーロの内2億6000万ユーロ分の仕事(ヘンゾルト製TRMを活用してMK.1の検出範囲と精度を向上させる方法の開発)を受注したと発表、さらに英国が開発を進めているMK.2もレーダー自体の開発はレオナルドが受注(開発予算は3億1700万ポンドでBAEはシステム統合を担当)しており、結局レオナルドはヘンゾルトの株式取得に投資したとはいえ開発費を1ユーロも負担していないMK.1とMK.2から相当額の仕事を受注して開発経験も得られるのだから相当な商売上手だ。

因みにイタリア政府は米陸軍が進めているFVLプログラム(将来型垂直離着陸機計画)にレオナルドを関与させるため出資を行うことも検討している。

出典:シコルスキー / ロッキード・マーティン レイダーX

米陸軍はAH-64、OH-58、UH-60、CH-47といった回転翼機の後継機をバラバラに開発するのではなく、センサー、アビオニクス、エンジン等のコンポーネントを共通化=ファミリー化することで開発コスト削減や開発期間短縮を行うためFVLプログラム(将来型垂直離着陸機計画)を立ち上げ、現在FLVプログラムの下でUH-60後継機の技術実証機(ティルトローター機のV-280や二重反転式ローター機のSB-1」開発やOH-58の後継機開発「Future Attack Reconaissance Aircraft:FARA(将来攻撃偵察航空機)」プログラムが進められている最中だ。

これにイタリア政府が出資、プログラムにレオナルドを参加させてFVLプログラム下で進められる新型機開発や製造に関与させたいと考えており、既にロッキード・マーティンとティルトローターや二重反転式ローターを使用した民間仕様機開発やFLVプログラムの下で開発された機体の欧州輸出や現地サポートで協力できないか話し合いを始めているらしい。

要するにイタリア政府は米陸軍のFVLプログラムに出資することで、イタリア最大の防衛産業企業「レオナルド」をFVLプログラム下で進められる新型機開発や製造に関与させたいと考えており、既に技術実証機「V-280」やFARAプログラムで実機製造に選ばれた「レイダーX」を開発しているロッキード・マーティン(シコルスキーは子会社)とレオナルドは、FVLプログラムを通じて得られたティルトローターや二重反転式ローターを使用した民間仕様機開発やFLVプログラムの下で開発された機体の欧州輸出や現地サポートで協力できないか話し合いを始めているらしい。

このような動きはイタリアに限った話(米陸軍によるとFVLプログラムには8ヶ国が関心を示しているらしい)ではないが、早い段階でFVLプログラムに食い込むことが出来れば自国の防衛産業維持や発展に役立つだろうとイタリアは計算(米陸軍の更新需要だけで約3,000機+同盟国への輸出需要)しているのだろう。

関連記事:イタリア、米陸軍が進める次世代ヘリ開発プログラムに出資を検討

 

※アイキャッチ画像の出典:Copyright Eurofighter

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コメント

    • 黒丸
    • 2022年 1月 15日

    FVLプログラムを通じて得られたティルトローターや二重反転式ローターを使用した民間仕様機開発や
    FLVプログラムの下で開発された機体の欧州輸出や現地サポート

    日本はヘリコプター開発から取り残されるのかな
    ヘリのような軍事市場が大きく、そこでの開発成果から民間への波及や転移が予想される分野もあるのに
    軍事技術開発が悪で研究開発に参加しないとか言っている場合じゃないと思うんだが

    18
      • はやぶさ
      • 2022年 1月 15日

      軍事技術に関連する研究開発を盛んにするには、日本学術会議をまずはなんとかしないとね…

      45
        • 幽霊
        • 2022年 1月 16日

        日本学術会議の話題でいつも思うのが日本学術会議に逆らうと何かペナルティーがあるの?

        6
        • 無無
        • 2022年 1月 16日

        そっちよりも、企業に充分な研究開発費を出すことが優先
        ブラックな言い方をすれば、結局はカネのある方に人間は引き寄せられる
        あとは成果への的確な評価と応用の能力、これは官庁と企業の責任、国内で高く評価されない研究者が海外でノーベル賞あげてるのは、喜んでいられない話だよ
        かつて八木アンテナの価値を理解できなかった愚を繰り返さないようにな

        9
      • ネコ歩き
      • 2022年 1月 17日

      将来ヘリは推進ペラと主翼及びアンチトルクシステムを備え高速飛行を可能にするコンパウンド・ヘリコプターをJAXAが研究開発中です。それ故に防衛省による海外との共同研究は計画されていないのかと。
      令和4年度内にスケールモデル試験飛行を含む開発段階を完了する予定のようです。目標とする成果を得れば次の段階に進むでしょう。
      将来的にはデュアルユース技術として防衛装備への展開もあるかと思います。

      1
    • sinn
    • 2022年 1月 15日

    >これにイタリア政府が出資、プログラムにレオナルドを参加させてFVLプログラム下で進められる新型機開発や製造に関与させたいと考えており
    >このような動きはイタリアに限った話(米陸軍によるとFVLプログラムには8ヶ国が関心を示しているらしい)ではないが、早い段階でFVLプログラムに食い込むことが出来れば自国の防衛産業維持や発展に役立つだろうとイタリアは計算(米陸軍の更新需要だけで約3,000機+同盟国への輸出需要)しているのだろう。

    ここまでやるイタリアは凄いと思うが、日本政府は貿易赤字を国内防衛産業に押し付けないで、少しは融通を利かせられないのだろうか?
    固有要件を押し付けるのもいいが、保護しなければ後々困るのは自分だろうに。

    23
    • おわふ
    • 2022年 1月 15日

    FVLは日本も出資した方がいいんじゃない?

    5
      • 匿名
      • 2022年 1月 16日

      シコースキーから版権得て国内でUH60作ってるしベルからオスプレイ買ってるしUH2は412EPXの版権のスバル完全委譲だろ
      FVLの両メーカーとこんだけ密な関係で更にどうしろと?ありゃ社内開発してるしろものだろしガヤは関与しようもない

      7
    • そら
    • 2022年 1月 15日

    商売的にはレオナルドの勝利かもしれないけど、、、
    そんなら欧州共同で統一のレーダー作れば良かったのでは?

    1
      • 匿名
      • 2022年 1月 15日

      欧州共同はただの大義名分だからな
      彼らは独り勝ちを狙ってるだけなので、自国の利権が確保できない以上分裂するしかない
      レオナルドはそこでうまく立ち回っただけだよ

      14
    • 戦略眼
    • 2022年 1月 15日

    この調子でいくと、タイフーンのレーダーは、実質一緒になってめでたしメデタシになりそう。

    4
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